事例:「生徒の未来につながる授業」で、山間地域の中学校と連携
─ 大塔中学校 × ダンクソフト プログラミング&デザイン・ワークショップ ─
和歌山県田辺市 大塔中学校は、豊かな自然と歴史に囲まれた地域にある小さな中学校だ。大塔は「水の国和歌山」と呼ばれる清流や山々に恵まれ、四季折々の美しい風景が広がっている。また、世界遺産・熊野古道の歴史を受け継ぐ土地で、古くから人々の信仰と文化が息づいてきた。こうした環境の中で、大塔中学校は地域とともに学び、自然や歴史を活かした学習環境を実践している。
そんな大塔中学校で、2025年、2年生の総合学習に再び新たな取り組みが生まれた。同年春に、大塔中学校とダンクソフトは初の共同プロジェクトを実施。中学1年生が総合学習として、ダンクソフトの開発する WeARee! を使って、地域の魅力を伝えるスタンプラリーを作成した。今回は、第2弾の共同プロジェクトとして、2年生に進級した生徒たちのキャリア教育をダンクソフトが支援。オンラインで結び、プログラミングとデザインを学ぶ授業を提供する試みを実施した。
■ 教室から世界へ――下代先生が描いたキャリア教育の新しい構想
大塔中学校 下代滉実氏
下代滉実氏(旧姓 田代氏)が受け持つ生徒たちは、2025年春、2年次に進級した。1年次にダンクソフトとの共同プロジェクトを経験した17名である。生徒たちが1年次に取り組んだのは、地域の魅力的な場所や情報を調べて、「WeARee!」上に掲載し、デジタル・スタンプラリーを完成させたプロジェクトだった。生徒たちはプロジェクトの集大成として、田辺市市長や観光協会会長にプレゼンテーションを披露する経験もできた。下代氏は、それを、そのままに終わらせず、なんとか生徒たちに継続して広い世界を見てほしいと願っていた。
下代氏は、そのまま中学2年生となった生徒たちの担当教諭となった。中学2年次には全国的にキャリア教育が必須授業となる。下代氏は地域の職場体験に限られた選択肢を何とか超えたいと考えていた。地元の店や仕事を知ることは大切だ。しかし、子どもたちの未来には、地域では体験できないまだ見ぬ職業や技術が広がっている。それを、デジタルスタンプラリーを使った地域の魅力発見プロジェクトで強く実感していたのだ。
そこで下代氏は、「人のために働く」ことを軸に、地域で体験する「労働(お米づくり)」とオンラインで体験する「AI・デジタル」の両輪で、世界を生徒に提示する構想を描いた。
「昨年実施したダンクソフトさんとの共同プロジェクトで、生徒たちが WeARee ! を軽やかに使いこなしていました。楽しそうに地域の魅力に関する情報を集めて、動画を作成したり、インターネット上にのせてスタンプラリーをつくる姿は、とてもいきいきしたものでした。ここは田舎の学校ですから、学校の周りの地域にある、お店屋さんの店番を体験するなどの仕事だけでは、子供たちの将来にとっては足りないのではないかと考えました。そこで、すぐに以前担当してくださった酒井さんにご相談しました」と、下代氏はプロジェクト開始時を振り返る。
ダンクソフト側でプロジェクトを担当した酒井は、下代氏のアイディアをうけて、真っ先に、ダンクソフト開発チームとウェブチームが授業を提供できないかと考え、下代氏の意向を一つずつくみ上げ、授業の骨格案をつくっていった。
プロジェクト推進を担当したダンクソフト酒井と大塔中学校 下代氏
「下代先生の依頼を受けて、思い出したことがありました。それは、手前みそにはなりますが、自身が普段の仕事の中で、開発チームの竹内、そしてウェブチームの谷原から学ぶことが多々あることです。ぜひ自分が経験している学びを、中学2年生の皆さんにも体験してもらえたらいいなと、すぐに代表の星野に相談しました。ダンクソフトは、自社の未来像のなかに“テックスクールの未来”というものを掲げています。若い人たちもふくめて、一緒に学び合いができる場になっていくイメージです。これにも合致したプロジェクトであることから、すぐに星野からゴー・サインがでて、実施することになりました」(酒井)
■ 「やらせてください」―― エンジニアとデザイナーの若者支援への思い
プログラミングの授業を担当したダンクソフト 竹内祐介
開発チームの竹内は、徳島県にある阿南工業高等専門学校で授業を担当している経験もある。今回は、より年齢が低い中学生にプログラミングの授業を実施することになるが、依頼を聞いた瞬間に「やらせてください」の一択だった、と語る。
