事例

事例:受注者・発注者という枠を超え、アイディアを出しあい実現した「働き方改革」

お客様:一般財団法人 地域活性化センター 様


kintoneを使った電子決裁システムの導入で、業務効率を大幅に改善し、「働き方改革」を実現された 一般財団法人 地域活性化センター 様。ひとづくり、まちづくりなど地域社会活性化のための諸活動を支援し、地域振興の推進に寄与するために、1985年10月に設立された団体だ。職員79名のうち、約8割の63名が地方公共団体等からの出向者で、ほとんどの出向者の任期が2年のため、毎年多くの職員の入れ替えが起こる。また、職員の総出張数が年間800以上という業務上の特殊性があり、電子決裁システム導入、情報のデータベース化が急務だった。

2023年4月から運用を始めた電子決裁システムが軌道にのり、すでに第2フェーズがはじまっている。今回は、地域活性化センターの総務課で情報担当をされている西田周平さんにお話を伺った。


■約8割の職員が、地方公共団体等からの出向者

地域活性化センター、オフィスの様子

地方創生を実現するために様々な事業を展開している 地域活性化センターの職員は、現在79名。その約80パーセントにあたる63名が、地方公共団体等からの出向者である。ほとんどの出向者の任期は2年のため、毎年多くの職員が入れ替わる。人の出入りが激しく、出向元へ戻る職員と、新たに出向してくる職員に接点が必ずしもあるわけではない。このような要因が重なり、過去の情報がうまく引き継がれていないことが、長年の課題となっていた。

「過去の資料やノウハウのすべて紙ベースで蓄積されていて、データベースとしてまとまっていませんでした。必要な情報が見つからない、引き出すのに時間がかかることがよくあり、とても効率が悪かったです」と、西田さんはかつてのワークスタイルを回想する。

また、年に800件を超える出張が発生するにも関わらず、出張申請は紙で提出する必要があった。オフィスに出勤しないと申請できないうえ、承認する人が出張や休暇中の場合は、そのプロセスがストップしてしまう。承認者の机やポストは申請書であふれ、書類を紛失しそうになったり、出張の日までに決裁が間に合わないこともあったそうだ。

以前は、ポストや机に申請書があふれていた。

西田さんのデスクやポストにも、1日でも休むと決裁を必要とする書類が山積みになっていたという。「休暇明けに出勤してまずすることは、ポストと机に山積みになっている決裁が必要な書類をかたづけること。半日が過ぎてしまうこともあり、休み明けは少し憂鬱でした」(西田さん)。

2022年、「長期的な視点をもってデジタル化に取り組むべき」と、センターの新方針が発案され、西田さんが情報担当に任命された。それまで、「たまたまデジタルに詳しい出向者」がなんとか回していたセンターのデジタル化は、西田さんと数名の職員を中心に、出向者も交え、本格的にスタートすることになった。

■現場の意見を最大限に反映しながら進めるアジャイル開発

ダンクソフトをシステム開発のパートナーとして選んだ理由は、いくつかある。まず、今までにも多くの財団やNPO法人などへのシステムを開発していることで、安心感を得られた。また、ダンクソフトが得意とする “アジャイル開発” が、センターには適していると感じたことが大きかった。

「職員全員が新システムを使わないことには、導入の意味がありません。ですので、いったん導入をした後で、実際に使う現場の意見を聞きながら、システムに落とし込んでいく “アジャイル開発”が、私たちにはあっているのではと思いました」と、西田さんは言う。

この聞き慣れない “アジャイル開発” に難色を示した職員もいた。あらかじめゴールを明確に設定し、仕様にそって開発、出来上がった完成品が納品されるウォーターフォール型の開発に慣れている職員たちもいた。「ただ、無理に進めるのではなく、実際に使う職員には、丁寧に話していきたかったのです」(西田さん)。

左:お話を伺った西田周平さん、右:前事務局長の杉田憲英さん

実際、プロジェクト監修を担うダンクソフトの片岡幸人は、打ち合わせで見る西田さんの振る舞いに着目していた。「西田さんの伝える力が強いんですよ。伝え方が丁寧で、適格で、やわらかく、腑に落ちる。私たちも学ぶところがたくさんありました」と、片岡はプロジェクト開始時を振り返る。当時、事務局長をつとめていた杉田憲英さんの強い後押しも、プロジェクトを大いに前進させた。西田さんの丁寧な説明、ダンクソフトの適切なアドバイスなどが功を奏して、いよいよシステム開発がはじまった。

■受注者・発注者という枠を超え、アイディアを出し合う 

“アジャイル開発”では、ある程度運用できる状態のシステムをまず初めに導入する。その後、実際に使ってみて、課題や改善点があれば、その都度解決していくことを繰り返す。隔週で行われる定例の打ち合わせでは、他部署の職員も交えてアイディアを出し合った。西田さんは「発注者、受注者でなく、お互いにアイディアを出し合って、より良いものをつくれたことが、今回の開発の肝でした。ダンクソフトさんとは、同じ目標に向かって協働できたことがとても良かった」と、振り返る。

「アジャイルはひとつのチーム。一緒にアイディアを出し合って、ともに創っていかれたことが本当に良かった。」と、片岡もプロジェクトで感じたセンターの協働力を評価する。

プロジェクトメンバー

■業務プロセスを見直し、組織としても成長

それまでの出張申請には、複雑なマクロを駆使したエクセルを使用していた。その形式をそのままkintoneのアプリに落とし込むこともできたが、今回は新しいことを試みた。それは、システム開発と同時に「業務プロセスの見直し」をしてみることだった。「現在の業務プロセスに合わせてシステムを組むのではなく、システムに合わせて業務をシンプルにしていくことが、効果が高いことに気がつきました。ダンクソフトさんにご提案いただいたその点は、特に大きな学びでした。組織としてもひとつ成長ができました」(西田さん)

連動して、決裁の階層も見直された。今まで決裁の承認者となっていたが、回覧のみで十分だった人を分けて、承認の階層を減らしたのだ。地方公共団体のデジタル化にも精通する片岡は、「決裁の方法を変えるのは、団体にとっては大きな決断だったはずです。でも、元のやり方を残して複雑なシステムを作って、結局使えない人がでてくると、元も子もない。システムは導入がゴールではなく、そのシステムによって業務が改善されて初めて、本当のDX改革がなされていると思います。その意味で、最後までやり切って素晴らしい成果です」と語る。

■成果は上々、約9割の職員が「時間を短縮できた」と高評価

2022年11月から開発をスタートし、2023年3月に職員向けの導入説明会、4月から本格的に運用開始と、プロジェクトは順調にスピーディに進んだ。導入する際になにか問題がなかったかとたずねると、デジタルが当たり前の年代の職員が多く、比較的すんなりと新しい仕組みを受け入れてくれたという。

「システム自体が使いやすくデザインされていましたし、デジタルが得意でない方々には、とにかく丁寧にフォローしました。また、詳しいマニュアルもkintone上に作りましたので、それを参考にしている職員もいます」(西田さん)。

導入後に集めた職員のアンケートでは、「起案の手間が減った」「決裁に要する時間が飛躍的に短縮された」「過去の情報が探しやすくなった」など、たくさんの好意的な意見が寄せられた。実に、約9割の職員が「起案や申請、決裁にかかる時間を短縮できた」と答えた。

承認する側の職員からも、「外出中にスマホでも決裁ができるようになり、本当に楽になった」という意見が寄せられている。「出向元の自治体でも、センターのような電子決裁をとりいれていきたい」という前向きなコメントもあった。自らが “地域力創造大学校®”としての役割があると標榜するセンターで、自治体職員が出向時に、新しい働き方改革を体験してから地元に戻れることも、波及効果のひとつとして大きい。

「新システムの導入はセンターとしては大きな転換でした。最初は心配でしたが、みんなが好意的に受け入れてくれて、大きな混乱もなく安心しています。今は出勤中の電車の中からも、出張の移動中も、昼食中でもスマホを使って決裁ができるので、憂鬱が解消されました」と西田さんは微笑む。決裁途中の申請も、今は、どこでストップしているかすぐに検索できるようになっている。

以前は決裁を必要とする書類がポストにあふれていた

現在はあふれている書類もなくすっきりしたセンターのポスト


■ 地域活性化センターの「働き方改革」は続く

現在、センターのデジタル化は、第2フェーズが始まっている。


「セミナーの運営業務について、受付から企画、実施後のアンケート調査までをシステム化していきたいと考えています。今までは、情報が一元化されていなかったので、セミナー内容や参加者の名簿、講師のリスト、アンケートなどをうまくデータベース化して、その次のセミナー企画に活用していきたい。その次は、今まで発行してきた情報誌の記事をデータベース化して、会員の方たちが記事の内容で検索できたりするシステムを作ってみたい。センターがもっている有益な情報を地域に還元したり、有効活用する方法を模索しているところです」と、次々に未来への構想が西田さんからあふれ出す。


「組織を運営していると、業務形態が変わったり、社会上のルールが変わったりするので、システムを柔軟に変えていく必要があります。現場の意見も聞きながら、ダンクソフトさんのアドバイスもとりいれつつ、これからも柔軟に対応していきたいですね」(西田さん)。


プロジェクトを担当された西田さん自身も、プロジェクト担当をすることでエンパワリングされている。導入したkintoneは、プログラミングの知識がなくても、アイディア次第でいいものができる特色がある。西田さんは独自でkintoneの学習を進め、日々の業務の中で、デジタル化できそうなことを見つけては、自身でkintoneのアプリを作り始めている。「ダンクソフトさんと一緒に仕事をして新しいことを学び、とても楽しかった。今も、働き方が変わるようなデジタル活用を考えるのが楽しい」と目を輝かせる。


プロジェクト・チームのダンクソフト中香織は、自発的に担当者がアプリ開発をするようになったことを喜び、この動きに期待を寄せている。


「ダンクソフトが第1フェーズで作ってきたことは、今の西田さんだったらできるのではと思うぐらい、ご自身で学ばれているんですよ。プロジェクトも第2段階に進んでいますが、組織もスタッフも、第2段階に突入しています。そのうち私たちダンクソフトのご支援がなくてもアプリ開発ができていきそうですが、それが理想の形かもしれません。ご一緒に学びあいながら、進化していけたらいいですね」(中)。


地域活性化センターの「働き方改革」はまだまだ続く。


■    導入テクノロジー

  • kintone

  • 顧問開発

※詳細はこちらをご覧ください。https://www.dunksoft.com/kintone

■    プラグインの開発

地域活性化センターの業務の特徴と職員の使いやすさを追求するために、今回、いくつかのプラグインも作成した。プラグインとは、必要な所に自由に組み込むことができる拡張機能のことだ。このプラグインによって、画面が見やすくなり、感覚的にシステムを活用できるようになる効果が期待される。西田さんがご自身で作ったシステムのマニュアルにも、このプラグインを使っている。

ダンクソフトが作成し、地域活性化センターへ提供したプラグインの一部を紹介する。

① 24時以降の時刻をプルダウンで入力できるようにする時刻入力プラグイン

通常の時刻入力フィールドだと、23:59までしか入力ができないが、超過時間勤務を入力する際には24時以降の入力が必要だった。

② kintoneの複数レコードの内容を、1つの文書のように表示するプラグイン

これにより、kintoneや業務のマニュアルをkintone上で使いやすく作成することができるようになった。


③ 指定した条件で、指定したフィールドのみを編集できるようにするプラグイン

フィールドごとに編集の権限を設定したい際に、編集可能なフィールドを選べるプラグイン。


■一般財団法人 地域活性化センターとは

一般財団法人地域活性化センターは、活力あふれ個性豊かな地域社会を実現するため、ひとづくり、まちづくり等地域社会の活性化のための諸活動を支援し、地域振興の推進に寄与することを目的として、1985年10月に、全国の地方公共団体と多くの民間企業が会員となって設立され、平成25年4月に一般財団法人へ移行いたしました。

地域力創造大学校®としての存在であることをめざし、「地域づくりはひとづくりから」を基本理念として、地域活性化や地方創生を担う人材を育成するとともに、相互の情報交換やネットワーク構築のための場を提供しています。

また、地方公共団体と協働で、中長期計画に基づいてさまざまな人材育成メニューを組み合わせた「人材育成パッケージプログラム」や、地域活性化センターが提供する各種セミナー動画をアーカイブ形式で提供するなど、人材育成に係る事業の拡充を図っています。

https://www.jcrd.jp/about/ 

事例:高校生が地域に飛びだし、デジタル・スタンプラリーをつくる実践的な共同学習プログラムを開発

お客様:学校法人 郁文館夢学園 ID学園高等学校 様


 学校法人ID学園高等学校 様は、全日制と通信制の良さをかけあわせた、ハイブリッド型が特徴の広域通信制高校である。134年の歴史を持つ学校法人郁文館夢学園が2020年に創設した新しい学びの場だ。生徒は関心のある授業を選択して参加し、無理のないペースで学びを進めることができる。

 

ID学園高等学校は「起業・ビジネスコース」の生徒を対象に、ダンクソフトと協働してインターンシップ・プログラムを企画・実施した。最新のIT技術を搭載する「WeARee!」を使った、実践型の共同学習プログラムだ。

 

実施後は参加した生徒全員から高い評価を受けただけでなく、「WeARee!」の新たな活用についても、話が広がっている。プログラムを担当した、企画部主任であり、起業・ビジネスコースのカリキュラム設計を行う宮坂修平氏からお話を伺った。


■新しい学びができる学校づくりを目指して

ID学園高等学校は、100年以上続く学校法人郁文館夢学園が、2020年に、新しい学びのスタイルとして創設した学校だ。通学型と通信型の学び方があり、通学型は、さらに「週1日コース」「週3日コース」「総合進学コース」「グローバルコース」「起業・ビジネスコース」にわかれている。すべてのコースは、希望すれば毎月変更することもできる。

 

このように、ID学園高等学校では、複雑・多様化する社会の中で、一人ひとりの体調や学びのペースに合わせて、生徒が参加しやすい環境を提供している。この背景には、生徒一人ひとりが人生の主人公として夢を叶えていく学びの場でありたいという、ID学園高等学校の理念がある。

宮坂氏は、2022年4月からID学園高等学校の企画部に所属している。起業・ビジネスコースだけでなく、探究や外部機関との教育連携なども担当している。宮坂氏には、東京学芸大学の教育学部に在籍していた当時から、「日本にまだない授業を導入した、新しい学びができる学校をつくりたい」という思いがあった。そのためには、民間企業でのビジネス経験が役に立つと考え、卒業後はIT企業のマーケティング部に所属して経験を重ねた。

  

■1年間の試行錯誤で気がついた、大切にしたい思い 

2022年度の1年間にわたり、起業・ビジネスコースのカリキュラムを企画する中で、時には失敗も経験し、宮坂氏は「生徒同士がイキイキと学ぶ、一人ひとりの価値と可能性が引き出される授業をつくりたい」という思いを持つようになった。――そこに宮坂氏は、2023年のはじめにとあるイベントでダンクソフトのメンバーと偶然の再会をする。コロナ禍を経て久しぶりに会ったダンクソフトのメンバーから、ウェブを使った新しいサービス「WeARee!」を知って、「これだ!」と、瞬時に可能性を感じた。WeARee!のスタンプラリー機能を使えば、地域社会をテーマに、生徒が教室を飛び出して学ぶ、実践型のプログラムがつくれるのではないか。そう考えた宮坂氏は、すぐに実施に向けた相談をはじめた。

 

ID学園高等学校での授業風景

宮坂氏は、教員になる前にライフワークとして、「既存の学校現場には無い学び」をテーマにしたワークショップを開催していたことがある。その会場としていた場所が、ダンクソフトがサテライト・オフィスとして利用していた東上野の古民家ギャラリーだった。こうした縁も重なり、ID学園高等学校とダンクソフトとの協働によるインターンシップ・プログラムづくりがはじまった。

 

■従来のフォーマットにとらわれない、生徒起点のプログラムづくり

インターンシップ・プログラムというと、学生が数日間にわたって企業のオフィスで働くスタイルが一般的だ。一方でID学園高等学校の要望は、「短時間で、楽しく、どんな高校生でも無理なく参加できる形のインターンシップ」だった。

 

ダンクソフトは、従来の「インターンシップ」というフォーマットをスタートにするのではなく、ID学園高等学校の生徒たちが参加しやすいプログラムを提案した。「こんな感じでどうでしょう」「そういう課題であれば、こういうことができますね」と、対話のキャッチ・ボールを2ヶ月間にわたり複数回おこなった。

 

「これほど丁寧に対話を重ねながら、企業とプログラムをゼロからつくったのは、はじめてでした」と、宮坂氏は当時を振り返る。ダンクソフトのWeARee!チームは、できるだけ親しみを持って参加できる環境をつくろうと心がけた。こうした対話によって、「WeARee!チームが事前に生徒たちを訪ねて、プログラムの初日を顔見知りの状態で迎えてはどうか」といった、生徒が安心して参加できるような工夫が次々にうまれてきた。

今回、対話の末にできあがった新しい「インターンシップ・プログラム」は次の通りである。「WeARee!」のデジタル・スタンプラリーを活用した、飯能市のスタンプラリー作成プロジェクトだ。

 

1)ID学園高等学校でのチーム・ビルディング(5月23日)

キックオフとして、レクリエーションを中心としたプログラムを実施。生徒による企業調べの発表。スタッフと生徒の交流。

 

2)ダンクソフト本社オフィスにて、初回インターンシップ実施(5月25日)

生徒がダンクソフトのある東京・神田周辺の地域スポットを探検するデジタル・スタンプラリーを体験。グループごとに「WeARee!」の機能を理解し、遊び感覚で地域の魅力を発見する1日体験を実施。

 

3)生徒自身が「WeARee!」で、新しい地域スタンプラリーを制作

魅力のある神田のスポットを訪問し撮影、集めた情報でスタンプ・スポットを制作。「おもしろい神田」をテーマにしたスタンプラリーを全員で制作。

 

4)埼玉県飯能市にて「WeARee!」を活用したフィールドワーク(6月1日)

飯能駅周辺で実施しているフィールドワークの授業で「WeARee!」を活用。神田で演習したことを飯能駅周辺の魅力発見に応用し、飯能駅周辺地域の魅力を伝えるコンテンツづくりを行う。現地では、株式会社Akinai 様の協力で、コワーキングスペース「Nakacho7」で実施。

 

5)飯能スタンプラリー制作にむけたWEBミーティング(6月8日)

WeARee! チームが、ID学園高等学園の授業に遠隔で参加。生徒が考えた飯能スタンプラリーのコンセプト紹介や、スタンプラリーを作成する上での質問や相談などを、WEBミーティングで実施。

 

)ダンクソフト本社オフィスにて、第2回インターンシップ実施(6月15日)

飯能市でのフィールドワークで収集した魅力情報をもとに、生徒たちがチームとなってデジタル・スタンプラリーを仕上げ。現場での検証を経て最終作品を一般公開。飯能駅周辺の市民の方々が活用できるツールに。日本スタンプラリー協会にも登録し、全国のスタンプラリーの一覧にも掲載。 

↓完成したデジタル・スタンプラリーはこちら
https://stamprally.org/s/36507

別のカリキュラムで、生徒が空き家のリノベーションを手伝った店舗も、スタンプラリー・スポットのひとつとなっている。

  

■想像以上の盛り上がりと、ぞくぞくと届いた生徒からの嬉しいコメント

インターンシップ・プログラムの結果は、想像以上だった。誰かが取り残されることなく、プログラムを最後まで楽しく修了できた。

プログラム終了後のアンケートでは、授業の満足度について、生徒全員が最高評価をつけた。また、生徒たちからは、「自分たちで新しくものを作り出すという体験が自分の中で大きかった」「みんなが役割をもって何かしら関われた」などの声が、自由回答に寄せられた。これらのコメントからも、プログラムを通じて、生徒が自らの価値や可能性をなんらか実感できたことがわかる。さらに、「もっと大規模なスタンプラリーを作ってみたい」「ARを使った企画をやりたい」といった、未来へ向けた意欲を感じられる回答も見られた。

 

■「WeARee!」があったから実現したプログラム

 「どのような関わり方の生徒でも、成果を出せて、自分の価値や可能性を実感できる。これは、今までのプログラムではあり得なかった奇跡的なことです。学校法人と企業による、新しいプログラムづくりのモデルができました」(宮坂氏)。

 

例えば、スタンプ・スポット制作の際、体力に不安のある生徒も、ひとつのスタンプ・スポットさえつくれれば、持ち寄ってチームに加わることができる。また、体調不良のためフィールドワークができなかった生徒は、現地で写真を撮る代わりに、情報を集めて文章を書くことで、スタンプラリーづくりに加わることができた。このような生徒たちの多様な関わり方は、「WeARee!」がなければ実現できなかっただろう。

