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事例:神田藍プロジェクト 〜ソーシャル・キャピタルを育む藍とデジタル

協働パートナー:「神田藍愛〜I love KANDA〜 プロジェクト」に参加する企業・団体・住民の皆様


ダンクソフト本社のある東京都千代田区の神田エリアには、その昔、染物屋の集まる日本有数の「紺屋町」があった。全国の藍や問屋が集まり、いろいろな地域同士を藍で結んでいた場所だ。2020年12月、この神田エリアで、有志を中心に「神田藍プロジェクト」が誕生した。神田にゆかりのある「藍」を媒介とし、地域で暮らす人々や働く人たちによるコミュニティをつくろうと、小さくはじまった「神田藍愛〜I love KANDA〜 プロジェクト」(以下、神田藍プロジェクト)が今、急速な展開を見せている。


 ■藍を媒介に地域がつながる「神田藍プロジェクト」がスタート

神田藍プロジェクトのメンバー
後列左から
2番目 東京楠堂 井上智雄氏
4番目 株式会社ハゴロモ 伊藤純一氏
5番目 一般社団法人 遊心 峯岸由美子氏
6番目 ダンクソフト 代表取締役 星野晃一郎

神田藍プロジェクトでイニシアチブをとるメンバーのひとりが、一般社団法人 遊心 代表理事の峯岸由美子氏だ。遊心は、「自然・家族・仲間が共にいる喜びを通して、どのような環境においても『しなやかに自律する』人を育てること」を理念に掲げ、都市部の自然をテーマに、親子や子供を対象としたワークショップの実績が豊富な団体だ。 

峯岸氏は以前、神田に本社を持つ株式会社ハゴロモのビルをフィールドに、伊藤純一 社長(当時)とともに、地域の子供たちと屋上で野菜を育てるプロジェクトを実施していた。しかし実際には、日差しが強すぎることによる水不足など、野菜を育てるには厳しい環境だった。そこで、都心のビル街という環境にも強いであろう「藍」を育てるのが面白いのでは、というアイディアが生まれ、これが神田藍プロジェクトへと形を変えていったのだ。

 

■「地域コミュニティの活性化」が「防災」につながる

一方、40年にわたり都心にオフィスを構えるダンクソフトには、もともと「防災」への課題意識があった 

ダンクソフトが考えるこれからの防災についてはこちらのコラムをご覧ください。https://www.dunksoft.com/message/2022-06

巨大地震などの災害時に、企業に求められるのは迅速なリカバリーである。ダンクソフトでは2008年からテレワークの実証実験をするなど、デジタル環境の整備は進み、BCP対策は万全だ。だが、防災を考える時、もうひとつの要となる「地域コミュニティとの連携」は、希薄な状態だった。  

ちょうど本社を神田駅前の新築ビルに移転後、ほどなくして、神田藍プロジェクトの話が舞い込んだ。それは、神田に住む人、働く人、愛する人たちが共に力をあわせ、神田をより楽しく、心地よく過ごせる街へと育てることを目指して、神田のシンボルとなるだろう「藍」をみんなで育てる活動だった。 

移転したばかりで、地域とのつながりを求めていたダンクソフトにとって、神田藍プロジェクトは渡りに船だった。このプロジェクトを通じて、地域コミュニティや地域企業との新たな結びつきが生まれ、将来的には神田エリアの防災にもつながる可能性がある。そこで、2021年12月、ダンクソフトは迷うことなく参加し、事務局メンバーにも加わった。

 

■デジタル企業が植物を育てるという試み

植物や自然に精通している峯岸氏いわく、神田藍プロジェクトは、最初の1年は試行錯誤の連続だった。思ったように藍がうまく育たない場所があったり、企業や地域の方々にもなかなか理解を得られないなど、色々な課題が出ていた。峯岸氏は、これらの課題へひとつひとつに丁寧に対応していくことで、様々な方たちがプロジェクトへ参加しやすい状況をつくる工夫を重ねた。

藍の育て方を紹介する動画「種まき編」。他にも、「植替え」「間引き」「水やり」などを紹介した動画もあります。

藍の育て方を動画でシェアしたり、藍を育てる方たちを訪ねてよく話をしながら、藍を育てることがコミュニティの活性化につながるという未来の物語を、粘り強く語りつづけていた。 

ダンクソフトでも、その未来の物語に賛同し、いち参加企業として、藍の鉢植えを1つベランダで育てることから1年目が始まった。コロナ禍となり、全社在宅勤務となったオフィスのベランダで、藍は元気に育っていた。オフィスに出社していたダンクソフト代表の星野は、在宅勤務する全国のスタッフたちへ、藍の様子を共有した。また毎日の水やりをする中で、育成プロセスをデジタル化することを試みた。ウェブカメラを設置し、24時間どこからでも藍の様子が見られるように簡易なシステムをつくり、自動で藍が水を吸い上げる装置を入れるなど、藍が育つ環境をデジタルを使って整えた。

 

