事例:業務プロセス効率化を超え、農業の新たな価値創造へ

お客様:ひむか野菜光房株式会社様

デジタル・テクノロジーの導入をきっかけに、残業時間の削減、野菜の生産や販売の可視化のみならず、人材育成を実現している企業がある。宮崎県東臼杵郡門川町で太陽光活用型農業を行う、株式会社ひむか野菜光房様だ。

現場の課題となっていた、受注後の煩雑な情報入力

ひむか野菜光房は、農業の活性化を通じた地域への貢献を目指して、2012年に創業された企業だ。安定的に野菜を生産できる環境を作り、高齢者や障害のある方でも参加できる、システム化された農業を展開している。宮崎県の北部は、昔から「ひむか(日向)」と呼ばれ、南国宮崎の中でも冬の日照に最も恵まれた地域だ。これを活かし、豊富な太陽光と地下水など宮崎の恵まれた自然を最大限に活用し、ビニールハウス内の温度や湿度をコンピュータで制御する太陽光活用型農業が特徴だ。天候の影響を受けにくく、安全・安心で新鮮な野菜が生産できる。

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 ひむか野菜光房では、野菜の発注を受けると、今までは2つの作業を行っていた。ひとつは、伝票を作成すること。もうひとつは、同じ情報をExcelに入力することだ。しかし、取引先が多く、入力する情報量が多いため、担当者は業務時間内に業務が終わらず残業が日常化していた。同時に、入力ミスを起こしかねないという課題を抱えていた。

一方、ひむか野菜光房 取締役の森雅也氏は、以前、別のプロジェクトでトマト栽培にクラウド・サービス kintoneを採用した経験を持っていた。ひむか野菜光房の立ち上げに関わった森氏は、同社の旅費精算プロセスにkintoneが利用されていることに目を付けた。kintoneとは、業務に合わせて簡単にシステムを作成できるクラウド・サービスだ。業務改善や脱・俗人化を実現するとともに、働き方改革やコミュニケーション円滑化が推進され、快適な業務環境をつくることができる。現場の課題となっていた、野菜の注文を受けた後の煩雑な情報入力には、kintoneが有効なのではないか。業務の軽減や入力ミス削減が解決できるのではないかと考えた。そこで、森氏は、ダンクソフト片岡に相談を持ちかけたのだ

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kintoneで情報入力を効率化し、まずは現場の課題解決を

ダンクソフト片岡は、kintoneエバンジェリストであり、kintone認定アプリデザインスペシャリストカスタマイズスペシャリストを取得しているメンバーだ。高知を拠点に、ダンクソフトのみならず、高知県佐川町役場に携わり、自らもソフトビレッジというIT企業を経営し、多くのプロジェクトを推進している。片岡はまず、宮崎県のひむか野菜光房を何度か訪れ、直接対話することで、浮き彫りになった課題をもとに、フェーズに分けて取り組むことを提案した。まずは、野菜の生産・出荷情報の入力を効率化することから取りかかることにした。その後、徐々にチーム力が向上し、チーム内にコミュニケーション活性化が起こることを想定した。

「私たちの会社では、社内にITシステムの専門家がいないため、今回、新たにこのプロジェクトの担当者をつくりました。ダンクソフトさんと一緒に取り組むスタッフは、発想が柔軟で、パソコンを操作するのも得意な若手社員が適任と考えました。今回、入社5年目の佐藤友規を、プロジェクトの主担当としてアサインしました」と、代表取締役社長の島原俊英氏は体制づくりを振り返った。

 こうして、プロジェクト全体を見守る森氏のもと、現場でプロジェクトをメインで担当する佐藤氏とダンクソフトが連携して、2018年5月からプロジェクトがスタートした。

ビデオ会議システムによるコミュニケーションで、迅速な連携が可能に

このプロジェクトをきっかけに、ひむか野菜光房はビデオ会議システムによるコミュニケーションを導入した。テレワークとは、テレ、つまり、離れたところにいるもの同士が連携してワークする(働く)ことをいう。その意味では、佐藤氏はこのプロジェクトを通じて、初めて「テレワーク」という働き方を実践する機会を得ることができた。高知を拠点とする片岡にとっても、佐藤氏と定期的にビデオ会議システムを利用して会話することができ、移動時間や移動コストをかけることなく、ITシステムの迅速な改良に専念することができる。

佐藤氏は、片岡とのコミュニケーションをオンライン会議で実施し、自らがテレワークを実践することで、その効果を実感した。

「今回、新たにビデオ会議を行う専用スペースを事務所内に設けるなどの工夫をしました。片岡さんとの会議は、PCの画面上でお互いの顔を見ながら行います。資料を共有することもでき、距離を感じることなく、同じ会議室で打ち合わせしているかのように円滑にコミュニケーションできて、とてもよかったです。今は、テレワークを利用しているのは私だけですが、今後は、社内のみなさんにも使っていただけるようにしていきたいと思います」

取締役社長の島原俊英氏と打ち合わせをする佐藤友規氏

取締役社長の島原俊英氏と打ち合わせをする佐藤友規氏

効率化を超えて、正確な情報をもとにした適切な予測へ

今回のプロジェクトにおいて、まずは経理ソフトとkintoneの相互連携が必要だった。プロセスを進めるにあたり、佐藤氏が社内スタッフの声をヒアリングし、それをうけて、片岡が技術的な作業を担った。

スタッフからのフィードバックも様々だった。受注数の入力業務では、kintoneに慣れないためか、以前のExcel入力よりも入力作業が難しくなっているとのフィードバックもあった。ふたりは、遠隔で連携しながら、段階的に生産管理システムの利便性を向上させていった。