「ダンクソフトは “未来をつくる会社”であると掲げています。ですので、間接的であれ直接的であれ、どんな職種のメンバーにとっても、生徒さんに話をさせていただけることは会社の理念に合致することです。自分の持っている知識を若い方々と共有する機会があるのは、まさに未来づくりそのものだと思いました。嬉しいことです」。
デザインの授業を担当したダンクソフト谷原理恵
一方、谷原は不安を抱えていた。デザイナーとして長年の実績はあるものの、竹内のように学校でデザインの授業を持った経験はない。自分に務まるのか、そう自問した。ただ、中学生がデザイナーと接する機会がほとんどないとするならば、自分の関わりで、なにか新しいことや知らない世界が広がるきっかけになればと参加を決めた。
酒井はふたりへの信頼を胸に、オンライン授業の段取りを進めた。
■ オンラインで広がる学びの可能性、全12回の挑戦
下代氏とダンクソフトの調整が進み、2025年5月末には第1回の授業がスタートした。
第1回の授業では、ダンクソフト代表の星野晃一郎が生徒たちに語りかけた
第1回目はイントロダクションとして、代表の星野によるオープニング・トークからはじまった。
第2回から第7回までは竹内が担当するプログラミング・ワークショップ、第8回から第12回までは、谷原が担当するデザイン・ワークショップを開催、全12回のコースをつくりあげた。
どちらのテーマでも、毎回、冒頭に「今日の流れ」が示されると、生徒たちの体が前のめりになる様子がオンライン越しでも分かった。スライドは最小限にし、できるだけ生徒が自分で手を動かす時間を最大限確保するようにした。
すべてオンラインで実施するため、学校側では環境面での調整が発生した。オンラインでつないだダンクソフトのメンバーは、教室前に設置された電子黒板に映される。生徒はタブレットをひとり1台ずつ持っていて、それが学内のインターネットに接続された環境で、授業が行われた。教室と遠隔で一体感を持ちながら、プログラミングとデザインの授業が進められた。
プログラミングはScratch(スクラッチ)を採用
プログラミングの授業では、「Scratch(スクラッチ)」という開発ツールが採用された。Scratchは、特別なプログラミング言語や英語を書かなくてもよいもので、日本語で書かれたブロックを組み合わせていけばプログラミングができるツールだ。中学2年生でもプログラミング体験ができる簡易なツールのため、今回題材として選定した。最終ゴールは、一人ひとりが自分のゲームを創ること。竹内は、まず全員が取り組めるような課題を用意し、早く進む生徒には追加課題を示した。例えば、ボールを描いてみようという課題であれば、できた人はボールをもう一つ増やしてみる、というように、ステップ・バイ・ステップで手ごたえが得られるような展開を設計した。
下代氏は2年ほど前に、自分でスクラッチを操作してみたことがあったという。その時には、2、3回挑戦して無理だと感じ、つくることができなかった。今回、竹内の話を聞いて、生徒と一緒にスクラッチに挑戦した結果、自身でもプログラムを動かすことを経験できた。
「まず竹内さんからプレゼン資料を提示してくださって、今日の流れを確認した後で、実際に触る時間をつくりました。竹内さんの説明がとても分かりやすくて、同じ画面を開いて、一緒に連携して共有しながら見せてくださるので、私も一緒にできました」と嬉しそうにコメントした。
プログラミングの面白さにハマった生徒たちも出てきて、休み時間にタブレットを出してスクラッチで遊んでいたようだった。しかし本当は昼休みにタブレットは禁止だそうで、それが教員に見つかり没収されてしまったという、大変意欲的なエピソードもあったようだ。
デザインでは、より”人に伝わる表現”にフォーカス
谷原は、デザイン4原則などを示しながら、デザインとは何かを生徒たちに伝えていった。また広告を例にとり、色とフォントを工夫するだけで、その効果が大きく異なることを示し、デザインを“人に届く工夫”として示していった。谷原の説明が終わると、生徒たちは4人グループで意見を出し、個人で考え、再び集まって整えることを繰り返していった。
生徒たちが実際に作成したデザインの一部を紹介してみたい。
あるチームは、田辺市の市民憲章を、より魅力的にわかりやすくデザインしなおした。別のチームは、「自由闊達」という標語を魅力的にデザインした。また別のチームは、トイレに掲載される男女のアイコンを、おしゃれにリ・デザインした。
