#2019

事例:業務プロセス効率化を超え、農業の新たな価値創造へ

お客様:ひむか野菜光房株式会社様

デジタル・テクノロジーの導入をきっかけに、残業時間の削減、野菜の生産や販売の可視化のみならず、人材育成を実現している企業がある。宮崎県東臼杵郡門川町で太陽光活用型農業を行う、株式会社ひむか野菜光房様だ。

現場の課題となっていた、受注後の煩雑な情報入力

ひむか野菜光房は、農業の活性化を通じた地域への貢献を目指して、2012年に創業された企業だ。安定的に野菜を生産できる環境を作り、高齢者や障害のある方でも参加できる、システム化された農業を展開している。宮崎県の北部は、昔から「ひむか(日向)」と呼ばれ、南国宮崎の中でも冬の日照に最も恵まれた地域だ。これを活かし、豊富な太陽光と地下水など宮崎の恵まれた自然を最大限に活用し、ビニールハウス内の温度や湿度をコンピュータで制御する太陽光活用型農業が特徴だ。天候の影響を受けにくく、安全・安心で新鮮な野菜が生産できる。

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 ひむか野菜光房では、野菜の発注を受けると、今までは2つの作業を行っていた。ひとつは、伝票を作成すること。もうひとつは、同じ情報をExcelに入力することだ。しかし、取引先が多く、入力する情報量が多いため、担当者は業務時間内に業務が終わらず残業が日常化していた。同時に、入力ミスを起こしかねないという課題を抱えていた。

一方、ひむか野菜光房 取締役の森雅也氏は、以前、別のプロジェクトでトマト栽培にクラウド・サービス kintoneを採用した経験を持っていた。ひむか野菜光房の立ち上げに関わった森氏は、同社の旅費精算プロセスにkintoneが利用されていることに目を付けた。kintoneとは、業務に合わせて簡単にシステムを作成できるクラウド・サービスだ。業務改善や脱・俗人化を実現するとともに、働き方改革やコミュニケーション円滑化が推進され、快適な業務環境をつくることができる。現場の課題となっていた、野菜の注文を受けた後の煩雑な情報入力には、kintoneが有効なのではないか。業務の軽減や入力ミス削減が解決できるのではないかと考えた。そこで、森氏は、ダンクソフト片岡に相談を持ちかけたのだ

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kintoneで情報入力を効率化し、まずは現場の課題解決を

ダンクソフト片岡は、kintoneエバンジェリストであり、kintone認定アプリデザインスペシャリストカスタマイズスペシャリストを取得しているメンバーだ。高知を拠点に、ダンクソフトのみならず、高知県佐川町役場に携わり、自らもソフトビレッジというIT企業を経営し、多くのプロジェクトを推進している。片岡はまず、宮崎県のひむか野菜光房を何度か訪れ、直接対話することで、浮き彫りになった課題をもとに、フェーズに分けて取り組むことを提案した。まずは、野菜の生産・出荷情報の入力を効率化することから取りかかることにした。その後、徐々にチーム力が向上し、チーム内にコミュニケーション活性化が起こることを想定した。

「私たちの会社では、社内にITシステムの専門家がいないため、今回、新たにこのプロジェクトの担当者をつくりました。ダンクソフトさんと一緒に取り組むスタッフは、発想が柔軟で、パソコンを操作するのも得意な若手社員が適任と考えました。今回、入社5年目の佐藤友規を、プロジェクトの主担当としてアサインしました」と、代表取締役社長の島原俊英氏は体制づくりを振り返った。

 こうして、プロジェクト全体を見守る森氏のもと、現場でプロジェクトをメインで担当する佐藤氏とダンクソフトが連携して、2018年5月からプロジェクトがスタートした。

ビデオ会議システムによるコミュニケーションで、迅速な連携が可能に

このプロジェクトをきっかけに、ひむか野菜光房はビデオ会議システムによるコミュニケーションを導入した。テレワークとは、テレ、つまり、離れたところにいるもの同士が連携してワークする(働く)ことをいう。その意味では、佐藤氏はこのプロジェクトを通じて、初めて「テレワーク」という働き方を実践する機会を得ることができた。高知を拠点とする片岡にとっても、佐藤氏と定期的にビデオ会議システムを利用して会話することができ、移動時間や移動コストをかけることなく、ITシステムの迅速な改良に専念することができる。

佐藤氏は、片岡とのコミュニケーションをオンライン会議で実施し、自らがテレワークを実践することで、その効果を実感した。

「今回、新たにビデオ会議を行う専用スペースを事務所内に設けるなどの工夫をしました。片岡さんとの会議は、PCの画面上でお互いの顔を見ながら行います。資料を共有することもでき、距離を感じることなく、同じ会議室で打ち合わせしているかのように円滑にコミュニケーションできて、とてもよかったです。今は、テレワークを利用しているのは私だけですが、今後は、社内のみなさんにも使っていただけるようにしていきたいと思います」

取締役社長の島原俊英氏と打ち合わせをする佐藤友規氏

取締役社長の島原俊英氏と打ち合わせをする佐藤友規氏

効率化を超えて、正確な情報をもとにした適切な予測へ

今回のプロジェクトにおいて、まずは経理ソフトとkintoneの相互連携が必要だった。プロセスを進めるにあたり、佐藤氏が社内スタッフの声をヒアリングし、それをうけて、片岡が技術的な作業を担った。

スタッフからのフィードバックも様々だった。受注数の入力業務では、kintoneに慣れないためか、以前のExcel入力よりも入力作業が難しくなっているとのフィードバックもあった。ふたりは、遠隔で連携しながら、段階的に生産管理システムの利便性を向上させていった。

「社内にITが詳しい人がいないので、急いでシステムへの改良が必要な際に、寄り添ってサポートしていただくことが重要でした。片岡さんは、困ったことがあると、社内にいるかのようにすぐに対応してくださり、とても心強い存在でした。

新しくできた生産管理システムでは、入力時間の短縮ができて、ミスが減ったため、生産情報や販売情報を正確に把握することができるようになりました。さらに、顧客ごとの注文予測や生産計画を立てやすくなりました」

 徐々に改良を重ねることで、生産・販売情報を的確に把握できるようになった。さらには、蓄積した情報を活用して、分析ができるようになっていった。現場では、ダンクソフトと新しい仕組みを取り入れたことをきっかけに、少しずつ、小さなイノベーションの積み重ねが起きていた。

時間や精神的な余裕が生まれ、自分事として、皆が関わる新システムに

生産管理システムにkintoneを導入してはみたものの、なかなか完全移行をすることができずにいた。従来のITシステムで業務を進めていくことに慣れていたスタッフにとっては、当初、kintoneへの移行は入力に手間がかかり、難しいことだった。

「スタッフの目線でわかりやすいマニュアルを作成したり、使い方について、社内セミナーを実施したりして、試行錯誤で進めました。また、スタッフからのフィードバックは、片岡さんにすぐに改良していただくことができたので、ITが苦手な人にとっても、使いやすいと実感してもらえるようにしました」と、佐藤氏は振り返った。

あるとき、役員会で、kintone導入効果について佐藤氏みずからが説明し理解を求めた。kintoneの方が、データ量が多くなるほど短時間で作業できることを実証したことが、役員の気持ちを大きく動かした。kintoneへの完全移行が決定された。そして、役員たちに、最低6か月間は利便性がどうであっても、とにかく使い続けることで効果を測ってみようとの意識が生まれた。

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新年度が始まった2019年4月に、島原社長は、kintoneへの完全移行を全社員に宣言した。いよいよ、すべてのスタッフがこの仕組みを活用して業務に取り組むことがはじまった。この時、kintoneに久しぶりに触れたあるスタッフは、以前よりもさらに利便性が上がっていることに、大変驚いたという。

 従来のシステムでは、一部の人だけが入力業務に関わっていたが、kintoneへの完全移行後は、全員が入力業務に関わるようになった。このことが、スタッフやチームに今までにない変化をもたらしている。

「まずは、みなさんが業務時間内に仕事を終えることができるようになりました。これにより、時間的にも精神的にも余裕が生まれるようになりました。ミスが減り仕事の正確さが生まれ、予測もできるようになり、収益アップにつながるいい循環が生まれていると思います。また、生まれた余力で、今までやれなかった他の業務に取り組むことができています。

さらに、出荷表の改良提言など、みんなでより使いやすくしようという前向きな空気がチーム全体に生まれていると実感しています」

スタッフのフィードバックを取り入れて改良を重ねた仕組みの運用開始による効果に、佐藤氏は大きな手応えを感じている。kintoneへの理解が進み、改善点を積極的にフィードバックするスタッフも出てきた。他人事ではなく、自分事としてシステムをより使いやすくすることを考え、行動するようになっていた。完全移行から半年が経過した時点で、社内には、新システムをめぐってさらに対話が生まれ、スタッフ同士のよりよい関係が浸透してきている。

「人が育つ場」としてのプロジェクトの価値

島原社長は、ダンクソフトと取り組んだからこそ、実現できたことがあるという。

代表取締役社長の島原俊英氏

代表取締役社長の島原俊英氏

「ITシステムの専門家など人材をたくさん抱えることができない当社にとって、ダンクソフトさんが、外からでも、まるで社内にいるようにチームとして動いてくださることが頼もしかったです。佐藤は、片岡さんと一緒にプログラムをつくるプロセスを通じて、自身がいちばん大きな成長を遂げたと思います。会社の課題を把握し、的確に対応できるスタッフに、育てていただきました。また、佐藤にとっては、ダンクソフトさんが第三者の存在だったからこそ、学べることが多かったのでしょう。今回をきっかけに、佐藤により責任感が生まれたことは、大きな進化です。社員全員と関わりながら、要望を聞いて改善していくプロセスの中で、様々な困難があったと思いますが、身近に相談できる存在としてダンクソフトさんがいたおかげで、乗り越えられたと思います。今では、彼が次の農場長候補として、これからに期待しています」

「効率化や収益率をあげることも大切ですが、ひむか野菜光房ならではの価値を出していくことが必要だと考えています。今、新たな野菜の試験や開発に時間を割いたり、レタスなどの品種を改良したりしています。今後は、ダンクソフトさんにご協力をいただきながら、生育日数の把握、他の野菜4品種の生産計画・予測など、農場管理を含めた全体的なシステム化を、順次導入できるように進めていきたい。また、企業として、効率化のその先に、お客様へさらに価値を提供していかれるように、さまざまに工夫していきたいです。システムによる効率化が、さらなる価値創造をもたらしてくれると考えています」と、今後の展望を語った。

太陽光と地下水など宮崎の恵まれた自然を最大限に活用した太陽光活用型農業

太陽光と地下水など宮崎の恵まれた自然を最大限に活用した太陽光活用型農業

 

業務改善ソリューション

クラウドサービス 導入・運用支援

 

導入テクノロジー

kintone」 

ひむか野菜光房株式会社

農業の活性化を通じた地域への貢献や高齢者や障害のある方でも参加できるシステム化された農業を目指し、2012年に設立。天候の影響を受けにくく、安定した品質の野菜を生産できる太陽光活用型野菜栽培を行っている。豊富な太陽光と地下水など宮崎の恵まれた自然を最大限に活用し、ビニールハウス内の温度や湿度をコンピュータで管理し、安全・安心で新鮮な野菜を生産する。

http://himuka-yasai.jp

「カスタマー・インティマシー(顧客親密性)」を高めるデジタル


 ■やっぱり「人と人との関係」が大事だから

 デジタルではじまりをつくる「Digital Re-Creation(デジタル・リクリエーション)」を、ダンクソフトは理念としています。では、デジタルの、どんな分野で力を発揮していくのか? ダンクソフトのデジタルの特色はどこにあるのか? ダンクソフトが取り組むデジタルは、「カスタマー・インティマシー」向上のためのデジタルだと、位置づけています。

 経営上の重点項目とされる3つの領域があります。①「オペレーショナル・エクセレンス(業務の卓越性)」、②「プロダクト・リーダーシップ(製品リーダーシップ)」、③「カスタマー・インティマシー(顧客親密性)」の3つです。デジタルはいずれのためにも、もちろん必須ですが、ダンクソフトのデジタルがどこで最も力を発揮しているかといえば、それは「カスタマー・インティマシー」の分野だと考えています。

 インターネットで検索すると、「カスタマー・インティマシー」は、顧客を囲い込むことだという語釈が載っていますが、これは間違いです。相手を囲い込むのではなく、“相手と、どうよりよい関係をつくれるのか”、ということが重要です。

 人と人とのつながり、広がり。そこから生まれる親密度を、ダンクソフトはずっと大切にしてきました。なぜなら、やはり「人と人との関係」がいちばん大事だと考えているからです。そして、ここにデジタルの力が加われば、コミュニティはもっと活性化していきます。

 

■1992年。「義理かんり for Access」リリース

 私が代表になってまだ数年の頃の、あるソフト開発の話です。

 1992年11月、マイクロソフト社からデータベース管理システムのMicrosoft Access1.0が、米国でリリースされました。当時まだデータベース製品の種類も少なく、価格も高価だった時代です。それがたった99ドルでマイクロソフト社から発売される。とにかく一刻も早く欲しくて、11月にロサンゼルスまで買いに行って、英語版を入手してきました。

 使ってみると、「これは使える」「いける」という感触でした。そこからすぐにAccess用ソフトの開発に着手。その年のうちに、人脈情報を整理できるソフト「義理かんり」をリリースしました。ちょうどバブル崩壊後の非常に苦しかった時期でした。

  

■マイクロソフト社が異例の「振込用紙封入」

 93年にはMicrosoft Access日本語版がリリースされますが、このとき、マイクロソフト社のDMに、「義理かんり」の案内チラシだけでなく振込用紙が封入されました。これが爆発的に売れたんですね。初期のアクセスのユーザーで、ダンクソフトの名前を知らない人はいないと思います。

 マイクロソフトのリクエストがあり、当時としてはめずらしく全部オープンソースとして発売したこともあり、開発者の購入も多かったと聞いています。その後、97年までバージョンアップを続けながら展開して、通算で4,000本を超えるヒット商品となりました。 

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オフィス入口に展示されている「義理かんり」CD-ROM

参考情報: https://www.dunksoft.com/makanai08/



■「カスタマー・インティマシー」 の“はじまり”

 「義理かんり」の機能はシンプルで、基本情報に加えて、年賀状やお中元・お歳暮などの贈答を記録するといったものでした。住所録ソフトなどと発想は似ています。ただ特徴的だったのは、グルーピングができること。しかも1人最大10グループまで登録できました。 

 リレーショナル・データベースでいちばん使われるのは、やはり人に関わるところです。なかでも悩みのたねがグルーピングなんですね。「義理かんり」では、そこを簡単に分類できるようにしたおかげで、人の情報の整理がらくになりました。

 人脈情報、多様で柔軟なグルーピング、お客様の先のお客様との関係を大切にする。ダンクソフトの姿勢として、「カスタマー・インティマシーのためのデジタル」の、ひとつの“はじまり”ともいえるケースかと思います。

 

■「ダンクソフト・バザールバザール」への継承

 ふたつめは、「カスタマー・インティマシー × デジタル」の、現在進行形のケースです。

 90年代に展開した「義理かんり」の発想や経験は、その後、2006年に開発した「会員かんり」を経て、今の「ダンクソフト・バザールバザール」の理念に継承されています。

 「ダンクソフト・バザールバザール」は、会員組織を運営する人のためのクラウド・サービスで、リリースは2015年。会員制で、信頼できるメンバーが集まりながらも、多様なネットワークの出会いも生まれる。しかも運営側である事務局の負担が軽減できるのが特徴です。 

 ここでもグルーピングのしくみが、ひとつのポイントになっています。「義理かんり」の頃からすれば、扱う情報量も表現の手段も、比較にならないくらい増えました。写真や色などビジュアルも含めて、より多様な人の情報を表現することができるよう、日々、改良しつづけています。


 