■多様性から広がる神田藍コミュニティ

メンバーたちの活動の様子を見て、徐々に徐々に神田藍プロジェクトの輪は広がっていく。神田明神の境内にも藍が育ち、美容院や酒問屋の軒先にも藍のポットが置かれ、藍をめぐる会話が街に増えはじめた。興産信用金庫や神田学会などの企業・団体も、この新しい動きに関心を寄せて、協力・連携が生まれはじめた。 


そんななか、東京楠堂の井上智雄氏が参加することになり、神田藍プロジェクトに大きな変化が起こりはじめる。楠堂さんといえば、和本や集印帳などの製造販売をする神田の老舗企業である。地域とのつながりも強い。

 自治会とのつながりを持つ井上氏が起点となり、2022年春には神田東松下町の町内会とプロジェクト・メンバーが対話する機会が生まれた。これをきっかけに、5月の子供の日にあわせて、地域の子どもたちへ160個もの藍の種を育てる牛乳パックの鉢植えを配布するイベント実施が決まった。続いて、8月20日には、各自で育てた藍の葉を持ち寄って、叩き染めをするイベントを開催。「自分で育てた藍の葉で布を染める」という初めてだらけの体験は、参加者から大変好評を得た。「藍」を媒介に多様な属性の人々が偶発的に集まり、今までにない神田藍コミュニティが、さらに広がりはじめている。

  

■「WeARee!」と「ダイアログ・スペース」で活性化する地域コミュニティ

ダンクソフトでは、神田藍プロジェクトのなかで、デジタルを活用した2つのことを提供している。

ひとつ目は「WeARee!」(ウィアリー)を活用したウェブサイトである。WeARee!とは、バーチャルツアーやARカメラを使ったコミュニティ・イベントを誰でもカンタンにつくれるウェブ・ツールだ。

すでに遊心は、2020年に WeARee!を活用し、ダンクソフトと協働プロジェクトを行っている。今回の神田藍プロジェクトでは、WeARee!の機能の一部である「ウェブサイト機能」と「写真投稿&チャット機能」が生かされている。藍の写真を自由に投稿できるオリジナル・ウェブページを制作。会員専用ページでは、メンバーが投稿した写真について、チャット機能でメンバー同士が対話をすることができる。藍の発育状態が良くない時に写真を投稿すれば、メンバーからアドバイスが自然と届く。オンライン上で場所や時間を選ばず交流できるコ・ラーニング(Co-learning/共同学習)のコミュニティが、WeARee!上に誕生している。

WeARee!を使った、神田藍プロジェクトのページ
https://yushin.wearee.jp/kanda-ai

遊心とダンクソフトの協働プログラムの事例紹介はこちら
https://www.dunksoft.com/message/yushin

 

「神田藍プロジェクトに関わる方には、ご高齢の方もいます。実際に運用してみると、そもそもWeARee!にログインできないという声も出ました。ダンクソフトさんに相談すると、従来型のログイン方法にとらわれない、使いやすいシステムに作り直してくださいました。神田のメンバーのみなさんと対話をしながら、ダンクソフトさんと協働して、より使いやすいUIづくりができて助かっています」と、峯岸氏は語る。

 

ダンクソフトのダイアログ・スペースに集まる神田藍プロジェクトのメンバー。

ふたつ目は、ダンクソフトのオフィス内にある「ダイアログ・スペース」の活用である。 この「ダイアログ・スペース」は、オンラインとオフラインのハイブリッド型ダイアログにも対応した、良質な対話空間だ。社外のイベントや会議にも多く利用されており、神田藍プロジェクトもこのダイアログ・スペースで集まることが多い。

 

また、オフィスにはアイランド・キッチンが備わっているため、ちょっとした生葉染めも、このスペースですることができる。メンバーそれぞれが、自分で育てた藍の葉を持ち寄って、ダンクソフト代表である星野と共に、わきあいあいと生葉染めを楽しむ場面も増えてきた。

 

■「藍×デジタル」で育まれる神田藍コミュニティ

ダンクソフトの社内でも、神田藍プロジェクトを通じて、予想外の効果が生まれた。それは、神田地域を越え、全国で働くダンクソフトのスタッフのあいだに「藍」を媒介にした交流が活性化したことだ。

 

2022年春、徳島サテライト・オフィスのメンバーが揃って神田オフィスに訪れた際に、神田で育てた藍の種を持ち帰った。東京で育てた藍が、神田を離れ、徳島でも花を咲かせたのである。東京・徳島間のオンライン・ミーティングでは、当然のように「藍」が話題にあがり、自然と対話も活性化していく。先日は、東京と徳島合同で、生葉染めのオンライン体験を行ってみた。他にも、栃木や江ノ島に住むスタッフたちも苗を持ちかえり、藍をそれぞれの地域で育てている。今や「神田藍」は、既に神田エリアにとらわれない、様々な人々のコミュニティを結ぶ「媒介」となった。

 