下代氏自身も、デザインの力に惹かれたようだった。「広告やポスターなどのデザインには、人間がとびつきやすい工夫がいくつもされていることを発見できました。フォントやカラーが少し異なるだけで、効果が違うことを、生徒たちも驚きながら実体験していました。グループでもいい作品ができたと思います。トイレのアイコンは、さっそく実際に張って、校内でも好評です」と振り返る。
これには後日談がある。生徒たちが探究学習の成果をプレゼンテーションする機会があった。その際には資料を生徒たちが一から作り、デザインの授業で学んだことが存分に活かされ、目に見えて変わったことを実感できた。というのも、去年また別のプレゼンテーション資料を作成したときには、文字がいっぱいでたくさんの色を使っていたのだった。それが、今回はイラストを効果的に入れたり、文字をたくさん含めずに、大事なことだけを書き入れ、あとは口頭の言葉で補うようにしたりするなど、谷原から聞いたデザインの学びがしっかりと表現された。
■ 先生方のサポート:よりよいオンライン学習の環境づくり
すべてが順調に進んだわけではない。大小の色々なアクシデントが起こりながらも、その都度、先生方のサポートにより切り抜けながら授業を行っていった。
プロジェクトを推進した酒井は、下代氏や副担任の適応力が素晴らしかったと振り返る。「学校の仕組み上、使えないツールや学校にないものがあります。環境に制限があるときには、アナログを上手に組み合わせて、紙に書いたり、ホワイトボードで見せてくれたり、臨機応変に学ぶ環境を整えてくださいました。不便な状況を乗り越えて、色々な試行錯誤の上に、今回のプロジェクトの成功がありますね」(酒井)。
また、授業の途上、学校のネットワーク制限でプログラミング・ソフトのスクラッチがブロックされて使えない状況に陥った。気づいた瞬間、下代氏は教育委員会に解除を依頼。竹内が生徒と応対しているあいだに、教育委員会も即座に対応してくれ、無事にスクラッチが使えるようになったというエピソードもあった。
その他にも、マイクやカメラがあるほうが便利だね、というコメントを受けて、生徒からも信頼されているベテランの副担任が、広角のWEBカメラを持ってきてくれたことがあった。そのおかげで、教室全体を広く見渡せるようになった。学校側の環境を整えていただいたことで、オンラインでも違和感がなく、手に取るように動きを見ながら快適に授業ができる環境が整ったのだった。
■ エンジニア、デザイナーからのフィードバックが視野を広げた
それぞれプログラミングとデザインの授業が終了する回には、竹内と谷原から生徒たちがつくった作品へのフィードバックが送られた。下代氏は、そのフィードバックが何よりも生徒たちの将来へ大きく寄与したのだろうと振り返る。
「お二方からのフィードバックを、生徒たちが本当に喜んでいました。実際にプログラミングやデザインを本職でやっている方々から、直接コメントをもらえる経験があってよかったです。竹内さんも谷原さんも、生徒にとっては身近には会えないキラキラした存在。こういう方々と関わる機会を持てたこと自体が経験でした」(下代氏)
実際に、授業を経て、変化が生まれた生徒たちがいた。プログラミングが得意な生徒は、実は英語が苦手。しかし、竹内から、プログラマーになるには英語や数学も頑張る必要があると聞き、逃げずに頑張らねばという気持ちが生まれてきた。また絵を描くことやデザインが好きだがハードルが高いと思っていた生徒は、もっと気軽にチャレンジしてみたらいいということを谷原から学び、自身の枠を広げることにつながった。
■「対話」が息づいていた授業プロセス
ここまでの成果に至ったのは、プロセスの随所に「対話」が息づいていたからだともいえるだろう。下代氏が、生徒が1年次から心がけてきたことが、「対話できる人になる」ことだった。何か問題が起こっても、新しいアイディアを生み出すときでも、対話して、生徒たち自身に答えを出すように、何度も何度も重ねて場を創ってきた。
今回のプロジェクトでも、ただダンクソフトから話を聞くだけに終わらず、グループになって聞いた話をもとに対話し、意見を広げたり、一人でじっくり考える自身との対話をもったりするなど、ワークショップのなかで対話のバリエーションを持たせた。ダンクソフトも、日ごろから「対話の文化」を重視しているだけに、コーディネイターを担当した酒井も、生徒たちの対話力には驚いたという。自分の意見を言うだけでなく、みんなの考えを汲んで、取りまとめて発表することにも、たけていた。