■イベント活動が3倍になり、関係がより親密に

 このサービスをたくみに使って、会の活性化をすすめておられるのが、一般社団法人 東京ニュービジネス協議会(NBC)様です。ニュービジネスの振興のため、国民経済の健全な発展に寄与することを理念とする団体で、会員の多くは経営者です。

 以前は、イベント活動が月に5回程度でしたが、「バザールバザール」を利用してからは、年間開催回数140〜150回、トータル参加人数は年間のべ5,000人と、大幅に増えました。イベント管理が効率化されたことで、事務局の煩雑な手間が省けるようになったことが大きな要因です。その結果として、会員同士、会員と事務局の親密度が、格段に向上しています。

NBCイベントのひとつ「ニッポンつながる委員会」。中央はNBC下村 朱美会長(株式会社ミス・パリ 代表取締役)

NBCイベントのひとつ「ニッポンつながる委員会」。

中央はNBC下村 朱美会長(株式会社ミス・パリ 代表取締役)

■デジタル × ダイバーシティ × ダイアログ

 NBC様では、政策提言をまとめることもしていますし、ゲストを招いてのセミナーや勉強会から、会員同士の交流、趣味の部会まで、さまざまな活動があります。先程お話ししたグルーピングやプロフィール情報など、「バザールバザール」上で参加者や会員情報が得られることが、交流のきっかけも生んでいます。

 NBC様は、「バザールバザール」を本当に上手に活用されています。デジタルを通して、多様で多彩なメンバーのあいだに、対話が生まれています。以前に「3つのD」の話をしましたが(→“SMART” とは「3つのD」)、まさに「3つのD」(デジタル、ダイバーシティ、ダイアログ)が相乗効果を生んで、カスタマー・インティマシー(顧客親密性)が向上している好例だと言えます。

 

■次は、漢字を使ったタグ・システムのリリースへ

 さいごは、これからやっていきたいことです。それは、これまでずっとやってきた、人と人脈のグルーピングを、もっと使いやすく、もっと楽しくしていくことです。

 具体的には「漢字」のアルゴリズムをのせようかと考えています。漢字は、タグとしても割と日本語に向いているんですね。表意文字だから一文字でわかりますし。

 今のタグは英語が多く、スペルを間違うとヒットしません。それを漢字一文字で表現していく。そこに色も使えば、個とグループを同時に表現できます。まずは産業分類や図書分類やSDG’sなどで使ってみることから、来年にはスタートを切れるのではと思っています。

 

■デジタルが進化して、アナログの豊かさに近づいている 

 今の時代、一人何役もこなすポリバレントな人が多いですし、これからもっと増えていきます。いくつものチームやコミュニティに同時に属していることが普通になると、何枚名刺を持っても追いつきません。デジタルなら、一人がいくつもの役割を担っていることが表現できます。個も多様なチーム属性も、両方表現できる。デジタルが進化してアナログの豊かさに近づいているのだと思います。

 技術はやはり「どう使うか」にかかっています。何のために使うのか。目的は何か。冒頭で話したように、ダンクソフトがめざすのは、デジタルではじまりをつくる、「デジタル・リクリエーション」の未来です。 

 デジタルで効率化ができるのはあたりまえ。その先の、いいコミュニティづくりに貢献したい。先月も話したことですが、やはりこれが大事だと考えていることなんですね。だからダンクソフトのデジタルは、「カスタマー・インティマシー」のためのデジタルなのです。

 


◆あわせて読みたい関連コラム 

・ダイバーシティを活かすデジタル・ネットワーク / 「ポリバレント人材は『一人十色』」

https://www.dunksoft.com/message/2019/06/03 

・“いいコミュニティ”はデジタルとともに

https://www.dunksoft.com/message/2019/11/5

・Digital Re-Creationの実際

https://www.dunksoft.com/message/2019/5/20 

“いいコミュニティ”はデジタルとともに

代表メッセージ

もくじ

  • デジタル・テクノロジーで地域コミュニティを支える

  • 地元高専の卒業生や企業も連携

  • 「テレワーク」が可能にする地域活性化

  • 地域防災を視野に入れた安心・安全の関係づくり

  • ソトの地域も社会的ネットワークの一員に

  • 地域に評判情報が循環し、互恵的関係をつくる

  • 高専のまわりに“いいコミュニティ”がうまれる未来

  • 8年つづく「徳島サテライト・オフィス視察ツアー」

  

■デジタル・テクノロジーで地域コミュニティを支える

 前回に続き、「コミュニティの活性化とソーシャル・キャピタル」について、最近のトピックを交えながら話していきます。

 今回取りあげるのは、徳島の事例です。徳島県阿南市に、いま、地元の企業をはじめ、学校、地域で働き暮らす人たち、そして行政職員、さらに他地域の関係者も含めた、ゆるやかな結びつきができつつあります。ダンクソフトも、デジタル・テクノロジーで、この地域コミュニティを“いいコミュニティ”にしようと、積極的に関わっています。

 

■地元高専の卒業生や企業が連携

  去る9月24日、阿南高専リカレント教育「次世代光関連事業開発支援プロジェクト」キックオフ・フォーラムが、徳島市の四国大学交流プラザで開催され、ダンクソフトも参加しました。内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金事業」に採択された徳島県計画の一環として開催されたフォーラムです。

 主催の阿南工業高等専門学校(以下、阿南高専)とダンクソフトとのご縁は長く、徳島オフィスに常駐する竹内が講師をつとめていることは、これまでにもご紹介しているとおりです。また同校を支援する卒業生や、企業約100社からなる“ACTフェローシップ”という会にも参加しています。

「次世代光関連事業開発支援プロジェクト」キックオフ・フォーラム

「次世代光関連事業開発支援プロジェクト」キックオフ・フォーラム

■「テレワーク」が可能にする地域活性化

 キックオフ・フォーラム当日は、ブースを展示して、テレワークや阿南高専での授業の様子などについて、参加者たちに紹介しました。

 デジタルを取り入れることで、地域の優秀な学生がテレワークによって地元に残ることができる。地域の企業も、テレワークという働き方を知って実施すれば、優秀な人たちを採用でき、地域がより活性化できる可能性につながる。ふだん私たちが言っている通りの話をしました。

 最近、リカレント教育や地方創生の流れの中で、“定着や定住”ということが、やっと言われ始めたようです。移住でなく、いったん外に出た経験のある地元の人が、地域に戻ることも含めた“定住”。私たちは以前からその重要性をお話ししてきていますが、行政側の動きとしても、始まってきたようです。人口減少を問題視すると、移住ではパイの奪い合いになってしまう。だから“定住”が重要です。今まで上がってこなかったトピックでしたが、これからもっと言われだすでしょう。

フォーラム会場で参加された学生と対話する株式会社ダンクソフト 開発チーム マネージャー 竹内祐介

フォーラム会場で参加された学生と対話する株式会社ダンクソフト 開発チーム マネージャー 竹内祐介

■地域防災を視野に入れた安心・安全の関係づくり

 地方定住の流れが進むには、やはり地方・地域のコミュニティがどれだけ活性化して、魅力があるかが大事になってきます。ただ、昔のように住民が中心となった自治会のようなコミュニティというのは、もうあまり現実的ではありません。企業も地域コミュニティの担い手になる役割を引き受ける必要がある時代に、もうなっていると思います。

 地域防災の観点から見てもそうですね。安心・安全のコミュニティは、相互信頼にもとづく社会的ネットワークがないと成立しません。もちろん互恵的関係が成り立っているコミュニティです。つまりは「ソーシャル・キャピタル」が豊かであるということです。コミュニティが活性化していれば、災害発生時にセーフティネットとして機能します。その際に、オフラインの関係だけでなく、オンライン上での、デジタル・テクノロジーを有効活用した日ごろからの関係づくりが、とても重要になってきます。

 

■ソトの地域も社会的ネットワークの一員に

  ソトの地域との社会的ネットワークも大事です。一地方、一地域に閉じたコミュニティではなく、ご紹介した阿南市のケースのように、他地域の人たちも混ざった、ゆるやかに開いたコミュニティの方がいいのですね。

 阿南市の場合、ダンクソフトが 「インターミディエイター」 となってあいだを取りもち、以前、他の自治体の方が視察ツアーに参加しました。その後、自治体間での交流や情報交換が進んでいます。規模感や課題や問題意識など、何らか似たところがある自治体が、遠く離れていても関係を結び、互恵的関係が徐々に生まれ、そこに私たちのような企業も関わっている。互恵的関係を継続できることが、相互信頼につながっていきます。

 

■地域に評判情報が循環し、互恵的関係をつくる

 学校、学生、教員、企業、地元に働く人、Uターンしたい人、自治体……社会的ネットワークへの参加メンバーが多様であることは大事です。それまで出会う機会の少なかった人と出会うチャンスが増え、地域のコミュニケーションに広がりが生まれます。様々な人たちとの「開かれた対話」があることで、“新しい動き”も生まれます。地域の人たち自身が、それまで知らなかった魅力を発見できるようになり、地元が再評価される。人や優良企業の評判情報も、地域内に届きやすくなります。雇用も発生するし、よい情報の循環が生まれて、地域がにぎわっていきます。

  今はほとんどの人や企業が東京を見ているので、外側に大きな市場がないと成り立たないと思い込んでいますが、本当は農産物がそうであるように、地域でまわるはずなんですよ。むしろ地産地消でないとその先に行くわけがないと私は思っています。

  同時に、“企業もコミュニティのよき一員である”という観点でいえば、地域社会に価値をリターンできない企業は持続可能なかたちで成り立たないでしょう。地域との互恵的関係が築けないと、相互信頼も社会的ネットワークも生まれませんから。

左より株式会社ダンクソフト 代表取締役 星野晃一郎、阿南工業高等専門学校 校長 寺沢計二氏、阿南工業高等専門学校 地域連携テクノセンター長 杉野隆三郎氏、セレクトライン代表 / サーティファイド・インターミディエイター 中川桐子氏、西野建設株式会社 代表取締役 / ACTフェローシップ 会長 西野賢太郎氏

左より株式会社ダンクソフト 代表取締役 星野晃一郎、阿南工業高等専門学校 校長 寺沢計二氏、阿南工業高等専門学校 地域連携テクノセンター長 杉野隆三郎氏、セレクトライン代表 / サーティファイド・インターミディエイター 中川桐子氏、西野建設株式会社 代表取締役 / ACTフェローシップ 会長 西野賢太郎氏

■高専のまわりに“いいコミュニティ”がうまれる未来

“いいコミュニティ”とは、コミュニティが活性化しているということ。そのためには、「ソーシャル・キャピタル」が豊かであることが大事です。そのためには、①「相互信頼」、②「社会的ネットワーク」、③「互恵的関係」の3つが必要です。

 高専のまわりに“いいコミュニティ”がうまれること。より開かれた、多様な人びとの関わるコミュニティが、阿南高専のまわりに育っていくことを期待しています。連鎖していく先で、望む人が地域にいながらにして特性に合った仕事ができるよう、企業が地元を応援する。そうすることでまた、心ある徳島の優良企業情報がいきわたり、地元の人たちが企業を応援できるようになるといい。

 ダンクソフトとしては、3つの活動を進めていきます。第1に、阿南高専ACTフェローシップと同校の学生を結ぶ取りくみです。阿南高専が地域のあいだを担ってコミュニティを活性化させていくモデルを、デジタル面からサポートしていきたいと考えています。

第2に、徳島サテライト・オフィスへ、プログラミング・コンテスト部の学生をまねいて、プログラミングをCo-learning(共同学習)できる場づくりです。これは一方向に教える場ではありません。竹内がいま学校と協議しているところです。

 そして第3に、さらなる広がりとして、「高専が地域コミュニティのインターミディエイターになる」というモデルを、他の地域にも展開していく可能性を考えています。高専は全国にあり、地域とよい関係をつくっている学校が多いですから。

徳島県神山町

徳島県神山町

8年つづく「徳島サテライト・オフィス視察ツアー」

 ダンクソフトでは、「徳島サテライト・オフィス視察ツアー」を毎年実施しています。2011年に始まり、毎年2回ですから、通算16回ほどになります。今年も11月6日から一泊二日の日程で、神山町、美波町、阿南市などを訪れ、各地の最新の取りくみを見てきます。

 訪問地は、まちの変貌を体感できるモデル地域です。神山町などはほんの数年で大きく変化し、地産地消のフレンチ・ビストロができ、地元の間伐材を使ったプロダクトが海外にも知られるようになりました。

 人びとが少しだけ“新しい動き”をするだけで、まちの中が変わる。変化を目の当たりにしたこと、「変われるんだ」という実感を得たことは、私自身にとっても刺激になりました。

 この視察ツアーは、県庁(地方創生局地域振興課・集落再生担当)との連携で、ダンクソフトが企画して実施しているものです。県庁担当部署の全面的な協力のもと、地元との調整や手配は県が担い、情報発信やネットワークづくりなど 「インターミディエイター」 としての役割はダンクソフトが担う、というように、お互い得意な部分で貢献しつつ、継続実施しています。

 2011年から約8年かけて続けてきたことが、当地のコミュニティの活性化やソーシャル・キャピタルの醸成に、少しでも貢献できていれば嬉しいことです。

 

◆あわせて読みたい関連コラム

事例:テレワークが創出した瀬戸内市の新たな“魅力と雇用”

お客様:ストックウェザー株式会社様

岡山県瀬戸内市との実証実験を機に、テレワークの取り組みを事業化した企業がある。個人投資家向け情報サイトを運営するストックウェザー株式会社様だ。テレワークにより、瀬戸内市の“魅力と雇用”を創出することへ貢献し、働き方の “新たなはじまり”をつくっている。今回は、このストックウェザー社の取り組みについて取り上げる。

(写真左より、ストックウェザー株式会社 代表取締役社長 桐山康宏氏、瀬戸内市企画振興課 松井隆明氏、株式会社ダンクソフト 開発チーム マネージャー 竹内祐介)

(写真左より、ストックウェザー株式会社 代表取締役社長 桐山康宏氏、瀬戸内市企画振興課 松井隆明氏、株式会社ダンクソフト 開発チーム マネージャー 竹内祐介)

テレワークで、暮らしも仕事も市内で完結できる環境を

岡山県瀬戸内市は、瀬戸内海に面した温暖で住みやすい地域だ。岡山市と隣接していることから、瀬戸内市から岡山市へ通勤する人が多く、ベッドタウンという一面を持つ。瀬戸内市とダンクソフトは、2016年頃からデジタル・テクノロジーを活用した地域活性化に関する対話を重ねていた。その流れで、2017年10月から、テレワークを活用した地域の新しい働き方づくりを具体化していった。テレワーク構想をすすめるうちに、東京に本社を置くストックウェザー社の抱える課題と親和性が高いと判断したダンクソフトは、ストックウェザー社にプロジェクトへの参加を促した。

個人投資家向け情報サイトを運営するストックウェザー社にとって、投資信託や株式の情報をインターネット上で参照するために、情報を収集したり入力したりすることは、とても重要な業務だ。従来は、本社を置く東京エリアだけで業務を行っていたが、入力業務ができるスタッフをさらに確保することが必要となっていた。ストックウェザー社は、ダンクソフトからの提案を受け、瀬戸内市にテレワーカーを育成し、金融情報の収集や入力業務を任せることにした。ダンクソフトの支援のもと、ストックウェザーは、2018年1月から10月まで、2期にわたり瀬戸内市テレワーク実証実験事業支援業務とテレワーク運用支援業務へ参加した。

瀬戸内市企画振興課の松井隆明氏は、テレワークの実証実験を行うことになった背景に関して、こう振り返る。

「瀬戸内市は岡山市にとても近いので、岡山市へ働きに行く方が多いです。中には、通勤時間を短くしたい方や、子育てのため時間や場所に制約がある方もいるので、暮らしも仕事も瀬戸内市内で完結できる環境を作らないといけないという危機感や思いがありました。当初は、瀬戸内市内にテレワークのニーズがあるのかまったく予測がつきませんでした。ダンクソフトさんの支援のもと、2期にわたり実証実験を行いました。育児・介護をしている瀬戸内市在住者を対象として第1期のテレワーカーを募集したところ、多くの市民の皆さんから問い合わせがあり、大変驚きました。セミナーや講習会を経て、13名のテレワーカーが誕生しました。第2期は、さらに17名の新たなテレワーカーが生まれ、ストックウェザーさんの事業をさらに推進していただきました。」