東京楠堂の井上氏は、「ゆくゆくは育てた藍を使った自社ブランドをつくりたい。また体験型の藍染ワークショップなども視野に入れていきたい。」と、神田藍を活かした新しいビジネスの可能性に胸を膨らませている。遊心の峯岸氏も「コロナが落ち着いたらWeARee!のARの機能を活用した、オンライン・オフラインのハイブリッドなイベントを企画したい」と期待を語る。

「20年後、自分で藍染めした法被を着た若者たちが、神田祭で練り歩く」。これは、神田藍プロジェクトが描く、ひとつの未来の物語である。「藍×デジタル」を活かした神田藍プロジェクトは、これからも、神田地域の「ソーシャル・キャピタル」を豊かに醸成する新しいコミュニティとして育っていくことだろう。


■導入テクノロジー

WeARee!
ダイアログ・スペース(ダンクソフト内)

 

■神田藍愛〜I love KANDA〜とは

神田に住む人、働く人、愛する人達が共に力を併せ、神田をより楽しく、心地よく過ごせる街へと育てるためのプロジェクト(運営:一般社団法人遊心)。藍を新たな街のシンボルとし、神田の名産として様々な商品やサービスを 提供・発信する仕組みづくりを行う。一連の活動は持続可能な地域づくりの基盤となり、また人と人、人と地域の絆を深める結び目となることを目的としている。

https://yushin.wearee.jp/kanda-ai

事例:前例のなかったNPO評価認証プロセスをシステム化、効率と高品質を同時に実現へ

お客様:公益財団法人 日本非営利組織評価センター(JCNE)様

 

公益財団法人 日本非営利組織評価センター(以下:JCNE)は、2022年4月から、NPO(非営利組織)を対象とした組織評価制度「ベーシックガバナンスチェック」について、kintoneによる管理・運用システムを開始した。エクセルやメールを使っていたかつての申請プロセスが、フォームに入力するスタイルへと簡素化。その結果、導入から半年足らずで、団体内の事務作業が効率化されただけでなく、利用団体の手続き負荷が軽減されるなど、すでにいくつもの成果があがっているという。今回は、新しいシステム導入の経緯や効果について、JCNE事務局の村上佳央氏にお話をうかがった。


 ■目の前の業務に追われ、後回しになっていたシステム改善

 

JCNEは、2016年の設立以来、NPOを対象に団体の組織評価・認証制度を提供している。NPOにとっては、JCNEのような第三者機関から評価を受け、ガバナンスをみなおすことが、団体の基盤強化につながる。加えてJCNEでは、集約した評価情報を関係機関へ提供したり、広く公開することで、NPOの信頼性や認知向上に貢献している。近年では、助成財団が助成対象となるNPOを審査する際に「ベーシックガバナンスチェック」の利用を推奨するなど、JCNEの評価制度にますます注目が集まっている。

https://jcne.or.jp/data/gg-voice2022.pdf 

グッドガバナンス認証を取得した団体を紹介する「Good Governance Voice」。応援したい団体を見 つけることができるガイドブックとなっている。

「全国レベル、分野共通の非営利組織の評価機関の設立は初の試みです。ですので、日本社会においての『組織評価制度の確立』が、当初、JCNEの大きな課題でした。」と本プロジェクト主担当である村上佳央(かなか)氏は、スタート当時を振り返る。NPOは規模も分野も多岐にわたり、企業に比べて運営体制も脆弱な団体が多い。その状況を考慮しながら、どのような指標やデータを評価対象とするかなど、制度をゼロから設計するところに工夫が必要だった。 

現在、JCNEは「ベーシックガバナンスチェック」「グッドガバナンス認証」という、2段階の評価制度を提供している。申請件数は年間数百。これだけの申請数をわずか5名の事務局員で対応している。これまでは、データはすべてExcelで管理し、申請団体とのやりとりもメールが中心だった。そのため、申請団体からのちょっとした登録内容の変更依頼に対しても、その都度スタッフが手作業で対応する必要があった。

「団体の評価情報を適切に管理したり、もっとデータを活用したくても、手作業の多いExcel管理に追われ、人的リソースを割けずにいました」(村上氏)と、普段からもどかしさを感じていたという。こうした管理体制は、事務局と申請団体の双方に負担がかかり、変更漏れや入力ミスといった情報管理上のリスクも含んでいた。 

JCNE事務局の村上佳央氏。「以前働いていた印刷会社が、大量のゴミを出して環境を害していることに疑問を感じ、NPOへの転職を考えた」という。村上氏は、職場の同僚が、近くにある有名なNPOのことさえ知らなかったことに課題意識を抱き、NPOの認知向上に寄与するJCNEへの就職を決意したという。

■ダンクソフトの「NPOへの実績」と「評価制度への理解」が決め手に

 

 そこで、業務の手間を減らして効率化していくことが、より質の高い体制や、多くの団体評価を実現してNPOの信頼を高めることにつながるだろうと、JCNEの業務改善に取り組むこととなった。NPO業界では、業務プロセス改善にkintoneを使っている団体も多いことから、今回、JCNEもkintoneを使うことを決めた。kintoneの無料相談窓口に問い合わせると、複数の企業を紹介された。その中から、最終的にダンクソフトへ依頼することとなり、2021年12月に、本プロジェクトがスタートした。

