事例:高校生が地域に飛びだし、デジタル・スタンプラリーをつくる実践的な共同学習プログラムを開発

お客様:学校法人 郁文館夢学園 ID学園高等学校 様


 学校法人ID学園高等学校 様は、全日制と通信制の良さをかけあわせた、ハイブリッド型が特徴の広域通信制高校である。134年の歴史を持つ学校法人郁文館夢学園が2020年に創設した新しい学びの場だ。生徒は関心のある授業を選択して参加し、無理のないペースで学びを進めることができる。

 

ID学園高等学校は「起業・ビジネスコース」の生徒を対象に、ダンクソフトと協働してインターンシップ・プログラムを企画・実施した。最新のIT技術を搭載する「WeARee!」を使った、実践型の共同学習プログラムだ。

 

実施後は参加した生徒全員から高い評価を受けただけでなく、「WeARee!」の新たな活用についても、話が広がっている。プログラムを担当した、企画部主任であり、起業・ビジネスコースのカリキュラム設計を行う宮坂修平氏からお話を伺った。


■新しい学びができる学校づくりを目指して

ID学園高等学校は、100年以上続く学校法人郁文館夢学園が、2020年に、新しい学びのスタイルとして創設した学校だ。通学型と通信型の学び方があり、通学型は、さらに「週1日コース」「週3日コース」「総合進学コース」「グローバルコース」「起業・ビジネスコース」にわかれている。すべてのコースは、希望すれば毎月変更することもできる。

 

このように、ID学園高等学校では、複雑・多様化する社会の中で、一人ひとりの体調や学びのペースに合わせて、生徒が参加しやすい環境を提供している。この背景には、生徒一人ひとりが人生の主人公として夢を叶えていく学びの場でありたいという、ID学園高等学校の理念がある。

宮坂氏は、2022年4月からID学園高等学校の企画部に所属している。起業・ビジネスコースだけでなく、探究や外部機関との教育連携なども担当している。宮坂氏には、東京学芸大学の教育学部に在籍していた当時から、「日本にまだない授業を導入した、新しい学びができる学校をつくりたい」という思いがあった。そのためには、民間企業でのビジネス経験が役に立つと考え、卒業後はIT企業のマーケティング部に所属して経験を重ねた。

  

■1年間の試行錯誤で気がついた、大切にしたい思い 

2022年度の1年間にわたり、起業・ビジネスコースのカリキュラムを企画する中で、時には失敗も経験し、宮坂氏は「生徒同士がイキイキと学ぶ、一人ひとりの価値と可能性が引き出される授業をつくりたい」という思いを持つようになった。――そこに宮坂氏は、2023年のはじめにとあるイベントでダンクソフトのメンバーと偶然の再会をする。コロナ禍を経て久しぶりに会ったダンクソフトのメンバーから、ウェブを使った新しいサービス「WeARee!」を知って、「これだ!」と、瞬時に可能性を感じた。WeARee!のスタンプラリー機能を使えば、地域社会をテーマに、生徒が教室を飛び出して学ぶ、実践型のプログラムがつくれるのではないか。そう考えた宮坂氏は、すぐに実施に向けた相談をはじめた。

 

ID学園高等学校での授業風景

宮坂氏は、教員になる前にライフワークとして、「既存の学校現場には無い学び」をテーマにしたワークショップを開催していたことがある。その会場としていた場所が、ダンクソフトがサテライト・オフィスとして利用していた東上野の古民家ギャラリーだった。こうした縁も重なり、ID学園高等学校とダンクソフトとの協働によるインターンシップ・プログラムづくりがはじまった。

 

■従来のフォーマットにとらわれない、生徒起点のプログラムづくり

インターンシップ・プログラムというと、学生が数日間にわたって企業のオフィスで働くスタイルが一般的だ。一方でID学園高等学校の要望は、「短時間で、楽しく、どんな高校生でも無理なく参加できる形のインターンシップ」だった。

 

ダンクソフトは、従来の「インターンシップ」というフォーマットをスタートにするのではなく、ID学園高等学校の生徒たちが参加しやすいプログラムを提案した。「こんな感じでどうでしょう」「そういう課題であれば、こういうことができますね」と、対話のキャッチ・ボールを2ヶ月間にわたり複数回おこなった。

 