いまでは、約30名の瀬戸内市民が、ストックウェザー社のテレワーカーとして仕事を担っている。

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テレワークによる“新たなはじまり”

今まで遠隔地のスタッフと連携して仕事をするテレワークに取り組んでいなかったストックウェザー社も、この実証実験で、瀬戸内のスタッフたちとのプロジェクトを進めるために、初めてテレワークを導入することになった。

代表取締役桐山康宏氏は、こう回想する。

「遠隔地からテレワークで働いてもらうのは当社にとっては初めての経験であり、事業をつくるところから始まりました。まずは、ファンドごとにインターネット上に公開されている目論見書をダウンロードし、ストックウェザー社の情報サイトにアップロードする業務をお願いしました。開始してみて、試行錯誤しながら、質や納期の調整への対応などに課題があることがわかりました。テレワーカーの家庭の事情で納期に変更が生じる場合には調整が発生しますし、テレワーカーからの問い合わせにも丁寧に応対します。きめ細やかにコミュニケーションすることで課題を解決していく必要がありました。」

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 ■コミュニティの活性化を、デジタル・テクノロジーが支える

瀬戸内と東京という離れた場所を結んでプロジェクトを進行し、テレワーカーとの連携をはかるうえで、「デジタル・テクノロジー」が欠かせない。しかし、瀬戸内市のテレワーカーのデジタル・リテラシーはさまざまであり、SNSのように簡単に使い始めることができるツールであることが求められた。また、機密情報などの取り扱いにも耐えうる、セキュリティが確保された安全な環境であることが重要だ。そこで、進捗管理や情報共有などのコミュニケーションを支えるために、「ダンクソフト・バザールバザール」を活用した。

 ストックウェザー社の桐山氏は、バザールバザールをこのように評価する。

「バザールバザールがあることで、テレワーカーとの情報共有がとてもやりやすいです。バザールバザールがなかったら、連絡手段がメールになるのでしょうが、さすがにメールだと煩雑になり、やり取りが大変だっただろうなと思います。」

  ダンクソフトからは、バザールバザールの開発者でもあり、徳島サテライト・オフィスからテレワークで働く竹内が、プロジェクトに参加した。バザールバザールの導入と運用を支援し、テレワークしやすい環境づくりを担当した。竹内は、瀬戸内市のコミュニティの活性化につながることを、一つ一つ築きあげ、ストックウェザー社、瀬戸内市のテレワーカーのあいだを担う存在として、プロジェクトを支えた。

「瀬戸内市は、育児や介護などの家庭の事情を抱えながら、柔軟な勤務時間で仕事ができる求人が少ないと聞いています。そんななかで、ストックウェザー社の事業は、柔軟な勤務時間で仕事ができるチャンスを提供しています。瀬戸内市の皆さんは、岡山市に働きに行く必要がなく、安心して住むことができるので、瀬戸内市に住む魅力が増し、コミュニティがより良くなるきっかけになると思います。」と、プロジェクトに期待を寄せている。

さらに、瀬戸内市の松井氏は、

「バザールバザールを利用することで、非常に効率がいいと思います。テレワーカーのみなさんが、ハードルなく使っているので、共有する『場所』の一つになっていると感じています。」と、このツールがあることで、テレワーカー・コミュニティがうまれたことを評価した。

ダンクソフトは、デジタル・テクノロジーの活用により、テレワーク実現を通じて、自治体や企業の「コミュニティの活性化」を支援してきた。ここ瀬戸内市でも、テレワークをめぐる新しいコミュニティが始まりつつある。

瀬戸内市の「魅力」を高めるテレワーク

瀬戸内市では、ストックウェザー社の他にもテレワークを活用した事業がスタートし、働く選択肢が拡がっている。岡山県内でまだテレワークに取り組んでいる地域は少なく、“より働きやすい地域である”ということが、瀬戸内市の魅力のひとつになりつつある。

ストックウェザー社 桐山氏は、「継続的な実証実験により、テレワーカーの経験値が蓄積されており、スタッフが育っていることを実感しています。金融情報の入力は、正確さとスピードが求められる仕事なので、経験のあるテレワーカーの存在が当社の強みにもつながります。今後は、当社の業務のみならず、他社の金融情報の入力業務を担う事業を、瀬戸内市の皆さんと展開していきたいと考えています。これを機に、瀬戸内市に子会社を設立しました。さらにひろく、質の高いテレワーカーと連携していきたいと考えています。」と、今後のテレワークへの展望を、力強く語った。

 

業務改善ソリューション

組織を超えた テレワーク導入・運用支援

 

導入テクノロジー

ダンクソフト・バザールバザール

 

ストックウェザー株式会社

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コミュニティの活性化とソーシャル・キャピタル

■ハイリスク時代に高まる「コミュニティ」の必要性

 今の時代、「コミュニティの活性化」が、とても大事になってきています。このことは、今年の年頭所感でもふれました。

 とくに東京をはじめ都会は、活性化されていない、分断されたコミュニティが圧倒的に多いという課題があります。いわば“切れた網の目”状態になっていると言えます。

 かつて、古き良き時代と言われる頃の日本の会社は、もっとつながりがあり、家族的なものを持っていました。欧米的な企業観が入ってくることによって、そうした関係が解体され、ずいぶん会社はギスギスしてしまったわけですが、日本企業はもともと持っていた価値観を少し思い出すといいのだろうと思っています。もちろん、単に昔に戻ろうという意味ではありません。デジタルがこれだけ進んだ今ですから、あらためて家族的なよさを取り入れて、デジタルと融合させていくイメージです。

 現代のような“ポスト・ポストモダン”の時代になってくると、デジタル・テクノロジーをコミュニケーションのツールとしてうまく使うことによって、離れていても対話ができて、一緒に仕事ができる環境にもなっています。徐々にですが、分断や断絶が埋められて、結ばれていく感覚があるのも確かです。面白い時代だと思います。

日本は災害が多い国です。地震、台風、豪雨、水害。この夏もたびたびの台風や豪雨があり、9月の台風では、千葉や横浜など大きな被害になった地域もありました。さらに災害が増えていくとも言われる時代です。また、地質学的には、人類の活動が及ぼしてきた影響によって地質が大きく変わり、「アンスロポシーン」(人新世)という次の地質年代に入ったと言われています。ますますリスクが高まる時代にあって、生きたコミュニティをつくることが必要不可欠になっているのは間違いありません。

■企業も「コミュニティ」に近づいていく

 私が「企業もコミュニティにならないといけない」と考えるようになったきっかけは、実は「もっと働きやすくするには?」との問題意識を持ったからでした。

 ダンクソフトは、いわゆるワーク・ライフ・バランスに取り組むのがかなり早かったのですが、「取り組まないと」と思ってはじめたわけではありません。単純に自分たちが「もっと働きやすくしたい」という動機から着手していたところ、後から制度や法律ができてきたのです。2007年には官民トップ会議で「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」・「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定され、政府がワーク・ライフ・バランスの推進に乗り出しました。

 ですが、政府がワーク・ライフ・バランス推進の方向に舵を切った当初、多くの経営者の間にあったのは「無理に決まってる」という風潮でした。労使という対立関係で考えればもっともな話です。ルールはつくらなければいけない、働く時間は減るということで、主義主張の対立になってしまう。それでは会社はまわりません。仕事と生活の両立という考え方が日本社会の普通になるとは、とうてい思えない状況でした。

 でも、これからは、労使関係という2分法を超えて、みんなが同じ方向をむけるようなテーマをもたないといけない。会社は家族的な、コミュニティ的な、仲のいいチームにならないといけない、という未来の方向性が、その時点で私にははっきり見えていました。 

■ダンクソフトという「コミュニティ」の活性化

 取り組みは2003年ごろからはじまりました。まずは自分たちから変えていこうと、そこから少しずつ新しくしていきます。4年生大学からの新卒採用を行い、その後、就業規則の改変にみんなで着手しました。創業期以来20年近く大きな変更をしていなかった就業規則を、社員代表の数人と社労士とのチームで新しくつくっていったのです。産休3年、子育て・介護の有給休暇プラス20日、勤続3年以上で最長1年のリフレッシュ休暇など、今でも「充実している」と驚かれるような内容でした。

 それができたのも、ルールを実際に使うスタッフがみずから参加して、自分たちで考えたからだと思います。使う人から発案してくれて新しいルールが出来上がるというのは望ましい流れです。逆に、制度から考えるのは難しいと思います。できるだけ自分たちで関わってみることです。当事者意識が生まれます。そうした当事者としてのスタッフの声で、社内が変わっていくのがいいですね。

 以降はスタッフからの発案で、さまざまなことが進んでいきました。会社案内もウェブサイトも新入社員の発案ですし、プライバシー・マークをとったときにデスクの引き出しをなくしたのも、スタッフのアイディアです。引き出しの中にものを入れるのは、引き出しがあるからだ、ないのが一番安全です、と(笑)。それが今から12年前、2007年のことでした。

 ロゴを刷新したのもその頃です。当時13名の社員がいたのですが、呼ばれて会議に参加すると、新しいロゴの最終案が2つにまで絞られていました。みんなで投票して、12票対1票で今のロゴに決まりました。私の意見も平等に1票です。幸いにも支持した方に決まりましたが、考えてみれば面白い話ですよね。

 こんなふうに、ダンクソフトではスタッフ一人ひとりが参加し、判断して、ベストな動きができる文化が育ってきています。日常的にコミュニケーションがとれる状態にありますので、お互いの信頼感が生まれ、自律的に動けるようになっています。社内がひとつの柔軟な「社会的ネットワーク」として機能していくわけです。

そして、こういう状態が特に大事になってくるのが、不測の事態が起こったときです。台風や交通障害などのアクシデント発生時にも、ダンクソフトでは自主的に危機回避策や安全対策をとれるメンバーが多く、混乱は少ない傾向にあります。2011年の東日本大震災の際も、社内に自然発生的に「助け合う関係」がすでに生まれていました。それを見ながら、危機的状況下にあって、会社にもコミュニティ的な関係が必要だと痛感しました。

 ダンクソフトでは、結果的に、気がつけば、クリエイティブな働き方を推進する先進企業のようなことになっていて、多数表彰していただいたりもしますが、そもそも目指したのは、「われわれ自身がコミュニティになること」、「ダンクソフトというコミュニティを活性化すること」でした。 

■活性化するコミュニティの条件:「ソーシャル・キャピタル」

 では、コミュニティが活性化しているかをどのように判断するのかというと、活性化しているコミュニティでは、「ソーシャル・キャピタル」が豊かです。ソーシャル・キャピタルが豊かであるには、①「相互信頼」、②「社会的ネットワーク」、③「互恵的関係」の3つが必要です。

  ここまで語ってきた取り組みや日々のコミュニケーションの積み重ねのなかで、ダンクソフト内に、少しずつ少しずつ相互信頼や社会的ネットワークや互恵的関係が広がり、豊かなソーシャル・キャピタルの土壌となっていったのではないかと捉えています。

 「ソーシャル・キャピタル」は、一般にはよく社会関係資本と訳されていますが、高速道路のような社会インフラを意味する「社会資本」とは異なります。社会資本と言ったとたんに遠いものになってしまう気がして、私にはしっくりきません。ご近所付きあいや井戸端会議といった、本来のソーシャルの雰囲気がどこかにいってしまうのですね。無理にわかりにくい日本語に訳すより、人びとの心の豊かさ、安心して生活ができる、安全である、といった価値観による豊かさの指標だと理解した方がいいと考えています。

 残念ながら、日本の多くの企業の社内状況は、相互信頼、社会的ネットワーク、互恵的関係より、まだまだ労使を重視した上下構造の中にいます。そもそも「労使」と言った瞬間に、「労働者と使用者」という対立構造が生まれて、同じ方向をむくことが難しくなるわけで、どちらにとっても不幸な状況です。日本はいまだに、この2分法のなかにいるということに早く気づいて、そこから脱しなければなりません。 

■デジタル・テクノロジーで、ソーシャル・キャピタルを醸成する

 よく、システム導入ペーパーレス化で効率化をなさりたいというご相談をいただきます。もちろん効率化は大事ですが、本当に重要なのは「効率化の、その先」です。

こうしたご相談の際には、ケースとして「ダンクソフトを見ていただく」と速い。オフィスの中をお見せすると、本当にオフィスに「紙がない」という状況がどういうものかが、よくわかります。引き出しのないデスク、個人の席を固定しないフリー・アドレス、在宅や遠隔地とオンラインで常時接続されている多拠点システム、すべて実際に見ていただくことができます。当初は半信半疑だったり不安がおありだったりしても、実際にその状況をご覧になって「本当にできるんだ」と衝撃を受けたというお客さまは多いです。

 デジタルの利点として、組織を階層型にしなくてよいという特徴があります。フラットなネットワークでつながれるから、役職にこだわらずに誰とでも話がしやすい。固定席をつくらないフリー・アドレスのオフィスは、役職階層に応じた従来のオフィスとは、様子がまったく違います。部長や課長が毎日ちがう席にいて、話したい人の横に行ってみるとか、チャットで話すとか、いろんなコミュニケーションが可能です。誰もが経営にタッチしやすくもなります。デジタルが実現するそうしたフラットなスタイルが、見える形でオフィスにあらわれています。 

 システムは効率化を助けますが、「その先」で、コミュニケーションのレベルが変わり、チームの動く速度が変わることが、私たちのお客さまにはよく起こります。社内によい関係が浸透していって、社会的ネットワークが生まれ、次第にソーシャル・キャピタルがより豊かになっていくという流れをつくることができます。その流れは社内にとどまらず、社外のお客さまとの関係も良好にするし、次の新しい需要をつくりだす循環にもなっていきます。

だからこそ、デジタル・テクノロジーの力を借りながら、相互信頼、社会的ネットワーク、互恵的関係をどうつくれるかが、これから企業にとって、さらに重要になっていくわけです。豊かなソーシャル・キャピタルを醸成して、社内外の関係をよりよくし、活性化するために、会社は、もっとコミュニティに近づいていく方がいい。デジタル・ネットワークの内外に広がる「おたがいさま」や「持ちつ持たれつ」といった価値観が、ますます大事になるでしょう。

  

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■何のための効率化?

