2017年7月31日

2017 年7月21日、午後。「徳島から切り拓く 第3カーブ時代の地域ビジネス・ワークショップ」(主催: 株式会社ダンクソフト、後援:一般社団法人徳島ニュービジネス協議会、一般社団法人エコ・ペーパーレス協議会)が開催された。太陽が照りつける32度の徳島市内・あわぎんホールに、NPO、行政、ビジネスマン、議員など、多様な参加者が集結した。
多様なメンバーであるからこそ、イノベーションが起こる。ビジネスのスピードが変わる。
13時。ダンクソフト 星野晃一郎社長による開会の挨拶でスタートした。

“今日は、ここ徳島の皆さんと、ビジネス・パラダイムの変化を学ぶ機会をつくりました。お集まりのみなさんのような多様なメンバーであるからこそ、イノベーションが起こる。ビジネスのスピードが変わる。そういうお話を、慶應義塾大学SFC研究所、設樂剛事務所の設樂先生から後ほどしていただけることになります。東京でも、おそらく世界でも聞くことができない、最前線のビジネス・パラダイムのお話です。
そして、それを踏まえて、今日はビジネス・モデルの未来像を描いていきたいと思っています。それぞれの方の考え方を入れて頂いて、一緒に楽しい未来がつくれれば幸いです。“

ダンクソフトはこの7月で創業34周年をむかえる IT企業だ。東日本大震災後の2011年以後、東京・日本橋に本社をおくダンクソフトが、ご縁があって、過疎化が進む徳島県・神山町にいち早くサテライト・オフィスを開設することになった。今では徳島市内にもオフィスを持ち、徳島県内でスタッフを採用。テレワークを活用しながら離れていても連携ができ、仕事と私生活を充実できるというような、よりクリエイティブな働き方を、実験しながら推進している。今回参加したメンバーの内2人は、
徳島県からイクメン・カジダン賞を2連覇した。
“創業は1983年。実は20年経ってから初めて、会社を変えようと思ったんです。それまではよくあるIT企業のイメージ通り、誰かが寝袋で寝ている。紙だらけで汚くて誰も会社に呼びたくないような会社でした。2003 年ぐらいから、初めて、社員と一緒に、社員の提案で会社のルールを変えていきました。様々な試行錯誤を経て、最近では、いつでもどこでも仕事ができるテレワークを取り入れた結果、東京・中央区、総務省、経産省をはじめとし、テレワークに関連する賞をいくつも頂いています。世の中ではそこから働き方改革ということに焦点が移っていて、当社が評価されることが多くなりました。”
その後、徳島以外にも、高知や萩、宇都宮などいろいろな場所にオフィスをもって、テレワークを中心に仕事をするようになっている。最近では、新たに阿南市で、阿南高専や地元企業との連携で、サテライト・オフィス構想が始まっている。
他にも、産経新聞、編集工学研究所と共同で、阿南市でライター育成講座を実現。最初の構想から1年という短期間で、多様なプレイヤーが関わり合うダイナミックな動きがでてきているのは、第3カーブ時代のビジネスの考え方を学んでいるから。第3カーブ時代のネットワークの作り方だからこそ、このスピードでできている、と星野社長はいう。
“同じ感覚を、ぜひ今日は皆さんに味わっていただいて、そのネットワークをうまく組み合わせて、徳島ならではのモデルができるといいんじゃないかなと期待をしております。”
物語が変わる、ビジネスも変わる 「第3カーブ」発想によるビジネスの再創造

続いて、慶應義塾大学 SFC 研究所、
設樂剛事務所の設樂剛先生のレクチャーが始まった。
“星野社長は、「地域ビジネスの明日をつくりたいというお話をしてくださいました。とりわけそこに情報、ネットワーク、そして、地域の資産をいかしながら地域ビジネスをつくりたい。技術だけじゃだめだよ。というお話なんです。
ここに、「地域ビジネス」という言葉を書きました。これがいわば今日のテーマ、主役です。今日はいろいろな立場の方々が参加なさっていますが、われわれの共通関心は「地域ビジネス」というものでしょう。これをどうやってはずみをつけていくのかを、今日は考えてみたいと思います。“