「これほど丁寧に対話を重ねながら、企業とプログラムをゼロからつくったのは、はじめてでした」と、宮坂氏は当時を振り返る。ダンクソフトのWeARee!チームは、できるだけ親しみを持って参加できる環境をつくろうと心がけた。こうした対話によって、「WeARee!チームが事前に生徒たちを訪ねて、プログラムの初日を顔見知りの状態で迎えてはどうか」といった、生徒が安心して参加できるような工夫が次々にうまれてきた。

今回、対話の末にできあがった新しい「インターンシップ・プログラム」は次の通りである。「WeARee!」のデジタル・スタンプラリーを活用した、飯能市のスタンプラリー作成プロジェクトだ。

 

1)ID学園高等学校でのチーム・ビルディング(5月23日)

キックオフとして、レクリエーションを中心としたプログラムを実施。生徒による企業調べの発表。スタッフと生徒の交流。

 

2)ダンクソフト本社オフィスにて、初回インターンシップ実施(5月25日)

生徒がダンクソフトのある東京・神田周辺の地域スポットを探検するデジタル・スタンプラリーを体験。グループごとに「WeARee!」の機能を理解し、遊び感覚で地域の魅力を発見する1日体験を実施。

 

3)生徒自身が「WeARee!」で、新しい地域スタンプラリーを制作

魅力のある神田のスポットを訪問し撮影、集めた情報でスタンプ・スポットを制作。「おもしろい神田」をテーマにしたスタンプラリーを全員で制作。

 

4)埼玉県飯能市にて「WeARee!」を活用したフィールドワーク(6月1日)

飯能駅周辺で実施しているフィールドワークの授業で「WeARee!」を活用。神田で演習したことを飯能駅周辺の魅力発見に応用し、飯能駅周辺地域の魅力を伝えるコンテンツづくりを行う。現地では、株式会社Akinai 様の協力で、コワーキングスペース「Nakacho7」で実施。

 

5)飯能スタンプラリー制作にむけたWEBミーティング(6月8日)

WeARee! チームが、ID学園高等学園の授業に遠隔で参加。生徒が考えた飯能スタンプラリーのコンセプト紹介や、スタンプラリーを作成する上での質問や相談などを、WEBミーティングで実施。

 

)ダンクソフト本社オフィスにて、第2回インターンシップ実施(6月15日)

飯能市でのフィールドワークで収集した魅力情報をもとに、生徒たちがチームとなってデジタル・スタンプラリーを仕上げ。現場での検証を経て最終作品を一般公開。飯能駅周辺の市民の方々が活用できるツールに。日本スタンプラリー協会にも登録し、全国のスタンプラリーの一覧にも掲載。 

↓完成したデジタル・スタンプラリーはこちら
https://stamprally.org/s/36507

別のカリキュラムで、生徒が空き家のリノベーションを手伝った店舗も、スタンプラリー・スポットのひとつとなっている。

  

■想像以上の盛り上がりと、ぞくぞくと届いた生徒からの嬉しいコメント

インターンシップ・プログラムの結果は、想像以上だった。誰かが取り残されることなく、プログラムを最後まで楽しく修了できた。

プログラム終了後のアンケートでは、授業の満足度について、生徒全員が最高評価をつけた。また、生徒たちからは、「自分たちで新しくものを作り出すという体験が自分の中で大きかった」「みんなが役割をもって何かしら関われた」などの声が、自由回答に寄せられた。これらのコメントからも、プログラムを通じて、生徒が自らの価値や可能性をなんらか実感できたことがわかる。さらに、「もっと大規模なスタンプラリーを作ってみたい」「ARを使った企画をやりたい」といった、未来へ向けた意欲を感じられる回答も見られた。

 

■「WeARee!」があったから実現したプログラム

 「どのような関わり方の生徒でも、成果を出せて、自分の価値や可能性を実感できる。これは、今までのプログラムではあり得なかった奇跡的なことです。学校法人と企業による、新しいプログラムづくりのモデルができました」(宮坂氏)。

 

例えば、スタンプ・スポット制作の際、体力に不安のある生徒も、ひとつのスタンプ・スポットさえつくれれば、持ち寄ってチームに加わることができる。また、体調不良のためフィールドワークができなかった生徒は、現地で写真を撮る代わりに、情報を集めて文章を書くことで、スタンプラリーづくりに加わることができた。このような生徒たちの多様な関わり方は、「WeARee!」がなければ実現できなかっただろう。