 

さらに、「こんな予想外の出来事があったんです」と、宮坂氏は嬉しそうにさらに言葉をつなげる。学校見学に訪れていた入学希望者が、スタンプラリーのチラシ制作をしていた様子を目にしたことがきっかけとなり、起業・ビジネスコースを選択したのだ。デザインに関心のあったその生徒は、「起業・ビジネスコース」でまさかデザインまで学べるとは思わなかったのだという。今回のインターンシップ・プログラムを知ったことが、入学の決定打となったのだ。

 

■「学校と企業のつながり」から「人と人のつながり」へ

 「ダンクソフトさんの社員の皆さんは、距離感が近いですね」と宮坂氏は語る。

 

「インターンシップに携わっていただいたみなさんは、今でも生徒の顔と名前を覚えてくださっています。ダンクソフトの方に進路相談をする生徒も出てきたんですよ。限られた期間で、そのような生徒との関係が自然と生まれてくるのは、本当に珍しいことです。“学校と企業のつながり”という枠を超え、“人と人のつながり”を感じながら協働できたのは、私自身にとっても大きな発見でした」(宮坂氏)。

 

【インターンシップ・プログラムに関わったダンクソフトメンバーからのコメント】

◆企画チーム マネージャー 板林

ダンクソフトでは、これまでもインターンシップを多く受け入れてきました。その中で「企業インターンシップとはこういうもの」というイメージが出来ていました。

一方で、宮坂氏とはそういったインターンシップの枠にとらわれず、学生の視点に立って、新しいものを一緒につくっていくことができました。協働していてとにかく楽しかったですね。

 

◆企画チーム 酒井

宮坂氏からプログラムのありたい姿を聞いた時、「インターンシップ」という言葉では到底おさまらないと感じました。「WeARee!」には、開発の当初から「みんなでつくる」というコンセプトがあります。このコンセプトを活かしながら、従来のインターンシップを超えたプログラムづくりができて、とても嬉しかったです。

 
◆企画チーム ウムト

宮坂氏や教員と生徒との信頼関係が強く、その関係が羨ましいと思いました。生徒たちはとても積極的。「WeARee!」のソースコードを見てテンションの上がった生徒たちの様子が、今でも印象に残っています。

 

◆企画チーム ジョーダン

授業が終わっても、生徒さんの多くがスタンプラリーを夢中になってつづけていました。一人ひとりのモチベーションも高く、素晴らしいと思いました。

  

■協働をさらにすすめて、生徒が学びやすい環境を

ID高等学園高校では、「WeARee!」のさらなる活用にも注目が集まっている。

「水道橋キャンパス周辺で、地域理解を深めるためのスタンプラリーを実施したい」という声が、教員からあがったのだ。

 

例えば、自宅での学習を長く続けていた新入生にとっては、通い慣れていない校舎や街を歩くだけでも大変なこと。「スタンプラリーを通じて、学校や周辺地域のことを生徒に楽しく知ってもらいたい」「スタンプラリーを使いながら歩くだけでも、生徒のウェルネスになるのでは」など、「WeARee!」への期待は、ますます高まっている。

 

また、宮坂氏とダンクソフトとの新たな企画もはじまりそうだ。移住やリモートワークというこれからのワークスタイルに関心を持つ生徒が増えていることを受け、ダンクソフトのテレワークに関する先駆的な取り組みを紹介する機会について意見交換を行っている。生徒がイキイキと学ぶ姿が想起される新たな共同学習プログラムが始まるかもしれない。 


■導入テクノロジー


 ■ID学園高等学校とは

ID学園高等学校は、134年の歴史を持つ学校法人郁文館夢学園が2020年4月に開講した広域通信制高校です。全日制、定時制、通信制に続く「第4の学校教育」として、全日制高校と通信制高校の良さを掛け合わせたハイブリッド型であることが特徴です。すべての生徒が夢を持ち、夢を実現するために、生徒の多様な夢の実現に全力を尽くします。生徒の「個」を大切にし、最大限活かして、好きな場所で、好きなペースで、好きなだけ学べる学習環境を提供しています。 

URL: https://id.ikubunkan.ed.jp/ 


【Engineering the Next】ダンクソフト・バザールバザール開発物語 Vol.1

全国的に寒波に見舞われた冬のある日、オンラインで各地から3人のDUNKメンバーが集合しました。「ダンクソフト・バザールバザール」開発チームのメンバーです。今回は、「Engineering the Next」と題し、開発者である3人がダイアログを行いました。製品開発のはじまり、開発ポリシー、思い出に残るエピソード、これからの開発構想など、過去、現在、未来の話に花が咲きました。「ダンクソフト・バザールバザール」をご利用の方にも、またそうでない方にも、ダンクソフト開発者たちの距離を感じさせないチームワークや、プロダクト、サービスに対する考えや思いを感じていただければと思います。


竹内 今日の徳島は雪なんですよ。橋は何本か通行止めになっているようですね。

澤口 埼玉も今日は結構寒いですけれど、徳島、雪なんですね。

 数年ぶりで、すごく珍しいことですよね。こちらも積もってきています。

澤口 そういえば、竹内さんは昔から私と話す時は標準語ですが、徳島同士の二人で話す時には徳島の言葉になるので、いつもいいなと思って聞いているんですよ。

竹内 こうやって改まって開発談義するのも珍しいことですが、今日はいろいろ話してみましょう。

 

◆竹内 祐介◆

竹内祐介が描く未来の物語
https://www.dunksoft.com/40th-story-takeuchi 

徳島県徳島市に在住。当日はテレワークで自宅から参加。入社11年目。開発チームのマネージャで、「ダンクソフト・バザールバザール」の開発責任者。SE兼プログラマー。開発チームで扱っているサービス全般への責任を持つ。

◆澤口 泰丞◆

澤口泰丞が描く未来の物語
https://www.dunksoft.com/40th-story-sawaguchi 

埼玉県在住。当日はテレワークで自宅から参加。入社13年目。SE兼プログラマー。「ダンクソフト・バザールバザール」とは別の既存製品について、保守・運用、追加開発を担当する。ダンクソフト40周年プロジェクト・マネージャもつとめる。

 ◆港 左匡◆

徳島県徳島市に在住。2022年3月に阿南高専を卒業し、同年4月、新卒でダンクソフト入社。プログラマー。現在はプログラムをかいたり、製品のテストをしたり、kintone開発に携わるなど仕事の幅を徐々に広げている。

  

■「バザール」を、自分たちの手でいちからプログラミングしたわけ

 

竹内 バザールの提供が開始されたのが、2016年。ダンクソフトに入社して3年目ぐらいの頃に構想が始まったと記憶しています。

澤口 その時、僕も会社にはいましたが、別のプロジェクトに関わっていたので、ほんとうに最初の頃のディスカッションには入っていなかったかな。

 僕はまだまだ子供で、高専にも入っていなかった頃ですね(笑)

竹内 経営チームと開発チーム、そこにさらに今も連携しているパートナーの片岡さんがいましたね。浅草にある古民家をサテライト・オフィスとして使用していたころで、そこで第1回のミーティングを行ったことをよく覚えています。古民家なので、テーブルではなく座卓だったんですよ。なので、座布団にあぐらで、座卓を囲んで、文字通り“ひざ詰め”の状態で。合宿のように、連日どんな新製品のコンセプトにするのか、喧々諤々ディスカッションしていました。当時は結構な頻度で東京に出張したんですよ。

澤口 バザールには「会員かんり」という前身の製品があって。そのリニューアル版として「ダンクソフト・バザールバザール」が生まれたんですよね。

竹内 企画が大変でした。コンセプトもそうですし、実現するためにどんなフレームワークを使うかということも。それでいろいろディスカッションした結果、「自分たちの手でつくろう」ということになりました。だからバザールは、いちから私たちが書いたプログラムになっています。

澤口 前身の「会員かんり」は、マイクロソフトのDynamics CRM(現Dynamics 365)の上で動くソフトウェアでした。Dynamics CRMを使うとリッチな機能は多いのですが、1ユーザー当たりのライセンス料がかかってくるので、会員数が多い組織の場合は、組織に負担してもらうお金が増えてしまうという課題がありました。それと、バザールは、「バザールバザール」と名前に付けたように、1つの組織に閉じずに複数の組織をつなげるものにしたかったのですが、マイクロソフトのDynamicsではそれができなかった。それでいちからつくることに。

竹内 事務局と会員をつなげる機能部分は、「会員かんり」に搭載されていたので、ノウハウとしてもっていました。その部分はバザールでも活かしつつ、新たに会員同士のコミュニケーションを活性化しようということでした。イベント管理、イベント出欠、請求書発行などの機能は、澤口さんが担当してくれました。

港 「会員かんり」に比べて、バザールの方が使いやすさが向上していると感じます。組織同士のつながりにも対応しているという可能性も、「会員かんり」よりも広がりがあって、いいところだなと思っています。

澤口 港さんにそう言ってもらうと、なんだかうれしいですね。

竹内 それと、難しいものを作りこむことに時間をかけるよりも、開発力を無駄にせず、シンプルにつくることに決めました。ただ、立ち上げ時には、たくさんのコードを書かないといけないので、最初の頃は開発を6人前後のチームでやっていましたね。

 苦労した点はあったのですか?

竹内 それはありましたよ!1個の画面を出すのにこんな大変なのかという感じでした。たまに星野さんに見せても、顔色がよくないんです(笑)。すでに数カ月が経っているのに、まだここまでしかできていないのか?という反応で。

ただ、作っている自分たちもそう思っていたんですよ(笑)

例えば、お客様がログインします、といえば、パスワードが正解した時にだけ入るということをプログラムで書いていきます。ログインする動作は使っている人にとっては当たり前ですが、その当たり前のものもひとつずつ手作りしていくのですから、それは時間がかかりました。「今日は、ログインして会員一覧が出る、というデモをします」といわれても、「はあ、まだそれだけ?」という反応になりますよね(笑)

 当時のログが残っているので、ログを見ていると、初期の課題で悪戦苦闘した形跡がみられて、私にとってはとても勉強になります(笑)

  

■自然とボタンを押したくなる「バザール」を目指した

 

竹内 改めて、バザールが何者かというと、企業、NPO、PTAや社会人のクラブ活動などの団体に使っていただくプロダクトです。人が集まる場、団体であれば、どんな分野であれ、そこにまつわる共通作業があると考えています。名簿、年会費の管理、イベント実施のための招待や出欠管理など、これらが効率よくできるようにというのが、バザールの基本構想でした。いわゆる団体を管理している管理者や事務局の仕事効率化をサポートできないかが、スタートでした。 

竹内 ただ、せっかくなので、新しいイメージを追加しました。それは、「バザール」のイメージです。バザールというと、シルクロードなど中東の市場(いちば、マーケット)のイメージが浮かびませんか? そういう市場に人がワイワイ集まるように、会員同士がわきあいあいとしてコミュニティが活性化するといいよね、と考えて、機能を検討していきました。

澤口 さらに、ひとつのコミュニティが活性化するのはもちろんですが、となりにあるコミュニティとも交流できるといいよねと、バザールを2つ重ねて、「バザールバザール」という名前にしたんですよね。

竹内 そう、実際に、2つの組織をつなげて交流するという機能がバザールにはあります。バザールを、単なる効率化を求めた事務局運営ツールとしてではなく、会員間やとなりの団体とも交流するなど、さらに「コミュニティの活性化」を意識したサービスに進化させていこうとしています。ただ、まだやりたいことの一部しかできていないんですよね。

澤口 メジャー・バージョンアップとはまだ言えないかもしれませんが、会員同士のコミュニティ活性化を軸にして、2022年には少しずつ新機能を加えていきました。

竹内 「マッチング機能」という、掲示板(チャット・ツール)を搭載していますが、ここをもっと対話しやすくすることを、昨年から考えていますよね。2022年には、投稿されたコメントに階層型にして返信しやすく、見やすくする機能をいくつか追加しました。

澤口 その後はユーザーさんたちからの反応はどうですか?

竹内 そうですね、掲示板への投稿率が上がった組織がいくつかありますよ。大きくアナウンスしたわけではないですが、自然と使ってくださっているのだなと感じています。

澤口 自然と使えるのが大事ですよね。ダンクソフトの開発するプロダクトに共通することですが、ダンクは、マニュアルを読まないと使えないソフトウェアよりも、メニューがあったら押してみた。そうしたら使えた、というような製品を作りたいですよね。

竹内 そこが、バザールが目指すところでもありますし、私自身がバザールの好きな点でもあります。とにかく、バザールはわかりやすい。自身で作っているからそう感じるのかもしれませんが(笑)、何をしたいかに辿りつきやすいし、余計なメニューや余計なボタンがない。それが、広く使っていただけている理由の一つだと思っています。今後も、誰でも使えるシンプルなもので、デジタル・リテラシーが上下しても、どんな方でも対応できるツールにしたいと思っています。

  

■情報を保護し、使う人を守る「バザール」

 

竹内 デジタル・リテラシーといえば、今は無償で使える便利なコミュニケーション・ツールが世の中に増えましたよね。しかし、便利の代償として、アカウント情報を取られていることもあるし、データを商用利用されたことがニュースになることもありますよね。それを私たちは知っているけれども、デジタルに強くない方々には、そういう仕組みをご存じない方も多く、知らないうちに個人情報をとられている人たちがいます。個人情報を使われていることを知ったら、嫌ですよね? ダンクソフトでは、個人情報を第三者に売却しようとは思っていないです。

澤口 組織の個人情報は、ダンクソフトのモノではありません。利用される方々は、そのひとつひとつの団体の会員さんであって、ダンクソフトの会員さんではないと思っています。ですから、団体の情報を私たちが好き勝手に使っていいものだとは全く考えていません。

竹内 よくバザールのユーザーさんから、“バザールは私たち情報を守ってくれるから安心して使えます”とフィードバックをいただきます。無料のチャット・ツールなどは、個人情報がどう流れているかも、確認しないと危険なことがあります。例えば、データを保管するサーバーが中国にある場合は、中国当局が情報を閲覧できるということもあります。バザールは、マイクロソフトのAzureというサーバーを使っていますが、その置き場所は日本国内なので、より安心・安全な場にデータを保管しているんですよ。

 今、公共性の高い、セキュリティを気にしないといけない団体がバザールを選んでくださっているのも、こういうことが関係しているのかもしれないですね。

 

 

■2023年、バザールはどうなる? どうする?

 

竹内 2023年も、引き続き、掲示板で参加者間での会話・対話が活性化するところを注力していきたいと考えています。そのために考えていることが、「通知」なのですが、この先、「メール通知」を始めようと構想しています。

 スマホ・アプリがあれば便利だというユーザーさんからの声もいただいてはいますが…。でも、アプリでなくても、お知らせが来ると、さらに使いやすくなると思います。

竹内 そうですね、リソースが無限にあれば何でもできるのですが(笑)。メールは何十年も使ってきたツールなので古い印象もあり、メールからも脱却したいところでもあります。ただ、対話を活性化するには、まずは別の人が書いたコメントにタイムリーに気が付かないといけないので、誰かが掲示板に書き込んだよというお知らせがメールで届くようになります。

 確かにメールは古い印象があります。ただ、バザールの開発環境やユーザーさんの幅広い層を考えると、メールがいいのかもしれません。ツールの使い勝手に直結するものだと思います。

竹内 そうですね。今は、メール通知機能と、実現に向けて付随するバックエンドでのしくみづくりですね。

 数年後には、スマホのブラウザー経由でもブッシュ通知を送れるかもしれないという話を聞いたことがあります。いずれはこれから出てくる全く新しい手法を使って改良することも、可能性があると思っています。

竹内 それから、メール通知はお知らせ機能に過ぎないので、2023年以降、さらに対話を促す別の機能性も入れることを検討しています。ますます対話を推進していくツールにしていきたいですよね。

 私の方では今、2023年に始まると想定して、「インボイス制度」に向けた開発を進めています。

竹内 2023年10月に開始と言われている新制度ですが、これが始まると困る方がいる方々もでてきていて、運用開始は二転三転するのかもしれません。ただ、バザールとしては準備を始めています。具体的には、領収書や請求書を発行できる機能がバザールにはありますので、10月の制度開始に備えて、裏側でデータを整えているところです。これを、4月入社の港さんが担当していると考えると、立ち上がりが早いですよね。

 細かいコードの指示をもらってそのまま書くというのは、よくあることだと思うのですが、今回は、どうやって実現するのかというところから任されているので、試行錯誤をするところも経験できました。3ヵ月前から検討を始めましたが、機能としては簡単な機能でも、実際には結構時間がかかりました。バザールの初期の開発がどれぐらい大変だったか、なんとなくイメージがつきます。

澤口 僕は、バザールには、前身の「会員かんり」から引き継いでいる固定観念があると思っていて、それをどこかで脱却したいです。全体的に今は、“事務局と会員”という構図が前提のしくみになっているのですが、事務局と会員ができることに差がなくてもいいんじゃないか、と。例えば、会員の方が、「○○作ったらいいじゃん」と思えば、事務局じゃなくても作れたり。さらに次の製品で実現ということになるかもしれないですが、その区別をもっとなくしていきたいですね。

竹内 会員と管理者ではなく、会員の方にも、会を活性化させていく能力のある方もたくさんいらっしゃいますよね。そういう方がバザール上でもっと活躍できるようになっていくように、明確に役割を分けないで、グラデーションにしていきたいですね。ここ1年間、結構チームで対話をしてきましたが、1年も続けていると、やりたいことが多くでてきますね。

澤口 価格体系のリニューアルについても、ここ最近出てきた話ですね。

竹内 100人程度の会員がいる団体には、年間10万円という今の価格はリーズナブルだと思うんです。でも例えば、僕のクラブ活動で使うには、数名のメンバーなので、年間10万円には手が出せない。バザールを保護者会などで気軽に使ってほしいという考えはあっても、価格がハードルになってしまう。一方で、会員が1000人ほどの規模がある団体には、また別の価格体系があってもいい。同じ団体といえども、規模が色々ありますから、もう少しフレキシブルな価格体系を考えたいねと。

澤口 機能を制限してバザールを広く使っていただけるようにする話もありますよね。少人数の団体にも使っていただきたいのに、なかなかバザールに気軽に手が届かないのはもったいないですよ。制限をしてその分を抑えて、ということもありかもしれないですね。

  

◆広がる評判。使う人に自由度と遊びのある「バザール」へ

 

竹内 以前、事例でも紹介したのですが、今、徳島県阿南市の阿南高専が力を入れている「ACT倶楽部」でバザールを導入していただいています。バザールが、地域企業の課題解決に向けて、地域・企業・学生が協働してプロジェクトを実施する際の、コミュニケーションの場になっています。この阿南高専での活用から始まって、使った方が別の団体やコミュニティにも利用を始めるというように、波が広がりはじめています。会員全員に説明が必要ない、分かりやすい操作性を評価していただいているのが大きいのではないかと。

澤口 どう使ってほしいかについては、他力本願ではないんですが、僕ら開発者がイメージしていること以上のことをしてほしいし、お客様自身に合った活動で新しい使い方を生み出してもらえることを、目指したいと思っていますね。

竹内 それは、バザールに限らず、ダンクソフト開発チームでは共通の考え方でもあります。開発する側が、使い方を決めつけない。使う側の自由度や遊びを残しておくことが大切だと考えて、開発しています。こういう考え方が、ダンクの開発チームでの共通認識ですね。

 

 

ダンクソフト・バザールバザール開発チームの今後の動向に、どうぞご期待ください。

 

事例:神田藍プロジェクト 〜ソーシャル・キャピタルを育む藍とデジタル

協働パートナー:「神田藍愛〜I love KANDA〜 プロジェクト」に参加する企業・団体・住民の皆様


ダンクソフト本社のある東京都千代田区の神田エリアには、その昔、染物屋の集まる日本有数の「紺屋町」があった。全国の藍や問屋が集まり、いろいろな地域同士を藍で結んでいた場所だ。2020年12月、この神田エリアで、有志を中心に「神田藍プロジェクト」が誕生した。神田にゆかりのある「藍」を媒介とし、地域で暮らす人々や働く人たちによるコミュニティをつくろうと、小さくはじまった「神田藍愛〜I love KANDA〜 プロジェクト」(以下、神田藍プロジェクト)が今、急速な展開を見せている。