“今日の主役である徳島における「地域ビジネス」という言葉。これは「地域」と「ビジネス」という2つの言葉からできています。ということは、地域ビジネスが活性化するためには、次の2つのことを理解していなければなりません。まず、1つは、われわれは地域について精通していなければなりません。そしてもう1つ。ビジネスの明日についてもまた、理解をしていなければなりません。地域について精通しているだけでは半分です。これからをつくるビジネスの考え方、これを知っていることが大事なことです。”
“もう1つだけ、大事なことを申し上げておきます。いま、「地域に精通していること」と申し上げましたが、これだけではまだ不十分な表現です。徳島に初めてきたという人は、地域の人が全然関心のないことに関心を持ったりするものです。つまり、地域に精通していないからこそおもしろいね、と思う事があります。地域に精通している人にとっては毎日見ているのだから何でもない。「精通していることの落とし穴」があります。自分たちの中にいわゆる宝の山があるのに、価値あるものだと認識できないんです。なぜか?精通しているからです。
地域に精通していることは大事ですが、他方で、精通していることの落とし穴があるんだ、ということをあわせて理解していただきたいんです。

そうしますと、地域ビジネスを地域から起こしていくためには、地域を眺める多様な目を持つことが大事です。したがって、徳島の外から来る方の目も声も、拾っていただきたいのです。それから、今日は行政の方もいらっしゃいますね。どうぞ徳島に納税している人以外の人にも、意識を払っていただきたいんです(会場 笑)。納税者のためになんとか、と思うかもしれませんが、納税者は概して徳島について精通しています。ですから、非納税者の声も聞いてほしいんです。そうすると、こういう方たちがいろんなことを聞かせてくれたりするものです。
ということで、地域を活性化するには、精通していることのみならず、何より、地域を見たり、解釈したりするための「多様な目」をもっていただきたいんです。これが「多様性」なのです。 “
“今日、私は、もう1つの大事なことをご案内します。ビジネスのこれからについて知らなければ、地域ビジネスは発展しようがないということです。
個々人がいつのまにか暗黙のうちに身につけてしまったビジネスの考え方があります。たとえば、ビジネスの中には戦略、戦術、ターゲット、ロジスティクスというような言葉があります。これらはすべて戦争用語です。その経営者は「ビジネスは戦争だ」と暗黙のうちにとらえていることになります。また、その会社では命令と服従・追従が当たり前になってきます。
しかし、ビジネスというのは戦争だと決めつける必要はありません。もっと多様な別のビジネスの見方、語り方があっていいのです。それをここでは「第3カーブ」と呼んでみましょう。別の見方を取り入れれば、ビジネスそれ自体が全く違って見えてきます。私たちの日々の行動も変わることになります。“
物語を変えれば、ビジネスが変わる。そして、そのための「
第3カーブ」発想を、今回は2時間半かけて学んでいくセッションだ。
“物語を替えてみる効果を、ここでは2つだけあげておきましょう。まず、物語を替えると、見えなかったものが見えてきます。そして、もうひとつ、こちらの方がより重要です。見慣れたものが違って見えてきます。さて、今日は頭の体操です。ひとつの思考実験ですから、発想を切り替えてみていただきたいと思います。そうすると、これからの地域ビジネスは、こんなふうにつくっていけばいいのだ、という様々なヒントが見えてくると思います。“

“今日は5つぐらいのお話をご案内していきます。私たちが生きている社会というものは、今、大きく揺れ動いています。まず、どんな風に社会が変わっているのか。社会が変わっているので、ビジネスも、NPO も、行政も変わります。ではどんな考え方で、これからの活動を加速していけばいいのかについてご案内します。第3カーブのお話です。
次に、「もう強いリーダーはいらない」というお話をしたいと思います。強いリーダーはもういりません。男性の経営者でこれを聞くと、ときおり怒る方がおられます。「リーダーがいなくてどうやってビジネスするんですか!」とでもいらないのです。それをご案内します。

