#WeARee!

事例:大塔中学校が取り組んだ「田辺市の魅力発見プロジェクト」

~「WeARee!」スタンプラリー開発が生徒のデジタル力をひらく~

パートナー:田辺市立大塔中学校 様


左から、ID学園高等学校 宮坂修平氏、大塔中学校 田代滉実氏、ダンクソフト 酒井啓之

和歌山県田辺市にある大塔中学校は、市内に流れる富田川の中流付近にある。そこは山や川に囲まれた自然豊かな地域だ。その大塔中学1年生の総合学習の授業で、「WeARee!」のデジタル・スタンプラリー機能を使ったプロジェクトが行われた。17名の生徒たちが協力し、地域の魅力的な場所や情報を調べて、「WeARee!」上に掲載して、デジタル・スタンプラリーを完成させた。昨年12月には、プロジェクトの集大成として、田辺市市長や観光協会会長にプレゼンテーションを披露した。

プロジェクトの企画・推進を行った大塔中学校1年生を担当する教諭である田代滉実氏、ダンクソフトと田代氏を結んだ、ID学園高等学校の教諭である宮坂修平氏にお話を伺った。

生徒たちに広がった、大塔地域の人口減少問題への危機感

2000年から全国の中学校に、「総合的な学習の時間」の段階的な導入が始まった。「総合的な学習の時間」とは、文部科学省によると、変化の激しい社会に対応した新しい学習を指す。探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行う。これらを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目指すものだ。大塔中学校でも授業として導入され、1年生はふるさと・地域学習、2年生ではキャリア教育を行っている。

「もっとおもしろいことがしたいと感じた」と語る、田代氏

これまで、1年生では自分たちの住む地域を調べて、新聞形式などでまとめることが多かった。しかし、田代氏は「自由のきく授業だからこそ、せっかくだからもっとおもしろいことがしたい」と感じていた。そこで、入学したての4月に、生徒たちと一緒に和歌山大学へ、教授の話を聞きに行った。その際、人口減少がこれからの和歌山の大きな課題だという話を伺った。生徒たちからは、「大塔はどうなるのだろう?」という不安の声があがり、人口減少への危機感が広がったのだった。

調べてみると、大塔地区の人口は、10年後には1000人台になってしまうことが分かった。「本当に大塔がなくなってしまうのではないか」「どうにかしなくては…」。生徒たちからの疑問や想いを聞き、田代氏は、今年の総合学習の進め方を決めた。それは、「この大好きな地元のことをなにか発信したい」という、生徒たちの願いをもとに、それを形にすることだった。

地域の魅力を伝えたい。そして、「WeARee!」との出会い

ID学園高等学校様事例

高校生が地域に飛びだし、デジタル・スタンプラリーをつくる実践的な共同学習プログラムを開発

そこで、まずはKJ法を用いて、地域の魅力と課題を洗い出すことから始めた。同時に、この魅力をどうしたら広く発信できるかという方法を検討した。田代氏が前校長に相談すると、東京のID学園高等学校で、「WeARee!」というツールを使ったデジタル・スタンプラリーを作る取り組みをしているという事例を耳にした。田代氏は「これだ!」と感じて、すぐにID学園高等学校の宮坂修平氏に連絡をいれることになった。ID学園高等学校とダンクソフトは、2023年に、最新のIT技術を搭載する「WeARee!」を使った、実践型の共同学習プログラムを実施していたのだ。

事情を聞いた宮坂氏は、喜んで田代氏にダンクソフトを紹介した。最初に連絡を受けたのは、ダンクソフトで「WeARee!」を担当する酒井だった。大塔中学校からのリクエストを代表の星野に相談すると、「ぜひ、やりましょう!」と承認が下り、とんとん拍子に話が進んだ。酒井は「学校で使われると聞いた時、まず環境のことを考えました。プロジェクトは面白そうだけれど、どんな使われ方をするのか。パソコンなのかタブレットなのか。ネットワークはどんな環境か。学校のデジタル環境が分からなかったので、最初は少し不安でした」と、スタート当初を思い出す。

ID学園で「WeARee!」のプロジェクトを担当した宮坂氏は、「神田や飯能でスタンプラリーを作って、ある程度「WeARee!」のこともわかっていたので、田代先生の大塔中学校でも、絶対に大丈夫、うまくいくという自信がありました」と、振り返る。宮坂氏は、ダンクソフトと実施した共同学習プログラムを通じて、「WeARee!」が生徒たちの得意なことで関われるツールであることを魅力に感じていたという。デザインが得意な生徒、文章を書くのが得意な生徒、フィールドワークなど外に出て活動するのが好きな生徒などがいても、それぞれの個性を活かして、色々なかかわり方ができる。宮坂氏が授業で実現したいことが、満たせるツールだったのだ。「生徒たちならではの遠回りや回り道を許容できて、それが面白味を増すんです。酒井さんのサポートと「WeARee!」があれば、間違いなく面白い取り組みになる確信がありました」と、当初から成功を予感していたと語った。