 今年もダンクソフトは、「テレワーク・デイズ」に参加しました。「働き方改革」をうたうテレワーク・デイズのウェブサイトでは、テレワーク推進の目的のひとつに「生産性の向上」とありますが、世のなか全般、とくに政府のいう「生産性向上」というのが、ちょっと違うんじゃないかなと、前々から思っています。というのも、働き方改革といったときに、コンピューターを使って効率化しましょう、生産性を向上させましょう、ということがよく言われます。ただ、ほとんどの場合、利益を増やすためにコストを下げよう、というだけの主張になっていて、たとえば工場の全自動化で効率化するという話になってしまう。バックオフィスの効率化についても同様で、コスト削減や利益増大のためと位置づけられます。それはダンクソフトの考え方とは違うし、働き方改革の目的が本当に物理的な「効率化」だけに終わってしまうと、ずいぶん寂しい話になってしまいます。


■大事なのは「効率化の、その先」を考えること

 世間で言われている「働き方改革」と、ダンクソフトが考える「働き方改革」は、そもそもから違います。

 ダンクソフトはデジタルの会社なので、どうしても効率化や生産性向上という視点で見られがちですが、それはある意味あたりまえのファースト・ステップです。ダンクソフトが力を発揮してきたし、これからも大事にしていくのは、「効率化の、その先」です。

  効率化するところは効率化しながら、それぞれがどう「クリエイティビティ」を高められるか。事業活動を通じて、一人ひとりが、コミュニティーや企業をどう変えられるか、より豊かなコミュニケーションの場を育てられるか。さらに言えば、新たな付加価値を生み、イノベーションを促進できるか。こういうことが起こるのが「クリエイティブ・ワークチーム」です。詳しくは後半でご案内します。

 そのためにも、スタッフ一人ひとりが、効率化によって時間をたくさん生み出して、自分のレベルを上げていってほしい。それは技能面でも人間的成長の面でもです。100年人生をみすえたリ・ラーニング(学び直し)とか、自然に触れるとか、絵を見るとか、音楽を聴くとか、行ったことのない場所に行って影響を受けるとか。毎日を豊かに過ごすことができるようになれば、結果としてクリエイティビティが高まり、付加価値も上がる。それがお客様への、よりよいサービスの提供につながります。

  「時間は人生のために」というのがダンクソフトのテーマのひとつで、付加価値は自分が得られた感動の蓄積からしか出てこない果実だと考えています。だから僕はよく「きれいな夕焼けを見ましょう」などと言っていていますが、そういうクリエイティビティを刺激する時間をもつために、時間の効率化が大事だということなんです。よく言われるように、ヨーロッパの人たちは日本よりも長いスパンのバカンスを平気で取ります。でも経済成長率は日本より上だったりするんですよね。ひるがえって、日本は、休みが取れない上に、労働生産性は先進国のなかでとても低いのです。これでは未来はあまり楽しくないうえに、おそらくいい方向には行かないことが見えています。だから、デジタル活用を強調しなければなりません。



■クリエイティビティの秘訣

 クリエイティビティ、新しいものを創造する力というと、ひらめきや直感が注目されがちかもしれませんが、「直感力」は「ルーティン力」があってこそ生まれるものです。たとえば、絵ならデッサン、ピアノならバイエル、スポーツなら素振りやフォーム練習とか。バレエでも料理でもなんでもそうです。将棋の羽生善治さんも言うように、どれだけ手数を打っているかが勝負なのです。

  IT系の知的作業も同じです。ウェブ・デザインにしても、プログラミングにしてもシステム構築でも、ほぼほぼやることといえば単純作業なんです。その単純作業の繰り返しのなかで、ちょっとしたヒント、つまり小さな創意があって最終結果が劇的に変わることがある。日々の反復があってこそ直感が生まれる。クリエイティブになるには、「ルーティン力」もおさえておかなければいけないと思っています。

  ITスキルの習熟は、最初は地道な作業にはじまり、やがて全体の構造、フレームワーク、そして高度な応用へと、段階を踏んでステップアップしていきます。ダンクソフトには未経験や他業界から入ってきた人も多くいますが、経験のない人でも、ちゃんとステップを踏めば学んでいけます。志向や適正次第で幅を広げていけますし、クリエイティビティを発揮しているスタッフたちがたくさんいるのは、ダンクソフトの特徴のひとつです。

  クリエイティビティと関連して、想像力、イマジネーションもとても重要です。たとえば、ウェブ・チームは、クライアントとともに、ウェブサイト制作を入り口としたデジタルな価値創造をしていくわけですが、クライアントが求めている提案は、最終的にはクライアントにとってのお客様への提案ですよね。クライアントのウェブを見る人は誰か、ということがイメージできていないと、よりよい提案にはなりません。さらに、提案にはクライアントのスタンスも含まれていなければならない。クライアントとその先のお客様や、全体のなかのバランスも考えながら、色やデザインが決まっていきます。イマジネーションを発揮することで、ウェブを活かしたお客様との関係づくりをご支援できます。

  ともあれ、クリエイティビティもイマジネーションも、一人の天才や個人の産物ではありません。対話と集団のなかから生まれてくるものです。だから、グループのなかから生まれてくるクリエイティビティが大事です。




■「クリエイティブ・ワークチーム」をつくろう

 先日、ウェブ・チームのなかで、こんなことがありました。あるスタッフがお盆で田舎に帰省してテレワーク(在宅勤務)をしていたところ、席を外しているあいだにクライアントから緊急の問い合わせが入った。しかしチームで情報共有が行き届いていたので、代わりに別のスタッフが対応し、滞りなく応じることができた、というのです。

 ダンクソフトでは日常茶飯事なのですが、そのスタッフはダンクソフトに入ってまだ日が浅いこともあってか、「チームワークのレベルが高い」と感慨深そうに話してくれました。聞けば、今まで経験したどの職場環境と比べても、「情報共有の状況が格段にちがう」そうです。また別のスタッフも、長くダンクソフトにいればいるほど、小さな情報でも共有しようとする姿勢があり、それを見習いたいと、お子さんが熱を出して急遽お休みを取った翌日に、聞かせてくれました。

 ダンクソフトでチームワークがうまくいっている背景には、いくつかの理由があります。まず、場所を問わず柔軟に勤務できるように、みんながデジタル・テクノロジーやツールを使うことができる。また、スタッフが働きやすいように、会社側ではなくスタッフ主導でまとめた就業規則がある。つまり、主体性を発揮できる環境を整えてきたんですね。先月のコラムでも触れましたが、ダンクソフトは2008年からテレワークに取り組みはじめて、いろいろなトライ&エラーを繰り返してきました。11年経った今、ここまで充実した環境がどうしてできてきたかというと、やはり「そのほうが休みやすい」という実感からだと思います。

 休みやすい企業、より自在な働き方にしようと思うと、自分がいなくても大丈夫なようにしておくのが一番いい。みんなそれを経験的に実感して、チームとしてのデジタル・スキルや、コミュニケーションの質が高くなっていきました。当然、付加価値の高いサービスをお客様に提供できるようになる。環境があるから実践できる、実践したらよさを実感した、だからますます促進される、という好循環が生まれています。クリエイティビティ向上に、いい影響しかありませんよね。

  もちろん、もっと大きな危機への対応やBCP(事業継続計画)の観点からも、チームで情報共有を徹底することは重要です。イマジネーション(想像力)やチームワークが最も必要になるのが、リスク回避の場面でもあるからです。

  ウェブ・チームのエピソードにみられるようなダンクソフトの「助け合う」風土も、徐々に育ってきたものです。意識改革のきっかけとして大きかったのは、徳島でのサテライト・オフィスができ、高知や宇都宮をはじめとして全国に拠点が広がり、テレワーク化が進んだことです。離れて共に働くチームでは、小さな情報でも共有しておく姿勢や配慮が大事になります。

  また、平成21(2009)年度に「中央区ワーク・ライフ・バランス推進企業認定」制度の第1回認定企業に選んでいただいたことも大きかったです。自分たちの働きやすさを求めてしてきたことが世の中から評価されるのは、やはりありがたいことです。それ以来、厚労省、総務省、徳島県などから、数々の賞をいただいています。外から評価されることで、先進的なことをやっていたのだと、ダンクソフト流の「働き方改革」というものを初めて自覚しました。

今では、ダンクソフトのみならず、当社のお客様たちが、同様に、効率化・生産性向上を実現しながら、事業をよりクリエイティブに展開されています。先日お話を伺った徳島合同証券様をはじめとして、表彰されるにとどまらず、さらにあたらしい事業を開始するなど、みなさん次の創造的フェーズに入られています。ご一緒に、「クリエイティブ・ワークチーム」をつくり、成果を上げて、もっと面白い、楽しい日本にしていきましょう!

テレワーク ──2008年から始まった取り組み

[参加者]

代表取締役 星野 晃一郎(東京)
企画チーム 中 香織(神奈川)
ウェブチーム 久米 まつり(徳島) 

■“出勤”先はネット上のバーチャル本社

星野 今年も7月22日(月)から9月6日(金)まで、「テレワーク・デイズ」が実施されています。ダンクソフトは、この、国の取り組みに賛同し、毎年参加しています。そこで、今回は、先月のコラムでも予告したように、“テレワーク特集”をお届けします。

 テレワーク・デイズ参加企業は、この期間中、各社趣向を凝らした活動をするのですが、これが一番困ります。というのも、2008年から取り組みを始めたダンクソフトでは、もはや毎日がテレワーク・デイズです。この期間だからといって、なにか特別にとってつけたようにやる必要がないからです。一般的に新しい働き方といわれていることが、当社ではすでに日常になっています。そうお伝えすると、よく、では実際にどのようなことが行われているのかを聞いてみたいという声をいただきます。そこで、せっかくの機会ですから、今回のコラムでは、実際にテレワークしている当社メンバー2名との対話形式で、ダンクソフトのワークスタイルをご紹介してみます。「外の目」として、外部のインタビュアーさんにも入っていただきました。

 

──それでは、さっそく、実際にダンクソフト社でテレワーク勤務をしている中さんと久米さんにお聞きします。現在、どんな働き方をしていますか? 今いる場所を含めて、教えてください。

中  私は今、神奈川県の自宅にいます。週5日勤務の裁量労働で、そのうち4日がテレワーク、週に1回東京・神田のオフィスに出社します。オフィスまでは、ドアツードアで約1時間半の距離です。11歳と5歳の子ども2人を育てながら働いています。

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久米 私は徳島県の自宅にいます。私も子どもが2人いて、4年生と1歳7ヶ月です。100%テレワークで、週5日、平日9時〜16時勤務が基本です。まだ子どもが小さいこともあり、子どもの病気や用事などで時間を調整させてもらうこともあります。

 

──社内の他の人とは、どのようにコミュニケーションしていますか?

中  仕事中は「バーチャル本社」とチーム・チャットに入り、常時接続の常態にしています。そこでのテキストによるチャットや、顔を見ながらの会話が中心ですね。

 

──バーチャル本社? どういうものですか?

星野 神田オフィス、徳島や高知にあるサテライト・オフィス、そして各地のテレワーカーをオンラインでつなぎっぱなしにしています。ログインしている全員の拠点の様子が、モニター上に画面分割されて映っています。場所やワークスタイルを問わず、オールダンクソフトが集まるところ、それがバーチャル本社です。今は5か所からの参加ですね。朝、ここにログインすることで、出社した、ということになるんですよね。

久米 はい、みんなの様子がわかるので安心感がありますね。私はまだ東京オフィスには行ったことがなく、徳島のサテライト・オフィスしか知りませんが、こうしてバーチャルにつながっていることで一体感を感じられます。作業中も先輩や上司と画面共有をしながら、まるで横にいるかのようにやりとりできます。

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■「通えないなら、デジタル・テクノロジーを活かせばいい」

──お二人がテレワークをはじめたきっかけは?

中  私は2003年に入社し、普通に毎日出勤していました。その後、2008年に産前産後休暇・育児休暇をとりました。ところが、復職しようとしたところ、保育園に入れなかったんです。これはもう仕事に戻れない。育休延長を相談したところ、星野から、通えないなら、オンラインでつないで勤務をしてみてはどうかと言っていただいて。自宅からのテレワークが始まりました。

 星野 だから中さんはダンクソフトのテレワーカー1号なんです。2010年の4月ですね。ダンクソフトでは2008年頃から伊豆でリモートオフィスの実証実験をしていましたが、当時はまだウェブ回線が不十分で。ファイル送信すらじれったいような状況でしたから、なかなか実用段階には届きませんでした。

 

──2010年には、かなり環境も整っていたということでしょうか。

星野 とにかく試してみようと、中さんの自宅とテレビ電話(ビデオ通話)をつないだんですよね。そうすると、当時まだ1歳数ヶ月だったお子さんが、画面ごしに僕に話しかけてくれた。小さい子とでも、こんな風にコミュニケーションできるなら、これはいける。そう確信しました。あの情景は今でも覚えています。その子がもう11歳なんですね。

中  その後、2012年に2回目の産休・育休をとり、2014年に復職して5年がたちます。2度目の育休中にバーチャル本社ができていたので、復職して「おお」と驚きました。いつもみんなとつながれて様子が見えるし、他にもテレワーカーがたくさんいて。ひとりでテレワークをしていると、やはりちょっと孤独感はありました。なので、バーチャル本社で常につながってるってすごいなと思いました。

星野 オフィスに集まるのがデフォルトだと思いすぎない方がいいですよね。

久米 私は2016年に徳島県阿南市で開催された「プロライター育成講座」を受講したのをきっかけに、ダンクソフトと出会い、2017年から阿南市でテレワークをしています。ダンクソフトが関わった地方創生雇用創出プロジェクトで、地域人材の有効活用を推進するプログラムでした。子どもといる時間をしっかりもちながら仕事をしたいと考えていたので、在宅で仕事ができるのは願ってもない環境でした。

 

──久米さんはずっと徳島ですか? 東京のオフィスに来たことは?

久米 徳島のサテライト・オフィスは行ったことがありますが、東京はありません。実は星野ともまだ実際には会ったことがないんです(笑)。

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星野 こうして顔を合わせて話してるから、全然そんな感じがしないんだけど、そうなんですよね(笑)。実際、顔見て声を聞いて話ができたら、十分わかりますから。対面しないとわからないのってサイズくらいじゃないかなあ。

 

──サイズですか?

星野 そう、身長ですね。若い人は足が長いから座ってるとわからなかったりして。前にもありましたよ。実際に会ってみたら190cmを超える長身で驚いたりとか。「テレワークあるある」ですね。

 

──「あるある」なんですか。おもしろいものですね。

 

■東京と徳島で「まるで隣にいるよう」に働く

──そうしたテレワークを実現するためには、どんな環境やツールが必要でしょうか。高速インターネット回線、PC、それから何が要りますか?

星野 メール、メッセンジャー、あとチーム・チャットやグループツールとかかな。今使っているのはMicrosoft Teams(グループチャット・ソフトウェア)です。

中  そうですね。Teamsのステータスを見れば在席か離席か、また会議中であることなどもわかります。PCを一定時間離れると自動で退席中というステータスになりますし、ステータスが予定表(オンライン上で共有するカレンダー)にも自動連動していますので、便利です。

久米 昼食や席外しの際はチャットで書き置きをします。私は基本12時〜13時をお昼休みにしていますが、前後ずれることもありますし、テレワークの人はだいたいそんな感じで発言してますね。

中  雑談チャットもあるので、そこでちょっとした雑談したりとか。

久米 相談や聞きたいことがあれば、「今ちょっといいですか?」とメッセンジャーで声をかければ、いれば応えてくれます。返事がなければ、今いないか、出られないか。でも必ず返事は来るので。コミュニケーションの不安がなくなるとは言いませんが、あきらかに減りますよね。そこは「ツールの力」を感じます。

中  その「必ず返事は来る」とか「メール・メッセージを見ない人がいない」という土壌は大きいと思います。

星野 同感です。いまだに「メールを送りました」と電話をかけてくる人がぼくの周りにもいて、ということは、それが必要な世界があるわけですから。

久米 はい。社内に関してはその心配がいらない、というのは、とても大きいです。

中  スマホでも見られるので、総じてレスポンスは早いですね。ただ、弊害というか、常時仕事モードになってしまって切り替えをうまくしないと、というのはありますね。

久米 私は、今、仕事はPCのみでやっています。スマホにもアプリを入れたことはあったのですが、やはり勤務時間外に来る通知が気になってしまい、結局、削除しました。PCを開いて、バーチャル本社とTeamsにログインすると、仕事の時間、という感じで、メリハリを自分でつけるようにしています。

中  そうですよね。そういう人も結構います。私の場合は、通知を見て、やってしまった方がすっきりするときは対応しますが、それもケースバイケースです。要するに、それぞれができるだけストレスのないようにするのが一番、ということなんです。会社からは、それをどうこうしろともするなとも一切なく、本人に任されています。だからお互いどうしているのかも知らなかったりします。

星野 そうですね、管理というよりも、「信任」という考え方を大事にしています。

 

■テレワークが優秀な人たちを惹きつける

──企業がテレワークを成功させるコツは、なんでしょうか。

星野 物理的なツール以上に、メンタル、マインドセットが大事なのだと思います。さっきの「メールやメッセンジャーは見るもの。見たら返事をするもの」といったリテラシーも重要です。また、何よりも、情報をシェアする、オープンにすることが当たり前だという組織内文化、風土です。誰にでもわかる情報をみんなにシェアすれば、みんながわかり、動けます。ベースに「信任」と「共有」があるかどうかが、離れた場所にいるメンバーがチームとして働くうえで、とても大事になります。それがあれば、どこにいても一人ひとりが活躍できるし、キャリアアップしていけます。現に久米さんがそうですね

