学生

ダンクソフトが、学生との共同学習プログラムを実施し続ける理由とその効果


「生涯学習」という考え方を知った、2003年のプロジェクト 

 

学生という存在を意識するようになったのは、おそらく2000年代の最初の頃です。ダンクソフトのプロジェクトとして、法政大学系のキャリア・マネジメント支援団体向けに、ウェブサイトを開発したことがありました。大学1年生用の講座で、早いうちから将来のキャリア・プランを考えていこうというものでした。文部科学省がキャリア教育を初めて審議したのが1999年ですから、早いタイミングでプロジェクトに参加したことになります。これが、若い人たちの可能性に関心を持ちはじめたきっかけとなりました。 

 

その監修者に、今では著名な労働分野の研究者になられた方がいました。その方から、色々と学ぶ機会を得たんです。特に、ポール・フルキエの書いた『哲学講義』という本に出会いました。フランスのリセ(高等学校)で、哲学の代表的な教科書になっている分厚いテキストです。これを読んで、「生涯学習」ということや、「余暇時間」の考え方について知り、気づきを得て実践をはじめました。 

2010年。テレワーカー第1号スタッフと、1歳半の息子とのオンライン会議 

 

もうひとつ、思い出深いエピソードがあります。 

ダンクソフトは、テレワーク先駆企業です。もともと2008年から、テレワークの実証実験を始めています。スタッフの働く環境を整備していたら、いつのまにか誰よりも先んじて、テレワークを実践していたのでした。Facebookができたのが2004年、YouTube日本語版が2007年、Twitter日本語版が2008年、iPhoneが日本に登場したのが2008年。背景としてはそんな時代です。

さて、このエピソードは2010年のことなんですが、産休明けのスタッフが、保育園が見つからず復職できない状況に陥りました。そこで、在宅ワークを基調にしたテレワーク勤務を提案し、初めてのテレワーカーがダンクソフトに生まれました。自宅とテレビ電話(ビデオ通話)をつないだとき、当時まだ1歳数ヶ月だったお子さんが、画面ごしに笑顔で手を振ってくれました。小さいお子さんとでも、あんな風にコミュニケーションできることが印象的でした。お子さんのデジタル面での可能性を感じ、子供たちが早いうちからデジタルに親しむ環境づくりに、さらに関心を持ちました。  

山口県萩市で行った中学・高校でのリモート授業 

大きな進展となったのは、2014年、2015年のプロジェクトです。当時、山口県萩市で、官公庁関連の実証実験に取り組んでいました。古民家を改修して、サテライトオフィスで仕事をする実験です。その流れから、同市の萩商工高等学校から声がかかり、情報デザイン科の教員とともに授業を行うことになりました。 

 

今から10年前のことですが、離れた地域をつないで中継しながら交流することが、まだまだ珍しい頃だったんです。高校生に、萩と東京など、多拠点を結んでコミュニケーションし、働くことができる環境をお見せしました。このこと自体が、萩の高校生たちにとって、未来をイメージできる価値ある取り組みでした。(萩での実証実験レポートP.21-22) 

 

これが呼び水となり、翌年には同市の明木中学校で、中学生への課外授業を行っています。高校での取り組みをご覧になった中学の校長先生から、熱心に直接依頼をいただきました。同じようなリモートの授業ではありましたが、実際に手を動かしてウェブをつくるという工夫を取り入れました。持参したパソコンと、東京にあるダンクソフトの本社を結んで、エンジニアと中学生たち15人程度が交流しながら、ダンクソフトのホームページの中に1ページ分の記事をつくるという授業でした。 

 

参加した生徒は大変楽しんで、大喜びでした。いまダンクソフトが「WeARee!(ウィアリー)」を使って支援している共同学習プログラムと同じような、インターネットによる町の紹介などの活動を行っていたのですが、中学生たちは、まさかウェブサイトを自分で作ることができるとは思ってもみなかったようです。そのデジタル体験は、彼らにとって大きいものでした。 

 