大人たちの想像を超えて、中学生たちは「WeARee!」を自由自在に使いこなした

「WeARee!」は、デジタル・スタンプラリー、バーチャル・ツアー、​3DモデルによるAR機能などを備え、リアルな場を活かしたデジタル・イベントや交流コンテンツがつくれるプラットフォームだ。これまでも、地域の観光協会や、地域活動団体、アート展覧会など、様々な場面で使われてきた。

大塔中学1年生のみんながプロジェクトをはじめるにあたり、まずは、田代氏が代表して、酒井から「WeARee!」の説明を受けた。「ワクワクしかなかったです。好きなように写真をはめ込んだり、字体を変えられたりと、個性も発揮できる。私が使えたら、みんなも使えるという自信はありました」と、第一印象を楽しそうに田代氏は語った。

オンライン・レクチャーの様子

実際、生徒たちは、酒井からたった1回のオンライン・レクチャーを受けただけで、あとはゲームを触る感覚で「WeARee!」を使いこなすことができた。「ダンクソフトさんは、いちから全部教えてくださるし、連絡するとすぐに対応してくださるので、本当にありがたかったです」と、デジタル面での苦労はほとんどなかったと、田代氏は振り返る。

酒井は進める中で、タイトル画像の入れ込みなどをサポートしようかと提案したが、「生徒たちがやりますので大丈夫です」と、田代氏が生徒主体で進めたそのプロセスにも感心したと、酒井はコメントする。

「見てもらうとわかるとおり、生徒たちのコンテンツはとても個性的です。きれいに形を整えることもできましたが、表現方法も、字体も大きさもフォーマットも、子供たちにすべて任せました」。田代氏は、あくまでも生徒の主体性を尊重する。「タイトル画像も、子供たちにどうしたいかをまず問いかけました。そうしたら、これまでも自分たちで話し合って決めてきたから、タイトル画像も自分達で作りたいと。この取り組みを通じて、話し合う機会が増えて、子供たちに対話力が備わったと感じています」。

生徒たちの個性豊かなコンテンツ
https://oto2024.wearee.jp/tes/rally/npftv6 

大塔中学校を訪れ、生徒たちと交流のある宮坂氏も、田代氏による総合学習の進め方に着目していた。「自分の伝えたいことを文章で表現する生徒さんもいれば、紙芝居を自分で作っている生徒さんもいて、本当に生徒たちが主体的に取り組んでいるなぁと感じました」。ID学園の場合は、一般に公開することを意識し、ある程度の体裁を整えてきれいに見えるよう、生徒たちと努力したという。「自由に表現することもできれば、きっちりしたい場合にも対応できて、「WeARee!」の懐の深さを感じます。」と、ツールを評価した。

酒井は、「生徒たちは、本当に好きに思ったままを表現していました。そして、製品の使い方も本当に自由で新鮮でした。これからはそういった自由に表現したいという思いを受けとめられるような開発もしていきたい」と語る。今までは、使い方をある程度想定して製品を提供してきた。しかし、今回の生徒たちの使い方を見て、新しい発見があった。手取り足取り説明する必要もないのだと気が付き、ユーザーの自由な表現にゆだねる面白さを取り入れたいと、新たな開発姿勢を考えられたと言う。

田辺市市長、観光協会会長へのプレゼンテーションへの道

「WeARee!」でスタンプラリーが完成すると、「あれ?スタンプラリーが出来上がったけど次は?」「作って終わったら意味がない」「どこかで紹介したい」と、子供たちから新たな声が寄せられた。YouTubeやSNSなどを使って発信することも考えたが、地域の人たちの力があっての学校だ。せっかくなら地域の人に喜んでもらいたい。地域の人にも使って欲しい。そして地域の人から応援されるような人になって欲しいという思いから、地元の新聞社を呼んで発表しようということになった。さらに、田代氏のネットワークで、田辺市市長や観光協会会長、地元企業の方々や議員さんたちにも、発表会に参加してもらうことが実現した。

