「地域企業」とは、地域に根差して地域に貢献する企業を言います。日本の場合は、中小企業であることがほとんどです。彼らは今、さまざまな課題に直面しています。解決するうえで、「デジタル」が欠かせないキイワードだと考えています。
┃企業の店じまいが過去最大を記録
ダンクソフトでは、2011年の東日本大震災以降、全国さまざまな地域で、地元の自治体や企業・団体と連携し、デジタルを活かした地域活性に取り組んできました。また、私自身が2代目の経営者で、創業社長からダンクソフトを事業継承し、40年の経営経験を積んできました。
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https://www.dunksoft.com/40th-history
ところが、データの示す日本の現状は逆で、いま地域から企業は姿を消し、事業継承もうまく進んでいません。
帝国データバンクがこの1月に発表した、2024年の企業倒産の状況を見ると、全国どの地域でも、前年よりも件数が増加する傾向にあります。人手不足によるものが過去最大の件数、後継者がいないため会社を閉じるケースが、過去から2番目の水準の高さとのことです。こうした状況を見るにつけ、考えることがあります。
それは、企業を閉じてしまうのではなく、企業を再生して存続させることについてです。
参考情報:2024年の企業倒産は9901件、年間件数3年連続で大幅増 1万件に迫る ― 全国企業倒産集計2024年報(帝国データバンク プレスリリース)
┃デジタルによる地域企業の再生へ
地域の方々や、周りの経営者たちを見ていると、事業継承がうまくいっていないケースがありますよね。この現象は、地方になるほど多く、帝国データバンクのデータでも、事業継承ができずに会社を閉じるケースが増加しているのがわかります。中には、後継者不在を理由に、黒字でも、清算して片づけてしまう会社も出てきています。
地域企業の再生について、地場の金融機関なども含めて、さまざまな方策を考えているようです。例えば、銀行が早期退職プログラムを作って、退職した銀行員の方たちが地域企業の再生に関与するケースが増えています。彼らはお金まわりのことには詳しく、会計には長けているかもしれません。とはいえ、必ずしも経営そのものや、ビジネス・スキームの見直しや刷新が得意なわけではありません。
しかし、今日もっとも必要とされているのが、ビジネス・スキームの見直しや刷新であり、これをデジタル・トランスフォーメーション(DX)と呼んでいるわけです。
デジタル企業のダンクソフトからすると、現代に即した企業再生でいちばん有効なのは、「まずはデジタル化する」ことです。大幅なコストダウン効果があるからです。
そして、コストダウンによってできたお金を、これからをつくる活動、つまりもっとクリエイティブな領域に再投資することができるようになります。
2019年にご支援した徳島合同証券様のケースで、まずペーパーレスからデジタル化に取り組みました。3週間という短期間で、社内に温存されていた7トンの紙を、半分の3.5トンにまで減らすことができました。この結果、700万円ものコスト削減になり、これを他の事業活動に割り当てることができるようになったんですね。
また、地域企業の再生ではかならずといっていいほど人手不足の話が出てきます。これも、デジタルをうまく使うことで、バックオフィスやウェブ制作や経理業務を、かなり省力化することができます。すべて自分たちで持つ必要はなく、外と連携するのがこれからですから、少ない人数でも会社は運営できます。さらに、オフィスをデジタル化することで新しい世代の採用にもつながります。これは「スマートオフィス」の話なので、後ほどとりあげます。
┃地域づくりのデジタル・パートナーに
地域から企業がなくなれば、地域から活気がなくなっていきます。雇用される人の数も減少していきます。ところが、地域にいながら仕事を続けたい若者が、一定数、存在します。若い人たちが地域で活躍するために、受け皿となる、価値ある地域企業があることは、とても重要です。
そこで、ダンクソフトは、「地域企業の再生」に取り組んでいきたいと考えています。
地方の企業やコミュニティが抱える課題として、少子高齢化や、若い人たちが地域外に流出していることは広く知られています。この結果、慢性的な人手不足となっています。これは後継者問題にも影響します。くわえて、地域経済じたいが縮小傾向にあり、地域内でビジネスがうまく回らないことも、指摘されています。これからの地域課題をていねいに解消していくために、「デジタル化」は重要な手段です。