 

「ダンクソフトさんは、理解することがなかなか難しいJCNEの評価制度について、提供した資料以上のことを理解しようとしてくださいました。このことが決め手になりました。」と村上氏は振り返る。

 

また、ダンクソフトがサイボウズのパートナー企業であり、NPOへのkintone導入実績が充実していることも、安心感につながったという。

 

「実は“評価”というのは、システム化するのが一番むずかしい分野なのです」と語るのは、ダンクソフトの片岡幸人だ。片岡は、サイボウズ社公認のkintoneエバンジェリストでもあり、今回導入したシステムの全体設計を担当した。JCNEの評価制度は仕組みが緻密で、評価項目も多岐にわたる。このことから、kintoneでのシステム化や運用は、相当にハードルが高いものと予想していた。

 

しかし、実際には、予想以上にスムーズに初期バージョンを完成させることができた。それは、JCNEのシステム化チーム(村上氏・浦邉氏)と、ダンクソフトの中香織が中心となって、対話的なプロセスを重視したことが大きな要因だろう。

 

JCNEには当初から、「こういう課題を解決したい」という明確なイメージがあった。また、中香織はウェブ・デザイン出身の強みを活かし、JCNEの課題に対して、ユーザーが使いやすいUIデザインの提案を続けた。相互に対話を重ねながら、徐々にシステムを形にしていき、運用がスタートしたのは、2022年4月。最初の問い合わせから、わずか4か月で導入に至った。

 

■kintone導入で実現した3つのシステム改善 

kintoneによるシステム化によって、JCNEが重視していた点が、いくつも改善している。ここでは、その中から3つのシステム改善を紹介する。

 

1つ目は「長期的に継続利用できる団体データベース」であること。

kintoneによる管理ページの一部。団体の審査ステータスが視覚的にわかりやすく、別ステータスのレコードにも簡単に移動できるステータス・バーが実装されている。

JCNEの評価制度は、認証が得られたら終わりではなく、3年ごとに更新をおこなっている。また不足があって認証されなかった団体からも、再評価申請を受けつけている。そのため、1回の申請で終わりではなく、長期的に活用できるデータベースである必要があった。更新や再審査にまつわる情報もすべて含めて管理できることで、申請団体を長い目で見守ったり、長くお付き合いしたりすることができるようになる。

2つ目は、「ユーザーが使いやすいレイアウトの実現」だ。

これまで利用していたExcelのレイアウトをベースにデザインされたデータベース。従来のレイアウトにそったUIにすることで、スタッフの負荷なくkintoneのシステムへと移行できた。

kintoneは情報を上下にレイアウトしていくのが得意なアプリだが、JCNEではExcelで使っていた横長レイアウトに馴染みがあった。そのため、「横長のレイアウト」へのリクエストに対応。スタッフが慣れ親しんだフォーマットを尊重したデザインとなった。小さな工夫ではあるが、もたらした成果は大きい。スタッフたちが新しい業務プロセスへ移行する際の負担を、大幅に減らすことに貢献した。

 

3つ目は、「団体用マイページの作成」である。

これまでメールで届いた登録内容の変更はJCNE事務局が修正し、評価結果のステイタスはメールで連絡していた。それが、すべてマイページ上で、申請した団体が自分たちで更新やステイタスの確認をできるようになった。この機能は申請団体からも好評で、「マイページであらゆる手続きができるため、以前よりプロセスがスムーズになった」と嬉しい声も多数届いている。

申請団体が利用するマイページ「じぶんページ」(左)。申請団体は、評価の進捗状況の確認や登録内容の更新をマイページでいつでも自分の手でおこなえる。右図では、提出書類のチェック結果が表示されている。

■「アジャイル方式」で、お互いの専門を超えた協働が実現

 

とはいえ、前例のないシステムづくりゆえに、想定外の事態も起こった。

 

「一言に“NPO”といっても、規模も分野もさまざまです。ですから、いざ新しいシステムで申請が始まると、ほとんどがイレギュラー対応という感じでした」と、村上氏は振り返る。運用が始まったばかりのシステムではまだ対応できない、想定外の申込内容が、システム導入後に次々に届き、その度にシステム修正の必要性がでてきた。

 

新たに表出した課題ひとつひとつに対して、ダンクソフトはスピーディーに柔軟に改善していき、システムは、多様な団体の申請にこたえられるように進化していった。これは、ダンクソフトの顧問型支援の特徴でもある。世の中では「アジャイル方式」とも呼ばれ、小さな単位で開発と実装を繰り返すため、開発がアジャイル(機敏)になるというものだ。

 

「まだまだ制度が確立しきっていない私たちからすると、できるところから改善して、新たな課題が見つかったら改善して・・・、というやり方はとてもフィットしました。NPOやJCNEに向いているスタイルでした」(村上氏)

 