久米 テレワークで最もメリットがあるのは、地方の人なんです。私もそうでしたが、地方では、ハローワークに登録して自分の通勤できる範囲でしか仕事ができないのが現状です。時間や場所の制約で、もってるスキルやよさを活かせない、好きな仕事ができない人はとても多いです。実力のある人がいっぱいいるのに、自分に合わない仕事をしなければいけない。でもこうしてテレワークで仕事ができれば、そういう人が活躍できます。引っ越したり、結婚したり、子どもができたりしても、会社をやめずに仕事を続けることができるのは、とても大きいです。

星野 それは本当に大事なことです。日本は、実力ある女性が結婚や出産とキャリアを両立できるキャリアプランが描けていません。地域人材、地域の活性化という意味でもですし、何より一人ひとりのキャリア形成を考えたときに、企業を移ってしまうとどうしてもゼロクリアーされがちです。でも、企業内でポリバレントに自分の幅を広げて、やれることが増えていくのは、本人にとっても会社にとってもいいことです。そういう現実をむしろ経営者がわかっていないことの問題が大きいです。経営者の理解によって、現実が進んでいくことが大事です。

 

──お2人に質問です。今後のキャリアプランをどう考えていますか。

久米 私は、子育てを大事にしたいこともあり、今はアルバイトとして働いています。子どもがもう少し大きくなって、時間の融通がきくようになったら、将来的には正社員になりたいと考えています。そのためのスキルアップもしていきたいです。

星野 ぜひ。期待しています。

中  私は入社してから今まで、やることがどんどん変わってきています。根本には「無駄をなくしたい」という思いがあって、もっといいやり方が見えると、それを形にしたくなる。今後も自分で自分を限ることなく、できることをやっていけたらと思います。

星野 中さんは、業務の分野もこえて、勝手にいろいろやれちゃう人だから(笑)、どんどんスケールを大きくしていってもらえればと思います。楽しみにしています。

 

──それでは最後に、テレワーク推進のためのビジョンをお聞かせください。

星野 先ほど久米さんの話にあった地域人材の話がやはりとても大事で、もっと多くの方にその意義が伝わるべきだと思います。雇用する側にとっても、すでに人材不足で悩んでいたり、これからどんどん人口が減っていったりという課題があるわけです。そんななか、「テレワーク」を取り入れることで、これだけ優秀な人と出会える。他にも、震災などによるリスクを分散できるBCP(business continuity planning 事業継続計画)の観点からも、また生産性の追求や、クリエイティビティの向上という意味でも、企業経営視点から見たメリットは多くあります。

 中小企業でのワークスタイル改革が、大企業に比べて遅れているのが心配ではありますが、メリットを享受できることは間違いないので、思い切ってやってしまえばいいと思うんです。遅いスタートだからこそ、よりよい環境を低コストで整えて、先を行ける可能性があります。中小企業の経営者の方々には、ぜひダンクソフトのスマート・ワークスタイルを、ご参照いただきたいですね。ダンクソフトは、2019年5月の新オフィス移転を機に、新たな実験的試みをはじめています。今、スタッフの半数以上がテレワークを行うようになりました。

これからの働き方は「スマート」がキイ・ワードです。Digital(デジタル)、Dialogue(対話)、Diversity(多様性)の「3つのD」を活かせたとき、テレワークの質は高まりますし、チームが機動力を発揮します。東京オリンピック2020をきっかけに、日本自体がバージョンアップしていくよう、ダンクソフトもアクションを続けていきたいですね。

 

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ペーパーレス化」で 6期連続の赤字からV字回復(徳島合同証券様 ケース)

社員のワークスタイル紹介 

 

★テレワークとは?

テレワークとは、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。

 言葉としては、「tele = 離れた所ところで」と「work = 働く」をあわせた造語です。「テレ」がテレフォン(電話)だと誤解する人もいるようですが、テレフォンだけでなく、テレビジョン、テレスコープ(望遠鏡)、テレパシーの「テレ」と同じく、「遠く」を意味するギリシャ語がルーツです。

 具体的には、在宅勤務、モバイル勤務、サテライト・オフィス勤務といった働き方になります。

事例:「ペーパーレス化」で 6期連続の赤字からV字回復

お客様:徳島合同証券株式会社様

ダンクソフト「ペーパーレス・ストレッチ」の導入をきっかけに、6期連続の赤字からV字回復をとげ、その後、5期連続の黒字化を達成した企業がある。徳島県に本社をおく、徳島合同証券株式会社様だ。オフィスのペーパーレス化をきっかけに、社員の意識と働き方を変革し、環境への取り組みを通じて、“新たなはじまり”をつくり続けている。今回は、この取り組みと、その後の効果について特集する。

徳島合同証券株式会社 泊健一社長

徳島合同証券株式会社 泊健一社長

7トンの紙で溢れていたオフィスを社員の力でスマートに

 徳島合同証券の泊社長とダンクソフトが出会ったのは、6年前の2013年だった。 

「ダンクソフトの星野社長と私が出会った当時、当社は6期連続赤字で業績は伸び悩んでいました。各社員が、お客様の個人情報を紙で保管しており、オフィスを見渡すと、机、キャビネットなどあらゆるところに紙が溢れていました。必要なものなのかさえもわからない状況でした」と、泊社長は6年前の状況を振り返る。

 デジタル・テクノロジーを活用することで、オフィスのペーパーレス化が実現でき、それが社員の意識改革につながることを、星野から聞き知った泊社長は、ダンクソフトの「ペーパーレス・ストレッチ」を導入することを決意した。ダンクソフトの徳島サテライトオフィスから、竹内など数名のスタッフが支援に入り、徳島合同証券とのプロジェクトがはじまった。

まずは、社員個人デスクの書類を断捨離することからスタートした。机や引き出しの中のモノを全て出し、必要だと思うモノだけ自席へ持ち帰る。これを繰り返し行い、続いて、同じプロセスを社内の共有物にも適用していった。 

しかし、ある時点まで来ると、必ず常識が邪魔をして捨てられずに残るものがある。その山を前に、徳島合同証券の社員は、竹内のディレクションのもと、改めて「本当に必要なものはどれか?」の検討を続けた。

このように、社外からの「ダンクソフトという第3者の目」が入ることが功を奏した。社員ひとりひとりが今まで当たり前と思いこんでいた業務を見直し、改めて考えるきっかけができたのだ。

「最初は、捨ててしまったらどうなるのだろうと心配していましたが、ダンクソフトさんが実践していらっしゃる通り、書類を捨ててみると何も困りませんでした。心配するだけ無駄でした」と、泊社長は笑いながら回想する。

業務を見直し、社内に温存されていた3.5トンの紙を廃棄

 結果として、3週間という驚異的なスピードで、社内に温存されていた7トンの紙を半分の3.5トンにまで減らすことができた。また、社員それぞれが別々に管理していた個人情報を一元化し、コピー機やFAXを利用する頻度を下げることで、紙の量を劇的に削減することに成功した。PCを利用する際に2つのモニターを用意し同時に使う“ダブルモニター”にすることで、紙に出力することが不要になった。各自が持っていた備品を減らし共有利用することで、オフィスのモノが減った。最終的には、嬉しいことに、700万円ものコスト削減になり、これを他の事業活動に割り当てることができるようになった。

「ダンクソフトさんに教えていただいたペーパーレスを実践したおかげで、オフィスがすっきりと整頓されました。また、それだけにとどまらず、連動して、社員ひとりひとりの頭の中がスッキリと整理され、働く意識が変わったのです。さらに、いつかはやってくる地震などの災害に備え、BCP(事業継続計画)にも対応することができました。ひとつの真理は、あらゆることに応用できるのですね」

 泊社長が実感したのは、ペーパーレスの取り組みが、同時に複数の課題を解決することにつながるということだった。

 オンライン朝礼を実現したデジタルによる業務改革

 ペーパーレス化と同時に6年前に導入したのが、サイボウズ社のクラウド型業務用アプリケーションであるkintoneだ。それまでオフィスでは、長年、当たり前のようにホワイトボードを使って手書きでスケジュールを共有していた。kintoneの導入により、重要な情報や各社員のスケジュールがクラウド上で共有され、一目でわかるようになった。

「スケジュールや情報共有が楽にできるので、ストレスのない働き方ができるようになりました。例えば、社員が同じ方面へ移動する場合、共に車で移動するなど、環境負荷も減らすことにつながっています。オンライン上で重要なことも共有できるので、BCP対策としても活用できています」

 さらに、もうひとつ、ダンクソフトからのアドバイスではじめたことがあるという。それは、マイクロソフト社のSkype for Businessを活用した“オンライン朝礼”だ。今までは、支社で働く社員が本社へ移動し、朝礼に参加していた。Skype導入により、支社の社員は本社への移動が不要になり、オンラインで朝礼へ参加できるようになった。 

「直接金融を通じて人々の生活の向上を支える企業を応援する」を経営理念に掲げている徳島合同証券では、長期投資の意義を、10-20年以上かけて社会に浸透させていくことが求められる。そのため、社員一人ひとりと理念を共有することがとても重要になる。朝礼にどこからでも参加できるようにしておくことは、会社の未来をつくることにつながるのだ。今後は、長期投資に関する成功事例の社員間の共有や遠隔地のお客様とのコミュニケーションに、Skypeの活用を検討している。」

徳島合同証券株式会社 泊健一社長

徳島合同証券株式会社 泊健一社長

「環境保護」や「SDGs」への取り組みを重点分野に

 泊社長は、このペーパーレス・プロジェクトをきっかけに、業績を大きく伸ばし、その後も5期連続の黒字化を達成している。星野から聞いた「環境にいいことは、経済的合理性がある」というコメントを、身をもって実感した泊社長は、さらに環境へ関心を寄せるようになっていった。実際に、金融と環境保護を融合していく試みを展開していくうちに、さまざまな方面から声がかかるようになっていた。徳島県の環境系委託事業、太陽光ファンドを活用した地域活性化活動などもその一部である。

 しかし、今もなお、環境に配慮することが事業への負担を大きくすると考える企業はまだまだ多い。だからこそ、泊社長は、ペーパーレス化を通じた自らの経験から「環境への負荷を減らすことで、経済的な利潤も生まれる」との確信を、徳島県の多くの企業に拡げていきたいと考えている。

 そのような中で出会ったのが、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の考え方だ。これに共感し活動しているうちに、気がついたら、周囲からの後押しで「とくしまSDGs未来会議」の副会長に選ばれていた。徳島県内の経営者や大学教授、民間団体の代表ら16人が発起人となり、2019年6月15日に設立された組織だ。泊社長は、副会長として、徳島県内の企業や大学、団体などさまざまな立場の方々を結び、徳島においてSDGsを推進していく。

「SDGsを推進することで、今まで株式投資に無縁だったお客様が、持続的な発展に貢献する企業への投資を考えるきっかけをつくることができます」

 泊社長は今、SDGsと金融の親和性について、大変注目しているそうだ。大切な資産を、環境分野の企業に投資するお客様が増えるよう、媒介となる徳島合同証券自体がさらに信頼される企業となることを目指している。秋までに、生物多様性の保全に取り組むNGOから、企業で初めて認証を受けられるよう、準備も進めている。 

一歩先の新たな視点を取り入れ、次の展開をつくる

 ペーパーレス化とBCPの次の一手として、泊社長はいま、サイバー・セキュリティに取り組んでいる。クラウドファンディングのプラットフォーム事業に力を入れていくためには、お客様にとって安全な環境をつくることが大切となるからだ。同時に、社員のセキュリティ・リテラシーをあげていくことも必須だ。そして、理念や取り組みを社外にも共感され、より信頼される企業となるように、ウェブサイトのリニューアルも計画中である。次の一手を考えるとき、いつもそこにはダンクソフトの存在がある。

「ただIT導入をしているだけでなく、物事の真理を教えてもらったように思います。自分でもまだ見えていない、思わぬ新しい視点をいただけるのが、ダンクソフトとの関わりではないでしょうか。特に星野さんからは、目から鱗が落ちるようなことを教えていただいていて、それならやってみよう、という気になります。今日も、いつかオンライン・セミナーをやりたいとお話をしたら、いつかじゃなくて今すぐにでも簡単にできますよ、と、思いがけないアドバイスをいただいたばかりです。」

 実は、昨年、星野が松江商工会議所でテレワークセミナーを実施した際に、泊社長はSkypeで登壇し、ペーパーレスの事例紹介をすでにしていたのだ。

  インクリメンタル・イノベーション(漸進的イノベーション)を実践し続けているダンクソフトだからこそ、プロジェクトを通じて、対話をしながら、徳島合同証券にも少しずつ持続的にイノベーションを起こしていくきっかけや気づきをご提供できるのだろう。泊社長は、「長期投資は、10年から20年ほどの長い時間をかけて繰り返しやっていくことなので、大手証券会社が取り組むのは、なかなか難しいことです。我々は、それが可能で、確実に実績を出しています。kintoneやSkypeは、長期投資をやっていく上でとても役立っているツールです。これからも、長期投資を通じて、環境に取り組む企業を応援し、持続可能な未来をつくるために、まだどこもやっていないことにチャレンジしていきたい」と、今後への想いを力強く語った。

 

業務改善ソリューション

 

導入テクノロジー

  • Office 365

  • Skype for business

  • Microsoft Intune

  • kintone

 

徳島合同証券株式会社

「直接金融を通じ人々の生活の向上を支える企業を応援する」の経営理念のもと、日本株式のスペシャリストを目指す、徳島を元気にする金融商品を創る、全社員の雇用と徳島の森林を守るという3つの経営方針により、徳島になくてはならない証券会社を目指します。

http://www.tg-sec.co.jp/

デジタルで「顔の見える」IRがはじまる

■新しいプロジェクトは、つながりから生まれる

 6月の決算月を終え、7月から新年度に入りました。ダンクソフトは今年度もひきつづき「Digital Re-Creation はじまりをつくる」を実現していきます。

  ダンクソフトは、デジタル・テクノロジーで、地域と地域、地域と人、人と人をつなぐ、結びつけていく、ということをやってきました。また、2011年の東日本大震災以降、自らスマートワークの実証実験を行ってきました。徳島県・神山町にいちはやくサテライト・オフィスを開設したことをきっかけに展開したたくさんの活動からの知見を、全国各地に展開し、地域で仕事がうまれるようテレワーカー育成に取り組んできました。

  昨年は、その応用として、株式情報のポータルを運営するストックウェザー社と連携して、岡山県瀬戸内市で、株価情報の入力オペレーター育成事業を行いました。瀬戸内市では、証券会社のデータをダウンロードしてアップロードするという、特別なスキルがない人も参加していただける仕事をご用意し、習熟した方には、さらにステップアップしていただける可能性を含んだ事業となりました。

 この流れの中で、今年度、特に楽しみにしているプロジェクトがあります。それは、「IR」(Investors Relations)の分野で、新たな“はじまりをつくる”ことです。

 

■「顔の見える」IR情報で、ステイクホルダーと企業を結ぶ

 90年代の後半に、ダンクソフトは、証券会社をスピンアウトした人たちと組んで、個人を対象とした株式情報のポータル・サイトを作りました。そのポータルを運営するのが、ストックウェザー社です。その当時からの流れで、私は今も外部役員として参加しています。みなさんもご存知の通り、諸外国と比較して、日本は投資に対して消極的で、総資産の数%しか投資にお金が回っていません。タンス貯金もふくめて、もう少し世の中に循環させていかないと、社会が活性化していかない。とはいえ、投資に対して皆さん積極的ではないので、個人投資家へ情報を提供しているストックウェザー社としては、株に触れたことがない人たちにもっと市場に参加してもらうしかけができないか、という課題がありました。