 ■藍を媒介に地域がつながる「神田藍プロジェクト」がスタート

神田藍プロジェクトのメンバー
後列左から
2番目 東京楠堂 井上智雄氏
4番目 株式会社ハゴロモ 伊藤純一氏
5番目 一般社団法人 遊心 峯岸由美子氏
6番目 ダンクソフト 代表取締役 星野晃一郎

神田藍プロジェクトでイニシアチブをとるメンバーのひとりが、一般社団法人 遊心 代表理事の峯岸由美子氏だ。遊心は、「自然・家族・仲間が共にいる喜びを通して、どのような環境においても『しなやかに自律する』人を育てること」を理念に掲げ、都市部の自然をテーマに、親子や子供を対象としたワークショップの実績が豊富な団体だ。 

峯岸氏は以前、神田に本社を持つ株式会社ハゴロモのビルをフィールドに、伊藤純一 社長(当時)とともに、地域の子供たちと屋上で野菜を育てるプロジェクトを実施していた。しかし実際には、日差しが強すぎることによる水不足など、野菜を育てるには厳しい環境だった。そこで、都心のビル街という環境にも強いであろう「藍」を育てるのが面白いのでは、というアイディアが生まれ、これが神田藍プロジェクトへと形を変えていったのだ。

 

■「地域コミュニティの活性化」が「防災」につながる

一方、40年にわたり都心にオフィスを構えるダンクソフトには、もともと「防災」への課題意識があった 

ダンクソフトが考えるこれからの防災についてはこちらのコラムをご覧ください。https://www.dunksoft.com/message/2022-06

巨大地震などの災害時に、企業に求められるのは迅速なリカバリーである。ダンクソフトでは2008年からテレワークの実証実験をするなど、デジタル環境の整備は進み、BCP対策は万全だ。だが、防災を考える時、もうひとつの要となる「地域コミュニティとの連携」は、希薄な状態だった。  

ちょうど本社を神田駅前の新築ビルに移転後、ほどなくして、神田藍プロジェクトの話が舞い込んだ。それは、神田に住む人、働く人、愛する人たちが共に力をあわせ、神田をより楽しく、心地よく過ごせる街へと育てることを目指して、神田のシンボルとなるだろう「藍」をみんなで育てる活動だった。 

移転したばかりで、地域とのつながりを求めていたダンクソフトにとって、神田藍プロジェクトは渡りに船だった。このプロジェクトを通じて、地域コミュニティや地域企業との新たな結びつきが生まれ、将来的には神田エリアの防災にもつながる可能性がある。そこで、2021年12月、ダンクソフトは迷うことなく参加し、事務局メンバーにも加わった。

 

■デジタル企業が植物を育てるという試み

植物や自然に精通している峯岸氏いわく、神田藍プロジェクトは、最初の1年は試行錯誤の連続だった。思ったように藍がうまく育たない場所があったり、企業や地域の方々にもなかなか理解を得られないなど、色々な課題が出ていた。峯岸氏は、これらの課題へひとつひとつに丁寧に対応していくことで、様々な方たちがプロジェクトへ参加しやすい状況をつくる工夫を重ねた。

藍の育て方を紹介する動画「種まき編」。他にも、「植替え」「間引き」「水やり」などを紹介した動画もあります。

藍の育て方を動画でシェアしたり、藍を育てる方たちを訪ねてよく話をしながら、藍を育てることがコミュニティの活性化につながるという未来の物語を、粘り強く語りつづけていた。 

ダンクソフトでも、その未来の物語に賛同し、いち参加企業として、藍の鉢植えを1つベランダで育てることから1年目が始まった。コロナ禍となり、全社在宅勤務となったオフィスのベランダで、藍は元気に育っていた。オフィスに出社していたダンクソフト代表の星野は、在宅勤務する全国のスタッフたちへ、藍の様子を共有した。また毎日の水やりをする中で、育成プロセスをデジタル化することを試みた。ウェブカメラを設置し、24時間どこからでも藍の様子が見られるように簡易なシステムをつくり、自動で藍が水を吸い上げる装置を入れるなど、藍が育つ環境をデジタルを使って整えた。

 

■多様性から広がる神田藍コミュニティ

メンバーたちの活動の様子を見て、徐々に徐々に神田藍プロジェクトの輪は広がっていく。神田明神の境内にも藍が育ち、美容院や酒問屋の軒先にも藍のポットが置かれ、藍をめぐる会話が街に増えはじめた。興産信用金庫や神田学会などの企業・団体も、この新しい動きに関心を寄せて、協力・連携が生まれはじめた。 


そんななか、東京楠堂の井上智雄氏が参加することになり、神田藍プロジェクトに大きな変化が起こりはじめる。楠堂さんといえば、和本や集印帳などの製造販売をする神田の老舗企業である。地域とのつながりも強い。

 自治会とのつながりを持つ井上氏が起点となり、2022年春には神田東松下町の町内会とプロジェクト・メンバーが対話する機会が生まれた。これをきっかけに、5月の子供の日にあわせて、地域の子どもたちへ160個もの藍の種を育てる牛乳パックの鉢植えを配布するイベント実施が決まった。続いて、8月20日には、各自で育てた藍の葉を持ち寄って、叩き染めをするイベントを開催。「自分で育てた藍の葉で布を染める」という初めてだらけの体験は、参加者から大変好評を得た。「藍」を媒介に多様な属性の人々が偶発的に集まり、今までにない神田藍コミュニティが、さらに広がりはじめている。

  

■「WeARee!」と「ダイアログ・スペース」で活性化する地域コミュニティ

ダンクソフトでは、神田藍プロジェクトのなかで、デジタルを活用した2つのことを提供している。

ひとつ目は「WeARee!」(ウィアリー)を活用したウェブサイトである。WeARee!とは、バーチャルツアーやARカメラを使ったコミュニティ・イベントを誰でもカンタンにつくれるウェブ・ツールだ。

すでに遊心は、2020年に WeARee!を活用し、ダンクソフトと協働プロジェクトを行っている。今回の神田藍プロジェクトでは、WeARee!の機能の一部である「ウェブサイト機能」と「写真投稿&チャット機能」が生かされている。藍の写真を自由に投稿できるオリジナル・ウェブページを制作。会員専用ページでは、メンバーが投稿した写真について、チャット機能でメンバー同士が対話をすることができる。藍の発育状態が良くない時に写真を投稿すれば、メンバーからアドバイスが自然と届く。オンライン上で場所や時間を選ばず交流できるコ・ラーニング(Co-learning/共同学習)のコミュニティが、WeARee!上に誕生している。

WeARee!を使った、神田藍プロジェクトのページ
https://yushin.wearee.jp/kanda-ai

遊心とダンクソフトの協働プログラムの事例紹介はこちら
https://www.dunksoft.com/message/yushin

 

「神田藍プロジェクトに関わる方には、ご高齢の方もいます。実際に運用してみると、そもそもWeARee!にログインできないという声も出ました。ダンクソフトさんに相談すると、従来型のログイン方法にとらわれない、使いやすいシステムに作り直してくださいました。神田のメンバーのみなさんと対話をしながら、ダンクソフトさんと協働して、より使いやすいUIづくりができて助かっています」と、峯岸氏は語る。

 

ダンクソフトのダイアログ・スペースに集まる神田藍プロジェクトのメンバー。

ふたつ目は、ダンクソフトのオフィス内にある「ダイアログ・スペース」の活用である。 この「ダイアログ・スペース」は、オンラインとオフラインのハイブリッド型ダイアログにも対応した、良質な対話空間だ。社外のイベントや会議にも多く利用されており、神田藍プロジェクトもこのダイアログ・スペースで集まることが多い。

 

また、オフィスにはアイランド・キッチンが備わっているため、ちょっとした生葉染めも、このスペースですることができる。メンバーそれぞれが、自分で育てた藍の葉を持ち寄って、ダンクソフト代表である星野と共に、わきあいあいと生葉染めを楽しむ場面も増えてきた。

 

■「藍×デジタル」で育まれる神田藍コミュニティ

ダンクソフトの社内でも、神田藍プロジェクトを通じて、予想外の効果が生まれた。それは、神田地域を越え、全国で働くダンクソフトのスタッフのあいだに「藍」を媒介にした交流が活性化したことだ。

 

2022年春、徳島サテライト・オフィスのメンバーが揃って神田オフィスに訪れた際に、神田で育てた藍の種を持ち帰った。東京で育てた藍が、神田を離れ、徳島でも花を咲かせたのである。東京・徳島間のオンライン・ミーティングでは、当然のように「藍」が話題にあがり、自然と対話も活性化していく。先日は、東京と徳島合同で、生葉染めのオンライン体験を行ってみた。他にも、栃木や江ノ島に住むスタッフたちも苗を持ちかえり、藍をそれぞれの地域で育てている。今や「神田藍」は、既に神田エリアにとらわれない、様々な人々のコミュニティを結ぶ「媒介」となった。

 

東京楠堂の井上氏は、「ゆくゆくは育てた藍を使った自社ブランドをつくりたい。また体験型の藍染ワークショップなども視野に入れていきたい。」と、神田藍を活かした新しいビジネスの可能性に胸を膨らませている。遊心の峯岸氏も「コロナが落ち着いたらWeARee!のARの機能を活用した、オンライン・オフラインのハイブリッドなイベントを企画したい」と期待を語る。

「20年後、自分で藍染めした法被を着た若者たちが、神田祭で練り歩く」。これは、神田藍プロジェクトが描く、ひとつの未来の物語である。「藍×デジタル」を活かした神田藍プロジェクトは、これからも、神田地域の「ソーシャル・キャピタル」を豊かに醸成する新しいコミュニティとして育っていくことだろう。


■導入テクノロジー

WeARee!
ダイアログ・スペース(ダンクソフト内)

 

■神田藍愛〜I love KANDA〜とは

神田に住む人、働く人、愛する人達が共に力を併せ、神田をより楽しく、心地よく過ごせる街へと育てるためのプロジェクト(運営:一般社団法人遊心)。藍を新たな街のシンボルとし、神田の名産として様々な商品やサービスを 提供・発信する仕組みづくりを行う。一連の活動は持続可能な地域づくりの基盤となり、また人と人、人と地域の絆を深める結び目となることを目的としている。

https://yushin.wearee.jp/kanda-ai

事例:前例のなかったNPO評価認証プロセスをシステム化、効率と高品質を同時に実現へ

お客様:公益財団法人 日本非営利組織評価センター(JCNE)様

 

公益財団法人 日本非営利組織評価センター(以下:JCNE)は、2022年4月から、NPO(非営利組織)を対象とした組織評価制度「ベーシックガバナンスチェック」について、kintoneによる管理・運用システムを開始した。エクセルやメールを使っていたかつての申請プロセスが、フォームに入力するスタイルへと簡素化。その結果、導入から半年足らずで、団体内の事務作業が効率化されただけでなく、利用団体の手続き負荷が軽減されるなど、すでにいくつもの成果があがっているという。今回は、新しいシステム導入の経緯や効果について、JCNE事務局の村上佳央氏にお話をうかがった。


 ■目の前の業務に追われ、後回しになっていたシステム改善

 

JCNEは、2016年の設立以来、NPOを対象に団体の組織評価・認証制度を提供している。NPOにとっては、JCNEのような第三者機関から評価を受け、ガバナンスをみなおすことが、団体の基盤強化につながる。加えてJCNEでは、集約した評価情報を関係機関へ提供したり、広く公開することで、NPOの信頼性や認知向上に貢献している。近年では、助成財団が助成対象となるNPOを審査する際に「ベーシックガバナンスチェック」の利用を推奨するなど、JCNEの評価制度にますます注目が集まっている。

https://jcne.or.jp/data/gg-voice2022.pdf 

グッドガバナンス認証を取得した団体を紹介する「Good Governance Voice」。応援したい団体を見 つけることができるガイドブックとなっている。

「全国レベル、分野共通の非営利組織の評価機関の設立は初の試みです。ですので、日本社会においての『組織評価制度の確立』が、当初、JCNEの大きな課題でした。」と本プロジェクト主担当である村上佳央(かなか)氏は、スタート当時を振り返る。NPOは規模も分野も多岐にわたり、企業に比べて運営体制も脆弱な団体が多い。その状況を考慮しながら、どのような指標やデータを評価対象とするかなど、制度をゼロから設計するところに工夫が必要だった。 

現在、JCNEは「ベーシックガバナンスチェック」「グッドガバナンス認証」という、2段階の評価制度を提供している。申請件数は年間数百。これだけの申請数をわずか5名の事務局員で対応している。これまでは、データはすべてExcelで管理し、申請団体とのやりとりもメールが中心だった。そのため、申請団体からのちょっとした登録内容の変更依頼に対しても、その都度スタッフが手作業で対応する必要があった。

「団体の評価情報を適切に管理したり、もっとデータを活用したくても、手作業の多いExcel管理に追われ、人的リソースを割けずにいました」(村上氏)と、普段からもどかしさを感じていたという。こうした管理体制は、事務局と申請団体の双方に負担がかかり、変更漏れや入力ミスといった情報管理上のリスクも含んでいた。 

JCNE事務局の村上佳央氏。「以前働いていた印刷会社が、大量のゴミを出して環境を害していることに疑問を感じ、NPOへの転職を考えた」という。村上氏は、職場の同僚が、近くにある有名なNPOのことさえ知らなかったことに課題意識を抱き、NPOの認知向上に寄与するJCNEへの就職を決意したという。

■ダンクソフトの「NPOへの実績」と「評価制度への理解」が決め手に

 

 そこで、業務の手間を減らして効率化していくことが、より質の高い体制や、多くの団体評価を実現してNPOの信頼を高めることにつながるだろうと、JCNEの業務改善に取り組むこととなった。NPO業界では、業務プロセス改善にkintoneを使っている団体も多いことから、今回、JCNEもkintoneを使うことを決めた。kintoneの無料相談窓口に問い合わせると、複数の企業を紹介された。その中から、最終的にダンクソフトへ依頼することとなり、2021年12月に、本プロジェクトがスタートした。

 

「ダンクソフトさんは、理解することがなかなか難しいJCNEの評価制度について、提供した資料以上のことを理解しようとしてくださいました。このことが決め手になりました。」と村上氏は振り返る。

 

また、ダンクソフトがサイボウズのパートナー企業であり、NPOへのkintone導入実績が充実していることも、安心感につながったという。

 

「実は“評価”というのは、システム化するのが一番むずかしい分野なのです」と語るのは、ダンクソフトの片岡幸人だ。片岡は、サイボウズ社公認のkintoneエバンジェリストでもあり、今回導入したシステムの全体設計を担当した。JCNEの評価制度は仕組みが緻密で、評価項目も多岐にわたる。このことから、kintoneでのシステム化や運用は、相当にハードルが高いものと予想していた。

 

しかし、実際には、予想以上にスムーズに初期バージョンを完成させることができた。それは、JCNEのシステム化チーム(村上氏・浦邉氏)と、ダンクソフトの中香織が中心となって、対話的なプロセスを重視したことが大きな要因だろう。

 

JCNEには当初から、「こういう課題を解決したい」という明確なイメージがあった。また、中香織はウェブ・デザイン出身の強みを活かし、JCNEの課題に対して、ユーザーが使いやすいUIデザインの提案を続けた。相互に対話を重ねながら、徐々にシステムを形にしていき、運用がスタートしたのは、2022年4月。最初の問い合わせから、わずか4か月で導入に至った。

 

■kintone導入で実現した3つのシステム改善 

kintoneによるシステム化によって、JCNEが重視していた点が、いくつも改善している。ここでは、その中から3つのシステム改善を紹介する。

 

1つ目は「長期的に継続利用できる団体データベース」であること。

kintoneによる管理ページの一部。団体の審査ステータスが視覚的にわかりやすく、別ステータスのレコードにも簡単に移動できるステータス・バーが実装されている。

JCNEの評価制度は、認証が得られたら終わりではなく、3年ごとに更新をおこなっている。また不足があって認証されなかった団体からも、再評価申請を受けつけている。そのため、1回の申請で終わりではなく、長期的に活用できるデータベースである必要があった。更新や再審査にまつわる情報もすべて含めて管理できることで、申請団体を長い目で見守ったり、長くお付き合いしたりすることができるようになる。

2つ目は、「ユーザーが使いやすいレイアウトの実現」だ。

これまで利用していたExcelのレイアウトをベースにデザインされたデータベース。従来のレイアウトにそったUIにすることで、スタッフの負荷なくkintoneのシステムへと移行できた。

kintoneは情報を上下にレイアウトしていくのが得意なアプリだが、JCNEではExcelで使っていた横長レイアウトに馴染みがあった。そのため、「横長のレイアウト」へのリクエストに対応。スタッフが慣れ親しんだフォーマットを尊重したデザインとなった。小さな工夫ではあるが、もたらした成果は大きい。スタッフたちが新しい業務プロセスへ移行する際の負担を、大幅に減らすことに貢献した。

 

3つ目は、「団体用マイページの作成」である。

これまでメールで届いた登録内容の変更はJCNE事務局が修正し、評価結果のステイタスはメールで連絡していた。それが、すべてマイページ上で、申請した団体が自分たちで更新やステイタスの確認をできるようになった。この機能は申請団体からも好評で、「マイページであらゆる手続きができるため、以前よりプロセスがスムーズになった」と嬉しい声も多数届いている。

申請団体が利用するマイページ「じぶんページ」(左)。申請団体は、評価の進捗状況の確認や登録内容の更新をマイページでいつでも自分の手でおこなえる。右図では、提出書類のチェック結果が表示されている。

■「アジャイル方式」で、お互いの専門を超えた協働が実現

 

とはいえ、前例のないシステムづくりゆえに、想定外の事態も起こった。

 

「一言に“NPO”といっても、規模も分野もさまざまです。ですから、いざ新しいシステムで申請が始まると、ほとんどがイレギュラー対応という感じでした」と、村上氏は振り返る。運用が始まったばかりのシステムではまだ対応できない、想定外の申込内容が、システム導入後に次々に届き、その度にシステム修正の必要性がでてきた。

 

新たに表出した課題ひとつひとつに対して、ダンクソフトはスピーディーに柔軟に改善していき、システムは、多様な団体の申請にこたえられるように進化していった。これは、ダンクソフトの顧問型支援の特徴でもある。世の中では「アジャイル方式」とも呼ばれ、小さな単位で開発と実装を繰り返すため、開発がアジャイル(機敏)になるというものだ。

 

「まだまだ制度が確立しきっていない私たちからすると、できるところから改善して、新たな課題が見つかったら改善して・・・、というやり方はとてもフィットしました。NPOやJCNEに向いているスタイルでした」(村上氏)

 

また、対話を重視するダンクソフトとの協働スタイルについて、村上氏はこう振り返る。「NPOのよりよい組織づくりには、NPOの専門家だけでなく、それを形にするシステムの専門家も加わって、両者による連携が必須です。今回のシステム導入がうまくいったのは、システムの専門家であるダンクソフトさんが、JCNEの組織評価制度を本当によく理解してくださっているからだと思います。私たちにとって、ダンクソフトさんは評価制度を推進するパートナーですね」。 

 

■デジタルでまだまだ広がるNPOの可能性

 

kintoneのシステム導入からまだ半年足らずであるにも関わらず、単なる業務効率化にとどまらない効果がすでにあらわれている。(2022年9月現在)

 

まず、サポートが必要な団体へのフォローや、評価にかかわる業務など、本業や今まで手の届かなかった業務に注力できるようになった。また、ダンクソフトが作成したマニュアルを活用することで、これまで担当者ごとに微妙に異なっていた管理ルールが統一され、データ管理リスクが軽減された。さらに、申請団体側のプロセスも、わかりやすくスムーズになった。「“評価”というと、ハードルが高いものと思われがちですが、そのハードルをいかに下げられるかという点で、今回のkintoneによるシステム化が大きく貢献しています」と、村上氏は嬉しそうに語る。

 

今回のシステム化の成功を受けて、JCNEではすでに今後実現したいプランがいくつも出てきているようだ。

 

「信頼性の証」となるグッドガバナンス認証マーク
https://jcne.or.jp/evaluation/good_governance/

ひとつは「グッドガバナンス認証」へのkintone導入だ。「グッドガバナンス認証」は、今回システム導入をした「ベーシックガバナンスチェック制度」のアドバンスド版である。評価項目がさらに多く、数値では表現しづらい団体の想いやヒアリング情報も扱う必要がある。こうしたデータをどのようにハンドリングしていくかなどの難しい課題はあるものの、今後チャレンジしていきたいという。

 