そして、みなさん、きっと「価値創造」という言葉を聞いたことがあるでしょう。これはとても大事な言葉です。価値創造とは、モノを売ることではありません。政策を押しつけることで発生するのでもありません。時代や地域が行き詰まっているときには、あらためて、新しい価値をつくり出すことが大事です。では、正面切って、価値ってなんですかと問われたらみなさんは何と答えますか。どうやって価値創造すればいいのか、そんな話も、この後ご案内します。最後、明日のビジネスをつくるために、われわれはどこにどうやって向かっていくのか、というお話をしたいと思います。“

レクチャーは終始対話的に行われていった。聞いたばかりの新しい考え方を受けて、参加者それぞれが考えたことを語れば、それに設樂先生が呼応する。触発された他のメンバーも意見を言いはじめる。徳島という場所で、この参加メンバーだからこその対話の場が繰り広げられていった。そして個人で考え、またグループで考えることで、第3カーブのコンセプトを咀嚼していく。
最後は、今回学んだビジネス・パラダイムを踏まえ、各自の事業やプロジェクトについて「未来構想」を描き、代表者らによる発表が行われた。箇条書きにしてたくさん書き出した方、思考をマッピングされた方など、それぞれの表現方法で、明日のビジネスのイメージを描いていった。

“たいへん情熱的でしたね。中にはかなり具体的な話も含めながら、これからのビジネスについて語っていただきました。それぞれの第3カーブが、少しずつ始まりかけたようです。今後ダンクソフトの皆さんとご一緒いただくことで、今日必ずしも十分にご案内できなかった「インターミディエイター」のことや「共同学習(Co-learning)」について、あるいは、ダンクソフト社のバザールバザールが目指す「いちづくり」についても、理解を深めていっていただけるかと思います。”
終わりに 「学びとは、行動パターンを変えること」
最後に、星野社長から閉会のご挨拶をいただいた。
“第3カーブ、みなさんいかがでしたでしょうか。きっと、今日ここに来られる前と今では相当みなさん違うと思いますし、期待感もきっとお持ちだと思います。実際には、失敗もつきものなので、それも含めてここからいろんなことをトライしていただきたいと思います。
設樂先生の言葉で、私が好きなものに「学びとは行動パターンを変えることである」ということがあります。ぜひここを出た瞬間から、行動パターンを変えていただいて、それがおそらく、徳島の地域ビジネスをつくることにつながっていくと思っています。
「学び」に最高の価値をおく社会こそ、すべての人に幸福を開く基盤であると思います。これからやってくる平均寿命107歳の時代にむけて、徳島から新しい地域ビジネスをこれからもつくっていきましょう。今日はありがとうございました。”
終わりに 参加者からのご感想
●共に考えるということをいつも頭の中に入れておきたいと思います。同じ考え方を持つ団体がいらっしゃることを発見しました。ありがとうございました。
●自分の中の 3rd Curve を再確認できて良い機会となりました。
●「地域を眺める多様な目を持つこと」というところが印象に残りました。
●未来構想のワークは、自分の内容が不安でしたが、褒めていただけて、アドバイスもいただいて、明日から早速行動します。
●未来を考えると、今しなければいけないことが見えてきて、頭が働いた感覚が学べました。子供たちの新しい第3カーブに向けて、これからもよろしくお願いします。
●イノベーションを起こしたいときに強いリーダーが不要ということでした。それぞれの方が自律することの大切さが分かります。これからの働き方についてもマッチするお話があり、全ての人が自由に働ける環境にこれからなっていくのだろうと、未来を感じました。
©SHIDARA & ARCHIPELAGOs
この記事の原稿は設樂剛事務所様よりいただきました。