 そこで、ダンクソフトが、今までデジタル分野で培った知見を活かして、「IR」(Investors Relations)というものの見方を変え、多くの人に参加してもらうしかけができないかという課題に応えようというのが、今年注力するプロジェクトのひとつです。

 世の中には、いい会社がたくさんあります。でも、それが知られていません。魅力を周知していくことで、その会社が伸びて、投資した人にも還元がある。さらに、企業にとっては、地域社会の中でつながりのある人たちが増えることで、新しいアイディアがその会社にめぐり、サービスも地域も結果的にうまくまわること。そうした流れのきっかけをつくるのが、このプロジェクトの眼目です。

 具体的には、上場企業のIRサイトをもっともっとわかりやすく改善して、上場した意味を周りに告知し、ステイクホルダーとのつながりと関わりを強めましょうというサービスです。各企業のIRサイトをもっと興味を持ってもらえるよう作り変えて、上手に関係づくりができるようにし、対話的なコミュニティをつくろうと思うのです。

 とくにIR情報について、現状は、企業のウェブサイトのなかでそっけなくデータが並べられているだけのことが多い。事業報告などの数字だけを比較したところで、「いい会社」だということが分からないんです。上場はしたが、上場のメリットがどこにあるのかを事業会社も深く考えていなくて、上場して終わり、ということもあると思います。もっと会社を分かりやすくコミュニケーションしていくほうが、興味を持って投資した人にとっても還元できる流れができるし、日本全体にもいいことではないかと考えています。

 

■IR(Investors Relations)の「R」=「多方向関係づくり」が大事

 企業のIRサイトをわかりやすく作り変えるということももちろんですが、さらに大事なのは、IRの「R」の方。Relations、つまり多方向でよりよい関係をつくっていって、事業を活性化することです。

  これこそ、あいだの担い手である“インターミディエイター”としてのダンクソフトの出番です。ですから、つくるのはウェブサイトばかりではありません。あわせて、場づくりも促進していきます。オンライン・オフライン双方の場づくりが、よりよい関係を深めるために欠かせません。

  外部に公開されるオープンなウェブサイトに加え、かかわる方たちだけがクローズドの環境で安全に参加できるコミュニティ・ツール「バザールバザール」を使えば、オンライン・コミュニティ形成のご支援ができます。さらに、サテライト・オフィスやさまざまな地域拠点をつかって、実際に集まることのできる場をつくっていく。以前コラムでも触れたように(デジタルという「新しいリアル」の価値)、デジタルでつながることと直接会うことの相乗効果には、はかりしれないものがあります。その中で、みんなで情報交換できて、イノベーションのきかっけをつくることを考えています。

 また、投資といったときに、なんとなく後ろめたいイメージが持たれている現状も払しょくしていかなければいけない、と思っています。投資活動には、いい時も悪い時もありますが、投資面から賢明に関与しつづける人をどう増やせるか。日本のビジネスは、こうした新しい状況をつくらないと活性化していきません。当該企業の株をもつだけではなく、ポイントは「応援する」という意識になれるかどうかだと思います。

  そこは、徳島に本社を置く徳島合同証券様とのおつきあいを通しても、投資を媒介とする「関係づくり」の可能性と重要性に気づくようになりました。つまりそれは、「投資」といっても、従来の経済的リターンだけを目的とした投資を超えて、「応援したい」という気持ちが相手に伝わるような投資であり、株主と企業が共に成長する「共進化」を重視した投資です。

  

■ユニークな企業の「多方向関係づくり」を支援

 IRというと上場している会社だけが対象になりますが、実際には、それ以外の会社のほうが数も多い。上場だけではなく、クラウド・ファンディングも含めて、お金の循環をうながす仕組みは他にもありますので、それらを活用して社会を活性化していくことを、そろそろ模索していく時期にあると思っています。

 日本でも昨今、色々な企業のチャレンジが、私が理事をつとめる東京ニュービジネス協議会などの身近な企業で盛んです。たとえば、ミドリムシで有名なバイオ・テクノロジーのユーグレナ。ミドリムシを燃料にして飛行機をフライトさせるというプロジェクトがあります。化石燃料に代わる新たな燃料の可能性に、バイオ技術でチャレンジしています。同じくバイオ・テクノロジー企業の株式会社CO2資源化研究所は、二酸化炭素から脱石油100%のプラスチックをつくることに成功しました。どちらも環境関連のバイオ企業で、いまもっとも必要とされる課題をテクノロジーで解決しようとしています。

 東京ニュービジネス協議会メンバーのように、上場はしていなくても社会課題を積極的に解決して評価されるこのような企業をPRする場を提供したいと考えています。また、地域社会で、特徴のあるおもしろい取り組みをされている企業もたくさんあります。こうした企業が仲間を増やし、コミュニティづくりをしていくためには、「顔の見える距離感」「企業の人格が伝わる情報」が必要です。それを実現するウェブサイトづくりを入り口に、多方向関係づくりをご支援していきます。必要な情報がステイクホルダーに届き、対話が始まると、ファウンダーとの出会いや関わりはもちろん、雇用、人材確保にもつながっていくでしょう。

  年頭所感で、お金と情報が一体となって流通していく未来について少しお話しました。このとき、地域や社会の課題解決に積極的な企業をみんなで応援するしくみができれば、地域のみならず日本社会がよりよい方向に変化する一助になるはずです。このプロジェクトを通じて、社会の変化を促進させていきたいと考えています。

  もともとダンクソフトは、ご要望どおりのシステムをつくることにとどまらず、お客様との対話を通じて、何かしら次を見据えた提案をしながら、より便利なもの、より良いもの、よりおもしろいものをつくってきた会社です。

  ユニークな活動をされている企業の魅力をより多くの人に知ってもらい、応援したいと思うステイクホルダーが増えるよう、ダンクソフトは、デジタル・テクノロジーと持ち味を最大限に活かして、「多様性の中の関係づくり」のお手伝いをしてきたし、これからもしていきます。

  令和の時代に、新たな“はじまり”がスタートします。

 

 ■毎日がテレワーク・デイズ

  先日、徳島サテライト・オフィスの竹内祐介が記事に取り上げられました。デジタル・テクノロジーで人々を幸せに、というダンク・ビジョンの身近な例のひとつであり、注目高まるテレワークの先行事例のひとつでもあります。

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「仕事は住みたい場所で、技術革新が生む一体感  テレワーク「当たり前」で、みんな幸せ(2)」

 https://www.47news.jp/3670085.html

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  7/22から「テレワーク・デイズ2019」が始まります。東京オリンピック2020の混雑緩和や、働き方改革の広がりを目指して、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府などが展開するものです。いわば「毎日がテレワーク・デイズ」状態のダンクソフトは、もちろんこれに賛同し、毎年参加しています。

  そこで、次回8月のコラムは“テレワーク特集”とし、「テレワークそもそも話」をはじめ、ダンクソフトの「テレワーク検定」やワークスタイルの実際も、大公開する予定です。どうぞお楽しみに!

ダイバーシティを活かすデジタル・ネットワーク

■「ダイバーシティ」を増幅する新天地・神田

 今日は、「3つのD」のうち、“Diversity(多様性)”について、すこし詳しくお話しします。(→“SMART” とは 「 3つのD 」

ダンクソフトは「ダイバーシティ」を大切にしています。ダイバーシティとは、多様性、ちがい、さまざまであること。ダンクソフトには、いろんな人がいます。性別、国籍、年齢、住む地域といった属性だけでなく、個性、スキル、得意分野などなど、とにかく多様です。外部環境が多様化しているいま、会社内の多様性を確保しなければ、変化する時代に有効にかかわっていくことはできません。そこで、かねてより、内部環境を意図的に多様化してきました。できるだけいろんな人間がいるほうが、新しいことが起こりやすいし、速いし、なんといってもおもしろいですから。

 2019年5月、ダンクソフト東京オフィスは、千代田区の日本橋から、中央区の神田鍛冶町に移転しました。日本橋は老舗が多く、年齢層が高い街でした。一方、神田は若い人たちも多く、下町のエネルギーにあふれる街。二面開口のフロアは光がよく入ってかなり明るく、天井が高いこともあって、とても開放感があります。このオフィスに移ってから、スタッフ同士の距離がぐっと近くなった印象があります。あきらかに会話が増えているし、コミュニケーションが活発になっていると感じます。

 JR・東京メトロ神田駅から徒歩5分以内という立地も助け、より「人が来やすい」新オフィスになりました。屋上からは、スカイツリー・東京・丸の内・大手町などのビル群が一望でき、ちょっとした屋外パーティができそうです。機会あるごとにいろんな方々が集まり、これまで以上に多様な人たちのよい出会いが増えていくことを、楽しみにしています。

 

■「デジタル・ネットワーク」で、より多様に、より自由に

 実は、今回、また新しい実験的試みを行っています。この神田オフィスに毎日常駐している人は、全体の半分弱ほどです。あとの半分以上の人たちは、在宅や地方のサテライト拠点で仕事をしますので、オフィスには固定デスクがありません。必要に応じて出社してオープン・スペースを使用するスタイルにしました。日本橋オフィスの時よりも、さらに在宅比率をあげています。なかには、子育て中だったり、介護や介助をしながら、という人もいます。男女比は3:1くらいでしょうか。国籍も多様です。ダンクソフトは、これからの「来たるべき働き方」を、先行して自分たちで試し、常に実証していますが、こうした試みができるのは、やはり「デジタル・ネットワーク」があるからです。

 おかげで、どこにいても仕事ができるし、いろんなところに行きやすい。すでにあちこちで変化が起きていて、ものづくりにせよメディアにせよ、ビジネスはおおよそ一極集中ではなくなってきています。「離れていながら、つながっている」という状態を可能にするデジタル・ネットワークによって、「“古き良き日本”の新たな形」が実現できるんじゃないかと期待しています。

 いま、地元に残りたい若者が増えています。徳島では、大学生の7割が残りたいと希望しているそうです。「こういう働き方ができるんだ」ということを、地方・地域の若者にこそ知ってほしいです。人にフォーカスをあてて、新しい具体的なロール・モデルをつくっていくことが大事です。多様な働き方や選択肢があると知っていれば、チャンスを広げることができます。現代の都市構造自体にメンテナンスが必要な時期になっているにもかかわらず、いまだに東京にこだわり、都市圏ばかりに人が増えつづけていることには、危機感を覚えます。

 

■デジタルがなければ、多様な人材は地方で活躍できない

 地域ならではの魅力を活かすしくみも増えています。たとえばある地域では、山の再生を通じてプロダクトが生まれ、海外でデザイン賞を受賞したことをきっかけに大きく注目され、期待されています。

 またある地域には、地産地消のフレンチ・ビストロができました。その土地で採れる有機野菜も大変な評判を呼んで、都市部や少し離れた町々から多くのお客さんがわざわざ訪れる人気店になりました。野菜をはじめとして、素材が地域内で循環するので過剰な物流もいりませんし、地域の人たちがそこで働くことで、サービスや課題解決のノウハウが地域にたまっいきます。とてもいい循環が生まれています。

 様々な地域の好事例を見ていて気が付くのは、やはり「デジテル・ネットワーク」があって、そこに「持続可能なコミュニティ」をつくりあげていくからこそなんです。地域の中でデジタル化をすすめることで、ほんとうに必要な人たちと情報を共有できるようになるので、コミュニケーションの厚み、コミュニティの魅力が増していきます。

 いまもっとも大事なデジタルの役割は「コミュニケーション」です。非同期で、一対多。あるいは、いまでは、多対多のコミュニケーションも可能です。小さなお店や個人でも、直接人びとにアプローチでき、双方性もある。そんなツールはかつてありませんでしたから。

 

■デジタル・コミュニケーションの次なる課題

 ただ、デジタル・コミュニケーションには課題もあります。次なる課題は、情報セキュリティと、フェイク(偽情報)の問題でしょう。ウェブ世界のなかで、安心・安全と信頼性を担保するには、ネットワークにも、やはりある程度の枠や信頼の輪が必要です。

 つまり、大事なのは、「情報セキュリティが確保された場所で、そこに誰がいるのかわかっていて、情報が信頼できる」ことです。これらを担保した生きたデジタル・ネットワークとして、ダンクソフトは新しいコミュニティ・ツールを開発しました。クラウド型Re-Creationサービス「ダンクソフト・バザールバザール」といいます。登録したメンバー同士がつどう、情報共有や情報収集の場としてだけでなく、ビジネス・マッチングやイノベーティブな学び合いの場としての役割をもっています。無料のSNS上ではセキュリティに懸念があり、コミュニティ運営が心配だという方は、ぜひ30日間の無料お試し版を一度トライしてみてください。きっと安心・安全なデジタル環境を体感いただけます。

 

■ポリバレント人材は「一人十色」

 もうひとつ、「ポリバレント」ということも、ダンクソフトが大切にしている考え方です。ポリバレントは、状況や場面に応じて、いろんなことができる人のことで、スポーツから学んだことのひとつです。いわば「一人十色」ですね。かつてサッカーでは、選手の役割は固定しているのが普通でした。役割が変わることはなかったんですね。それが、オランダがトータル・フットボールというチームの在り方を編みだし、世界に衝撃を与えました。選手の役割が流動的で、みんな攻めるし、みんな守るという、それまでの常識を覆すものでした。一人の選手がいろんな役割をできる。野球のイチロー選手や大谷選手もそうです。誤りたくないのは、ポリバレントは副業・複業とは異なるということ。大谷選手やイチロー選手は、複数のチームに所属しているわけではありません。大谷選手なら、エンゼルスというひとつのチームのなかで、さまざまな役割を担っています。これが、ポリバレントの意味するところです。

 ビジネスの場面でも、ポリバレントは可能性を広げてくれます。いろんな場面や状況に応じて、ちがうスキルを活かせたり、ちがう個性を発揮できたりするのがポリバレントな人です。

 ポリバレントな人が増えることは、ダイバーシティ(多様性)にもつながります。あと、みんながいろんな仕事をできると、休みやすくなるのは効用のひとつです。そのために日頃から情報共有をできるだけしようとするので、オープンな組織になります。何より、変化する環境の中でいろんなことができるのは、本人にとっておもしろいですよね。場所が変われば、同じ人間でも出る色が変わって、個人の多様性が磨かれます。適応できる場所も増えますから、居場所も増えます。もう、ひとつの仕事だけで一生を終えられる時代ではありませんから、居場所が増えるというのは大事で、素敵なことだと思います。

Digital Re-Creationの実際

■困りごとの解消から、その先へ

 超高速で進みつづけるデジタル・テクノロジーを、仕事のなかに、社会のしくみに、どう組み込み、活かすか。既存の課題を解決するだけでなく、道のないところに新たな課題を設定し、フィールドを切り拓く。可能性のタネを見つけ、ビジネスと社会をバージョン・アップしていく。ダンクソフトでは、デジタル・テクノロジーではじまりをつくることを、“Digital Re-Creation”と呼んでいます。今回はその最前線で活躍する企画チームをご紹介します。

 企画チームは、マーケティングやお客様との関係づくり、イベントなど、新しく何かをはじめるときに動くチームで、デジタル・テクノロジーを使ったこれからの需要創造を担っています。また、10年、20年つづくお客様のICTサポートを担当し、新時代のデジタル環境を提案するのも企画チームです。すべてはデジタルでお客様の困りごとを解決し、次をつくるサポートをしていく。「インクリメンタル・イノベーション(漸進的イノベーション)」の体現者たちと言えるでしょう。

 今回は、企画チームで担当する、デジタル・テクノロジーがビジネスを変えた事例を4つご紹介します。

 

1つ目は、30年以上にわたって当社がICTサポートをしている株式会社ユーアイ様です。花装飾、生花販売、ブライダル装花などの事業を展開する企業で、業務特性にあわせたシステムをご提供し、継続サポートしています。どんな業界でもそうであるように、生花・装花の業界にも業界特有の仕事のしくみがあります。発注、仕入れ、原価管理、また店舗ごとの状況共有や何年も先のご予約など、空間的にも時間的にも、あつかう情報が独特かつ多様なのです。そうした仕事のあり方に応じて、また時代に応じて、ご一緒にシステムを育ててきました。1988年(昭和63年)、まだNECのPC98を使っていた頃から、昭和、平成、令和と、3つの時代にまたがるおつき合いになっています。