 また、「評価情報の活用」を、デジタルでさらに有効にしていくという展望もある。今回のシステム化によって、蓄積したデータをいかす基盤ができあがった。研究機関へデータを提供したり、一般の方々がNPOを検索しやすくするために用いたりなど、デジタルによって新たなデータ活用の可能性がうまれている。

 

さらに、「グッドガバナンス認証団体のコミュニティづくり」も、次に実現したいことのひとつである。JCNEでは、グッドガバナンス認定を受けたNPOの優れた組織運営ノウハウを、他のNPOへシェアするコミュニティをつくることで、NPO組織全体の底上げに寄与したいと期待を寄せている。ダンクソフトでは、デジタル化の価値は、単なる効率化にとどまらず、その先のお客様や関係者とのコミュニティを活性化するところにこそ、活用の真価があると提唱している。

 

村上氏は、「ほとんどのNPOは、どうしても自分たちの“事業”やその成果に重きをおきすぎています。組織評価を通じて、自分の“組織”にも目を向けてケアをしたり、足元をかためることに力を割いていただきたい」と述べる。さらに、JCNE自身も、グッドガバナンス認証を600団体にするという、次の目標を掲げている。「自身の団体力強化にも目を向けていきたい。そのためにも、これからも、ダンクソフトさんと協働しながら、徐々にシステム改善を続けていきたいとも思っています」と、今後の展望に胸を膨らませた。 


■導入テクノロジー

  • kintone

  • kintone顧問開発

※詳細はこちらをご覧ください。https://www.dunksoft.com/kintone

 

■ 公益財団法人 日本非営利組織評価センター(JCNE)とは

https://jcne.or.jp/

2016年に設立した非営利組織(NPO)。「グッドガバナンス認証」と「ベーシックガバナンスチェック制度」という組織評価制度をつうじて、NPO組織の基盤強化をおこなうとともに、その評価情報を活用することで、NPOの信頼性向上と認知向上にも取り組む。また、世界約20ヶ国の評価認証機関からなる国際ネットワーク「ICFO」に加盟し、加盟団体との意見交換や最新の情報収集をおこなっている。

 

事例:学生・教員・企業による対話と協働をデジタル・ツールで支え、地域イノベーションを次々と創出する高専の未来

■学生・教員・地域企業が参加、協働事業「ACT倶楽部」がはじまった

徳島県阿南市で、地域のソーシャル・キャピタルを活かしたユニークな協働事業がはじまっている。

 

阿南市には、科学・技術を学ぶ学生が集う、国立阿南工業高等専門学校(以下、阿南高専)がある。実践的技術者が育つ場として、1963年に設立された学校だ。いままでに7700人の卒業生を輩出しており、地域企業の中にも本校を卒業した経営者や技術者が多数活躍している。そして、1995年、その地域の力を阿南高専の学生の未来にいかしていこうと、学生を支援する企業と個人の会として、「阿南高専教育研究助成会/ACTフェローシップ」が発足した。

 

サイエンスと産業連携により、地域課題解決にチャレンジするプラットフォームとして立ち上がった「阿南高専教育研究助成会/ACTフェローシップ」は、卒業生、経営者など企業約100社からなる多様なステイクホルダーが、現在参加している。 ACTフェローシップでは、以前から挑戦したいことがあった。それは、会費などによる金銭的な支援のみならず、ステイクホルダーの多様性をいかして、学生と社会人が一体となって何かに取り組むことができる場づくりである。そして、学生の未来に貢献し、地域イノベーションにつなげていく方法を模索していた。

2021年、その思いを実現する、ある動きが起こる。ACTフェローシップ会員と学生の協働プロジェクトからイノベーションがうまれる仕組みとして、「ACT倶楽部」が発足されることになったのだ。以前から阿南高専とはパートナーシップ協定を結び、サテライト・オフィス設置による学生との共創の場づくりに携わってきたダンクソフトは、連携パートナーである阿南高専の杉野隆三郎教授から、いちはやくこの動きを知ることになった。

  

■昭和の家具x最新テクノロジーでIoT家具をつくりだすプロジェクト・チームを結成

右から2番目が中川桐子氏 、一番左はダンクソフト 星野晃一郎

このACT倶楽部の立ち上げが一気に前進するきっかけとなったのは、ダンクソフト徳島オフィスの竹内祐介と、ダンクソフト・パートナーの中川桐子氏の存在といっても過言ではない。

 

ちょうどそのころ、中川氏は、生まれ育った阿南市の自宅解体に立ち会っていた。100年住宅が解体され、多くの貴重な木材や、昔から大切にされてきた家財道具が次々と運び出される中、これらの家財を廃棄するのではなく、なんとか今の時代に生かしていきたいという考えが強くなった。そこで、ふと、昭和の家具と最新の技術という異質な組み合わせが、何かイノベーションにつながるのではないかと思いついた。

 

ダンクソフト徳島オフィスの竹内祐介とともに、昭和時代からの家具を「IoT家具」として現代生活によみがえらせるプロジェクトに、学生とともに取りくむ可能性を、杉野隆三郎教授に相談してみることにした。すると、地域課題を地域と学生が協働して解決するイメージが、以前から杉野教授やACTフェローシップが考えてきたイメージと合致していることが判明。ほどなくして、新しい協働プラットフォーム構想「ACT倶楽部」が動き出すことになる。

 

また、阿南市出身で、地域ネットワークにも精通している中川氏は、IoT家具プロジェクトの提案者という役割だけでなく、ACT倶楽部と地域社会の媒介役「インターミディエイター」として抜擢される。その抜擢について中川氏は、「学校関係者ではない、また一企業に属しているわけではない存在が、中立性をもって趣旨を理解し倶楽部に関わることで、偏りなくACT倶楽部が純粋にイノベーションに向かっていくことに寄与できるのではないかと考えています」と話す。

 

ダンクソフトは、中川氏が提案した、廃棄寸前の家具をIoT家具としてよみがえらせる「Project KIRI」をいち企業メンバーとして支援するのと同時に、ACT倶楽部のITパートナーとして、学生・教員と参加企業メンバーのコミュニケーション・ツールとして、「ダンクソフト バザールバザール」を提供している。

 

ダンクソフトには、「答えがない複雑・多様な時代の対話と協働」について学びを修得しているメンバーがいる。そのため、そのメンバーがプロジェクトに関わることで、対話から新しいイディアが次々と生まれる場をつくることができる。また、プロジェクトを協働のスタイルで進めるため、参加者の多様性をいかしながら大小のイノベーションを創出しやすい環境をつくることが可能だ。こうして、中川氏の「いにしえの家具をIoT家具に」という課題提起をきかっけに、ダンクソフトが場づくりに関わりながら、学生・教員と社会との連携・協働の場が動きはじめたのだ。

  

■ACT倶楽部スタート早々、11もの協働プロジェクトが企業から提案される

ACT倶楽部は、2021年8月に設立され、10月に学生の募集を始めてからわずか2ヶ月で5つのプロジェクトが地域企業から提案され、2022年明けにはいくつかのプロジェクトがスタートするという、想定以上のスピードで動きはじめた。2022年4月現在、11の多岐にわたるプロジェクトが会員企業や個人から提案され、走り出している。

ACT倶楽部立役者の一人である杉野教授は、スタンフォード大学の客員研究員としてシリコンバレーの発展を自身の目で見てきた経験があり、長年温めてきたひとつの構想がある。当時も今もシリコンバレーでは、企業経営者から青少年まで幅広い人々が集まる地域クラブが多数あり、そこでは毎日のように様々なプロジェクトが実践されイノベーションが生まれている。同様の仕組みを、ここ阿南市でも生み出したいと杉野教授は考えてきた。

 

ダンクソフト社長 星野晃一郎と対談した際には、「あのころ世界を牽引していたシリコンバレーのように、クリエイティブなイノベーションがどんどん生まれる“共創の場”を、阿南につくりたいのです。そこから第2、第3のジョブズやAppleが生まれて、世界にはばたいていく。10億円規模の事業にも発展する。そんな大きな夢を思い描いて、このACT倶楽部を展開しています」と、熱く語って聞かせてくれた。

対談:地域イノベーションが生まれる協働のしくみとは──徳島でACT倶楽部が始動

  

■答えを共につくりだす“Co-learning”と“対話”を重視したプロセス

 

中川氏が提案した、いにしえの家具をテクノロジーで現代生活に再生するプロジェクト「Project KIRI」には、現在、4名の学生が参加している。建設コースの3年生が3名と、情報コース5年生1名の計4名、17歳~20歳の学生たちだ。ものづくりをする建築コースのメンバーと、プログラミングができるメンバーという異質な組み合わせが頼もしい。プロジェクトに参加する学生たちはみな、大人と関わって、学生のうちに色々と経験してみたいという動機でやってくる。

 

オンラインミーティングに集まる、プロジェクトKIRIのメンバー

「おもしろそうだったから興味を持ちました。実際におもしろいプロジェクトで、参加して良かったと思っています。この場で学んだことは、将来、自分の部屋をつくる際に参考にしたり、ICTコースに進んだ後は、自身の趣味にも生かしていきたいと思っています」
— (Aさん/情報コース5年生)
「興味本位からですが、仲の良い友人たちとACT倶楽部に参加しようと思いました。色々な会社の方や先生方と話ができて、交流の場としていいし、自分にとって役に立つ経験ができています」
— (Tさん/建設コース3年生)

プロジェクト開始以来、中川氏と竹内は学生たちと教員2名とともに、6回にわたりオンラインでのアイディア出し、交流を深めている。

 

「私たち自身も、最終的にIoT家具ができるのかどうか、定かではないのです。極端な話、できなくてもいいとも思っています。みんなで対話した結果、IoTすら乗らずに、別の最終形になってもいいと考えています。生活の中で、本当に生活者が喜んで使うものになればそれでいい。むしろこの学びあいのプロセスに価値があると考えます」と、プロジェクト発案者の中川氏は重視するポイントについて触れる。

 

また、竹内は「これからの時代、誰かが答えを持っているわけではないのですね。だから、対話しながら次をつくるプロセスをいちばん大切にしています。大事なのは誰かが答えを教えるのではなく、Co-learning、共にに学びあうことだと考えています」と語る。

 

「ただ、そうは言っても、最初の頃、学生さんたちはこのプロセスに慣れなったようで、大人の側に答えがあるものだという感覚があったようですね。ですが、対話を重ねるごとに、一緒に考えて次をつくっていく感覚が、学生にも身に着いてきました。今では学生・教員・企業人という立場を超えて、メンバーみんなで建設的に、クリエイティブな対話ができるようになってきました。このことだけでも、価値のあることだと思います」。(竹内)

  

■オンライン対話の場「バザールバザール」でアイディア出しを重ねる

企業と学生との協働プロジェクト内で、コミュニケーション・ツールとして使用されているのが、ACT倶楽部のITパートナーであるダンクソフトの「バザールバザール」だ。プロジェクトKIRIのみならず、現在進行中の3つのプロジェクトで、オンライン対話の場となっている。

 

ダンクソフト バザールバザールを使って対話。

「チームでアイディアを収集するときに使っています。プロジェクトの開始時は、最初に私からコメントを入れました。すべてを書き切らず、皆が参加しやすい程度の内容で投稿したら、すぐにスレッドができて、パンパンとコメントが他の方からも入ってきました。バザールはシンプルなツールなので、後から参加した人でも上から順に投稿を見ていけば、こんな風に皆が参加しているんだなと状況がよくわかります」と、中川氏はバザールバザールを使ったコミュニケーションを評価する。

 

「事務連絡というより、バザールはある意味、なんでも書いていい掲示板のような場なんです。出席の確認もそこでするし、思いついたアイディアを投稿したり。学生さんは撮ってみた動画を投稿してくるという事もあります。そのポイントポイントで、学生のアイディアが進化していくのが時系列でわかるのもいいですね。つい最近私は、おもしろそうなテレビ番組の情報をみなさんに参考として共有してみました」。(中川氏)

 

アイディア出しを重ねてきた学生たちも、プロジェクトやバザールバザールについて、率直な感想を聞かせてくれた。

「バザールバザールで、色々な方々と話し合ってアイディアを出すところが楽しいです。たまにコメントが来ているのを見逃したりしているので、通知機能があったら、なおありがたいです」
— (Mさん/建設コース3年生)
「アイディア出しは案外難しいこともあって、でもそれが楽しいところだと思っています。バザールバザールの使い勝手はいいですし、コミュニケーションについてはスムーズにいっています。1点、アイディア出しの投稿数が多くなると、最新のコメントを読むときに一番下までスクロールしないといけないのが大変。そこだけ改善していただけたらうれしいです」
— (Tさん/建設コース2年生)

学生たちのコメントを聞いた竹内は、開発者の顔をのぞかせる。開発者本人である竹内自身が、学生たちや先生方と協働する中で、ツールの使用者ともなっていることは、開発者としては稀有な状況でもある。

 

「この協働プロジェクトを通じて、学生から直接なまの声が聞けることは、開発者としてありがたいことです。開発側が決めた使い方はないので、バザールバザールを皆さんに自由に使ってほしいです。そのうえで協働ツールとして使っていただいて、不便なところを改修していきたいと考えています」。(竹内)

 

■「シンプルで使いやすいツール」から、「対話・協働がもりあがるツール」へ

ダンクソフトでは、バザールバザールを開発するにあたり、できる限り汎用的でシンプルなツールにするため、あえて機能を絞ってきたところがある。つまり、 Microsoft TeamsやSlackのような複雑なツールをパッと直感では使えるようなITを得意とする方からそうではない方までが、迷わずに使えるツールを心がけて開発している。「シンプルで軽くて、サクサク動く」。これは、現在ツールを利用している団体や企業からも高く評価される点のひとつだ。そこが、年齢もIT経験も多岐にわたるACT倶楽部にぴったりハマった。

 

ただ、利用者の様々のフィードバックを受けて、このバザールバザールをもっと協働に寄与できるツールにしていきたいと、バザールバザール開発チームは2022年6月に製品のバージョンアップに向けて、急ピッチで開発を進めている最中である。使いやすいシンプルさを残しつつ、今よりもっと対話と協働が促進されるツールとなるために、いくつかの大きな機能が追加される。

 

バザールバザールの開発マネージャー、ダンクソフト竹内

「何よりも、新しいアイディアや価値をうみだすための“対話ツール”として、もっと使いやすい環境にすることを主眼に、今回は改良を実装する予定です」と、開発マネージャーとしての竹内は解説する。

 

改良点のひとつは、アラート機能ができることだ。他のSNSツールと連携することで、バザールバザールにログインしなくても、メッセージが届いていることがわかるようなる。ふたつめは、コメントを3階層構造にすること。今は上から一覧で時系列に並ぶインターフェイスだが、今後は特定のコメントを選んで、そのコメントに続けて返信コメントが連なるようになる。掲示板コーナー内にいくつもスレッドを立てられるので、検索しやすく見た目もすっきりするだろう。これら2つの改良によって、メンバーはさらにタイムリーに対話に参加できるようになり、アイディア出しや連携が盛り上がる効果が期待できる。

 

もうひとつの改良点は、自分が投稿したデータを削除できるようにすることだ。現状では、既存の投稿を編集することはできるが、コメント削除ができない仕様だ。しかし、これからの時代は、こうしたツールのなかで、自らの情報を自らがコントロールできることがますます重要となる。個人情報保護の観点からも、ツールが一段ステップアップすることになる。より安心して使える環境が整うわけだ。

  

■“ソーシャル・キャピタル”が地域イノベーションを創出する未来

この後、プロジェクトKIRIでは、オンラインでのアイディア出しを終えて、いよいよ学校内に集まって、昭和の家具を触りながらの活動がはじまる。

 

竹内は、「阿南高専が田舎の高専で終わってしまうのはもったいない、それではだめだと考えています」と話す。

 

「田舎だからこそ、実現できることがあります。都会ではやりにくいことが、ここ阿南でできるはずだと考えています。ACT倶楽部の取り組みは、ACTフェローシップ会長の西野氏が長年やりたいと考えてきたイニシアチブだけあって、参加者の皆さんからの地域愛をかなり感じています。阿南高専を卒業して地域の経営者になった方々の後輩たちを見る顔で、誰もが学生を大事にしていることがわかります」。

 

社会的ネットワークのかなめとして、全プロジェクトを俯瞰して見守る立場でもある中川氏はこう指摘する。

 

「阿南高専の学生たちは、あずない子供たちなんです。純粋でいい子過ぎるところがあるので、突然都会に出てはつらいかもしれないと思う時があります。でも、このACT倶楽部では、学生のうちから最先端を見ることができます。第一線で活躍する大人たちと出会うことができます。また、みんなで手をかけていく家具は、ACT倶楽部の呼びかけを聞いて、地域にお住いのある方が寄贈してくださったものなんです。学生たちが、大人の人としゃべることができて刺激になっているとコメントしていました。だからこそ、私は“インターミディエイター”として、色々な大人に子供たちを会わせたいと思っています」。

 

イノベーションには、 “ソーシャル・キャピタル”が不可欠だ。しかし、これが都会では気薄になりがちだ。“相互信頼・社会的ネットワーク・互恵性”があってはじめて、“ソーシャル・キャピタル”が醸成される。そしてこれらは、“よいコミュニティの条件”でもある。

 

阿南高専のACT倶楽部には、立ち上げ以来、集まる人々や地域のあいだに“ソーシャル・キャピタル”が生まれてきているようだ。この先、インターミディエイターの存在や、バザールバザールのバージョンアップを経て、メンバーたちの対話や協働がさらに促進されていくことになるだろう。ACT倶楽部が、地域イノベーションの芽を様々に育む場となることに、さらに期待がかかる。

事例:作業効率化を機に、デジタル化でプロセスを見直し、誰もが関われる団体運営へ

お客様:NPO法人 大田・花とみどりのまちづくり様

花壇や区民農園の整備など、屋外での活動がメインのNPO法人 大田・花とみどりのまちづくり様。多岐にわたる事業の事務作業は煩雑を極め、少人数で抱え込んでいた。このままでは活動を継続することが難しくなると危惧され、仕組みから見直すことに。kintoneを導入し、活動記録の集計作業の効率化がひと段落した今、さらなる活用方法を構想中だという理事長の内田秀子氏、事務局長、総務担当の3名にお話を伺った。 

大田・花とみどりのまちづくりは、東京都大田区を拠点に地域の緑化や緑の普及啓発を行うNPO法人だ。駅前花壇の整備、区民農園の管理、平和の森公園内の展示室を活用した「みどりの縁側」の企画運営などを大田区から委託されている。田園調布せせらぎ公園での園芸セミナー、児童館や福祉施設での花壇管理の技術指導といった緑化啓発事業にも、自主活動として取り組む。

メンバーは現在113名。2003年の設立当時に定年を迎えていたメンバーや、その人たちに誘われた同年代の友人たちが集まったため、一番厚い年齢層は70~80代と高いことが特徴だ。会員の8割以上がさまざまなフィールドに出向いて手を動かし、活動している。現場の数は約24カ所、担当するリーダーと副リーダーは30名弱だ。

 

■膨大な量の煩雑な情報を短時間で集計する重労働

同団体では行政からの受託事業も多く、遂行責任が生じる場面が多いことから、作業内容に応じた報酬を支払っている。ただし、定員を設けず、誰もが参加できる場として運営するため、時給換算といった単純な仕組みではなく、「ポイント制」を採用している。作業量による評価額を、その活動に参加した人数でシェアする仕組みだ。ポイントの算出方法は活動ごとに異なるため、集計作業の煩雑さに事務局は頭を抱えていた。

多くのメンバーが参加する活動では、ポイントの集計作業の負担も大きくなっていた

「集計のための表が非常に細かく、それぞれの活動現場が思い思いの書き方で提出してくれます。送られてくるデータはフォーマットがまちまち。手入力もあれば、エクセルのデジタル・データもあります。それがFaxで送られてきたり、メールで送られてきたりと多種多様でした。それを事務局でとりまとめて、整理して、入力からアウトプットまでの時間が短い中、そこから必要な情報を抜き出して間違いなく転記するのは大変です。孤独な作業でもありました」と事務局長は打ち明ける。3カ月に1回の集計作業を終えると、会員の努力とその成果を数字としてとらえることができて面白いのだが、5日間ほど目がかすみ、頭痛にも悩まされていた。

さらに、区に提出する活動報告書への記入内容も、事業や契約先によって異なる。実施したことを毎日紙に書いて提出するチームもあれば、3カ月分をまとめて提出するチームもある。これに、事務局で集計した参加人数や作業時間のデータを突き合わせて、全体像を把握するのだ。