また、対話を重視するダンクソフトとの協働スタイルについて、村上氏はこう振り返る。「NPOのよりよい組織づくりには、NPOの専門家だけでなく、それを形にするシステムの専門家も加わって、両者による連携が必須です。今回のシステム導入がうまくいったのは、システムの専門家であるダンクソフトさんが、JCNEの組織評価制度を本当によく理解してくださっているからだと思います。私たちにとって、ダンクソフトさんは評価制度を推進するパートナーですね」。 

 

■デジタルでまだまだ広がるNPOの可能性

 

kintoneのシステム導入からまだ半年足らずであるにも関わらず、単なる業務効率化にとどまらない効果がすでにあらわれている。(2022年9月現在)

 

まず、サポートが必要な団体へのフォローや、評価にかかわる業務など、本業や今まで手の届かなかった業務に注力できるようになった。また、ダンクソフトが作成したマニュアルを活用することで、これまで担当者ごとに微妙に異なっていた管理ルールが統一され、データ管理リスクが軽減された。さらに、申請団体側のプロセスも、わかりやすくスムーズになった。「“評価”というと、ハードルが高いものと思われがちですが、そのハードルをいかに下げられるかという点で、今回のkintoneによるシステム化が大きく貢献しています」と、村上氏は嬉しそうに語る。

 

今回のシステム化の成功を受けて、JCNEではすでに今後実現したいプランがいくつも出てきているようだ。

 

「信頼性の証」となるグッドガバナンス認証マーク
https://jcne.or.jp/evaluation/good_governance/

ひとつは「グッドガバナンス認証」へのkintone導入だ。「グッドガバナンス認証」は、今回システム導入をした「ベーシックガバナンスチェック制度」のアドバンスド版である。評価項目がさらに多く、数値では表現しづらい団体の想いやヒアリング情報も扱う必要がある。こうしたデータをどのようにハンドリングしていくかなどの難しい課題はあるものの、今後チャレンジしていきたいという。

 

 また、「評価情報の活用」を、デジタルでさらに有効にしていくという展望もある。今回のシステム化によって、蓄積したデータをいかす基盤ができあがった。研究機関へデータを提供したり、一般の方々がNPOを検索しやすくするために用いたりなど、デジタルによって新たなデータ活用の可能性がうまれている。

 

さらに、「グッドガバナンス認証団体のコミュニティづくり」も、次に実現したいことのひとつである。JCNEでは、グッドガバナンス認定を受けたNPOの優れた組織運営ノウハウを、他のNPOへシェアするコミュニティをつくることで、NPO組織全体の底上げに寄与したいと期待を寄せている。ダンクソフトでは、デジタル化の価値は、単なる効率化にとどまらず、その先のお客様や関係者とのコミュニティを活性化するところにこそ、活用の真価があると提唱している。

 

村上氏は、「ほとんどのNPOは、どうしても自分たちの“事業”やその成果に重きをおきすぎています。組織評価を通じて、自分の“組織”にも目を向けてケアをしたり、足元をかためることに力を割いていただきたい」と述べる。さらに、JCNE自身も、グッドガバナンス認証を600団体にするという、次の目標を掲げている。「自身の団体力強化にも目を向けていきたい。そのためにも、これからも、ダンクソフトさんと協働しながら、徐々にシステム改善を続けていきたいとも思っています」と、今後の展望に胸を膨らませた。 


■導入テクノロジー

  • kintone

  • kintone顧問開発

※詳細はこちらをご覧ください。https://www.dunksoft.com/kintone

 

■ 公益財団法人 日本非営利組織評価センター(JCNE)とは

https://jcne.or.jp/

2016年に設立した非営利組織(NPO)。「グッドガバナンス認証」と「ベーシックガバナンスチェック制度」という組織評価制度をつうじて、NPO組織の基盤強化をおこなうとともに、その評価情報を活用することで、NPOの信頼性向上と認知向上にも取り組む。また、世界約20ヶ国の評価認証機関からなる国際ネットワーク「ICFO」に加盟し、加盟団体との意見交換や最新の情報収集をおこなっている。

 

事例:学生・教員・企業による対話と協働をデジタル・ツールで支え、地域イノベーションを次々と創出する高専の未来

■学生・教員・地域企業が参加、協働事業「ACT倶楽部」がはじまった

徳島県阿南市で、地域のソーシャル・キャピタルを活かしたユニークな協働事業がはじまっている。

 

阿南市には、科学・技術を学ぶ学生が集う、国立阿南工業高等専門学校(以下、阿南高専)がある。実践的技術者が育つ場として、1963年に設立された学校だ。いままでに7700人の卒業生を輩出しており、地域企業の中にも本校を卒業した経営者や技術者が多数活躍している。そして、1995年、その地域の力を阿南高専の学生の未来にいかしていこうと、学生を支援する企業と個人の会として、「阿南高専教育研究助成会/ACTフェローシップ」が発足した。

 