■最後に実感できた、「働くとは、誰かのために動くこと」
下代氏は、彼らが1年生の頃から真摯に生徒と対峙し、「対話」を心がけてきた
下代氏は、キャリア教育の授業を通じて、生徒たちに感じてほしいことがあった。それは、「働くとは、誰かのために動くこと。そして、その働くことを実現するためには、今ある勉強を頑張ることも大事だ」ということだった。
人には得意・不得意があって、得意を活かせる仕事を通じて人のためになれたら世界が平和になるというイメージを、最終的に生徒たちが持つことができたようだ。これは、学習を地域内に閉じずに、ダンクソフトとの共同学習の場をつくった効果だと、下代氏は振り返った。
プロジェクトを終え、竹内は、全員がプログラマーを目指す必要はないが、IT や AI を毛嫌いせずに、使える姿勢を育みたいと語る。谷原は、デザインを身近な道具として、ノートの取り方ひとつにも活かしてほしいと願う。酒井は、離れていてもキャリア教育は十分に成立することを確かめることができたと振り返る。地理的な壁を、オンラインが軽やかに超えていく。仕事には、距離の制約を受けずにも関わることができるのだ。
プロジェクトを終え、下代氏はすでに次の段階を見据えていた。3年生では、プログラミングとデザインを組み合わせ、地域に残る“形”を作ってみたいと言う。ウェブやデジタルの時代に、生徒の学びを地域へ還元していく――その構想は、教室の空気をもう一度新しくすることだろう。山間の中学校から、未来の可能性が世界に向かって広がっていくことを期待している。
★生徒たちから寄せられた感想
プログラミングの授業について
スクラッチを使って楽しくプログラミングを学べた。次回も楽しみ。
基本的なことがよくわかった。これからたくさん学んでいきたい。
色々な動きができて学びになったし、これから色々な動作を試してみてゲームを本格的に作ってみたい。
面白いことができて、もっとやりたいと思った。色々なプログラムを組んで作ってみたい。
プログラミングってこんなに楽しいと知れました。知らないこともあって面白かった。
数学みたいで難しかったけど組み立てた達成感がすごかった。
前に教えてもらったことよりも難しかったけど、新しいことを覚えられてきたのでこれから活用していきたい。
頑張って作ったプログラミングを褒めてもらえて嬉しかったです。
デザインの授業
クイズがあって楽しかった。こういう考え方もあるんだと学ぶことができた。
デザインの手順がすごく細かくて分かりやすかった。使いやすい通学バッグの谷原さんの案を聞いたとき、さすがだなと思った。
様々な種類のデザイナーの人たちがいることや、デザインにはそのデザインにした意図とかも大事ということを学べました。
デザインについて深く、詳しく知れた。ターゲットを絞り、たくさんの手順をふんでから作成していくのは大変だと思った。
条件にあったデザインを考えることが楽しかったです。想像力が働きました。
デザインの配置や色が違うだけで見え方も全然ちがうのが驚きです。機会があればどんどん使っていきたい。
色や文字の大きさを変えるだけでこんなに感じ方が変わるんだなと思った。
デザインは才能だけでできるものじゃなく、努力も必要だと分かった。
■導入プログラム
中学生対象プログラミング&デザイン・ワークショップ
■関連情報:
田辺市大塔中学校
https://sites.google.com/tanabe-ed.com/ohto-jhs?usp=sharing大塔ストーリー、みぃ~っけた!
https://oto2024.wearee.jp/tes/rally/npftv6事例:大塔中学校が取り組んだ「田辺市の魅力発見プロジェクト」
~「WeARee!」スタンプラリー開発が生徒のデジタル力をひらく~
https://www.dunksoft.com/message/case-ohtojrhighschool-wearee
■その他、学校との連携プログラム:
ID学園事例:高校生が地域に飛びだし、デジタル・スタンプラリーをつくる実践的な共同学習プログラムを開発
https://www.dunksoft.com/message/case-idgakuen-wearee飯能スタンプラリー:あなたの「おもしろい」がみつかる ~飯能編~
https://idgakuen.wearee.jp/idgakuen-akinai