事務局側がこの膨大な作業を、今後も耐え続ければ済むという話でもなかった。「設立から今まで、さまざまな仕事が次々と増え、現場に合わせてつぎはぎで運営してきました。これでは、これ以上は事業を増やすことができない状態です」と話すのは、事務局長の内田秀子氏だ。作業内容が属人的になり、「今ここで整備しておかないと、いつか無理が来てしまう。今こそが変える時」と感じていたという。

 

■効率化を通して、プロセスそのものを見直し

https://www.dunksoft.com/kintone

事務作業を担える人を増やしたい。できれば入力や参照をしやすいよう改善したい。でもこの団体の複雑な動きに対応できるアプリはあるのだろうか……? 悶々と悩んでいるときに紹介されたのが、ダンクソフトだった。抱えている課題を相談するうちに、まずはポイント集計業務の改善を短期的なゴールに定め、業務改善プラットフォーム「kintone(キントーン)」を導入してみることとなった。

「出来上がったものをお渡して終わりというプロジェクトではありません。ある程度アプリを操作できるぐらいまでできた段階でお渡しし、使っていただきながら、ご一緒によりよく改善していく開発スタイルをとりました」と語るのは、プロジェクトを担当したダンクソフト企画部の大川だ。

ダンクソフトがkintoneを試運転できる状態に整え、それを事務局で試しながらフィードバックをしていった。実際に担当者がアプリを使って、ここをこうしたいという改善点を伝え、大川がそれらをアプリ側に反映していく。これを何度も丁寧に積み重ねてきた。

「何かあっても大川さんがいるから、という安心感がありました」と総務担当は振り返る。「初歩的なことを聞いても、すぐに分かるように教えてくださるし、『ここを変えたらヒューマン・エラーが減りそう』と言えば、次回までに変えてくださる。課題解決までの2年半は紆余曲折がありましたが、気持ちの部分は楽に進めることができました」。

kintoneを使って集計作業をする、大田・花とみどりのまちづくりの職員

また、大川は北関東在住で、「何か不可能なことがあれば都内のメンバーが伺い、私は当初からリモートでの参加を想定していました」と語る。ちょうどプロジェクト開始時期がコロナ禍の直前だったことも功を奏した。このプロジェクトでオンライン・ミーティングを行うことで、やりとりを通してkintoneに、そしてオンライン・ミーティングにも徐々に慣れていくことができた。

さらに、kintone導入の過程で、活動自体を見直すようにもなった。「当初は私たちの記録方法にkintoneを合わせようという考え方だったのですが、自分たちの記録方法をkintoneに合わせて変える必要があることに気付いたのです」と事務局長は説明する。記録方法やポイント付与の基準を統一するなど、kintoneへの入力、集計がしやすい形へと改めていった。また、現場のリーダーや副リーダーを対象に、活動記録のデジタル化を推進する背景や、協力してもらいたいことについて説明会を何度も実施した。

kintoneの導入は、集計作業の負担軽減だけでなく、業務改善のきっかけにもつながった。

デジタル化の効果を身をもって体験したのは事務局長で、「頭痛が無くなったんです」と表情を輝かせる。総務担当も「パソコンを触れる人ならばできる作業になり、誰もが何らかの形で関われるようになった」と安堵する。最近はデータ入力担当のスタッフが2名参加するようになった。事務局がデータをスムーズに入力することができるよう、ここまで業務改善が進んできた。さらに今後は、「活動への出欠エントリーなどを、会員自身が直接入力できるようにしていけないか」と、アプリを会員間にも広げていくことを視野に入れている。

 

■高齢だからこそ、オンラインの活用を

ちょうどkintone導入と作業の見直しを進めるタイミングが、コロナ禍と重なった。そのため、活動自体の縮小や人数制限、整理を余儀なくされた。多くの人が縦横無尽に動き回るコロナ前の動き方のままだったら、kintoneに合わせて記録方法を見直すことは難しかっただろう。当初は緊張していたオンライン・ミーティングを、コロナ禍までに経験を積むことができていたのも、思わぬ収穫だった。

会員の多くが高年齢でデジタルの操作に慣れていないことや、さまざまなフィールドで手を動かす活動が主体ということもあり、kintoneに実際に触っているのはまだ数名のみだ。情報共有や気分転換を兼ねて、現場に集まってのリアルなミーティングは今のところは欠かせない。

地域の花壇整備や、Zoom体験講座に積極的に参加する、大田・花とみどりのまちづくりの会員のみなさん

だが一方で「高齢だからこそ家から出るのが難しくなり、オンラインであれば参加できるという人も出てきています。『世の中もオンラインの時代だから』と前向きな方もいるんですよ」と事務局長は付言する。少しでも慣れてもらうため、会員の自宅からきれいな庭を配信したり、2021年2月から数カ月、会員向けにZoom体験講座を継続して開催したりした。すると「最初に参加してくらたのが、80代超の人たちだったんです。高度経済成長を引っ張ってきた世代なので、新しいものにも積極的に取り組んでくれるみたいですね」。

 

■システム活用で、団体の価値を高めていきたい

登録された活動記録を元にポイント集計を行う画面

短期的なゴールだったポイント集計作業の改善がひと段落した今、せっかく導入したkintoneを別のことにも活用できないかと同団体では考えている。ポイント集計によって、誰の何時間の働きがどのような成果につながったのかが有機的に見えてくる。財産ともいえるこの貴重なデータを、団体をうまくアピールできる表現に加工や編集ができないないかと模索中だ。

これまでは講演などに出向いた際の団体紹介で、花壇の説明を一から始め、写真を見せながら「黄色いジャンパーを着ている人たちが働いている」と説明してきた。しかし、それにも若干の違和感を覚えていた。「当団体の活動によってもたらされた変化を、データの裏付けを交えながら表現できれば」と内田氏は意気込みを語る。

参加者それぞれに送付するポイント発行案内もkintoneアプリから一括で作成が可能

内田氏が関心を持つのは、「私たちの仕事によって、大田区の何が変わったのか」だという。「作業量でいえば、もちろん業者の方が行う方が格段に多いでしょう。でも、区民が公共事業を担い、区内の緑の何パーセントに関わったのかということについて、データを用いての表現も試みてみたいですね」

これにはkintone導入に関して理解をしてくれた会への感謝の意味合いも込められている。今まで築き上げてきた業務管理方法でも、どうにかギリギリのところで運営してこられたが、それでも新システムの導入について前向きに受け止め、理解を示してもらった。だからこそ、ポイント集計の作業改善にとどまらない成果を出したい、「宝の持ち腐れにしたくない」と事務局長は話す。

実際に事務局長は、kintoneについての書籍を読み込み、アプリ作成も試しているという。「こっそりアプリを作って、やっぱり何か違うなと思い直してすぐ消したり。試してみても誰かに迷惑をかけるわけではないので、楽しみながら試行錯誤しています」

今後はさらに、区内の緑や公園について独自の目線で調査を行い、ストックしたデータを提案に活かすなどの活用ができないかと構想中だ。「行政に対しても、今まではどちらかというと、与えられた仕事をこなすことで精いっぱいでした。もう少し提案型の事業へと発展させたい、それにあたってデジタルの力を借りられれば」と語る事務局長は、若者たちも関わりやすい事業形態へと変えていくことで、新しい仲間を増やしていきたいという希望を抱いている。 


導入テクノロジー

kintone

デジタルもっと活用プラン

※詳細はこちらをご覧ください。https://www.dunksoft.com/kintone 

NPO法人 大田・花とみどりのまちづくりとは

東京の大田区をフィールドに、ボランティア活動を通じて地域の緑化と緑の普及啓発を行い、豊かさと潤いのあるまちづくりに寄与することを目的としたNPO法人です。

https://hanamidori.sakura.ne.jp/

 

事例:「学童保育サポートシステム」が運営を楽に便利に、石垣島の子供たちを笑顔に

お客様:はなまる学童クラブ 様

はなまる学童クラブは、沖縄県石垣市にある宮良地域初の放課後学童クラブだ。2020年春、学童立ち上げにあたり、ダンクソフトの支援でkintoneを使った「学童保育サポートシステム」を開発・導入した。実はスタッフのほとんどがタブレットとスマホのみで暮らしている、デジタル活用とは程遠い環境にいた。それが、勤怠管理から児童情報の共有、経理書類作成などをスマホのアプリで楽に運用できるようになり、学童業務の効率化を実現。捻出できた費用や時間は、児童一人ひとりの個性が尊重され、可能性を引き出せる理想の学童づくりのために、活かされている。

 

■東京から2000キロのアナログ地域ではじまった、子供たちの居場所づくり

 

「学童設立のきっかけは、70代のある女性でした」と語るのは、はなまる学童クラブ立ち上げメンバーの一人で、運営者である松原かい氏だ。「かつえばぁば」の愛称で親しまれるかつえ氏は、中学校教員を引退後、民生委員として地域を長年見守っている。

 

当時、宮良地域には放課後学童クラブはなく、子どもたちが学校内で遊べるのは4時半まで。かつえ氏は、地域で行き場のない子供たちの姿を見るにつけ、「放課後も児童が安心して過ごせる場所が不可欠だ」と、学童づくりの必要性を感じていた。

 

はなまる学童クラブの松原かい氏(右)

3児の母でもある松原氏は、本職であるフリー・アナウンサー業のかたわら、石垣市で唯一の児童館設立に携わるなど、これまでも子育て支援に情熱を注いできた。同じ宮良地区に住むこの2人が村の読み聞かせボランティア・サークルで出会い、地域内に学童クラブの設立を目指して数名のメンバーとともに活動を始めることになった。それは2019年8月、オープンからわずか半年前のことだった。そこから猛スピードで動きはじめ、地域の親御さんたちのニーズや要望をリサーチし、対話を重ねた。その後、2020年3月末、ついに市から地域での必要性を認められ、石垣市教育委員会、宮良小学校、はなまる学童クラブの三者が正式に協定を結んだのだ。

  

■アナログ人間が「学童保育サポートシステム」の導入に踏みきったわけ

 

はなまる学童クラブのスタッフ

大急ぎで設立準備を進めていた矢先、コロナの影響により、始業式つまり学童開所日の前日に、しばらくの学校休校が知らされる。これに伴い、急遽、放課後だけでなく丸1日学童をオープンすることとなり、倍のスタッフ人数が必要となった。そんな中での一番の課題が、勤怠管理をはじめとする運営管理の仕組みづくりだった。松原氏によれば、知る限りでは宮良地域ではパソコンがそれほど普及していないようだ。現に、かつえ氏はそろばんを使って運営費を試算していたほどのアナログ度合である。スタッフや保護者も例外ではなく、アナログ環境で暮らしている。

 

そんな折に松原氏が紹介を受けたのが、東京にあるダンクソフトだった。松原氏は、ダンクソフトはデジタルがうとい方でも頼りになる存在だと聞き、まずは急務だったスタッフのシフトづくりから相談を始めた。初めてのZoom会議にはタブレットを使って接続し、テクノロジーに驚きながらも、困りごとをいちから相談していった。手厚いヒアリングを経て提案されたのが、kintoneによる「学童保育サポートシステム」だった。そして、協働プロセスが始まった。パソコンを使わずにも、スマホやタブレットであらゆる記録・管理・情報共有ができるように、ダンクソフトが伴走しながらシステムをつくりあげていく。

 

当初はデジタルに半信半疑だったという松原氏にとって、担当者であるダンクソフト 中香織の存在が大きかったという。「2児の親でもあり、学童を利用したことがある働くお母さんであるなど、中さんとは共通点が多く、深くしゃべらなくてもお互い頑張っているのだという信頼感がありました」と、松原氏は笑顔で話す。「デジタルが分からない人にとって、まず導入した際の効果の想像がつきません。何ができるのかについて想像が及ばないので、それを導入したらいいのかどうか判断がつきません。お話をする前は市販のシフト表アプリを使おうかと考えていましたが、中さんを頼りに、やってみようと思えました」。

  

■初心者にも使いやすいアプリで、業務が効率化、スタッフ間連携もスムーズに

 

「学童保育サポートシステム」の主な内容は、スタッフの「勤怠管理」や児童情報を記録する「児童日報」、「出席簿」、市に毎月提出する「収支報告書」や「保育料管理帳」「給与台帳」などだ。

 

入力に不備があると、赤字でエラーメッセージが出るようになっている

ヒアリングを踏まえて中が重視したのは、デジタルに不慣れな方でも利用できるユーザー・インターフェイスである。例えば、入力に不備があると、赤字でどうすればいいか表示を出したり、不足がある場合は保存ができないようにしたりなど工夫した。kintoneのノウハウをいかしつつ、「初心者でもわかる、利用者視点のシステムづくり」を徹底した。実際に、今では10名のスタッフ全員がkintoneを使って業務連携を行っている。

 

お話をうかがった、はなまる学童クラブの仲間 巳賀 氏(左)と中藤 詩織 氏(右)

スタッフのひとりである仲間 巳賀(みか)氏は、自身の子育てがひと段落した後、地域の子供たちのために活動したいと、はなまる学童クラブに参加した。kintoneアプリの使い方を覚えるには、それほど時間がかからなかったという。「出欠簿や児童日報など、あらゆる記録がスマホでできるので助かっています。場所や時間を問わず利用できてありがたい」と、kintoneを評価する。また、「入力した情報をスタッフみんなで共有できることも魅力のひとつ。週に数回現場に入るスタッフにも、不在時に起ったことを伝達できるので」と、スタッフ間連携を重視するうえでのアプリの活躍を語った。

 

スマホで簡単に入力

また、同じくスタッフの中藤 詩織氏は、パソコン以外の端末で利用できるメリットを強調する。「以前勤めていた学童では、子どもたち全員の情報を数台のパソコンのみで入力・管理していました。そのため学童の施設内にいるときにしか記録ができず、入力待ちの列ができて業務に滞りがでたり、残業が発生したりすることもありました。はなまる学童では、kintoneの仕組みがあるので、時間を問わず、複数人が自分のスマホから同時に、どこにいても入力できることが魅力です。また、手書きで書類をつくるときの書き損じが発生することもありません。業務の進み具合が全然違います」。

 

「中さんは私のような“できない人”の声に耳を傾け、困りどころに新しい機能を一つひとつ追加してくださいました。こうしたきめ細やかなコミュニケーションを積み重ねるうちに、ダンクソフトさんへの安心感が自然とうまれてきました」と、松原氏は今までのプロセスを振り返る。

  

■行政への書類報告も、学童アプリがすべて解決

 

保育料を管理するページ

はなまる学童クラブが絶賛するのが、石垣市へ毎月提出する書類手続きの効率化だ。「保育料」にまつわる業務を例にとると、学童の利用料金体系は多岐にわたる。「ひとり親割引」「兄弟姉妹割引」「2つの割引の併用」などがあり、児童一人ひとりの利用料は異なる。そのため、手動では計算が煩雑になっていた。

 

今では、kintoneに基本情報さえ入力しておけば、各自の利用料が正確に算出できるようになっている。さらにそれらの情報が、石垣市へ毎月提出する書類のひとつである収支集計にも、自動で反映される。市が指定する書類に合わせて、中がkintoneをカスタマイズしたことが功を奏した。

 

松原氏は、「毎月の石垣市への書類提出は相当大きな負担になりますが、日々入力した情報がほぼそのまま提出できるフォーマットになっていて助かっています。市の担当者さんからも、書類の正確さや明確さを評価いただけています」と、業務の効率化の恩恵を痛感している。

  

■効率化で生まれたリソースを有効活用し、子供の可能性をひらく学童づくりへ

 

このようにスタッフ一人ひとりが自分で操作し、情報をいつでもどこでも入力できるようになったことが、業務の効率化に大きく寄与。そこからうまれた時間や費用は、今、様々に活用されている。その筆頭は、はなまる学童クラブが何より大切にしている、児童へのケアの充実である。

 

出席簿・児童日報のページ

仲間氏は、これまではどうしても低学年やサポートを必要とする児童に付きっきりになりがちだったが、日々の業務の効率化によって、より多くの時間を子どもたち一人ひとりに充てることができるようになったと語る。また、児童日報をはじめとするスタッフ間での情報共有によって、週1回・月1回勤務のスタッフが、学童にいなくても子どもたちの最新状況を把握できるようになった。これが、より手厚い児童のケアにつながっている。

 

さらに、保護者とのコミュニケーションも改善した。中藤氏によると、過去に勤務した学童では、保護者から「学童の中で子どもがどのように過ごしているのかわからない」という声が多く届いたという。はなまる学童クラブでは、kintoneによる学童アプリでのスタッフ同士の情報共有に加え、グループLINEで保護者とのコミュニケーションをとっている。子供たちの活動写真を共有したり、こまめに連絡ができる環境を用意した。また送迎時には、アナログでの会話を大切にすることで、対面での親御さんとの関係も少しずつあたたまっていると、中藤氏は顔をほころばせる。

 

はなまる学童クラブを支えるスタッフ

スタッフへ還元もできていると、松原氏はシステム導入の効果を実感している。多くの学童では、運営者とは別に、煩雑になる管理業務のために事務員を雇うことが必要だ。しかし、はなまる学童クラブは、kintoneがあるため、事務員を雇わずに、本来事務員が担うはずの業務一切を松原氏が引き受けることができている。事務員分の人件費を、今いるスタッフに還元することで、島の学童水準よりプラスαの時給を実現できているという。「パソコンがない私ひとりで事務員分の仕事ができるのも、kintoneアプリがあるからこそ。スタッフも『超ホワイト企業!』と喜んでくれています。学童の子供たちが、毎日すてきに働く女性スタッフたちの姿を見て、女の子も男の子も、女性が働くことはすばらしいことだと思ってくれたら……」。そう語る松原氏は、子供たちが未来を担う頃には島にも男女共同参画社会が実現しているようにと、島の未来へ思いをはせる。

  

■学童アプリでひろがる事業運営の可能性と子供たちの未来

 

タブレットでも簡単に、児童の様子を入力できる

ゼロからのkintone導入の効果は、はなまる学童クラブから他の学童へも波及している。隣村で新たに開所された放課後学童クラブでは、やはりダンクソフトのシステムが選ばれた。学童クラブ運営者が、はなまる学童クラブの元副主任であり、アプリの便利さを肌で感じていたことが採用の決め手だったという。

 

また、中は自らの学童利用経験から、今後は保護者や学校も含めたkintoneの利用を視野に入れている。「私が利用していた学童で、親が翌月の予定を紙で提出し、スタッフが手間をかけてそれらをパソコンに入力している現場を目の当たりにしました。ここもデジタルを活用することで、スタッフのシフトと同じように、リアルタイムで児童のスケジュールを共有できるようになります」。ほかにも、学校と学童で2度行われている児童の検温情報も、学校の理解が得られれば共有することがシステム上は可能だ。デジタルを活用することで、今までにない学校や保護者、地域との連携の可能性が、まだまだ眠っている。

 

「いよいよ石垣の小学校でも、一人1台のタブレットを利用した授業が始まります。これからもダンクソフトさんからデジタル面の支援を受けながら、デジタルをうまく使っていきたい。はなまる学童クラブが保護者にとって安心して子供を通わせられる学童に、また子供たちにとって可能性を伸ばせるよりよい居場所となれるように、活動していきます」と、松原氏はこれからの熱意を語った。

 

はなまる学童クラブでは、すでに来年度の入所希望も出てくるなど、保護者や地域からの反響もあるそうだ。学童支援システムとともに始まった学童運営も、4月からは3年目に入る。児童たちが楽しく生き生きと過ごせる学童クラブが、実現できつつあるようだ。


■導入テクノロジー

kintone

kintone学童保育サポートシステム

※詳細はこちらをご覧ください。https://www.dunksoft.com/kintone/gakudo

 

■ はなまる学童クラブ(放課後児童クラブ @宮良小学校 家庭科室)とは

 石垣市の宮良地域初の放課後学童クラブ。2021年10月現在、小学校全校生徒100名強のうち、23家庭・27名の児童が利用している。児童一人ひとりや保護者や地域とのコミュニケーションを重視した安心・安全な居場所づくりを心がけている。目指すは子どもたちにとっての「第2のおうち」。

 

https://www.dunksoft.com/hanamaru/200617 (はなまる学童レポートURL)

事例:テレワークで実現したNPOの働き方改革と拡がる可能性

お客様:特定非営利活動法人 樹木・環境ネットワーク協会様

介護のために仕事を辞めることになるかもしれない――職員からの相談をきっかけに、樹木・環境ネットワーク協会はテレワーク体制を導入した。導入直後に新型コロナウイルス感染症が拡大。しかし、いくつかの事業は休止や縮小を余儀なくされたものの、基本的な業務は継続することができた。テレワーク導入時に直面した課題、そして広がった可能性について、お話を伺った。