「社内にITが詳しい人がいないので、急いでシステムへの改良が必要な際に、寄り添ってサポートしていただくことが重要でした。片岡さんは、困ったことがあると、社内にいるかのようにすぐに対応してくださり、とても心強い存在でした。

新しくできた生産管理システムでは、入力時間の短縮ができて、ミスが減ったため、生産情報や販売情報を正確に把握することができるようになりました。さらに、顧客ごとの注文予測や生産計画を立てやすくなりました」

 徐々に改良を重ねることで、生産・販売情報を的確に把握できるようになった。さらには、蓄積した情報を活用して、分析ができるようになっていった。現場では、ダンクソフトと新しい仕組みを取り入れたことをきっかけに、少しずつ、小さなイノベーションの積み重ねが起きていた。

時間や精神的な余裕が生まれ、自分事として、皆が関わる新システムに

生産管理システムにkintoneを導入してはみたものの、なかなか完全移行をすることができずにいた。従来のITシステムで業務を進めていくことに慣れていたスタッフにとっては、当初、kintoneへの移行は入力に手間がかかり、難しいことだった。

「スタッフの目線でわかりやすいマニュアルを作成したり、使い方について、社内セミナーを実施したりして、試行錯誤で進めました。また、スタッフからのフィードバックは、片岡さんにすぐに改良していただくことができたので、ITが苦手な人にとっても、使いやすいと実感してもらえるようにしました」と、佐藤氏は振り返った。

あるとき、役員会で、kintone導入効果について佐藤氏みずからが説明し理解を求めた。kintoneの方が、データ量が多くなるほど短時間で作業できることを実証したことが、役員の気持ちを大きく動かした。kintoneへの完全移行が決定された。そして、役員たちに、最低6か月間は利便性がどうであっても、とにかく使い続けることで効果を測ってみようとの意識が生まれた。

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新年度が始まった2019年4月に、島原社長は、kintoneへの完全移行を全社員に宣言した。いよいよ、すべてのスタッフがこの仕組みを活用して業務に取り組むことがはじまった。この時、kintoneに久しぶりに触れたあるスタッフは、以前よりもさらに利便性が上がっていることに、大変驚いたという。

 従来のシステムでは、一部の人だけが入力業務に関わっていたが、kintoneへの完全移行後は、全員が入力業務に関わるようになった。このことが、スタッフやチームに今までにない変化をもたらしている。

「まずは、みなさんが業務時間内に仕事を終えることができるようになりました。これにより、時間的にも精神的にも余裕が生まれるようになりました。ミスが減り仕事の正確さが生まれ、予測もできるようになり、収益アップにつながるいい循環が生まれていると思います。また、生まれた余力で、今までやれなかった他の業務に取り組むことができています。

さらに、出荷表の改良提言など、みんなでより使いやすくしようという前向きな空気がチーム全体に生まれていると実感しています」

スタッフのフィードバックを取り入れて改良を重ねた仕組みの運用開始による効果に、佐藤氏は大きな手応えを感じている。kintoneへの理解が進み、改善点を積極的にフィードバックするスタッフも出てきた。他人事ではなく、自分事としてシステムをより使いやすくすることを考え、行動するようになっていた。完全移行から半年が経過した時点で、社内には、新システムをめぐってさらに対話が生まれ、スタッフ同士のよりよい関係が浸透してきている。

「人が育つ場」としてのプロジェクトの価値

島原社長は、ダンクソフトと取り組んだからこそ、実現できたことがあるという。

代表取締役社長の島原俊英氏

代表取締役社長の島原俊英氏

「ITシステムの専門家など人材をたくさん抱えることができない当社にとって、ダンクソフトさんが、外からでも、まるで社内にいるようにチームとして動いてくださることが頼もしかったです。佐藤は、片岡さんと一緒にプログラムをつくるプロセスを通じて、自身がいちばん大きな成長を遂げたと思います。会社の課題を把握し、的確に対応できるスタッフに、育てていただきました。また、佐藤にとっては、ダンクソフトさんが第三者の存在だったからこそ、学べることが多かったのでしょう。今回をきっかけに、佐藤により責任感が生まれたことは、大きな進化です。社員全員と関わりながら、要望を聞いて改善していくプロセスの中で、様々な困難があったと思いますが、身近に相談できる存在としてダンクソフトさんがいたおかげで、乗り越えられたと思います。今では、彼が次の農場長候補として、これからに期待しています」

「効率化や収益率をあげることも大切ですが、ひむか野菜光房ならではの価値を出していくことが必要だと考えています。今、新たな野菜の試験や開発に時間を割いたり、レタスなどの品種を改良したりしています。今後は、ダンクソフトさんにご協力をいただきながら、生育日数の把握、他の野菜4品種の生産計画・予測など、農場管理を含めた全体的なシステム化を、順次導入できるように進めていきたい。また、企業として、効率化のその先に、お客様へさらに価値を提供していかれるように、さまざまに工夫していきたいです。システムによる効率化が、さらなる価値創造をもたらしてくれると考えています」と、今後の展望を語った。

太陽光と地下水など宮崎の恵まれた自然を最大限に活用した太陽光活用型農業

太陽光と地下水など宮崎の恵まれた自然を最大限に活用した太陽光活用型農業

 

業務改善ソリューション

クラウドサービス 導入・運用支援

 

導入テクノロジー

kintone」 

ひむか野菜光房株式会社

農業の活性化を通じた地域への貢献や高齢者や障害のある方でも参加できるシステム化された農業を目指し、2012年に設立。天候の影響を受けにくく、安定した品質の野菜を生産できる太陽光活用型野菜栽培を行っている。豊富な太陽光と地下水など宮崎の恵まれた自然を最大限に活用し、ビニールハウス内の温度や湿度をコンピュータで管理し、安全・安心で新鮮な野菜を生産する。

http://himuka-yasai.jp