プレゼンテーションの様子

いよいよ開催された12月の発表会では、生徒たちが主体となり、ひとりひとり発表の担当を設けて、全員が必ずプレゼンテーションするスタイルで進めた。

観光協会会長は、「14個つくられたポイントをめぐって、スタンプを全部ゲットしたいですね」と、スタンプラリーをとても気に入ってくださった。市長からは、「魅力があるからこそ課題もあるし、課題があるからこそ魅力もある。それをきちんと理解して調べていることに感心しました。スタンプラリーもよくできていて、おもしろいですね」と、生徒たちの活躍を評価していただいた。「WeARee!」でスタンプラリーをつくりこむ努力に加えて、プレゼンテーションを猛特訓したことが、功を奏した。

多種多様な人たちとの関わりのなかで、生徒の可能性がひらく

大塔中学校の今回の取り組みについて、宮坂氏は、「実際にスタンプラリーを作るのは生徒たちですが、困ったことを助ける田代先生、東京からリモートで支援する民間企業の酒井さん、そしてなんだか楽しそうな他校の教員である私。色々な大人が楽しそうに関わっていることが、今回の取り組みの特徴であり、生徒たちの刺激にもなったのではないか」と、田代氏のプロジェクトを評価する。

実際に、田代氏や、宮坂氏、酒井のほかにも、多くの人たちが関わった今回の取り組みだった。マナーや礼儀、お茶出しの仕方、身だしなみ、プレゼンテーションの特訓も受けた。ダンクソフトの星野、徳島オフィスのメンバー、そして「WeARee!」チームのジョーダンが、発表直前の最後の仕上げとしてオンラインで行った、模擬発表を聞いて、フィードバックした。

■大塔中学校1年生は全員、「学校は楽しい!」

学期の途中で集めたアンケートでは、プロジェクトに参加した1年生全員が、「学校が楽しい」と答えたそうだ。小さいころから同じメンバーで育ってきた生徒たちは、仲良くもあるが、変化のないメンバーのため、どこか割り切った付き合いがあったという。それが一転、今回の取り組みを通じて、生徒たちは学び合い、お互いの新しいところを発見し、団結が深まった。生徒たちは、田代氏からの指摘も受け入れて、十分に考えて次のステップに活かすよう、思考を働かせることができるようになっていった。

「学習は、多様な人と人が関わることが大事なんですよね」と、酒井が言う。ダンクソフトでは、多様性を重視して、お互いに対話することで、ともに学びあう関係を重視している。その考え方は、田代氏と宮坂氏も賛同するものだった。関わるメンバーの考え方に共通項があったことが、プロジェクトの順調な進展に大きく寄与した。

地域への思いを育む、継続的な共同学習プログラムを

田代氏いわく、今回スタンプラリーを作った経験から、生徒たちの中には、地域のために何かしたいという思いが確実に芽生えたそうだ。そこで、2年生では、キャリア教育を通じて地域から学び、3年生になった時には、2年間の学びを何らかの成果として地域にお返しできればと考えているとのことだ。田代氏自身が音楽の教員であることから、3年時には、地域の魅力が詰まった歌詞を作り、AIを使って作曲し、地元に流れる5時のチャイム音にしたいのだと、今後のイメージを共有した。

今度の展開イメージを語る、宮坂氏

「田代先生や私のように、楽しいことを情熱を持って推進していこうとする先生方はたくさんではないと思いますが、まだまだ全国にはいらっしゃると思うんです。そうした方々と出会って、横に斜めに連携していけるといいですね。先日はフランスで教育の国際サミットに参加してきましたが、このモデルを、国内だけでなく、世界にも事例として持っていけたらと考えています」と、宮坂氏も、今後の展開イメージを頼もしく語った。

「ぜひデジタル・スタンプラリーも、地域住民の皆さんが使えるものになり、また新しい1年生が魅力的な地域の場所を来年には追加していくなど、育てていただけたらいいですね」と、酒井は「WeARee!」を継続して地域のツールとすることを提案する。

今回の取り組みを通じて、生徒たちは、人間力の形成に大事な、主体性、対話力、探求心、協働する力などを、総合的に学んだことになる。田代氏も、宮坂氏も、ダンクソフトも、今回の取り組みだけに終わらせず、次年度のキャリア教育でも、引き続き連携することを検討している。

今回、3者で対話するなかで、田代氏・宮坂氏の価値観が、ダンクソフトが大切にしている価値観と近しいことが見受けられた。多様性、対話、協働、チャレンジし続けること、未知のことほどおもしろがってチャレンジすること、リバース・メンタリング、あいだを結ぶ力など、これらの重要性をともに再確認する機会となった。学校とIT企業という異なる領域ではあるが、深層の物語を共有しているからこそ、協働が成功裏に進んだ。3者による今後の展開に、ますます期待がかかる。


■導入テクノロジー

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