 

■事務所に縛られず、フィールドでの活動を増やしたい

フィールドでの活動風景

フィールドでの活動風景

 樹木・環境ネットワーク協会は、森や里山の保全活動と、そのための人材育成を主軸に置くNPOだ。「聚フィールド」と呼ばれる山林や里山、公共緑地を全国13カ所で管理する他、植物や生態系の知識を持つ人材を育てる検定制度「グリーンセイバー」も設立当初から運営している。検定に合格した人々が中心となってフィールドの保全活動を行っているのが特徴だ。

自分たちが保全してきたフィールドだから、自分たちしか手をつけられない……と閉鎖的になるのではなく、「もっと広くいろいろな方にかかわってもらうことで、自然との付き合い方や自然への関心を高める普及啓発活動を大切にしています」と語るのは、事務局長を務める後藤洋一氏だ。人と自然の関係がもっと近しいものとなり、「人と自然が調和する持続可能な社会」を目指すというのは、同協会の理念でもある。 

特定非営利活動法人 樹木・環境ネットワーク協会 理事・事務局長 後藤洋一 氏

特定非営利活動法人 樹木・環境ネットワーク協会 理事・事務局長 後藤洋一 氏

だからこそ、後藤氏は8~9年前に同協会にかかわるようになってすぐに、「事務所に縛られて行動が制限されてしまうことなく、もっと自由な働き方ができないだろうか」と考えるようになった。そうすれば、もっとフィールドでの活動を増やすことができるからだ。

 



■介護と仕事の両立を模索 

2018年春、後藤氏は「事務所に来るのが難しくなるかもしれない」と広報担当の石崎庸子氏から相談を受けた。両親の介護が必要になり、事務所に来るシフトを組みにくくなるかもしれないというのだ。実家は自宅から近いが、事務所から電車で1時間ほどかかってしまう。急用が発生しても、すぐに駆け付けることが難しい。これから状況がどのように変わっていくかが分からないため、仕事を続けられなくなるのではと不安を抱えていた。

実は後藤氏もかつて、実家の介護や通院を手伝いながら、仕事と両立させることの難しさを痛感した時期があった。そこで石崎氏の相談に背中を押され、「テレワーク」という働き方を選択肢に加えるべく動き出した。

ダンクソフト星野との打ち合わせの様子

ダンクソフト星野との打ち合わせの様子

テレワークについて、ダンクソフトの代表取締役 星野晃一郎に相談したところ、テレワークの助成金があることを知った。8月から情報収集を開始し、申請準備を10月から進めて12月に取得。その後に機器やシステムの導入を完了し、翌年2月には最終報告書を提出するというハードスケジュールを決行した。ダンクソフトには、申請書類の書き方や導入後のフォローまでを相談した。

 後藤氏と星野は、以前からNPOのためのクラウド勉強会を毎月共催してきた間柄だ。だがダンクソフトに支援を頼んだ理由は、他にもあった。「相見積もりを取るために来てもらった他社の方が、とても営業的だったのです。その点、星野さんはフレンドリーで、気さくにいろいろ話すことができました」

またダンクソフト自身がサテライト・オフィスやテレワークに取り組んできた実績や、さまざまなNPOとの協働経験が豊富なことも安心だった。「地域活動に積極的に取り組むダンクソフトは、NPOに対する理解が深いと感じました」

 

■わずかな準備期間で情報収集から導入まで

 テレワークの本格導入を始める前から、同協会では共有サーバーとメールを基盤に運営していた。皆で共有するデータは必ずサーバーに入れておき、メンバーは誰でも見られるようにしていた。この共有サーバーに外からアクセスできるよう、今回から安全性の高いネットワーク接続が可能な「VPN」を設定した。

左:自宅のテレワーク環境  右:オフィスのテレワーク環境

左:自宅のテレワーク環境  右:オフィスのテレワーク環境

 そして、テレワーク中はマイクロソフトのグループウェア「Teams」を常時接続することとした。画面には作業中のソフトウェアとTeamsが表示されるため、作業効率を上げるためのサブモニターも購入。会議用スピーカーやWebカメラも用意した。これらの機器は自宅でも必要になるが、個人負担で購入しなくても済むよう、協会から貸与することとした。

苦労したのは、助成金ごとに助成対象が異なることだ。例えば最初に申請した助成金では、サブモニターやWebカメラは助成対象だが、パソコン自体は対象外。業務を行いながらTeamsを常時接続すると、古いパソコンには負荷が大きいため、後に別の助成金を申請して購入することとなった。

ダンクソフト企画チーム大川慶一が、ダンクソフトでのテレワーク勤務体験談をお話しました

ダンクソフト企画チーム大川慶一が、ダンクソフトでのテレワーク勤務体験談をお話しました

12月半ばに助成金を取得してから、星野によるセミナーと体験会が実施された。スケジュールを組んでみると、セミナーを年内に始めておかなければ、2月の報告書提出には間に合わない。1回目のセミナーは年内最終営業日に、2回目と3回目は1月中に行った。東京事務所6名のうち、テレワークの対象となる4名が参加した。

 

「なんとなく理解しているつもりだったことを、きちんと体系立てて説明していただきました」と石崎氏は振り返る。「具体的に何をどのように進めていくか。その前段階として、世の中の流れや、テレワークの基本的な考え方を、この機会にひととおり教えていただけて、ありがたかったです」

 

■緊急事態宣言に間に合った、テレワークへの移行

 助成金のスケジュールの関係で、テレワーク環境を急ピッチで整えた直後に、新型コロナウイルスの感染が国内で拡大した。そのおかげで、3月末に第1回目の非常事態宣言が発令された頃には、事務所の作業の9割近くをテレワークに切り替えることができた。

だが、対外的な窓口である事務所を完全に閉めることはできないし、郵便物の受け取りや発送作業など、事務所での作業はゼロにはならない。「テレワークには合わず、休業状態になった仕事もありました」と後藤氏は打ち明ける。「それでも、基本的な業務は稼働していますし、テレワークに対するハードルはだいぶ下がったと感じています」 

スタッフとオンライン会議中の後藤氏

スタッフとオンライン会議中の後藤氏

これまでも共有サーバーを使っていたとはいえ、新しいツールに慣れるまでは若干の混乱が生じた。Teams内には、さまざまなプロジェクトごとのチャネルを設けているため、いつどこで話された内容だったのか混乱することもあった。Teamsを見られない環境にいる人には、メールで情報共有をすることもある。「Teams内に保存するのか、メールで送るのか、共有サーバーに置くのか。情報をきちんと一括して残しておくことが、慣れるまでは難しかった」と石崎氏は語る。

 Teamsを使って、常時接続の会議が毎日開かれているので、顔を見ながら話せる場がある。これにより、離れていても事務所にいる時と同じように、一緒に働いている感覚が得られる。それでも「もっと他愛のない雑談ができる場を作れないか」と石崎氏は考えている。「雑談が減って、何かが目に見えて滞っているということはありません。でも事務所では雑談をきっかけに何かが生まれたり、仕事がうまくまわっていくための種みたいなものが、もっとあったように思うのです。次は、テレワークの中でも、うまく雑談かできる工夫をしてみたいですね」

  

■介護しながらも働けることが、団体の価値を高める

特定非営利活動法人 樹木・環境ネットワーク協会 広報 石崎庸子 氏

特定非営利活動法人 樹木・環境ネットワーク協会 広報 石崎庸子 氏

 石崎氏には、気がかりなことがもうひとつあるという。出勤回数を大幅に減らし、基本的には在宅で勤務していることで、他のスタッフの負担が増えているのではないか、という点だ。「私は主に広報関連の仕事をしていますが、事務局に行けば電話応対や、発送の仕事が忙しいようならば手伝うこともできます。でも行かないと、自分の担当業務のみになってしまうので、申し訳ない気持ちになります」

この心配に対し、星野は「そこはお互いさまであって、これから介護は誰もが避けられないこと。石崎さんがそういう事情を抱えながらも働けるということ自体が、周りの人にとって、よい事例になっていると思います」と語る。

「今までは、そういう個人的な事情を隠すのが日本の企業文化でした。介護は結構大変なことなのに、自分だけで背負ってしまい、結果的に会社を辞めてしまっていました」。だが介護される側の人数が増え、公の部分だけでは支えられなくなり、民間の力で支えていく時代に変わってきているのだという。

「負担を組織としてシェアできるというのは、価値が高いこと。同じような課題を抱えた人にアドバイスできるということの価値は、今後高まっていくのではないでしょうか。お互いを尊重して、それぞれが助け合って、無理のないやり方で進めていくことの方が、成果が出やすいと思います」

  

■テレワーク環境整備の、その先に見える未来

テレワークのスピード導入と、その後の試行錯誤が功を奏し、2020年10月には、総務省の令和2年度「テレワーク先駆者百選」(注1)に選ばれた。「おめでとうございますという声はありますけど、今のところはまだ大きな反響はないですね」と笑う後藤氏だが、企業連携を推進する団体としては百選に選ばれたことが、企業との信頼づくり、新しい連携先企業との関係づくりにも通じるだろうと期待する。

また、「テレワークの導入に積極的に取り組んでいるNPOは、まだ多くありません。働き方を模索している団体に、何らかの刺激になれればと思います」と、NPO界全体のデジタル化推進に目を向ける。実際に、受賞をきっかけに、テレワーク環境の整え方や助成金の使い方について、さまざまなアドバイスを求められる機会が増えたという。

今回のテレワーク導入によって変わったのは、働き方だけではない。2020年12月には、大規模なオンライン・イベントも実現した。運営サポートとして携わっていた後藤氏は、事務局に「星野さんにアドバイスをしてもらってはどうか」と紹介。オンライン配信の機材や段取りのアドバイスだけでなく、シンポジウム会場としてダンクソフトのダイアログ・スペース(注2)を活用した。

「テレワークを導入して終わりではもったいない。さらに、オンライン・イベントを一緒に実施したり、セキュリティについて学びを重ねたりすることで、“Co-learning(コ・ラーニング/共同学習)”の関係を続けていくことが大事だと考えています。ダイアログ・スペースが、こうしたCo-learningの一助となれば」と、星野は今後の展望を語る。

 

「森林と市民を結ぶ全国の集い2021」

「森林と市民を結ぶ全国の集い2021」

3月には、1週間におよぶ『森林と市民を結ぶ全国の集い2021』も開催を予定している。第25回目となるシンポジウムだが、今年はオンラインでの配信となる。東日本大震災から10年という節目でもあり、オンラインでの自然体験やグリーンリカバリーといったタイムリーな話題も議論される。ダンクソフトのダイアログ・スペースの他、東北3県からも配信するということで、初めて尽くしの準備は佳境に入っている。

「今までリアルに実施してきたイベントがオンライン化していく中で、さまざまなアドバイスをいただいたり、イベント会場を借りることも今後増えていくのではないでしょうか。テレワーク導入を超えて、ダンクソフトさんと継続的に協働して、何か企画していきたいですね」。後藤氏は、テレワーク導入の経験から、この先の可能性に大きな期待を寄せる。後藤氏をモデルに、森林や自然に関わるNPO団体が、デジタル・テクノロジーを活かして、さらに躍進する未来が待ち遠しい。


 注1)総務省が平成27年度から、テレワークの導入・活用を進めている企業や団体を「テレワーク先駆者」とし、その中から十分な実績を持つ企業等を「テレワーク先駆者百選」として公表している。

 

注2)ダイアログ・スペースは、ダンクソフトの神田オフィス内に設けられた場。全社員がテレワークに移行し、誰も出社しなくなったオフィスの一部を活用しており、オンラインとオフラインのハイブリッド型のイベントを良質な環境で開催できる。


 ■ 導入テクノロジー

テレワーク導入支援テレワーク検定

  

■特定非営利活動法人 樹木・環境ネットワーク協会とは

森づくりを通して環境を考える任意団体として1995年に設立され、1998年よりNPO法人として活動をスタート。各地で森づくりや里山再生に取り組みながら、グリーンセイバー資格検定制度を運営するなど、「森を守る・人を育てる・森と人を繋ぐ」をテーマに、活動の幅を広げている。

https://shu.or.jp/

 

事例:さまざまな部署との対話を重ね、進化し続けるウェブサイト改善プロジェクト

お客様:国際機関日本アセアンセンター 様

 注目が高まるASEAN地域の情報を提供して、経済や人々の交流を促進する日本アセアンセンター。膨大な情報を整理し、幅広い層の人々にとって情報を見つけやすいサイトの在り方を模索し続けている。

左から国際機関日本アセアンセンター事務総長室広報担当官の宮内智子氏、園屋恵美子氏

左から国際機関日本アセアンセンター事務総長室広報担当官の宮内智子氏、園屋恵美子氏

■ 多様な人々に向けた、情報量が膨大なサイト

 国際機関日本アセアンセンター(東南アジア諸国連合貿易投資観光促進センター)は1981年、当時のASEAN加盟国政府と日本政府が設立した国際機関だ。貿易、投資、観光、そして人物交流の促進を目指しており、小学生向けのイベントからビジネス関係者に向けたセミナーまで、幅広いステイクホルダーへ事業を展開している。

「さまざまな層の方々へ、ASEANの情報を提供することを、とても大切にしています」と語るのは、広報の宮内智子氏だ。事業が多岐にわたるためウェブサイトの情報量が膨大で、訪れた人たちが接点を見出しやすい発信の仕方を模索していた。長い間使ってきたウェブサイトは、部署ごとに明確に分けて情報を掲載していた。ただ、「お客さまが探している貿易の情報が、当センターでは投資に分類されているなど、線引きが分かりにくく、すれ違いが生じていました」と振り返る。情報が多い上、検索サイトでは上位に表示されない構造になっており、使い勝手が悪いことも課題だった。

 当時は情報更新を各部署に任せていたが、これが運用上の課題となっていた。サイト制作ツールの知識を持たない人が担当すると、作業に時間がかかり効率が悪い。担当が変わると、引継ぎにも時間がかかる。一方で、詳しい担当者がいる部署では独自の改変を加え、統一感が崩れていくケースも見られた。運用が難しいと、日本語と英語の両ページの管理が非常に手間取り、英語版の更新が滞ってしまうこともあった。

 また、2018年に大幅な組織改編があり、縦割り型から横のつながりを強化した体制へと変わった。部署をまたいだ「センターワイド事業」が増え、ウェブ表現も、センターとしての統一感を持たせた見せ方へと変える必要があった。

 そこで2016年度に、ウェブサイトを大幅にリニューアルすることになった。担当したのは、以前から何度か修正作業などに携わったことがあったダンクソフトだ。「私たちの活動内容をよく理解した上で、仕組みや見せ方などを提案してくれる、貴重なパートナー」というのが、宮内氏の評価だ。

第74回ASEAN投資調整委員会(於:マレーシア)

第74回ASEAN投資調整委員会(於:マレーシア)

■ 部署間で異なる要望に応えた、1回目のリニューアル

 リニューアルに際してダンクソフトがまず実施したのは、センター各部署へのていねいなヒアリングだった。組織の外部にいるダンクソフトだからこそ、情報の断捨離や全体の交通整理がしやすいという側面がある。だが多忙なメンバーを集めての開催はスケジュール調整が難しく、完了までには実に約4カ月を要した。今年7月から参画したという広報の園屋恵美子氏も、ヒアリングの様子を聞いて「各部署の要望を直接聞いて形にしてくれる制作会社って、なかなかいないですよね」と驚く。

 「ヒアリングを重ねるうちに、部署ごとに要望が異なることが改めて浮き彫りになりました」とダンクソフトの大村美紗は語る。例えば、セミナーを多く実施する部署では、セミナーの案内に特化して、なるべく多くの件数を表示させたいと考えていた。一方で別部署では、事業についての情報を中心に出したいと望んでいた。「重要視しているのは、どこにゴールを持っていきたいかという点。部署ごとの思いがそれぞれあるので、なぜそのように考えているのか、お話を伺ってから提案するようにしています」(大村)

 また、外部の視点が入ることで、見る人の立場で分かりやすいサイトになっているか意識しやすくなった、と宮内氏は話す。「日本アセアンセンターの内部でよく使う用語も、外部から見ると堅苦しく感じられるのではないか、もっと分かりやすい別の言い方に変えた方が良いのではないかと、私たちのことをよく理解した上で見てくださっていますね」

日ASEAN女性起業家リンケージプログラム(AJWELP)(於:ブルネイ)

日ASEAN女性起業家リンケージプログラム(AJWELP)(於:ブルネイ)

■ 分かりやすさと統一感に力点を置いた、2回目のリニューアル

 各部署の要望を反映したサイトにリニューアルしたものの、「実際に運用が始まると、また新しい課題も出てきて、もう一度整理したくなりました」と宮内氏は振り返る。特定の活動目的に分類できない横断的な事業が今後増えてくることも想定された。

 そこで、リニューアル後に出てきた新たな課題の解決を目指し、2018年度にはトップページを中心にサイトの手直しを実施した。このときに重視したのは、センター全体で活動内容を整理し、統一感のある見せ方へと改善することだ。

 以前は部署ごとに更新していた新着情報は、事業部ごとのアイコンを付けてトップページに集約し、時系列に並べて見せるように変更した。トップページには常に最新情報が表示されるため、サイト訪問者にとって見やすくなり、部署ごとの更新頻度のばらつきも目立たなくなったという。トップページや、事業部ごとのページのレイアウトを変え、コンテンツ更新は広報がゲートキーパー(門番)となって目を配るよう運用方法を改めるなど、サイト全体に統一感を持たせる工夫を凝らした。

マレーシア企業と日本企業を対象にビジネスミーティング(於:マレーシア)

マレーシア企業と日本企業を対象にビジネスミーティング(於:マレーシア)

■ 信頼できるパートナーと共に、激変の時代を乗り切る

 2度のリニューアルを経たアセアンセンターのサイトだが、さらに改善したいポイントが出てきていると、宮内氏は考える。これまでは膨大な情報を抽出しやすいようロジカルに整理することに力点を置いてきた。今後は事業部横断型の事業の見せ方を工夫し、お客さまにとってセンターとの接点が分かりやすいようSEO対策にも力を入れていきたいという。

 特に注力したいと宮内氏が語るのは、日本アセアンセンターのブランド・イメージの構築だ。センター設立当時と比べると、情報の入手が容易な時代となり、ASEAN地域の専門家の数も増えた。そういう中で、日本アセアンセンターならではの特長を出していくことの重要性を宮内氏は感じている。日本とタイ、日本とカンボジアといった2国間の枠組みで情報発信している機関は他にもあるが、「ASEANという地域全体を対象として情報提供しているのは、日本アセアンセンターしかない。価値ある独自コンテンツをもっと強化していきたいですね」と展望を語る。

 また、昨今は人々がオンライン上にいる時間が長くなった。日本アセアンセンター独自のコンテンツ、特にオンライン・コンテンツの充実を検討しているという園屋氏は「今の時代に合った進め方をしていかないと、置いていかれてしまう。存在感を出すために、独自性を積極的に出していかなくては」と危機感を募らせる。

 さらに、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、事業形態も変化を余儀なくされた。事務所に併設された多目的ホールに人を集めていたセミナーはオンラインで開催しているが、対面でのプログラムや、ASEAN各国に赴いてのワークショップは開催できていない。観光事業もプロモーション活動を思うように実施できない状況だ。

 一方、オンラインでセミナーを実施するようになった今は、さまざまな数字の把握が可能となり、効果的にデジタル・テクノロジーを活用したコミュニケーションを展開できる体制が整いつつある。園屋氏はダンクソフトに対し、「ウェブサイトのトレンドは何か、どのような見せ方が可能なのか、オンライン上で何ができるのかなど、今後もプロの視点でいろいろご提案いただけると大変ありがたいです」と、変化の激しい時代を共に乗り切るパートナーとして期待を寄せている。

 幸いなことに、日本アセアンセンターの広報とダンクソフトの間には、日ごろから思いついたことをチャットですぐ相談できる信頼関係が築かれている。「WEBサイト関連でわからないことがあると、すぐチャットで話しかけてしまう」と宮内氏は笑うが、肩ひじを張らないやり取りの中で「こんなことをしてみたい」と目的を伝えると、それが高い精度で実現していくのだという。

 注目度が高まるASEAN諸国の情報が集まる日本アセアンセンターと、デジタル・テクノロジーによる関係づくりを得意とするダンクソフトの協働は、今後ますます密度の濃いものとなりそうだ。ウェブサイトを、多様なステイクホルダーとの対話が、さらに促進される場となるよう、取り組んでいきたい。

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観光従事者を対象とした研修(於:ミャンマー)

