■やっぱり「人と人との関係」が大事だから
デジタルではじまりをつくる「Digital Re-Creation(デジタル・リクリエーション)」を、ダンクソフトは理念としています。では、デジタルの、どんな分野で力を発揮していくのか? ダンクソフトのデジタルの特色はどこにあるのか? ダンクソフトが取り組むデジタルは、「カスタマー・インティマシー」向上のためのデジタルだと、位置づけています。
経営上の重点項目とされる3つの領域があります。①「オペレーショナル・エクセレンス(業務の卓越性)」、②「プロダクト・リーダーシップ(製品リーダーシップ)」、③「カスタマー・インティマシー(顧客親密性)」の3つです。デジタルはいずれのためにも、もちろん必須ですが、ダンクソフトのデジタルがどこで最も力を発揮しているかといえば、それは「カスタマー・インティマシー」の分野だと考えています。
インターネットで検索すると、「カスタマー・インティマシー」は、顧客を囲い込むことだという語釈が載っていますが、これは間違いです。相手を囲い込むのではなく、“相手と、どうよりよい関係をつくれるのか”、ということが重要です。
人と人とのつながり、広がり。そこから生まれる親密度を、ダンクソフトはずっと大切にしてきました。なぜなら、やはり「人と人との関係」がいちばん大事だと考えているからです。そして、ここにデジタルの力が加われば、コミュニティはもっと活性化していきます。
■1992年。「義理かんり for Access」リリース
私が代表になってまだ数年の頃の、あるソフト開発の話です。
1992年11月、マイクロソフト社からデータベース管理システムのMicrosoft Access1.0が、米国でリリースされました。当時まだデータベース製品の種類も少なく、価格も高価だった時代です。それがたった99ドルでマイクロソフト社から発売される。とにかく一刻も早く欲しくて、11月にロサンゼルスまで買いに行って、英語版を入手してきました。
使ってみると、「これは使える」「いける」という感触でした。そこからすぐにAccess用ソフトの開発に着手。その年のうちに、人脈情報を整理できるソフト「義理かんり」をリリースしました。ちょうどバブル崩壊後の非常に苦しかった時期でした。
■マイクロソフト社が異例の「振込用紙封入」
93年にはMicrosoft Access日本語版がリリースされますが、このとき、マイクロソフト社のDMに、「義理かんり」の案内チラシだけでなく振込用紙が封入されました。これが爆発的に売れたんですね。初期のアクセスのユーザーで、ダンクソフトの名前を知らない人はいないと思います。
マイクロソフトのリクエストがあり、当時としてはめずらしく全部オープンソースとして発売したこともあり、開発者の購入も多かったと聞いています。その後、97年までバージョンアップを続けながら展開して、通算で4,000本を超えるヒット商品となりました。
■「カスタマー・インティマシー」 の“はじまり”
「義理かんり」の機能はシンプルで、基本情報に加えて、年賀状やお中元・お歳暮などの贈答を記録するといったものでした。住所録ソフトなどと発想は似ています。ただ特徴的だったのは、グルーピングができること。しかも1人最大10グループまで登録できました。
リレーショナル・データベースでいちばん使われるのは、やはり人に関わるところです。なかでも悩みのたねがグルーピングなんですね。「義理かんり」では、そこを簡単に分類できるようにしたおかげで、人の情報の整理がらくになりました。
人脈情報、多様で柔軟なグルーピング、お客様の先のお客様との関係を大切にする。ダンクソフトの姿勢として、「カスタマー・インティマシーのためのデジタル」の、ひとつの“はじまり”ともいえるケースかと思います。
■「ダンクソフト・バザールバザール」への継承
ふたつめは、「カスタマー・インティマシー × デジタル」の、現在進行形のケースです。
90年代に展開した「義理かんり」の発想や経験は、その後、2006年に開発した「会員かんり」を経て、今の「ダンクソフト・バザールバザール」の理念に継承されています。
「ダンクソフト・バザールバザール」は、会員組織を運営する人のためのクラウド・サービスで、リリースは2015年。会員制で、信頼できるメンバーが集まりながらも、多様なネットワークの出会いも生まれる。しかも運営側である事務局の負担が軽減できるのが特徴です。
ここでもグルーピングのしくみが、ひとつのポイントになっています。「義理かんり」の頃からすれば、扱う情報量も表現の手段も、比較にならないくらい増えました。写真や色などビジュアルも含めて、より多様な人の情報を表現することができるよう、日々、改良しつづけています。
■イベント活動が3倍になり、関係がより親密に
このサービスをたくみに使って、会の活性化をすすめておられるのが、一般社団法人 東京ニュービジネス協議会(NBC)様です。ニュービジネスの振興のため、国民経済の健全な発展に寄与することを理念とする団体で、会員の多くは経営者です。
以前は、イベント活動が月に5回程度でしたが、「バザールバザール」を利用してからは、年間開催回数140〜150回、トータル参加人数は年間のべ5,000人と、大幅に増えました。イベント管理が効率化されたことで、事務局の煩雑な手間が省けるようになったことが大きな要因です。その結果として、会員同士、会員と事務局の親密度が、格段に向上しています。
NBCイベントのひとつ「ニッポンつながる委員会」。
中央はNBC下村 朱美会長(株式会社ミス・パリ 代表取締役)
■デジタル × ダイバーシティ × ダイアログ
NBC様では、政策提言をまとめることもしていますし、ゲストを招いてのセミナーや勉強会から、会員同士の交流、趣味の部会まで、さまざまな活動があります。先程お話ししたグルーピングやプロフィール情報など、「バザールバザール」上で参加者や会員情報が得られることが、交流のきっかけも生んでいます。
NBC様は、「バザールバザール」を本当に上手に活用されています。デジタルを通して、多様で多彩なメンバーのあいだに、対話が生まれています。以前に「3つのD」の話をしましたが(→“SMART” とは「3つのD」)、まさに「3つのD」(デジタル、ダイバーシティ、ダイアログ)が相乗効果を生んで、カスタマー・インティマシー(顧客親密性)が向上している好例だと言えます。
■次は、漢字を使ったタグ・システムのリリースへ
さいごは、これからやっていきたいことです。それは、これまでずっとやってきた、人と人脈のグルーピングを、もっと使いやすく、もっと楽しくしていくことです。
具体的には「漢字」のアルゴリズムをのせようかと考えています。漢字は、タグとしても割と日本語に向いているんですね。表意文字だから一文字でわかりますし。
今のタグは英語が多く、スペルを間違うとヒットしません。それを漢字一文字で表現していく。そこに色も使えば、個とグループを同時に表現できます。まずは産業分類や図書分類やSDG’sなどで使ってみることから、来年にはスタートを切れるのではと思っています。
■デジタルが進化して、アナログの豊かさに近づいている
今の時代、一人何役もこなすポリバレントな人が多いですし、これからもっと増えていきます。いくつものチームやコミュニティに同時に属していることが普通になると、何枚名刺を持っても追いつきません。デジタルなら、一人がいくつもの役割を担っていることが表現できます。個も多様なチーム属性も、両方表現できる。デジタルが進化してアナログの豊かさに近づいているのだと思います。
技術はやはり「どう使うか」にかかっています。何のために使うのか。目的は何か。冒頭で話したように、ダンクソフトがめざすのは、デジタルではじまりをつくる、「デジタル・リクリエーション」の未来です。
デジタルで効率化ができるのはあたりまえ。その先の、いいコミュニティづくりに貢献したい。先月も話したことですが、やはりこれが大事だと考えていることなんですね。だからダンクソフトのデジタルは、「カスタマー・インティマシー」のためのデジタルなのです。
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