一方で、見ていた大人の先生たちは、遠巻きに見てあまり関心がない様子ではありましたが、生徒たちの活気のある姿を見て、こういうことが価値あることなのだと気が付いたはずです。これが、本プロジェクトを実施した意味だったと考えています。このときの写真は、私にとっても思い出深い貴重なものです。よかったら、こちらの萩実証実験レポートで、中学生と楽しそうな私の笑顔を見てみてください。 

インターネットと意欲さえあれば、国境を越えて学べる時代 

 

当時はスマホもタブレットも今ほど普及してなくて、リモートワークなどもほとんど知られていなかった時代です。デジタルに関わるリテラシーは、現在と明らかに違いましたね。 

 

ですが、いまの若い人たちは、インターネットを通じてあらゆる情報に上手にアクセスしています。インターネットがあれば、どこにいても、学び続けることができるようになりました。 

 

例えば、入社3年目となる当社の新卒スタッフは、中学生の頃、家ではスマホを持たせてもらえなかったそうです。そこで、親には内緒でスマホを入手。それが、「初めて文明に触れた感覚」を持てた経験となったというんですね。徳島で、家と学校の往復だけだったなかに、初めて都会の人と同じ情報に触れられて、世界が一気に広がった感覚を持ったと聞かせてくれました。彼は今も、徳島オフィスのスタッフとして、たくさんの情報に触れながら、自分を成長させる上で必要なラーニングを自発的に続けています。 

 

また、余談ですが、たまに観るおもしろいテレビ番組があります。『博士ちゃん』というのですが、毎回、大人顔負けの知識を身につけた子どもが登場します。たとえ若い人でも、意欲さえあれば、どこまでも学びを広げていける時代ですね。阿南高専の学生たちと話をすると、オンラインゲームの人気も、リテラシーの向上に一役買っている印象を持ちます。  

各地の生徒たちと関わり合って実感する、彼らの能力 

 

ID学園高等学校様 事例:
『高校生が地域に飛びだし、デジタル・スタンプラリーをつくる実践的な共同学習プログラムを開発 』https://www.dunksoft.com/message/case-idgakuen-wearee

最近も、ダンクソフトでは、若い人たちの支援に力を注いでいます。広域通信制高等学校であるID学園高等学校や、和歌山県田辺市の大塔中学校をはじめ、「WeARee!」を使ったさまざまな取り組みを進めています。このような活動を通じて、生徒さんたちと触れあう機会が私自身よくありますが、彼らからも、先にあげたリテラシーの高さをしばしば感じます。 

 

大塔中学校では、中学1年生でしたが、動画編集には慣れていて、簡単に動画編集をする様子を見せてくれました。一方で、情報を組み合わせてウェブをつくることは難しくて自分にはできないと、思い込んでいたようです。実際には、まちの魅力的な拠点を得意の動画で紹介するなど、「WeARee!」のデジタル・スタンプラリー機能を使って、ウェブ上にすてきなデジタル・スタンプラリーをつくってくれました。 

 

それに加えて印象的なのが、人前で発表するというプレゼンテーション能力に長けていることですね。おそらく練習をしているとは思うのですが、大人数の前で物怖じすることなく、しっかり自分の意見を伝えることができて驚きます。昨年12月には大塔中学校1年生のみんなが、田辺市の市長、観光協会会長の前でプレゼンテーションを行い、大成功だったそうです。 

 

※ この写真は保育園から承諾を得て掲載しています。

ぐっと年齢が若くなりますが、先日、ダンクソフトが関わっている「神田藍の会」の関連で、保育園の子どもたちに話をする機会がありました。2~3歳ぐらいの子供たちとの時間はまた、とても楽しいものでした。保育園の子供たちが大きくなって、地域をデジタルで支える人たちになってもらえる日が来るかもしれません。  

なぜダンクソフトはボランタリーに取り組むのか? 