 

■ 導入テクノロジー

 Webデザイン、運用コンサルティング、システム開発 

 https://www.dunksoft.com/web-t

  

国際機関日本アセアンセンターとは

 日本アセアンセンターは、ASEAN加盟国政府と日本国政府との協定によって1981年に設立された国際機関です。日本とASEAN諸国間の「貿易」「投資」「観光」という3分野における経済促進と、「人物交流」の促進を主な目的として活動しています。

 ASEAN諸国から日本への輸出の促進、日本とASEAN諸国間の直接投資、観光及び人物交流を促進するため、日本の関係各省並びにASEAN諸国の貿易・投資・観光促進機関や駐日大使館と密接な連携を保ちながら、日本・ASEAN双方のニーズを踏まえ、貿易・投資・観光促進のためのテーマ別セミナーやワークショップの開催、産業分野毎のASEAN各国高官と日本人投資家との政策対話、人的交流プログラム、各種情報提供など多岐にわたる事業を実施しています。

https://www.asean.or.jp/ja/

事例:苦手意識のあったデジタルに、挑戦してみようと思わせてくれた協働プロジェクト

お客様:一般社団法人 遊心(ゆうしん)様

一般社団法人 遊心  代表理事 峯岸由美子氏

一般社団法人 遊心 代表理事 峯岸由美子氏

自然体験プログラムをより深いものにするため、リアルな現場とデジタルを融合させ、仕組みを変えていきたい。イベント後も、参加者と関係を継続していきたい。でもデジタルは苦手――そう考えていた遊心(ゆうしん)が、ダンクソフトとの協働を経て、大きく前進している。AR(拡張現実)を用いた動物園学習プログラムの成果・効果、参加者との関係づくりへの期待、広がるデジタルへの関心など、お話を伺った。

■もやもやした想いを抱えて奮闘した30年

遊心は、都会で子育てをする家庭が、身近な自然に触れて親しむプログラムを展開する団体だ。年間のプログラム参加者は3000人以上 に上る。自然や家族、仲間を大切に思う気持ちを育てる活動を展開している。公園での自然遊びや生き物講座、動物園や博物館とのタイアップ・イベントなど、0歳から大人までが夢中になれるプログラムを提供してきた。

2010年の設立当初から大切にしているのは、「しなやかに自律する人を育てる」という理念だと、代表理事の峯岸由美子氏は語る。「自然の中でのさまざまな体験を通じて、一人ひとりが自分の価値観や哲学のような“心の芯”みたいなものを持ってほしい。そして自分たちの力で見聞きして考えて、行動を起こせるような人になってほしいと願い、活動してきました」

 遊心が提供するのは、ただ子どもだけが自然体験を楽しんで終わるプログラムではない。参加することで、親子関係がよりよくなることを心掛けて、プログラムを設計している。「私たちは自然体験の経験が豊富なので、子どもたちは喜ぶし、それは自分たちにとっても面白いのですが、親御さんが置いてきぼりになってしまう。すると、親御さんが私たちに子どもを預けて遠巻きに眺めるようになり、子どもや自然環境の変化を見ないままイベントが終わってしまいがちです。これでは親子関係の改善につながらないので、それは避けたいんですね」と、峯岸氏は課題を語る。 

また、遊心のイベントは0歳から参加できるものもあり、幼い子どもを連れた家族の参加が多い。それゆえ「1時間半~2時間くらいが限度」と、イベントの時間を長くとれないことが悩みだった。

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「その場で体験したことを持ち帰って、もう一歩気づきを深めることができれば、帰宅後に親御さんたち自身が子どもたちとよりよく関わっていくことができる。でも、なかなかそこに至らずに終了してしまうのです」。その場限りの楽しいイベント体験で終わってしまっていないか、本当に伝えたかった部分を伝えきれていないのではないか、「子育ては大変だけど楽しい」という醍醐味を親御さんたちに感じてもらえただろうかと、ずっと悩んでいたという。

 イベント終了後もフォローできる仕掛けを探して、ファンクラブを立ち上げたり、フェイスブック上でやりとりを続けたりなど、試行錯誤してきた。ただ、イベントには一度に70名ほどが参加することもあるため、きめ細かなフォローをすればするほど、スタッフも疲弊していくことがネックとなり、イベント後のフォローがなかなかできない状況だった。

 遊心を設立する20年ほど前から、峯岸氏は自然体験活動の運営・指導、指導員養成事業に携わってきた。そのころも、講座に参加した幼稚園教諭や保育士などが「良い学びを得ました」と感想を述べていたが、職場に戻ったときにそれを実践できているのかは不明だった。「意義の無いこととは思わなかったけれど、消耗戦のような感じがしていた」と振り返る。

「30年ほど事業に携わってきましたが、もやもやしたこの気持ちはずっと続いていた」と峯岸氏は振り返る。そこで考えたのが、ITやデジタルを取り入れて、イベント後に参加者と対話し、学びを実践するサポートを組み込んでいくことだという。

■じっくり観察する仕掛けをARで提供

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 2018年、峯岸氏は何か変化をもたらしたいと考え、ダンクソフトが共催する「インターミディエイター講座」に参加した。この講座で、峯岸氏はダンクソフトの板林淳哉と出会う。ダンクソフトも、子どもたちの未来のためにデジタルを活用したいと考えていたことから、両者は意気投合。そして峯岸氏は、ダンクソフトで開発が進んでいた「WeARee!(ウィアリー)」のことを知る。これは、現実の空間の中にマーキングした場所に、情報を登録し、ARコードやGPSなどを用いてスマートフォン内に呼び出すことができるという、拡張現実(AR)の仕組みだ。抱えていた課題を解決できるかもしれないと、WeARee!を使ったコラボレーションが実現することとなった。実証の舞台は、遊心が企画していた上野動物園での体験観察イベントに決まった。

 だが、峯岸氏によれば、動物園を対象にしたプログラムは、作るのが難しいという。プログラムの焦点をどこに当てるか悩んだ末に、今回は過去に実施したことのある動物園学習プログラムと内容は大きく変えず、そこにデジタルを組み込むことにした。

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 遊心が提供する動物園学習プログラムの特徴は、ひとつの動物を30分ほどかけて観察することだ。動物園では多種多様な動物を足早に見てまわることもできるが、「目の前の動物をじっくり見ることができるという要素も、野生の動物にはない魅力です。」

 じっくりと観察するには、観察する箇所を絞ることがポイントだという。今回の企画では「動物の口」にフォーカスした。口の形が違う生き物は、食べる時の動きも、餌も違う。観察のポイントが分かると、動物の動きや変化、心情なども見えてくるという。

 観察する楽しみ方を体験してもらう遊心の動物園学習プログラムに、AR技術を組み合わせる上で、特に注意を払ったのは、ARを利用しながら、目の前のリアルな動物を見てもらえるコンテンツにすることだ。スマートフォンに動画が映し出されれば、子どもたちはそちらの方が楽しくて見てしまう。動画を見つつも、目の前にいるキリンやサイに目が向くように、見るポイントやクイズ、家族と話してみてほしい項目などを盛り込んだ。一方で、通常の動物紹介サイトに掲載されているような「奇蹄目サイ科」といった一般的な情報は、一切省いた。

 また、動物の口にフォーカスした動画を10種類も用意した。撮影したのは峯岸氏で、「こんなに動物園に通ったのは久しぶり」と笑う。イベント中に、動物の口の動きを観察してまわるには、餌を食べている時間にその動物の前にいなくてはならない。そのため、従来は餌の時間を事前に確認し、それに基づいてイベントの動線を組んでいた。しかし今回は事前に用意した動画があるため、時間的な制約から解放され、動線を柔軟に組み立てることができたという。

■イベント後も参加者とのコミュニケーションが深められるARツール

 これまでは、プログラムに参加する親子が何に興味を持って会話しているのかは、至近距離でぴったり寄り添って聞いていなければ分からなかった。声を拾おうとすれば、参加している家族の数だけスタッフが張り付く必要があり、負担が大きい。メモを取るのも、難しいことだ。特に全体を統括することが多い峯岸氏は、生の声を聞く機会が少ないと感じていた。

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  アンケートは毎回実施してきたが、書かれているのは現場でのリアルタイムな感想ではなく、終わった後にまとめられた回答だ。読み返しても「リアル感の乏しい反省会になってしまいがちだった」と振り返る。

 そこで、コメントを投稿できるコーナーをWeARee!サイトの各ページに設けた。参加者は動物園内をまわりながら、気付いたことや感想を簡単に投稿できる。イベント実施中に、親子の興味・関心をリアルタイムで知ることができるというのは、大きな手ごたえだった。

 さらに、WeARee!には、当日の気づきや学びを、家に持ち帰ることができるという特徴がある。実際、多くの参加者がイベント終了後に、WeARee!を使って、家で振り返りを行ったようだ。「もう一度動画を見た」といった声が寄せられ、それをきっかけにやりとりが生まれ、フォローアップへとつながった。「今までは、参加者は、終わってしまったイベントを頭の中で振り返ることしかできませんでした。でもまたWeARee!を開けば、動画を繰り返し見ることができて、コメントしあうことができる。これで、気づきを積み重ねていくことができますよね」

 中には「子どもが図鑑を読むようになった」「他の動物の食べる様子も意識するようになった」といった声もあったという。イベントをその場限りの体験にしたくないと常々考えてきた峯岸氏にとって、これはとても嬉しい反応だった。

■価値観を共有できるパートナーとの出会い

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 峯岸氏も遊心のスタッフも、もともとデジタル関連の話題には苦手意識を持っていた。「やってみたいな、という思いはありましたが、分からないから後手にまわっていたというのが、正直なところですね」

 IT企業との協働を模索したことは、これまでに幾度かあったものの、やりとりを重ねるうちに互いに違和感をおぼえるなど、結実したことがなかった。「自然体験」は目に見えるが、「自然体験」によって得られる「何か」は目に見えない価値があると思う。その効果が出てくるのが来週なのか、1年後なのか、10年後なのかも分からない。「10年くらいかけて変えていけばいいかな」と考える遊心と、IT企業とでは時間軸が異なる。価値観を共有し、大切にしてくれるパートナーと、なかなか出会えてこなかった。

 これまで相談してきたIT企業からはなかなか理解が得られないこともあった。動物園学習プログラムに実際に参加した人以外には、見てもよく分からないサイトであるため、「そんなサイトは面白くない」「それでは人様に出せない」と言われてきた。だが遊心としては、伝えたいメッセージも学んでほしいポイントも明確であり、そこは譲れない。「理解してもらえないのなら、自分たちでソフトを買ってきて、素人なりにサイトを作ってしまった方がいいのでは」と考えたこともあった。

 このような経緯があったため、ダンクソフトとの打ち合わせも、最初のころは不安を抱えていたという。遊心が大切にしてきた理念や目的を受け止め、違う方向に持っていくことなく制作してくれるのか? ARを使うと、一体どのようなものが出来上がるのか?

 遊心から聞いた話をダンクソフトが形にしたプロトタイプも、「へぇ~、と言いながらも、よくわからずに眺めている感じが続いていました」と振り返る。

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 転機となったのは、何度目かの打ち合わせの際だった。「ダンクソフトの板林さんから、遊心さんが伝えたいことをやりましょう、という言葉をかけていただいたんです。ダンクソフトがやりたいWeARee!ではなく、遊心のWeARee!を作ろうとして、一生懸命話を聞いてくれていることが分かりました。それならば私たちも、できるかできないかに関係なく、遊心がやりたいことや大切にしていることを共有しよう、そうすればダンクソフトが形にしてくれるんだと気付いたんです。それからは楽でしたね」

 

 ■たとえ失敗しても、新しいことに挑戦したい

 遊心は2019年に設立10年を迎えた。次の10年を見据えていろいろと変えていきたいと考えていたタイミングで、ダンクソフトと出会ったという。「遊心にとっては、切り口をひとつ開けてもらった」と、峯岸氏は話す。「親子の自然体験という現場と、デジタルの融合は、今では次の10年の柱のひとつです。前進するきっかけをダンクソフトは与えてくれました」 

 なにより、「もう一歩前に進んでみようと思わせてくれたのはダンクソフトだからだろうなと思います」と峯岸氏。プロジェクトが行き詰まれば、「やっぱりデジタルなんて嫌」と懲りてしまっていたかもしれない。「でも、目に見えないものを扱っている私たちのような団体を、ダンクソフトは理解して、見える形に落とし込んでくれた。こういうドンピシャなことって、あまりないんですよ。お付き合いする中で、単なる効率化だけではなく、その先の“関係づくり”に寄与するデジタルが大事なのだと、分かってきました。ダンクソフトには、新しい扉を開く存在として期待しています」 

 今は「何でもできそうな感じがしていて!」と声が弾む。それだけに動物園学習プログラムの終了後には、あんなことも、こんなこともできたかもしれないという意見が、遊心とダンクソフトの両方から数多く出てきた。イベント終了後も、もっと参加者とよりよい関係を維持できるように、楽しい学び合いのコミュニティをつくっていくことも、目指したい。

 デジタルへの苦手意識も少なくなったという。「今は、たとえ失敗したとしても、挑戦してみた方が面白いという気持ちになっていますね」。遊心の中では今、リアルとデジタルを組み合わせた自然体験のアイデアが次々と湧き出している。4月には新型コロナウイルス感染拡大に伴い外出を控える中で、自宅周辺でどのように楽しめるかを紹介するYouTubeチャンネル「コロナに負けない外遊び」を初めて立ち上げ、動画を次々に公開した。

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 それでも「イメージがまだ湧き出しきっていないように感じる」と話す峯岸氏は、WeARee!の可能性はもっと大きいと期待を寄せる。「やったことのないもの、できそうもないものの方が楽しい」と、さらなる挑戦を楽しみにしている。

 

導入テクノロジー

WeARee!(ウィアリー!)

 

遊心とは

人と自然が、共存していることを身近な場所で体験する機会を創ることを目指し、2010年に設立。子どもたちが、家族と自然に触れ、面白さや親しみやすさを分かち合う、自然遊びプログラムを提供する。プログラムを通じて、子どもたちが自然や家族を大切に思う気持ちを育んでいる。http://www.yushin.or.jp




事例:楽しさの「背景」までも伝え共感を生むWebサイトで、閲覧数も売上も120%増

お客様:ケニーズ・ファミリー・ビレッジ / オートキャンプ場

(鳥居観光株式会社)

 ケニーズ・ファミリー・ビレッジは2018年秋、Webサイトの大幅なリニューアルを決意した。事業の根底に流れる理念や、そこに働くスタッフの思い入れなどをサイト上でていねいに伝えることで、閲覧数や取材申し込み件数が大きく伸びたという。今回はリニューアルの経緯や効果について、お話を伺った。

鳥居観光株式会社 ケニーズ・ファミリー・ビレッジ / オートキャンプ場統括マネージャー 川口泰斗氏

鳥居観光株式会社 ケニーズ・ファミリー・ビレッジ / オートキャンプ場

統括マネージャー 川口泰斗氏

 

多忙さを理由に、躊躇したWebサイト・リニューアル 

 都心から1時間ほどとアクセスが良い埼玉県飯能市にあるケニーズ・ファミリー・ビレッジ(以下、ケニーズ)は、ファミリー向けの使いやすい施設や、四季折々のイベントが人気を集めるキャンプ場だ。予約方法は電話とオンラインで、9割以上がオンライン予約だという。

 そんな同社が2019年秋、Webサイトを大幅にリニューアルした。スマートフォンでも快適に閲覧できるようにすることと、度重なるアップデートを繰り返すうちにつぎはぎ状態になってしまったサイトを整理することが目標だった。

「実は2017年ごろからサイト刷新を考えていた」とマネージャーの川口泰斗氏は打ち明ける。だが、ちょうど忙しい時期でもあったため、「これは結構大変なことになるぞ」と身構えてしまい、なかなか踏み込めなかったという。

 本腰を入れたのは、それから1年ほど経った2018年秋。前回のリニューアル(2011年)以来、継続してWebサイトを手掛けてきたダンクソフトからの後押しがあり、全面リニューアルに踏み切った。「それまでのサイトには載っていないような新しい価値をお届けしたいとは考えていましたが、それを具体的にどこにどう配置するか、今までのサイトをどのように統合するかがイメージできていませんでした」と川口氏は振り返る。

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■   思いの丈を、余すところなく言語化

前回のリニューアル以降もさまざまなやりとりを重ねてきた実績から、ケニーズが伝えたいことや雰囲気はダンクソフト側にも共通認識として蓄積されていた。そこで担当者が大まかなフレームワークを作成し提案したところ、川口氏のイメージと一致したという。「ずっと私たちを見ていただいていたので、事業の方向性や顧客層などを十分理解された上での提案でした。デザインに関しても、あまり大きな変更は発生しませんでした」

 フレームワークのフォーマットをダンクソフトから受け取った川口氏は、頭の中にあるものを余すところなく書き出していった。だが、「思いの丈をすべて吐き出す作業に、結構時間がかかってしまって」と苦笑する。本当は夏前にリニューアルを完了させる予定が、10月上旬にまでずれ込んでしまった。「きちんと的確に届けたいという気持ちが強かったので、ここにはだいぶ時間をかけましたね」

 写真も、そこから伝わる情報量が多いため重要視して、選定に膨大な時間を割いた。夢の中にまで出てくるほどの情熱を注いだ川口氏は完全燃焼し、「終わったら、すっからかんになってしまった」と笑う。

■ケニーズらしさの根底にある、自然や環境への想い

  川口氏の熱がこもった文章や写真をもとに、ダンクソフトはそれらの分類方法や文脈の流れ、統合の仕方について助言をしつつ、組み立てていった。

 ネット上にはウェブ・デザインに関するさまざまな情報があふれている。研究熱心な川口氏がこれらを目にし、斬新な事例に目を奪われることもあったという。だが、ケニーズに合うデザインは何か、なぜそう考えるのかを、ダンクソフトは一つひとつ丁寧に理由を述べた。「理由を、納得がいくように語っていただけたので、相談しながら決めていくことができて安心感がありました」。もし自分たちだけで考えていたならば、まだリニューアルできていない――こう川口氏は断言する。

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 今回のリニューアルで最も重視したのは、ケニーズの事業が提供する「楽しさ」の根底に流れる理念も的確に伝えることだ。キャンプを楽しみにいらっしゃるお客様はもちろんのこと、取引先や、ここで働きたいと考える人たちも視野に入れ、企業理念や事業に対する考え方、社会への貢献、スタッフの思い入れといった情報も充実させた。さまざまな方向で、信頼関係を構築する必要性を感じていたためである。

 特に、自然の中で活動をすることが人間形成にどのような影響を与えるのか、自然を大事にする気持ちや、豊かな社会づくりのためにどのような効果があるのかという部分は、しっかりと表現したかった。もともと他業界でサラリーマンだったという川口氏が、当時と今とのギャップを日々実感していることや、来てくださるお客様の顔を見ていてその効果を強く感じることも理由だ。「良いことを事業にしているという気持ちで、スタッフは皆働いています。このことを伝えなくてはならないと思いました」

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■魅力を的確に伝えるサイトで、メディア露出が1.5倍に

 Webサイト・リニューアルからまだ2カ月ほどしか経っていない(2019年12月現在)が、効果は既にさまざまな部分に出ている。

  まず、今年9~12月の閲覧数は120%増(昨年同時期比)、そのうち新規の閲覧数は130%増(同)であった。また10月の台風で甚大な被害を受け、キャンプサイトの一部閉鎖を余儀なくされたが、それでも売上が120%増(同)と、結果が数字に表れた。

 イメージのミスマッチによるクレームも減った。例えばケニーズは都心からの利便性が良い反面、手つかずの広大な自然をイメージしてきた人からは「自然感が足りない」と言われることもあった。そこで里山らしさを感じる写真を使い、「人と自然が調和した、里山の環境下にあります」という文言を添えて、ケニーズとしての個性を打ち出した。結果として、イメージのミスマッチが発生しにくくなった。営業時間や予約方法、設備やレンタルについても、問い合わせがありそうな内容はあらかじめQ&Aサイトに詳しく記しているため、「サービスを理解していただいた上で、予約をしていただけるようになった」という。

リニューアル後に強く実感するのは、メディアからの新たな取材依頼が増えたことだ。キャンプ場の特徴がウェブからわかりやすいことが功を奏し、取材を実施する価値があるとメディアが判断しやすいのだろう。毎日1件は問い合わせが来るようになっている。その上、口頭で説明できなかった詳細な情報も、Webサイトで確認し、追加して掲載されるようになった。「メディア露出は、1.5倍に増えたというのが、私の体感です」