サイエンスと産業連携により、地域課題解決にチャレンジするプラットフォームとして立ち上がった「阿南高専教育研究助成会/ACTフェローシップ」は、卒業生、経営者など企業約100社からなる多様なステイクホルダーが、現在参加している。 ACTフェローシップでは、以前から挑戦したいことがあった。それは、会費などによる金銭的な支援のみならず、ステイクホルダーの多様性をいかして、学生と社会人が一体となって何かに取り組むことができる場づくりである。そして、学生の未来に貢献し、地域イノベーションにつなげていく方法を模索していた。

2021年、その思いを実現する、ある動きが起こる。ACTフェローシップ会員と学生の協働プロジェクトからイノベーションがうまれる仕組みとして、「ACT倶楽部」が発足されることになったのだ。以前から阿南高専とはパートナーシップ協定を結び、サテライト・オフィス設置による学生との共創の場づくりに携わってきたダンクソフトは、連携パートナーである阿南高専の杉野隆三郎教授から、いちはやくこの動きを知ることになった。

  

■昭和の家具x最新テクノロジーでIoT家具をつくりだすプロジェクト・チームを結成

右から2番目が中川桐子氏 、一番左はダンクソフト 星野晃一郎

このACT倶楽部の立ち上げが一気に前進するきっかけとなったのは、ダンクソフト徳島オフィスの竹内祐介と、ダンクソフト・パートナーの中川桐子氏の存在といっても過言ではない。

 

ちょうどそのころ、中川氏は、生まれ育った阿南市の自宅解体に立ち会っていた。100年住宅が解体され、多くの貴重な木材や、昔から大切にされてきた家財道具が次々と運び出される中、これらの家財を廃棄するのではなく、なんとか今の時代に生かしていきたいという考えが強くなった。そこで、ふと、昭和の家具と最新の技術という異質な組み合わせが、何かイノベーションにつながるのではないかと思いついた。

 

ダンクソフト徳島オフィスの竹内祐介とともに、昭和時代からの家具を「IoT家具」として現代生活によみがえらせるプロジェクトに、学生とともに取りくむ可能性を、杉野隆三郎教授に相談してみることにした。すると、地域課題を地域と学生が協働して解決するイメージが、以前から杉野教授やACTフェローシップが考えてきたイメージと合致していることが判明。ほどなくして、新しい協働プラットフォーム構想「ACT倶楽部」が動き出すことになる。

 

また、阿南市出身で、地域ネットワークにも精通している中川氏は、IoT家具プロジェクトの提案者という役割だけでなく、ACT倶楽部と地域社会の媒介役「インターミディエイター」として抜擢される。その抜擢について中川氏は、「学校関係者ではない、また一企業に属しているわけではない存在が、中立性をもって趣旨を理解し倶楽部に関わることで、偏りなくACT倶楽部が純粋にイノベーションに向かっていくことに寄与できるのではないかと考えています」と話す。

 

ダンクソフトは、中川氏が提案した、廃棄寸前の家具をIoT家具としてよみがえらせる「Project KIRI」をいち企業メンバーとして支援するのと同時に、ACT倶楽部のITパートナーとして、学生・教員と参加企業メンバーのコミュニケーション・ツールとして、「ダンクソフト バザールバザール」を提供している。

 

ダンクソフトには、「答えがない複雑・多様な時代の対話と協働」について学びを修得しているメンバーがいる。そのため、そのメンバーがプロジェクトに関わることで、対話から新しいイディアが次々と生まれる場をつくることができる。また、プロジェクトを協働のスタイルで進めるため、参加者の多様性をいかしながら大小のイノベーションを創出しやすい環境をつくることが可能だ。こうして、中川氏の「いにしえの家具をIoT家具に」という課題提起をきかっけに、ダンクソフトが場づくりに関わりながら、学生・教員と社会との連携・協働の場が動きはじめたのだ。

  

■ACT倶楽部スタート早々、11もの協働プロジェクトが企業から提案される

ACT倶楽部は、2021年8月に設立され、10月に学生の募集を始めてからわずか2ヶ月で5つのプロジェクトが地域企業から提案され、2022年明けにはいくつかのプロジェクトがスタートするという、想定以上のスピードで動きはじめた。2022年4月現在、11の多岐にわたるプロジェクトが会員企業や個人から提案され、走り出している。

ACT倶楽部立役者の一人である杉野教授は、スタンフォード大学の客員研究員としてシリコンバレーの発展を自身の目で見てきた経験があり、長年温めてきたひとつの構想がある。当時も今もシリコンバレーでは、企業経営者から青少年まで幅広い人々が集まる地域クラブが多数あり、そこでは毎日のように様々なプロジェクトが実践されイノベーションが生まれている。同様の仕組みを、ここ阿南市でも生み出したいと杉野教授は考えてきた。

 

ダンクソフト社長 星野晃一郎と対談した際には、「あのころ世界を牽引していたシリコンバレーのように、クリエイティブなイノベーションがどんどん生まれる“共創の場”を、阿南につくりたいのです。そこから第2、第3のジョブズやAppleが生まれて、世界にはばたいていく。10億円規模の事業にも発展する。そんな大きな夢を思い描いて、このACT倶楽部を展開しています」と、熱く語って聞かせてくれた。