しかし、活用してみたいけれど知識がない、どこから手をつけてよいのかわからない、という方が多いのではないでしょうか。
これは地域の中小企業ばかりでなく、地域コミュニティを支援する団体にとっても、似た状況だと思います。地域の支援団体が、自分たちのメニューのひとつに、「デジタル化」を組み込むことによって、活動の幅が大きく広がります。ダンクソフトでは、地域のために活動する団体、企業、個人の方たちのデジタル・パートナーとなることで、中小企業を支援し、地域社会を活性化することに積極的に関わっていこうと考えています。
┃企業と地域を再生する、ダンクソフトの「スマートオフィス構想」
私たちは、世に先駆けて、2011年以降、地域企業の働き方改革をお手伝いしてきました。今日、「改革とは、デジタルを積極的に導入し活用することですが、私たちが提供する企業再生のカギ、それが「スマートオフィス」です。私たちがパートナーの皆さんと協働するにあたっても、この考え方を重視しています。
「スマートオフィス」とは、インターネットやデジタル・ツールを積極的に活用して、どこからでも働くことのできる環境を整えたオフィスのことです。メリットとして、ペーパーレス・キャッシュレス・サインレスの3つをあげています。この3つを入口としてスタートすれば、企業にコスト削減だけでなく、新たな可能性が生まれます。
たとえば、感度が高い地域の若者たちを惹きつけることは、そのひとつです。
ダンクソフトでは、徳島県の阿南高等専門学校(阿南高専)の学生たちと、スマートオフィス構想をテーマとした勉強会を、リモートで数回行っています。昨年夏には、数名の学生たちがダンクソフトのインターンシップに参加してくれました。彼らと話をしていると、リモートワークをはじめ、新しい働き方への関心の高さがひしひしと伝わってきます。地元を離れずに働けることも、新しい働き方ですよね。いままでは大都市で就職するのが当たり前でしたから。
実際、ダンクソフトでは同校の卒業生たちがインターン後に入社して、徳島のサテライト・オフィスで働いています。彼らは地元・徳島を離れずに働くことを希望しているメンバーたちでした。非常に意欲的で、未来志向で、すでに社内で重要な役割を担っています。
デジタル・ツールを上手に取り入れて、快適で効率的な職場環境を実現し、リモートワークといった柔軟な働き方を提供する。地域企業は、オフィスをスマートオフィス化することで、地域の優秀な若者を惹きつけ採用し、彼らが力を発揮できる環境を整えることができます。これは既存のメンバーにも刺激を与えることになります。デジタル化は、地域企業の再生にとって最優先の経営課題、つまり、次世代の採用と既存メンバーの活性化につながっています。
┃ネットで、対面で。対話と協働のための場づくりを
「スマートオフィス」って、どんなイメージか? デジタル以外をあげると、それは地域のさまざまな担い手をつなぐ対話の場なんですね。これはインターネットだけでなく、リアルな場づくりも含みます。
先ほど例に挙げた徳島合同証券会社様のケースでは、ペーパーレス化を入口にデジタル化を推進した結果、ワンフロア丸ごとスペースを空けることができました。現在、その空いた空間を活用して、地域の企業やクリエイターなどが交流できるサロンづくりを進めているようです。ただし、交流が機能するには、ただ空間があればいいのではなくて、異なる人々を結んでプロジェクトを展開する「インターミディエイター」が必要でしょうね。ダンクソフトはデジタル支援とともに、こうした場づくり支援にも力を入れています。
ダンクソフトでは、昨年6月に本社を移転しまして、この新オフィスが、まさにそうした場づくりのショーケースとなっています。
ここは、ペーパーレス・キャッシュレス・サインレスをすべて実現しているのはもちろん、オフィスに外部の方が出入りしても問題ないセキュリティ環境になっているのですが、ここで、地元 東京・神田エリアの有志と一緒に、「神田藍の会」という活動を行っています。神田は、江戸慶長年間に紺屋町がうまれ、染物屋があり、明治期には、手拭いや浴衣の一大産地だったそうです。その神田で「藍(あい)」を育てることを通じてつながる、地域住民や地域企業のネットワークが次第に広がってきました。私たちの新オフィスでは、この「神田藍の会」に関連するさまざまなイベント開催を通じて、地域にどんどん顔見知りが増えています。そもそも人的なつながりが希薄な東京で、ベッタリした間柄ではないが、声がけのできる“顔見知り”が増えるのはよいことですね。