 使いやすいシステムの導入によって業務にかかわる時間が減り、時間や人をより有効に活かせるようになったというお客様は、他にもたくさんおられます。2つ目の事例は、老舗広告代理店のムサシノ広告社様です。この会社では、システムの導入によって、庶務業務の負担軽減を実現しました。その結果、それまで庶務だけを担当していた人も営業など他の仕事ができるようになり、人的リソースを有効に活用なさっています。

 

■デジタルという「新しいリアル」の価値

 3つ目の事例は、NPO法人 大田・花とみどりのまちづくり様です。大田区内で花とみどりを守り育てる活動に取りくむNPOで、100人以上のボランティアが活動しています。活動内容は多岐にわたり、ボランティア活動のほか、区の事業受託、講座・イベント開催などもされています。これまでは手書きとエクセルが混在する煩雑な情報管理体制でした。そうした事務局運営の負担を軽減するため、クラウド型のシステムを導入し、これからテスト運用に入るところです。

 NPO法人、ボランティア団体をはじめ、全国各地でさまざまな地域コミュニティが活性化していますが、組織運営のノウハウに悩む団体は少なくありません。情報が生命線のNPOですが、シニア世代や企業経験の少ない方など、まだデジタルやシステム利用に慣れていない方も多いなか、どのように現場に導入し、運用していくか。それによって日ごろの社会関係や活動がどう変わるか。ここでのケースが成功事例になれば、全国のNPOや団体運営にも活かしていけるでしょう。これからの可能性という意味でも、各方面から大いに期待されている取り組みです。

 最後、4つ目の事例は、萩と東京のギャラリーをつないだ経済化の実験「行かずとも居るかたち」です。東京・上野にある「GALLERY心」と、山口県萩市にある「ギャラリーJIBITA」とをオンラインでつなぎ、作品を通じて文化とビジネスを橋わたしする実験的イベントです。今年で2年目となりました。去年につづき、萩と東京の2拠点をskypeでつなぐことに加え、今年は新たにAR(拡張現実)を活用したツールを開発し、導入しました。

 ARを介して、ものの背景にあるストーリーがわかるだけでなく、お客様がリアクションできるしくみを入れたことで、双方向のコミュニケーション・ツールになりました。「時と場を共にする」と言いますが、場は離れていながらにして、時を共にし、同じものを見ることができるようになったわけです。こうした体験を通して、現地・萩への関心が高まり、さらには、そこに行きたいというモチベーションが生まれてほしいと思っています。物理的な距離をデジタル・テクノロジーが先に縮め、続いて人間同士の距離を縮めていく。デジタルでつながるからこそ、じかに会いたくなる。そんなアクションにつながるきっかけとなることを目指しています。

 

■新たなフロンティアを発見する

 今回、「行かずとも居るかたち」の鍵となるARを企画・開発したのは、ダンクソフト企画チームのメンバーで、彼の故郷はトルコです。人とのコミュニケーションが好きで、技術力があります。ギャラリーに足を運び、現場の状況をよく観察して、何が足りないか、どんな可能性が潜んでいるかを見出し、きめ細かい心配りで、このARシステムを企画してくれました。

 3月に「3つのD」についてお話ししました。「Digital(デジタル)× Dialogue(対話)× Diversity(多様性)→  Smart(スマート)」というものです。企画チームが日々取りくんでいることは、まさにこうした意味での「Smart(スマート)」の創造です。

 『デジタル・テクノロジーを有効に活かすには、「デジタル・テクノロジー」だけにとらわれてはならない』という話題を、2月のコラムで取りあげました。そのなかでも触れたとおり、ダンクソフトは「はたらく」を「楽にする」という未来をいつも見ています。デジタルを活用したちょっとした工夫で、業務がうんと楽になるということはよくあります。そうすれば、思い描く未来を引き寄せるために、お客様は、自分たちの時間をもっと有効に使うことができます。私たちは、そのために、さまざまな新しいサービスを生み出してきました。Digital Re-Creation。みなさまもデジタルで新たな「はじまり」をつくりませんか。ぜひ企画チームにお問い合わせください

ダンクソフトの「インクリメンタル・イノベーション」が進む理由

■「人」から始まる。
─インクリメンタル・イノベーションの実際(1)─

 「その人」だからできることが、誰にもあります。ダンクソフトはデジタルで「はじまり」をつくる会社ですが、始めるのは「人」です。というよりも、「人」でしか始まらないと言ってもいいでしょう。

 たとえば、当社の開発チームに、竹内祐介というメンバーがいます。開発チームは文字通りシステム開発を担当するチームです。竹内は、もともとはプログラミングが本務です。ところが、お客様へ製品・サービスのサポートを行っているうちに、お客様との信頼関係が深くなり、やがて窓口的にお客様と対話をする役割を担い、さまざまな側面でお客様とのパートナーシップが生まれていきました。

 竹内は徳島在住で、徳島サテライト・オフィスで仕事をしています。彼が担当するクライアントのひとつに、徳島合同証券株式会社様があります。地元徳島のお客様を中心に、一緒に生きていくことを理念とし、日本株だけを対面で扱う、地域密着の証券会社です。ペーパーレス化の取り組みをご支援したのが、最初のプロジェクトでした。

 7トンもの紙類があふれるオフィスから、3.5トンを廃棄しました。ペーパーレスにして、きれいにすることで、社員の皆さんの意識が変わることを実感されたようです。オフィス環境が社員のマインドを刺激し、新しいマインドが結果を生み出します。年間700万円のコスト削減にも成功されました。そこからさらに、次はクラウドでのファイル共有、次はデジタル環境の整備……というように、デジタル・テクノロジーの活用によるオフィス改革が次々と進み、それにつれて業績も伸びていきました。これは、少しずつ、持続的に進める「インクリメンタル・イノベーション(漸進的イノベーション)」の好例と言えるでしょう。

 関わりが深まるなかで、竹内がご支援する内容も幅が広がり、社内セミナーのご依頼をいただくようになりました。『クラウド環境でのファイルの使い方』に始まり、『情報セキュリティー』、『プライバシー・マーク』から『BCP(事業継続計画)』まで、竹内は、デジタル・テクノロジーに関する、さまざまなセミナーで講師をつとめるようになりました。徳島県内や四国地域へのご縁が広がり、ビジネス・パーソンを対象としたもののみならず、地元の阿南高等専門学校で授業を受け持つようになりました。OSとプログラミング言語についての授業を、2018年から担当しています。

 このような広がりは、ダンクソフトの製品やサービスがあるからだけでは起こりません。まわりの方々と関わり合うなかで、竹内という人間の可能性やチャームが、新たな活躍の領域をひらいたのだと言えます。一人ひとりが複数のポジションを担うことができる「ポリバレントなプレイヤー」をつねに目指す、ダンクソフトならではの活躍の仕方でもあります。

 徳島合同証券 様は、今では「うちのIT顧問はダンクソフトだ」とおっしゃってくださるようになりました。ペーパーレス化やデジタル・テクノロジーを活かした取り組み等が認められ、同社[A1] は「倫理的消費(エシカル消費)」普及・啓発活動」実践企業の事例として、消費者庁のウェブサイトに掲載されています。また年頭所感でお話しした、ご当地銘柄ファンドの取り組みを、徳島合同証券 様と一緒に進めています。[A2] 

 

■大手術をしなくても、現状は変えられる
─インクリメンタル・イノベーションの実際(2)─

 竹内のいる開発チームで開発した製品のひとつに「日報かんり」があります。社内のプロジェクト管理や商品管理と連動して、原価管理ができるしくみです。もとは25年以上前に、お客様のニーズから開発したシステムでした。その後、ダンクソフト社内でも実際に使いはじめました。IT業界では、製品を自分たちで使いながら、改良を重ねていく文化があります。というのも、やはり自分たちで使うと理解が進むもので、利点も新たな可能性も見えてきます。いまでは、こうして蓄積した実際的な知見をもとに、より使っていただきやすいものへとアップデートし、広くさまざまなお客様に提供しています。

 あるとき、「こういう機能があったらいいよね」と社員から声が上がりました。このリクエストについて、企画チームの中香織が、さっとプログラムをかいて、みんなの希望していた機能を実装してくれました。中は、開発チームではなく、企画チームのメンバーです。それが、javaScript(ジャバスクリプト)でさっと書いてくれました。

 また別の時に、神山サテライト・オフィスにいる新規事業開発チームの本橋大輔が、それまで手作業でしていた作業がシステム上でできるよう、さらに機能を追加してくれた、ということもありました。

 気づいた人が自発的にクリエイトするということは、ダンクソフト文化でもあります。ただ、このとき、前提にある「思い込み」に気づくことが大事で、気づく目を持っていることが大切です。「手作業で当たり前」「それはできないこと」など、いわば“あきらめられている部分“にこそ目を向ける。そして、気づいたらすぐにやってみることによって、人が困っているところにさっと手が届く。

「インクリメンタル・イノベーション(漸進的イノベーション)」とは、まさにこういうことなんですね。小さなイノベーションを重ねて、少しずつ良くしていく。ちょっとしたひと手間で、「現状を変える」ことはできるのです。

 ダンクソフトでは、日々社内でこのような「インクリメンタル・イノベーション」が起きています。昨日より今日、今日より明日。チームを超えて、少しずつより良くしていこうという、文化としての「インクリメンタル・イノベーション」があります。大手術が要らないよう、日々少しずつ気をつけている、とも言えるでしょう。

 大切なのは、現状は「自分の手で変えられる」という実感をもつことです。小さなことであっても、これを続けていくことで、一人ひとりのマインドセットが変わっていく。クリエイティブな自己変容の体験です。やはり“思い込み”に気づく、“あきらめられている部分”に目を向ける、気づいたらすぐにやってみる、といったマインドセットが重要です。徳島合同証券 様もそうでしたし、ダンクソフトも、実際、意識することで少しずつ変わってきました。少しずつでいいんです。「明日に向かって歩を進めていく会社」が増え、働くこと、そして「自分の手で変えられる」ことが楽しい社会に、みんなで向かっていきたいものです。

“Smart” とは 「 3つのD 」

■ ダンクソフトは「Smart(スマート)」を提供する

 ダンクソフトでは、人びとの「Smart(スマート)」な働き方をエンパワーする製品やサービスを展開しています。また、東京本社オフィスのほかに、全国に7か所の拠点があり、これらを「スマート・オフィス」と名付けています。

では、「Smart(スマート)」とは何か。ダンクソフトが推進する「Smart(スマート)」は、「 3つのD 」で構成されています。

 「 3つのD 」とは、「Digital(デジタル)」、「Dialogue(対話)」、「 Diversity(多様性)」、のことです。日本のオフィスを、ビジネスを、人々の働き方を、もっとSmart(スマート)にするためには、これら「 3つのD 」が揃うことが大切なのです。

 まず、「Digital(デジタル)」は、私たちダンクソフトが創業以来ずっと取り組んできたことです。今年の年頭所感でも、ダンクソフトが「デジタル・テクノロジー」を重視していることをお話ししました。アナログに替わり、デジタル・テクノロジーを駆使して、働く環境を効率化する。そして、効率化によって生まれた時間を有効につかい、創造的なコト・モノ・サービスを考えだす。さらに、実験しながら精度をあげて提供しつづけることで、自ら未来を自在に創り出していく。Digitalを取り入れるのは、単なる効率化を超え、未来を「創造」していくことが真の目的です。「創造」とは、新たな はじまり をつくることです。

 そのために重要なのが、「Diversity(多様性)」と「Dialogue(対話)」です。たとえば日本、日本人といっても土地や地方や地域によって、じつにさまざまな個性があり、特長があり、ちがいがあります。多様です。ダンクソフトは徳島にサテライト・オフィスがありますが、徳島県には24種類もの方言があるのだそうです。ちょっと離れただけでニュアンスや言い回しがちがう。そして興味深いことに、言葉がちがうと、考え方や発想も少しちがう。川を隔てるとそれぞれ文化がちがうんですね。ちがいがあること自体がイノベーションの可能性です。多様であることは、とても刺激的で、新鮮です。

 ただし、ちがうもの同士が出会ってイノベーションが生まれるためには、対話が不可欠です。多様なものをそのままにしておくと、ただ単にばらばらになってしまうだけ。そこをきちんと対話でむすびます。それぞれが自分を開き、異なる価値観や他者をよく知り、多様性が混じり合って初めて、創発が起こります。それを、デジタル・テクノロジーが支え、イノベーションを加速させます。まとめると、こうなります。

  Digital(デジタル)  ×  Dialogue(対話)  ×  Diversity(多様性)  → Smart(スマート)

 これがダンクソフトの考える「Smart(スマート)」のあり方です。

■ Dialogue(対話)がチームを動かす

 ダンクソフトが提供するサービスのなかで、ウェブデザイン・運用コンサルティングなどを担っているのが、「ウェブ・チーム」です。最近はお客様のオフィスに常駐するサービスへのご依頼も増えていて、クライアント先にいるスタッフもいます。

 ウェブサイトの構築や運用は、クライアントとの長期にわたる協働プロジェクトになります。そこで大事になるのがお客様との「Dialogue(対話)」です。20年、25年と長きにわたりサポートし続けているクライアントがいることも、対話を重視していることの表れだと感じています。私たちは、依頼内容自体をよく吟味して、お客様の本当の願いはどこにあるのか、困りごとは何なのかを、「対話」を通して見極めていきます。

先日、まさに対話効果が表れた、よいエピソードがありました。オンサイトでご支援しているクライアントの部門内で、あるプロジェクト管理ツールの使用が始まりました。もともとダンクソフト社内では、そのツールを使っていました。進捗管理、やりとりの履歴、トラブル・シューティングなどをスタッフ間で共有しており、活用経験があったのです。そこで、クライアントとダンクソフトのやり取りにも、そのツールを導入することになりました。

その際に、先行して使っていた経験を活かし、対話しながら、そのツールのよりよい使い方などをクライアントにガイドしてさしあげることができました。今では個別のメールではなく、そのツールが情報共有の標準手段となっています。両社が共有できる形で履歴が残るので、情報がオープンになり、また属人的にならずにすむため、他の方がフォローもしやすい。人事異動のサイクルが早いクライアントにとっても、引き継ぎの負担も減りますし、先達のノウハウがきちんと蓄積されていきます。バックアップやリスクヘッジにもなります。

 紙で分散したり、個々に分断されたりしていた情報を、デジタルで共有してオープンにする。新しいツールや環境は、人や組織にも自然な変化を促してくれます。ダンクソフトの「ウェブ・チーム」は、クライアントとの対話を通じて、デジタル・コミュニケーションやスマート文化の橋渡しもしています。

■ Diversity(多様性)が豊かさをもたらす

 Diversity、人の多様性は「ウェブ・チーム」だけでなく、ダンクソフトの特長です。個性、特徴、スキル、地域、いずれも多様です。サテライト・オフィスのメンバーもいれば、エンジニア出身の人もおり、また他部門との行き来もあり、多彩多芸です。ポリバレントな人材を重視しているゆえんでもあります。

 ダンクソフトでは、約15年前に就業規則を刷新した際に、統括や総務や経理といった専属部門をなくしました。クラウド化が進めば、本務以外はアウトソーシングできるとわかっていたので、あとは相互連携でカバーできるからです。実際、専属部門をなくしたことでみんなが意識的になり、かえって全体に目が届くようになりました。

 「ウェブ・チーム」のメンバーは目配りがこまやかで、人が気づかないことに気づいて、いち早く行動するんですね。黙ってオフィスを整えてくれていたり、お互いの仕事をカバーしあう風土があったり。それぞれ異なる目線で周囲をよく見ていて、気配りに敏感です。