対談:地域イノベーションが生まれる協働のしくみとは──徳島でACT倶楽部が始動

  

■答えを共につくりだす“Co-learning”と“対話”を重視したプロセス

 

中川氏が提案した、いにしえの家具をテクノロジーで現代生活に再生するプロジェクト「Project KIRI」には、現在、4名の学生が参加している。建設コースの3年生が3名と、情報コース5年生1名の計4名、17歳~20歳の学生たちだ。ものづくりをする建築コースのメンバーと、プログラミングができるメンバーという異質な組み合わせが頼もしい。プロジェクトに参加する学生たちはみな、大人と関わって、学生のうちに色々と経験してみたいという動機でやってくる。

 

オンラインミーティングに集まる、プロジェクトKIRIのメンバー

「おもしろそうだったから興味を持ちました。実際におもしろいプロジェクトで、参加して良かったと思っています。この場で学んだことは、将来、自分の部屋をつくる際に参考にしたり、ICTコースに進んだ後は、自身の趣味にも生かしていきたいと思っています」
— (Aさん/情報コース5年生)
「興味本位からですが、仲の良い友人たちとACT倶楽部に参加しようと思いました。色々な会社の方や先生方と話ができて、交流の場としていいし、自分にとって役に立つ経験ができています」
— (Tさん/建設コース3年生)

プロジェクト開始以来、中川氏と竹内は学生たちと教員2名とともに、6回にわたりオンラインでのアイディア出し、交流を深めている。

 

「私たち自身も、最終的にIoT家具ができるのかどうか、定かではないのです。極端な話、できなくてもいいとも思っています。みんなで対話した結果、IoTすら乗らずに、別の最終形になってもいいと考えています。生活の中で、本当に生活者が喜んで使うものになればそれでいい。むしろこの学びあいのプロセスに価値があると考えます」と、プロジェクト発案者の中川氏は重視するポイントについて触れる。

 

また、竹内は「これからの時代、誰かが答えを持っているわけではないのですね。だから、対話しながら次をつくるプロセスをいちばん大切にしています。大事なのは誰かが答えを教えるのではなく、Co-learning、共にに学びあうことだと考えています」と語る。

 

「ただ、そうは言っても、最初の頃、学生さんたちはこのプロセスに慣れなったようで、大人の側に答えがあるものだという感覚があったようですね。ですが、対話を重ねるごとに、一緒に考えて次をつくっていく感覚が、学生にも身に着いてきました。今では学生・教員・企業人という立場を超えて、メンバーみんなで建設的に、クリエイティブな対話ができるようになってきました。このことだけでも、価値のあることだと思います」。(竹内)

  

■オンライン対話の場「バザールバザール」でアイディア出しを重ねる

企業と学生との協働プロジェクト内で、コミュニケーション・ツールとして使用されているのが、ACT倶楽部のITパートナーであるダンクソフトの「バザールバザール」だ。プロジェクトKIRIのみならず、現在進行中の3つのプロジェクトで、オンライン対話の場となっている。

 

ダンクソフト バザールバザールを使って対話。

「チームでアイディアを収集するときに使っています。プロジェクトの開始時は、最初に私からコメントを入れました。すべてを書き切らず、皆が参加しやすい程度の内容で投稿したら、すぐにスレッドができて、パンパンとコメントが他の方からも入ってきました。バザールはシンプルなツールなので、後から参加した人でも上から順に投稿を見ていけば、こんな風に皆が参加しているんだなと状況がよくわかります」と、中川氏はバザールバザールを使ったコミュニケーションを評価する。

 

「事務連絡というより、バザールはある意味、なんでも書いていい掲示板のような場なんです。出席の確認もそこでするし、思いついたアイディアを投稿したり。学生さんは撮ってみた動画を投稿してくるという事もあります。そのポイントポイントで、学生のアイディアが進化していくのが時系列でわかるのもいいですね。つい最近私は、おもしろそうなテレビ番組の情報をみなさんに参考として共有してみました」。(中川氏)

 

アイディア出しを重ねてきた学生たちも、プロジェクトやバザールバザールについて、率直な感想を聞かせてくれた。

「バザールバザールで、色々な方々と話し合ってアイディアを出すところが楽しいです。たまにコメントが来ているのを見逃したりしているので、通知機能があったら、なおありがたいです」
— (Mさん/建設コース3年生)
「アイディア出しは案外難しいこともあって、でもそれが楽しいところだと思っています。バザールバザールの使い勝手はいいですし、コミュニケーションについてはスムーズにいっています。1点、アイディア出しの投稿数が多くなると、最新のコメントを読むときに一番下までスクロールしないといけないのが大変。そこだけ改善していただけたらうれしいです」
— (Tさん/建設コース2年生)

学生たちのコメントを聞いた竹内は、開発者の顔をのぞかせる。開発者本人である竹内自身が、学生たちや先生方と協働する中で、ツールの使用者ともなっていることは、開発者としては稀有な状況でもある。