また、オフィスをスタジオにして、「バザールバザールライブ」というコミュニティ・ラジオの生番組を、月1回くらいのペースで配信しています。このラジオも、地域の企業や住民の方々の集いの場になっています。
このように、オフィスに地域関係者が集うような場づくりが進み、ダンクソフトという企業のまわりに、賑わいが生まれています。意図したわけではありませんが、ダンクソフトを応援して、好きになってくださる方々も、増えてきたように思います。ですが、こうした温かい関係はとても励みになるものですね。情緒的な意味だけでなく、創造的な意味でも、「関係づくり」は、地域企業再生のキイワードです。関係づくりがあって、持続可能性も、共進化も実現するわけですから。要するに、スマートオフィスが重要なのはそれが“関係づくりの拠点”だからです。徳島合同証券様やダンクソフトは、その一例です。
┃「地域づくり」と「スマートオフィス」を支えるデジタル・ツール
ここでは、「地域づくり」や「スマートオフィス」を支えるデジタル・ツールをいくつか手短にご紹介します。
「未来かんり」や「日報かんり」は、実際にダンクソフト社内でも使用しているツールです。「未来かんり」はクラウド上に、経営に欠かせない情報を一元管理するので、無駄や手間を省き、少ない人数での運営や、離れたメンバー同士の連携をサポートします。「日報かんり」は、Outlookに予定を入れるだけで、勤務状況がデータベースに入り、勤怠管理ができます。スタッフ同士で日報をシェアする機能で、離れたところで仕事をするメンバーがいても、チーム力をあげられます。
この他、「WeARee!(ウィアリー)」は、バーチャルツアーやARカメラを使ったコミュニティ・イベントを誰でも簡単につくれるサービスです。今、「WeARee!(ウィアリー)」をデジタル・スタンプラリーとして使う方が増えています。 身近なところでは、ダンクソフト本社の近くにある五十(ごとう)稲荷神社では、WeARee!の順番待ち管理機能が、御朱印受付からお渡しまでスムーズに行うために活用されています。
これらは、観光地のような地域の「場所」を地図にプロットする事例ですが、ほかにも地域の「人」にフォーカスするのもいいですね。地域の人々を通じて、土地土地の魅力を再発見できるような仕掛けとしても活用できます。
「ダンクソフト バザールバザール」は、様々なグループや会員組織を運営する人のためのクラウド・サービスです。自治会や、地域づくりの団体などにも、気軽に簡単に使っていただけます。コミュニティ運営の効率化やコスト削減はもちろん、団体・コミュニティをまたいで会員同士のマッチングができるんですね。なお、Googleのようにデータを収集することはありません。先にあげた「神田藍の会」をはじめ、さまざまな地域コミュニティで活用されています。
┃デジタルは、人と地域の自由のために
いくつかのデジタル・ツールを紹介しましたが、地域づくりのカギはやはり「ひと」ですね。これからの場合、とりわけ「対話と協働ができる人たち」と「若いひと」が重要だと思います。
まず、「若いひと」のほうですが、これは単に年齢の若さを意味するのではありません。若い方の中にも古い考えをする方たちがいますし、逆に年齢が高い方で、思考が新しい方もいます。マインドが若々しく、学ぶことをやめず、たえず新しいことに挑戦している方々のことです。人口減少が言われますが、「考え方の若いひと」は、あらゆる世代にいるはずです。そうした地域の“若者たち”を結び、いつでもどこでも楽しく働ける自由人のネットワークから、地域づくりを広げていきたいですね。人と地域の自由のために、本来、デジタルがあるわけですから。
もうひとつ、対話と協働ですが、ダンクソフトには「インターミディエイター」と呼ばれる有資格者が3人在籍しています。立場の異なる人々を結び、新たなプロジェクトを展開する、新しいタイプの媒介者です。多様性・複雑性の許容度を高めることや、対話と協働の作法を学んでおり、未来志向の場づくりを実践できるメンバーたちです。これからは彼らが中心となって、「地域企業再生チーム」ができることを期待しています。