 こうした多様な視点の、対話を通したコミュニケーションがあるので、お客様から求められた通りのものを提供するだけでなく、お客様のさらに先にいるお客様や社会を見すえて、より広く深くご提案していくことができます。これがダンクソフトのサービスの特長を生みだしています。

 ウェブは便利な一方、自分で自分を守らなければならない世界です。国であれば政府や警察がありますが、ウェブにはありません。個人情報もフェイクニュースも、つまり、出ていく情報も入ってくる情報も、自分で守る必要があります。

 ダンクソフトはお客様にデジタル・サービスを提供しながら、まず自社をスマートにするべく、15年前からペーパーレス化、デジタル化に取り組み、オープン・コミュニケーションやサテライト・オフィスを進めてきました。デジタルの先をいっているささやかな自負があります。

こうして培ったデジタルの知見をもとに、ウェブ上での安全管理や、安心して使えるプラットフォームのしくみなどをお客様にご提案していくことも、ダンクソフトの役割だと捉えています。この流れでうみだしたのが「バザールバザール」という新しいコミュニティ・ツールです。このお話は、またいつかしたいと思います。

■ Digital(デジタル)だからできることがある

 ウェブには膨大な情報がありますが、いまやスマホで見られないコンテンツは存在しないも同然です。再生できないメディアは、メディアとして機能しない。その情報は死んでしまうのです。

 また「ネット・サーフィン」と言い「ブラウザ」と言うように、ウェブで見る情報は、表面上を流れていってしまいがちです。ブラウザの元になるブラウズ(browse)は、本に漫然と目を通す、店や棚をざっと見る、冷やかして回るというような意味ですね。ですが私は、見るべき情報をちゃんと残すことも、デジタルの使命だと思うのです。大事な情報を埋もれさせてしまってはいけないと。

 もともとそう考えるようになったきっかけは、実は書籍でした。デジタルの黎明期、まだITという言葉もなくプログラミングの本なども少なかった頃は、書店の棚には骨太な情報理論の本が並んでいました。ですが、技術書やハウツー本の新刊がどんどん出るにつれ、新刊におされて古典は書棚から消え、絶版になっていきました。時代を超えて必要な、古典や良書が読めなくなってしまう。大事なことが書かれているのですから、それではいけない、残さなくちゃ、と思うんですね。

 古典や良書といえば、50歳をすぎて『論語』(孔子BC6〜5世紀)を初めて読み、大きな学びを得ました。その後、同じ中国の春秋戦国時代の思想家である莊子(孔子BC4〜3世紀)に惹かれ、最近はスピノザ(1632〜1677)を興味深く読んでいます。なんとおもしろい偉大な人が古今東西にたくさんいるものです。こうして数百年、千年、二千年を隔てて私が先達の思想に出会えるのも、本という形で情報が残っていたからです。

 さて、冒頭でも触れたとおり、「デジタル・テクノロジー」はダンクソフトの事業・サービスの柱です。デジタルなら簡単に複製でき、その瞬間にシェアできると同時にバックアップがとれる。証拠も残る。圧縮して保管することもできます。翻訳も可能。誰かが入力した情報を死蔵することなく、とことん生かすことができる。人類にとって画期的な時間の節約のしかた、物理的空間の超え方でもあるのです。

 デジタルを有効活用できれば、未来を自分の手元に引き寄せられるという手応えがあります。未来は向こうからやってくるのではない。得たものを吸収していくと、それが未来になる。これからも製品やサービスを通して、ダンクソフトの考える「スマートな未来」を実現していきたいと思っています。

「 デジタル・テクノロジー 」を有効に活かすには、「 デジタル・テクノロジー 」だけにとらわれてはならない

■「その先」を見る

 人生100年時代、そしてAI時代が到来しています。自分たちが何を提供するのか、していくのか、個人も組織もいよいよよく考えなければなりません。

  社会においてもビジネスにおいても、「変わらないもの」と「変わっていかなければならないもの」の2つがあります。何が変わらずに残り続ける普遍で何が動くべきなのか、そこに発見的になり、広く深くやわらかく見ることが大切です。

  一般にシステム開発やウェブ・サービスを提供する場合、コンピュータ側の視点だけで考えていると、どうしてもプログラムやデザインに意識が向かいやすく、クライアント企業のあり方や価値観への探究が不足しがちです。

  私たちがプロジェクトで扱うのは、製品情報、ユーザー情報などの企業が持つ情報です。その情報を生かし、作業を身軽にし、人をより豊かにするものにするために、デジタル・テクノロジーを使う。私たちはデジタル・テクノロジーを突きつめると同時に、情報についても突きつめていくべきです。

 企業であれば、その企業が持っている情報をとことん突きつめていく。企業情報を突きつめるということは、その企業が提供しているサービスが何なのかを考えることです。どれだけクライアントの仕事を理解できるか。さらに言えば、その先を見ること。時代とともに、お客様のビジネスも変わっていきますから、そこを見る。

 そうでないと、デジタル・テクノロジーの本当の価値もわかりません。技術やサービスは年月とともに変わっていきます。今現在だけでなく、この先、さらにもっと先を広く見渡して、それを見越して提案していくことが大事です。私がこの業界で30数年以上にわたって一線で仕事ができている理由のひとつは、おそらくそういうところだと思います。

 

■ちょっとずつ良くしていこう

 最近の傾向として、オンサイトでの業務をご要望いただくことが増えています。IT業界で「オンサイト」といえば、「お客様のそばでデザインやエンジニアリングを行う」というほどの意味で使われます。一般的にはクライアントからのオーダー通りに行うのが業務委託/受託だとは思いますが、ダンクソフトの場合、一般的なオンサイトとはとらえ方が少し異なります。

 私たちは依頼内容自体をよく吟味して、お客様の本当の願いはどういうところにあるのか、何に困っておられるのかを、「対話」を通して見極めます。そして、お客様やお客様のお客様、あるいはその周囲に、より効果のある、インパクトのある、あるいはよりシンプルなソリューションを提供することを提案、実行するように活動しています。

  もともと何かしら提案をしながらより面白いもの、良いもの、便利なものをつくる、いわば「はじまりをつくる」のが当社の特徴で、いわゆる「オンサイト」であってもそのスタンスは変わりません。なにか新しいものを入れて結果がでれば、その次に、また一段上のステップに向かって課題が出てきます。そこを一緒になってつくり続けられるのが望ましいと考えています。

  年頭所感で「2019年をインターミディエイター元年に」というメッセージを掲げました。「インターミディエイター」とは「あいだ」をつなぎ、それぞれの価値を生かす関係の結節点となる役割です。ダンクソフトのオンサイト・サービスは、人と情報と技術のインターミディエイターとなって、デジタル・テクノロジーで日々の業務にインクリメンタル・イノベーション(漸進的イノベーション)を重ねていく、ダンクソフトならではのサービスです。

  デジタル・テクノロジーでお客様の困りごとに寄り添う。そして、対話の中から、よりよいものを一緒につくり、育てていける環境をつくる。そのため、極論をいえばプログラムをさわらないこともあります。ちょっとしたアドバイスひとつで大きく変わる場合もあるのです。

  デジタル・テクノロジーの考え方の基本にあるのが「同じことを2度3度と繰り返さない」ということです。インテグリティ(整合性)といって、システムのロバストネス(堅牢性)にとって非常に重要な考え方です。デジタルの世界では、例えば、カーボン複写を基本とする紙の伝票とは、情報を扱うルールの考え方が根本的に違うわけです。ですから、デジタル・テクノロジーを導入するときに、紙のルールを持ち込まないことは大切です。

  そうした基本のコツのようなものがつかめれば、ちょっとしたアイデアで業務がうんと楽になるということはよくあります。作業的にも心理的にも小さな負荷で、日々の業務のやりかたが少しずつアップデートできていく。徐々に身軽に快適になる。「インクリメンタル(漸進的)なイノベーション」ということです。

  それから、先述のとおり企業が扱う情報は、突きつめて考えればその企業のサービスや製品そのものの姿を映しています。本当に核になる部分はそうそう変わらない。情報の形、いわゆるマスター情報は変わらないのです。現にダンクソフトの長年の取引先のなかには、データベースの形が20年や25年にわたって変わっていない会社もあります。

  OSがセキュリティの要請でバージョンアップするとプログラムを書き換える必要はありますが、最初に情報を入れるハコをきちんと作ってさえおけば、マスター情報はそのまま引き継げます。あとは、年数が経つとどうしても劣化する部分もあるので、メンテナンスやケアを続けていけば、業務も情報も、シンプルに風通しよく保てます。

  

■ゆるくしておこう

 私の基本的な姿勢は、まずどれだけシンプルにできるか、何が省けるかということ。それと、できるだけ広く大きく考えておくこと。私はこれを「ゆるくしておく」とよく言うのですが、課題を見るときに、いまどうなっているのかを最大限にとらえ、余地、余白、遊びをもっておく。そうすることで、状況の変化や不測の事態にも対応しやすく、柔軟でいられます。新たな可能性、社会の変化の兆しにも機敏に動けます。

  これからはこうしたオンサイト・サービスを遠隔地から行うことが増えていくでしょう。いまちょうど、ある外資系クライアントでそういう取り組みが始まっています。システム自体は遠隔地のサテライト拠点で構築し、全国80の営業拠点にシステムのデリバリーをしていきます。

  現在のところ便宜上「オンサイト」と呼んでいますが、物理的に同じ場所にいなくてもできることが増えています。お客様もわれわれもいろんなところにいて、一緒に仕事ができる。それができるとお客様にもより便利になります。どういう業界・仕事であっても働き方を変えていかなければならない時代の要請に応えるものでもあります。

  また、少し見方を変えれば、これから企業と地域や社会との関わりがますます増え、重要になっていくでしょう。そういう視点をもって、「お客様と社会」への提案も出てくる可能性があります。プレイヤーが多様になっています。地域の課題も企業の課題も生活者や働き方の課題も、大きい視点で見ると解決しやすくなっている。その一部にデジタル・テクノロジーが使えると便利ですよ、ということなのです。

  オンサイトもテレワークもサテライト・オフィスも、要はもっと省けるところは省き、その分をよりクリエイティブになるための時間に費やしていくために有効です。でも、ただ効率化そのものが目的になってしまっては本末転倒です。何のための効率化か? そこが大切です。いろいろな地域でこうした動きに関われる人が増えていくイメージを拡げていきたいと考えています。

2019年 年頭所感

2019年をインターミディエイター元年に

新年あけましておめでとうございます。

 昨年は、ウェブチームの活躍、地方展開、クラウド・サポート推進などのハイライトが光る一年でした。一方、オフィスでの雨漏りからの業績鈍化、長年勤務した社員の離脱もありました。しかし、やはりピンチはチャンスでした。その後、採用活動は好転し、新たな優れたスタッフの参加にも恵まれました。そして、2019年5月には本社を移転します。よりよいDUNKSOFTへのチャレンジの機は、いままさに到来しています。

 元来、DUNKSOFTは、デジタルではじまりをつくる、「Digital Re-Creation(リ・クリエーション:再創造)」の未来を描くことに長年携わってきました。“デジタル・テクノロジー”を駆使して、人のポテンシャルを引き出す。コンピュータと人間と社会の“インターミディエイター”となって、ビジネスと暮らしを「楽」にする。“インクリメンタル・イノベーション(漸進的イノベーション)”で、失敗も含めて小さな変革を積み重ね、新しい価値観をつくる。それを36年間続けてきました。この役割は、さらに進化しながら新たなステージに向かっていくでしょう。そういう流れが、いま、来ています。

 「インターミディエイター」とは、いろいろな人、モノ、地域などの「あいだ」に入り、それぞれの価値を見出し、次の新しい展開をつくる存在です。皆を牽引するリーダーではなく、関係の結節点を担う、「あいだ」を結ぶ役割です。目立たないけれど欠かせない、システムのかなめです。DUNKSOFTの風土で育くまれてきたこうした価値が、これからさらに評価される時代が来ています。

 2019年は、2020年東京オリンピックを目前に、さまざまな動きが加速します。なかでも喫緊の課題が、ハードとソフトの双方を含めたデジタル・テクノロジーの有効活用とその環境整備です。

 そうしたなか、DUNKSOFTの2019年は、地方も都市も含めて、助け合い、共に学び合う「Co-Learning」の環境づくりをしながら、パートナーや社員を増やし、より自在な働き方によって、未来への挑戦を推進する一年になります。

 少子高齢化は日本全体の課題ですが、東京など首都圏と地方では課題のあらわれかたが異なります。東京は人が足りない。地方は働き方の選択肢が少ない。私たちのサテライト・オフィス展開は、そうした相互のニーズをマッチングさせる取り組みとして徳島から始まり、他の地域にも拡がっています。地域活性化対策としての移住が注目されていますが、移住では競争が生じ、人の奪い合いになります。それは幸福ではありません。さまざまな地域にいる人たちが、DUNKSOFTとの出会いで、生まれたところでそのまま働ける。コミュニティーもできる。そういう生き方、働き方ができる。選択肢を広げ、人がより自由になれるしくみづくりが、サテライト・オフィスのひとつの意義です。場所は私たちが選んでいるのではなく運ばれてくるご縁を大切にしており、そういう意味では時代の風に乗っているとも言えるでしょうか。今年は中四国地方に複数拠点を展開していく見通しです。

 また、2019年は、子どもたちに私たちの働き方を見てもらう機会を増やしていきます。昨年おこなった遠隔イベントでは、高知の漁村とオンラインでつなぎ、中学生14名、そして先生たちに、デジタル・テクノロジーがもたらす未来を体感していただきました。これからの働き方は、もっと自由で流動的になっていきます。制約や束縛から解放されていきます。ただ、過疎地に限らず実際にはそれを体験したことのない大人がほとんどです。柔軟な働き方モデルの提示によって、子どもたちの将来の選択肢を増やし、子どもが未来を楽しみに思う社会になってほしい。そして、大人もその姿から学び、新しい環境をつくってほしい。DUNKSOFTとしても、もっとコミュニティー的なあり方に向かっていきたい。「CompanyからCommunityへ」ということを考えています。これからの時代に備えて、多様な人材を確保・連携しながら、新しいビジネスを共に学び、成果を出す風土とともに、カリキュラムも整備された次の組織形態に変化していくきっかけの年にできればと考えます。

 もうひとつ、今年、力を入れていきたい取り組みのひとつが「ご当地銘柄ファンド」です。たとえば環境保全やゴミ減量など、地域課題や社会課題の改善につながる地元企業を、地元の人びとに紹介する。地元に関係する方々が、共感する会社をファンドでサポートする。それによって企業の業績が上がり、地域内で、お金や価値観やつながりの循環が生まれます。子どもたちが地元企業をインタビューして紹介し、地域のライターやプログラミングができる人たちが関わってポータルをつくってもよいでしょう。「ご当地銘柄ファンド」は、投資を媒介とするローカルメディア機能を担っていきます。

 2020年に向けて、キャッシュレスが急速に進み、お金の流通はますます高速になります。それと並行して、贈与(gift)や互酬性(reciprocity)といった数字にあらわれない価値交換が活性化していくでしょう。「ご当地銘柄ファンド」では、目に見えて動くものはお金ですが、交換されるのはそれだけではありません。情報が交換され、アイデアが交換されます。「ご当地銘柄ファンド」が媒介となり、地域の関係が活性化され、より活発なコミュニケーションが起こっていきます。私たちが今まで培ってきたウェブ・テクノロジーの知見、地域で担ってきたインターミディエイターの経験を活かして、ケースをつくり、多地域展開していきたいと考えています。

 物質的価値よりも経験価値が重視される時代です。デジタル・テクノロジーではじまりをつくる「Digital Re-Creation」の未来を、DUNKSOFT自らが実現していく2019年にしたいと思います。

 本年が日本と世界の皆さんにとって、さらなる「Re-Creation」の一年となることを祈念し、新年のご挨拶とさせていただきます。

株式会社ダンクソフト
代表取締役 星野 晃一郎