 

「この協働プロジェクトを通じて、学生から直接なまの声が聞けることは、開発者としてありがたいことです。開発側が決めた使い方はないので、バザールバザールを皆さんに自由に使ってほしいです。そのうえで協働ツールとして使っていただいて、不便なところを改修していきたいと考えています」。(竹内)

 

■「シンプルで使いやすいツール」から、「対話・協働がもりあがるツール」へ

ダンクソフトでは、バザールバザールを開発するにあたり、できる限り汎用的でシンプルなツールにするため、あえて機能を絞ってきたところがある。つまり、 Microsoft TeamsやSlackのような複雑なツールをパッと直感では使えるようなITを得意とする方からそうではない方までが、迷わずに使えるツールを心がけて開発している。「シンプルで軽くて、サクサク動く」。これは、現在ツールを利用している団体や企業からも高く評価される点のひとつだ。そこが、年齢もIT経験も多岐にわたるACT倶楽部にぴったりハマった。

 

ただ、利用者の様々のフィードバックを受けて、このバザールバザールをもっと協働に寄与できるツールにしていきたいと、バザールバザール開発チームは2022年6月に製品のバージョンアップに向けて、急ピッチで開発を進めている最中である。使いやすいシンプルさを残しつつ、今よりもっと対話と協働が促進されるツールとなるために、いくつかの大きな機能が追加される。

 

バザールバザールの開発マネージャー、ダンクソフト竹内

「何よりも、新しいアイディアや価値をうみだすための“対話ツール”として、もっと使いやすい環境にすることを主眼に、今回は改良を実装する予定です」と、開発マネージャーとしての竹内は解説する。

 

改良点のひとつは、アラート機能ができることだ。他のSNSツールと連携することで、バザールバザールにログインしなくても、メッセージが届いていることがわかるようなる。ふたつめは、コメントを3階層構造にすること。今は上から一覧で時系列に並ぶインターフェイスだが、今後は特定のコメントを選んで、そのコメントに続けて返信コメントが連なるようになる。掲示板コーナー内にいくつもスレッドを立てられるので、検索しやすく見た目もすっきりするだろう。これら2つの改良によって、メンバーはさらにタイムリーに対話に参加できるようになり、アイディア出しや連携が盛り上がる効果が期待できる。

 

もうひとつの改良点は、自分が投稿したデータを削除できるようにすることだ。現状では、既存の投稿を編集することはできるが、コメント削除ができない仕様だ。しかし、これからの時代は、こうしたツールのなかで、自らの情報を自らがコントロールできることがますます重要となる。個人情報保護の観点からも、ツールが一段ステップアップすることになる。より安心して使える環境が整うわけだ。

  

■“ソーシャル・キャピタル”が地域イノベーションを創出する未来

この後、プロジェクトKIRIでは、オンラインでのアイディア出しを終えて、いよいよ学校内に集まって、昭和の家具を触りながらの活動がはじまる。

 

竹内は、「阿南高専が田舎の高専で終わってしまうのはもったいない、それではだめだと考えています」と話す。

 

「田舎だからこそ、実現できることがあります。都会ではやりにくいことが、ここ阿南でできるはずだと考えています。ACT倶楽部の取り組みは、ACTフェローシップ会長の西野氏が長年やりたいと考えてきたイニシアチブだけあって、参加者の皆さんからの地域愛をかなり感じています。阿南高専を卒業して地域の経営者になった方々の後輩たちを見る顔で、誰もが学生を大事にしていることがわかります」。

 

社会的ネットワークのかなめとして、全プロジェクトを俯瞰して見守る立場でもある中川氏はこう指摘する。

 

「阿南高専の学生たちは、あずない子供たちなんです。純粋でいい子過ぎるところがあるので、突然都会に出てはつらいかもしれないと思う時があります。でも、このACT倶楽部では、学生のうちから最先端を見ることができます。第一線で活躍する大人たちと出会うことができます。また、みんなで手をかけていく家具は、ACT倶楽部の呼びかけを聞いて、地域にお住いのある方が寄贈してくださったものなんです。学生たちが、大人の人としゃべることができて刺激になっているとコメントしていました。だからこそ、私は“インターミディエイター”として、色々な大人に子供たちを会わせたいと思っています」。

 

イノベーションには、 “ソーシャル・キャピタル”が不可欠だ。しかし、これが都会では気薄になりがちだ。“相互信頼・社会的ネットワーク・互恵性”があってはじめて、“ソーシャル・キャピタル”が醸成される。そしてこれらは、“よいコミュニティの条件”でもある。

 

阿南高専のACT倶楽部には、立ち上げ以来、集まる人々や地域のあいだに“ソーシャル・キャピタル”が生まれてきているようだ。この先、インターミディエイターの存在や、バザールバザールのバージョンアップを経て、メンバーたちの対話や協働がさらに促進されていくことになるだろう。ACT倶楽部が、地域イノベーションの芽を様々に育む場となることに、さらに期待がかかる。