 

さらに、「こんな予想外の出来事があったんです」と、宮坂氏は嬉しそうにさらに言葉をつなげる。学校見学に訪れていた入学希望者が、スタンプラリーのチラシ制作をしていた様子を目にしたことがきっかけとなり、起業・ビジネスコースを選択したのだ。デザインに関心のあったその生徒は、「起業・ビジネスコース」でまさかデザインまで学べるとは思わなかったのだという。今回のインターンシップ・プログラムを知ったことが、入学の決定打となったのだ。

 

■「学校と企業のつながり」から「人と人のつながり」へ

 「ダンクソフトさんの社員の皆さんは、距離感が近いですね」と宮坂氏は語る。

 

「インターンシップに携わっていただいたみなさんは、今でも生徒の顔と名前を覚えてくださっています。ダンクソフトの方に進路相談をする生徒も出てきたんですよ。限られた期間で、そのような生徒との関係が自然と生まれてくるのは、本当に珍しいことです。“学校と企業のつながり”という枠を超え、“人と人のつながり”を感じながら協働できたのは、私自身にとっても大きな発見でした」(宮坂氏)。

 

【インターンシップ・プログラムに関わったダンクソフトメンバーからのコメント】

◆企画チーム マネージャー 板林

ダンクソフトでは、これまでもインターンシップを多く受け入れてきました。その中で「企業インターンシップとはこういうもの」というイメージが出来ていました。

一方で、宮坂氏とはそういったインターンシップの枠にとらわれず、学生の視点に立って、新しいものを一緒につくっていくことができました。協働していてとにかく楽しかったですね。

 

◆企画チーム 酒井

宮坂氏からプログラムのありたい姿を聞いた時、「インターンシップ」という言葉では到底おさまらないと感じました。「WeARee!」には、開発の当初から「みんなでつくる」というコンセプトがあります。このコンセプトを活かしながら、従来のインターンシップを超えたプログラムづくりができて、とても嬉しかったです。

 
◆企画チーム ウムト

宮坂氏や教員と生徒との信頼関係が強く、その関係が羨ましいと思いました。生徒たちはとても積極的。「WeARee!」のソースコードを見てテンションの上がった生徒たちの様子が、今でも印象に残っています。

 

◆企画チーム ジョーダン

授業が終わっても、生徒さんの多くがスタンプラリーを夢中になってつづけていました。一人ひとりのモチベーションも高く、素晴らしいと思いました。

  

■協働をさらにすすめて、生徒が学びやすい環境を

ID高等学園高校では、「WeARee!」のさらなる活用にも注目が集まっている。

「水道橋キャンパス周辺で、地域理解を深めるためのスタンプラリーを実施したい」という声が、教員からあがったのだ。

 

例えば、自宅での学習を長く続けていた新入生にとっては、通い慣れていない校舎や街を歩くだけでも大変なこと。「スタンプラリーを通じて、学校や周辺地域のことを生徒に楽しく知ってもらいたい」「スタンプラリーを使いながら歩くだけでも、生徒のウェルネスになるのでは」など、「WeARee!」への期待は、ますます高まっている。

 

また、宮坂氏とダンクソフトとの新たな企画もはじまりそうだ。移住やリモートワークというこれからのワークスタイルに関心を持つ生徒が増えていることを受け、ダンクソフトのテレワークに関する先駆的な取り組みを紹介する機会について意見交換を行っている。生徒がイキイキと学ぶ姿が想起される新たな共同学習プログラムが始まるかもしれない。 


■導入テクノロジー


 ■ID学園高等学校とは

ID学園高等学校は、134年の歴史を持つ学校法人郁文館夢学園が2020年4月に開講した広域通信制高校です。全日制、定時制、通信制に続く「第4の学校教育」として、全日制高校と通信制高校の良さを掛け合わせたハイブリッド型であることが特徴です。すべての生徒が夢を持ち、夢を実現するために、生徒の多様な夢の実現に全力を尽くします。生徒の「個」を大切にし、最大限活かして、好きな場所で、好きなペースで、好きなだけ学べる学習環境を提供しています。 

URL: https://id.ikubunkan.ed.jp/