 

これらの学生たちとの取り組みを、ダンクソフトではボランタリーに行っています。それは、これらの活動は、ダンクソフトの「グランド・ナラティブ(ビジョン)」を実現していくための、貴重な機会になると考えているからです。また、取り組みに関わっているメンバーたちも、実際にさまざまな刺激を得ているようです。 

 

メンバーたちは、学生たちの習得スピードの速さ、成果物の品質の高さに驚いています。一方、「WeARee!」のスタンプラリーに関わる機能について、「このような機能はあまり使わない」など思わぬ提案を受けることがあります。ランキングが分かるようにしたらおもしろいのではないかという大人からの提案に対して、競いあう必要はないので、なくてよい、とコメントがあったそうですよ。このように気づかされることも多く、アプリケーションの改善や、次の製品開発に向けていろいろなヒントを得る機会にもなっています。 

 

学生たちから寄せられる改善ポイントを、その場ですぐに再度プログラミングして修正する様子を目の前で見せることもあります。そうやってリアルタイムでやってみせると、学生にとってはその姿が驚きでかっこよく見えるようで、「おー、すごい!」という反応が返ってきます。これにはスタッフもうれしいようです。自分のプログラミング・スキルを人に見せることも通常あまりないため、若い人たちからの純粋なフィードバックに励まされています。このように学生と触れ合うことで、自分の仕事の価値を再認識する効果もあります。 

 

話題はプログラミングなど技術的なことばかりではありません。たとえば、スタンプラリーをつくるために、飯能(埼玉県)の街を歩きながら、将来の進路などの相談を受けることもありました。それが刺激になって、ダンクソフトのメンバーにとってのやりがいにつながったようでした。ダンクソフトでは、徳島県の阿南高等専門学校をはじめ、高専の学生たちとの連携を、以前から進めています。メンバーたちからは、「阿南高専との取り組みをモデルに、もっと全国に広げていきたい」と意欲的な提案も聞かれるようになってきました。  

未来を構想し、対話し、学生たちから大いに学ぼう 

 

昨年のノーベル賞でAI分野の研究が席巻したように、未来社会でデジタルが果たす役割は、今後ますます高まっていきます。インターネットの広がりとともに、新たな知識をどこまでも貪欲に学べる環境がありますから、少し手を伸ばせばノーベル賞を目指せるような時代です。私たちをとり巻く環境は、多様性が認められ、一人一人の可能性が活かされて、上下構造中心ではなくフラットになってきています。そんななかで、デジタルの進化は、年齢や性差などに関係なく、平等にやってきます。そうなると、頭が柔らかく、たくさんの時間を持っている中学・高校の学生さんたちは、優位です。デジタルの進化からよい面を積極的に取り入れて、もっとクリエイティビティをあげていけると考えています。 

 

さらに、リモートワークなどの拡大によって、私たちは地域に暮らしながら活躍できる環境も整い始めています。地域企業と学生たちがつながれば、旧来のビジネスをリノベーションでき、事業継承といった課題も解決できる可能性があります。ダンクソフトは、「スマートオフィス構想」を通じて、若い人たちと地域企業の連携にも積極的に取り組んでいます。 

 

『事例:「学童保育サポートシステム」が運営を楽に便利に、石垣島の子供たちを笑顔に』https://www.dunksoft.com/message/case-hanamaru-kintone

数年前、当社のシステムを活用している沖縄・石垣島の学童クラブを訪れて交流する機会がありました。そのとき、私たちが学童をサポートするシステム開発を行っていることを知ると、小学生の子どもたちから、笑顔で握手を求められたんです(笑)。びっくりするとともに、すごく嬉しい気持ちになりました。島の子供たちと触れ合って、子供には未来があると痛感しました。 

 

日々ビジネスに携わっていると、視線がついつい大人に向きがちです。けれども、新しい変化は、若い人たちのあいだから始まります。私たちが彼らから学べることが、たくさんあります。学生たちと、今のうちから一緒になって関わっていることで、互いに刺激し、これからの時代感覚を持つことができます。どの企業・団体にとっても課題となっている人材採用の活性化を考えるなら、「まず彼らと語り合ってみること」からだと思います。将来の方向性を見誤らないためにも、彼らと出会い、対話すること。これは、これからをつくる経営者として実践したい、大切なことだと考えています。