 アウトドア・ショップの店頭で配布しているケニーズのパンフレットや、メディアが取材した記事を見たお客様は、最終的にケニーズのWebサイトを訪れる。関心を持ってもらい、その関心をアクションにつなげるため、Webサイトは欠かせない場だ。

 2010年から2018年の間にWebサイトの閲覧数も、売上の伸長率も、どちらも約6倍に伸長した。「Webサイトはお客様との接点の最前線であり、情報が集約されている集積地。これが無くては事業ができない、成長ができないくらいの、とても大切なものです」と強調する。

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■さらなる成長を、温かみのある「仲間」と共に

  そもそも、Webサイトを制作できる会社が非常に数多く存在する中で、2011年から一貫してダンクソフトに依頼し続けている理由は何だろうか。

  最初のきっかけは、社長同士のつながりというご縁だった。そこからWebサイトをリニューアルし、閲覧数が上がり、会社が成長していく中で、サービスが増え、それに伴いコンテンツも増えていった。相談を重ねながら更新していく中で、信頼と実績が少しずつ積み重なっていったのだという。だがダンクソフトの最大の特徴は、「デジタルの会社なのに、心がとても温かいこと」だと川口氏は語る。

「こちらの思いに、とても寄り添ってくれるのです。具体的な計画や手法が分からないまま、『こうしたい!』という望みだけを伝えても、いつも的確な提案が返ってきました。その繰り返しが信頼になり、ずっとお付き合いできる安心感につながっています」

 さらに「誤解を恐れずに言えば、同僚や仲間のよう」とも表現する。「良いパートナーであり、良い相談相手でもある。でもビジネス・パートナーというよりは、同じ目的を共有して一緒に働く、同じ船に乗ったクルーのイメージですね」

 川口氏はダンクソフトに、今後もコミュニケーションのインターフェースを整えるサポートを頼みたいと考えている。ケニーズでは自然と触れ合える貴重な場として、2015年から古民家を活用した事業を開始した。今後は、子どもたちが環境について学べる機会も増やしていきたいという。そのためにはNGOや地域に向けても情報を共有し、共感しあえる「仲間」を募っていく必要がある。

 Webサイト以外の部分でも、ダンクソフトに期待を寄せる。「ビジネスを拡張するにあたり、さまざまな部分で物足りなさを感じるようになってきました。今までの方法では達成し得ないので、テレワークや、新しい仕組みづくりについてもサポートいただきながら、一緒に成長できれば」と、川口氏は意気込みを熱く語った。

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■業務改善ソリューション

WEBサイトの制作・構築、運用コンサルティング

ケニーズ・ファミリー・ビレッジ / オートキャンプ場

(鳥居観光株式会社)

人と自然の架け橋になることを目指し、都心からわずか1時間の里山でファミリー向けのオートキャンプ場を運営しています。2015年には、古民家をリノベーションしたキャンプやバーベキュー場もオープンしました。私たちは、安全・清潔であることを第一に施設を運営し、お客様の視点を忘れず、プロ集団として、人と自然をつなぐ心地よいアウトドア空間を提供していきます。

http://www.kfv.co.jp/








 

事例:テレワークが創出した瀬戸内市の新たな“魅力と雇用”

お客様:ストックウェザー株式会社様

岡山県瀬戸内市との実証実験を機に、テレワークの取り組みを事業化した企業がある。個人投資家向け情報サイトを運営するストックウェザー株式会社様だ。テレワークにより、瀬戸内市の“魅力と雇用”を創出することへ貢献し、働き方の “新たなはじまり”をつくっている。今回は、このストックウェザー社の取り組みについて取り上げる。

(写真左より、ストックウェザー株式会社 代表取締役社長 桐山康宏氏、瀬戸内市企画振興課 松井隆明氏、株式会社ダンクソフト 開発チーム マネージャー 竹内祐介)

(写真左より、ストックウェザー株式会社 代表取締役社長 桐山康宏氏、瀬戸内市企画振興課 松井隆明氏、株式会社ダンクソフト 開発チーム マネージャー 竹内祐介)

テレワークで、暮らしも仕事も市内で完結できる環境を

岡山県瀬戸内市は、瀬戸内海に面した温暖で住みやすい地域だ。岡山市と隣接していることから、瀬戸内市から岡山市へ通勤する人が多く、ベッドタウンという一面を持つ。瀬戸内市とダンクソフトは、2016年頃からデジタル・テクノロジーを活用した地域活性化に関する対話を重ねていた。その流れで、2017年10月から、テレワークを活用した地域の新しい働き方づくりを具体化していった。テレワーク構想をすすめるうちに、東京に本社を置くストックウェザー社の抱える課題と親和性が高いと判断したダンクソフトは、ストックウェザー社にプロジェクトへの参加を促した。

個人投資家向け情報サイトを運営するストックウェザー社にとって、投資信託や株式の情報をインターネット上で参照するために、情報を収集したり入力したりすることは、とても重要な業務だ。従来は、本社を置く東京エリアだけで業務を行っていたが、入力業務ができるスタッフをさらに確保することが必要となっていた。ストックウェザー社は、ダンクソフトからの提案を受け、瀬戸内市にテレワーカーを育成し、金融情報の収集や入力業務を任せることにした。ダンクソフトの支援のもと、ストックウェザーは、2018年1月から10月まで、2期にわたり瀬戸内市テレワーク実証実験事業支援業務とテレワーク運用支援業務へ参加した。

瀬戸内市企画振興課の松井隆明氏は、テレワークの実証実験を行うことになった背景に関して、こう振り返る。

「瀬戸内市は岡山市にとても近いので、岡山市へ働きに行く方が多いです。中には、通勤時間を短くしたい方や、子育てのため時間や場所に制約がある方もいるので、暮らしも仕事も瀬戸内市内で完結できる環境を作らないといけないという危機感や思いがありました。当初は、瀬戸内市内にテレワークのニーズがあるのかまったく予測がつきませんでした。ダンクソフトさんの支援のもと、2期にわたり実証実験を行いました。育児・介護をしている瀬戸内市在住者を対象として第1期のテレワーカーを募集したところ、多くの市民の皆さんから問い合わせがあり、大変驚きました。セミナーや講習会を経て、13名のテレワーカーが誕生しました。第2期は、さらに17名の新たなテレワーカーが生まれ、ストックウェザーさんの事業をさらに推進していただきました。」

いまでは、約30名の瀬戸内市民が、ストックウェザー社のテレワーカーとして仕事を担っている。

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テレワークによる“新たなはじまり”

今まで遠隔地のスタッフと連携して仕事をするテレワークに取り組んでいなかったストックウェザー社も、この実証実験で、瀬戸内のスタッフたちとのプロジェクトを進めるために、初めてテレワークを導入することになった。

代表取締役桐山康宏氏は、こう回想する。

「遠隔地からテレワークで働いてもらうのは当社にとっては初めての経験であり、事業をつくるところから始まりました。まずは、ファンドごとにインターネット上に公開されている目論見書をダウンロードし、ストックウェザー社の情報サイトにアップロードする業務をお願いしました。開始してみて、試行錯誤しながら、質や納期の調整への対応などに課題があることがわかりました。テレワーカーの家庭の事情で納期に変更が生じる場合には調整が発生しますし、テレワーカーからの問い合わせにも丁寧に応対します。きめ細やかにコミュニケーションすることで課題を解決していく必要がありました。」

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 ■コミュニティの活性化を、デジタル・テクノロジーが支える

瀬戸内と東京という離れた場所を結んでプロジェクトを進行し、テレワーカーとの連携をはかるうえで、「デジタル・テクノロジー」が欠かせない。しかし、瀬戸内市のテレワーカーのデジタル・リテラシーはさまざまであり、SNSのように簡単に使い始めることができるツールであることが求められた。また、機密情報などの取り扱いにも耐えうる、セキュリティが確保された安全な環境であることが重要だ。そこで、進捗管理や情報共有などのコミュニケーションを支えるために、「ダンクソフト・バザールバザール」を活用した。

 ストックウェザー社の桐山氏は、バザールバザールをこのように評価する。

「バザールバザールがあることで、テレワーカーとの情報共有がとてもやりやすいです。バザールバザールがなかったら、連絡手段がメールになるのでしょうが、さすがにメールだと煩雑になり、やり取りが大変だっただろうなと思います。」

  ダンクソフトからは、バザールバザールの開発者でもあり、徳島サテライト・オフィスからテレワークで働く竹内が、プロジェクトに参加した。バザールバザールの導入と運用を支援し、テレワークしやすい環境づくりを担当した。竹内は、瀬戸内市のコミュニティの活性化につながることを、一つ一つ築きあげ、ストックウェザー社、瀬戸内市のテレワーカーのあいだを担う存在として、プロジェクトを支えた。

「瀬戸内市は、育児や介護などの家庭の事情を抱えながら、柔軟な勤務時間で仕事ができる求人が少ないと聞いています。そんななかで、ストックウェザー社の事業は、柔軟な勤務時間で仕事ができるチャンスを提供しています。瀬戸内市の皆さんは、岡山市に働きに行く必要がなく、安心して住むことができるので、瀬戸内市に住む魅力が増し、コミュニティがより良くなるきっかけになると思います。」と、プロジェクトに期待を寄せている。

さらに、瀬戸内市の松井氏は、

「バザールバザールを利用することで、非常に効率がいいと思います。テレワーカーのみなさんが、ハードルなく使っているので、共有する『場所』の一つになっていると感じています。」と、このツールがあることで、テレワーカー・コミュニティがうまれたことを評価した。

ダンクソフトは、デジタル・テクノロジーの活用により、テレワーク実現を通じて、自治体や企業の「コミュニティの活性化」を支援してきた。ここ瀬戸内市でも、テレワークをめぐる新しいコミュニティが始まりつつある。

瀬戸内市の「魅力」を高めるテレワーク

瀬戸内市では、ストックウェザー社の他にもテレワークを活用した事業がスタートし、働く選択肢が拡がっている。岡山県内でまだテレワークに取り組んでいる地域は少なく、“より働きやすい地域である”ということが、瀬戸内市の魅力のひとつになりつつある。

ストックウェザー社 桐山氏は、「継続的な実証実験により、テレワーカーの経験値が蓄積されており、スタッフが育っていることを実感しています。金融情報の入力は、正確さとスピードが求められる仕事なので、経験のあるテレワーカーの存在が当社の強みにもつながります。今後は、当社の業務のみならず、他社の金融情報の入力業務を担う事業を、瀬戸内市の皆さんと展開していきたいと考えています。これを機に、瀬戸内市に子会社を設立しました。さらにひろく、質の高いテレワーカーと連携していきたいと考えています。」と、今後のテレワークへの展望を、力強く語った。

 

業務改善ソリューション

組織を超えた テレワーク導入・運用支援

 

導入テクノロジー

ダンクソフト・バザールバザール

 

ストックウェザー株式会社

総ての人が個人投資家になれる世界を目指し、分かりやすく親しみやすい金融情報を金融機関などの法人や個人投資家向けに幅広い金融ソリューションを提供しています。https://about.stockweather.co.jp

事例:「ペーパーレス化」で 6期連続の赤字からV字回復

お客様:徳島合同証券株式会社様

ダンクソフト「ペーパーレス・ストレッチ」の導入をきっかけに、6期連続の赤字からV字回復をとげ、その後、5期連続の黒字化を達成した企業がある。徳島県に本社をおく、徳島合同証券株式会社様だ。オフィスのペーパーレス化をきっかけに、社員の意識と働き方を変革し、環境への取り組みを通じて、“新たなはじまり”をつくり続けている。今回は、この取り組みと、その後の効果について特集する。

徳島合同証券株式会社 泊健一社長

徳島合同証券株式会社 泊健一社長

7トンの紙で溢れていたオフィスを社員の力でスマートに

 徳島合同証券の泊社長とダンクソフトが出会ったのは、6年前の2013年だった。 

「ダンクソフトの星野社長と私が出会った当時、当社は6期連続赤字で業績は伸び悩んでいました。各社員が、お客様の個人情報を紙で保管しており、オフィスを見渡すと、机、キャビネットなどあらゆるところに紙が溢れていました。必要なものなのかさえもわからない状況でした」と、泊社長は6年前の状況を振り返る。

 デジタル・テクノロジーを活用することで、オフィスのペーパーレス化が実現でき、それが社員の意識改革につながることを、星野から聞き知った泊社長は、ダンクソフトの「ペーパーレス・ストレッチ」を導入することを決意した。ダンクソフトの徳島サテライトオフィスから、竹内など数名のスタッフが支援に入り、徳島合同証券とのプロジェクトがはじまった。

まずは、社員個人デスクの書類を断捨離することからスタートした。机や引き出しの中のモノを全て出し、必要だと思うモノだけ自席へ持ち帰る。これを繰り返し行い、続いて、同じプロセスを社内の共有物にも適用していった。 

しかし、ある時点まで来ると、必ず常識が邪魔をして捨てられずに残るものがある。その山を前に、徳島合同証券の社員は、竹内のディレクションのもと、改めて「本当に必要なものはどれか?」の検討を続けた。

このように、社外からの「ダンクソフトという第3者の目」が入ることが功を奏した。社員ひとりひとりが今まで当たり前と思いこんでいた業務を見直し、改めて考えるきっかけができたのだ。

「最初は、捨ててしまったらどうなるのだろうと心配していましたが、ダンクソフトさんが実践していらっしゃる通り、書類を捨ててみると何も困りませんでした。心配するだけ無駄でした」と、泊社長は笑いながら回想する。

業務を見直し、社内に温存されていた3.5トンの紙を廃棄

 結果として、3週間という驚異的なスピードで、社内に温存されていた7トンの紙を半分の3.5トンにまで減らすことができた。また、社員それぞれが別々に管理していた個人情報を一元化し、コピー機やFAXを利用する頻度を下げることで、紙の量を劇的に削減することに成功した。PCを利用する際に2つのモニターを用意し同時に使う“ダブルモニター”にすることで、紙に出力することが不要になった。各自が持っていた備品を減らし共有利用することで、オフィスのモノが減った。最終的には、嬉しいことに、700万円ものコスト削減になり、これを他の事業活動に割り当てることができるようになった。

「ダンクソフトさんに教えていただいたペーパーレスを実践したおかげで、オフィスがすっきりと整頓されました。また、それだけにとどまらず、連動して、社員ひとりひとりの頭の中がスッキリと整理され、働く意識が変わったのです。さらに、いつかはやってくる地震などの災害に備え、BCP(事業継続計画)にも対応することができました。ひとつの真理は、あらゆることに応用できるのですね」

 泊社長が実感したのは、ペーパーレスの取り組みが、同時に複数の課題を解決することにつながるということだった。

 オンライン朝礼を実現したデジタルによる業務改革

 ペーパーレス化と同時に6年前に導入したのが、サイボウズ社のクラウド型業務用アプリケーションであるkintoneだ。それまでオフィスでは、長年、当たり前のようにホワイトボードを使って手書きでスケジュールを共有していた。kintoneの導入により、重要な情報や各社員のスケジュールがクラウド上で共有され、一目でわかるようになった。

「スケジュールや情報共有が楽にできるので、ストレスのない働き方ができるようになりました。例えば、社員が同じ方面へ移動する場合、共に車で移動するなど、環境負荷も減らすことにつながっています。オンライン上で重要なことも共有できるので、BCP対策としても活用できています」

 さらに、もうひとつ、ダンクソフトからのアドバイスではじめたことがあるという。それは、マイクロソフト社のSkype for Businessを活用した“オンライン朝礼”だ。今までは、支社で働く社員が本社へ移動し、朝礼に参加していた。Skype導入により、支社の社員は本社への移動が不要になり、オンラインで朝礼へ参加できるようになった。 

「直接金融を通じて人々の生活の向上を支える企業を応援する」を経営理念に掲げている徳島合同証券では、長期投資の意義を、10-20年以上かけて社会に浸透させていくことが求められる。そのため、社員一人ひとりと理念を共有することがとても重要になる。朝礼にどこからでも参加できるようにしておくことは、会社の未来をつくることにつながるのだ。今後は、長期投資に関する成功事例の社員間の共有や遠隔地のお客様とのコミュニケーションに、Skypeの活用を検討している。」

徳島合同証券株式会社 泊健一社長

徳島合同証券株式会社 泊健一社長

「環境保護」や「SDGs」への取り組みを重点分野に

 泊社長は、このペーパーレス・プロジェクトをきっかけに、業績を大きく伸ばし、その後も5期連続の黒字化を達成している。星野から聞いた「環境にいいことは、経済的合理性がある」というコメントを、身をもって実感した泊社長は、さらに環境へ関心を寄せるようになっていった。実際に、金融と環境保護を融合していく試みを展開していくうちに、さまざまな方面から声がかかるようになっていた。徳島県の環境系委託事業、太陽光ファンドを活用した地域活性化活動などもその一部である。

 しかし、今もなお、環境に配慮することが事業への負担を大きくすると考える企業はまだまだ多い。だからこそ、泊社長は、ペーパーレス化を通じた自らの経験から「環境への負荷を減らすことで、経済的な利潤も生まれる」との確信を、徳島県の多くの企業に拡げていきたいと考えている。

 そのような中で出会ったのが、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の考え方だ。これに共感し活動しているうちに、気がついたら、周囲からの後押しで「とくしまSDGs未来会議」の副会長に選ばれていた。徳島県内の経営者や大学教授、民間団体の代表ら16人が発起人となり、2019年6月15日に設立された組織だ。泊社長は、副会長として、徳島県内の企業や大学、団体などさまざまな立場の方々を結び、徳島においてSDGsを推進していく。

「SDGsを推進することで、今まで株式投資に無縁だったお客様が、持続的な発展に貢献する企業への投資を考えるきっかけをつくることができます」

 泊社長は今、SDGsと金融の親和性について、大変注目しているそうだ。大切な資産を、環境分野の企業に投資するお客様が増えるよう、媒介となる徳島合同証券自体がさらに信頼される企業となることを目指している。秋までに、生物多様性の保全に取り組むNGOから、企業で初めて認証を受けられるよう、準備も進めている。 

一歩先の新たな視点を取り入れ、次の展開をつくる

 ペーパーレス化とBCPの次の一手として、泊社長はいま、サイバー・セキュリティに取り組んでいる。クラウドファンディングのプラットフォーム事業に力を入れていくためには、お客様にとって安全な環境をつくることが大切となるからだ。同時に、社員のセキュリティ・リテラシーをあげていくことも必須だ。そして、理念や取り組みを社外にも共感され、より信頼される企業となるように、ウェブサイトのリニューアルも計画中である。次の一手を考えるとき、いつもそこにはダンクソフトの存在がある。

「ただIT導入をしているだけでなく、物事の真理を教えてもらったように思います。自分でもまだ見えていない、思わぬ新しい視点をいただけるのが、ダンクソフトとの関わりではないでしょうか。特に星野さんからは、目から鱗が落ちるようなことを教えていただいていて、それならやってみよう、という気になります。今日も、いつかオンライン・セミナーをやりたいとお話をしたら、いつかじゃなくて今すぐにでも簡単にできますよ、と、思いがけないアドバイスをいただいたばかりです。」

 実は、昨年、星野が松江商工会議所でテレワークセミナーを実施した際に、泊社長はSkypeで登壇し、ペーパーレスの事例紹介をすでにしていたのだ。

  インクリメンタル・イノベーション(漸進的イノベーション)を実践し続けているダンクソフトだからこそ、プロジェクトを通じて、対話をしながら、徳島合同証券にも少しずつ持続的にイノベーションを起こしていくきっかけや気づきをご提供できるのだろう。泊社長は、「長期投資は、10年から20年ほどの長い時間をかけて繰り返しやっていくことなので、大手証券会社が取り組むのは、なかなか難しいことです。我々は、それが可能で、確実に実績を出しています。kintoneやSkypeは、長期投資をやっていく上でとても役立っているツールです。これからも、長期投資を通じて、環境に取り組む企業を応援し、持続可能な未来をつくるために、まだどこもやっていないことにチャレンジしていきたい」と、今後への想いを力強く語った。

 

業務改善ソリューション

 

導入テクノロジー

  • Office 365

  • Skype for business

  • Microsoft Intune

  • kintone

 

徳島合同証券株式会社

「直接金融を通じ人々の生活の向上を支える企業を応援する」の経営理念のもと、日本株式のスペシャリストを目指す、徳島を元気にする金融商品を創る、全社員の雇用と徳島の森林を守るという3つの経営方針により、徳島になくてはならない証券会社を目指します。

http://www.tg-sec.co.jp/