なぜ、今、「スマートオフィス」なのか? 若い人たちを惹きつける未来のオフィス

私たちダンクソフトは、「スマートオフィスづくり」に先駆的に取り組んできた企業です。最近では、この言葉をだいぶ耳にするようになりました。2008年から実証実験をはじめた私たちの、豊富な経験や知見をもとに、スマートオフィスのつくり方を何回かのコラムにわけて紹介していこうと思います。 

 

第1回目は、なぜ今スマートオフィスなのか?という背景と、最初のステップとなる「ペーパーレス化」についてです。どの企業にとっても深刻な課題である若いスタッフの採用・定着においても、実はスマートオフィスはとても有効なチャレンジです。 



▎先駆者であるダンクソフトが考える「スマートオフィス」とは? 

 

「スマートオフィス」とは、インターネットやデジタル・ツールを積極的に活用して、どこからでも働くことのできる環境を整えたオフィスのことです。 

働く人がどこに住んでいても、たとえ子育てや介護で通勤が難しくても、まるで隣り合わせの机に座っているようにスムーズにコミュニケーションをとり、効率よく仕事をすることができます。 

 

この「スマートオフィス」の概念を、私が意識するようになったのは、今から20年近く前、2000年代の初めだったと思います。あの頃、私は中小企業の経営者が集まった勉強会に加わり、今でいう「サテライト・オフィス」のような試みを各地で行っていました。 

 

それがひとつの形になったのが2008年です。静岡県の伊豆高原に、若い人たちが自然の遊びを体験できるような拠点を設け、そこに私たちダンクソフトの社員が常駐して、テレワークの実証実験を始めました。 

しかし、当時はまだWeb回線が不十分で、ファイル送信すらじれったいような状況だったため、なかなか実用段階には届きませんでした。 

 

当時のサテライト・オフィス実証実験の様子

その後の歩みについては、他のコラムなどでも紹介しているので詳しくは触れませんが、2011年、徳島県神山町に本格的なサテライト・オフィスを開設するなど、ダンクソフトは「スマートオフィス構想」を実現するために、常に先頭を切って取り組んできました。 

創業から40年が過ぎた2024年現在、ダンクソフトは東京・神田にオフィスを持っていますが、ふだんここにいるのは私ひとりです。残り20名強のスタッフは、全員がリモートワークをコロナ後も継続しています。ときおり、リフレッシュのためにオフィスに来て仕事をするメンバーもいます。外国人スタッフも2人います。多様な個性と能力を持つメンバーたちが、さまざまな街で暮らしながら、一緒に働いています。 

 

このように先駆者として歩んできた私たちが感じていること。それは、今こそスマートオフィスを、全国の企業で実現すべきだということです。それが働き方を変え、企業を変え、さらには地域社会や日本の社会を前進させていくきっかけになると考えています。 

2024年は、その大きな転換点となるはずです。  

▎若い人たちの感覚とオフィスの実態とのギャップは深まるばかり 

 

では、なぜ今こそスマートオフィスなのか? その理由は、現在の若い人たちの感覚と、日本のオフィスの実態がかけ離れ、その乖離が限界近くにまで達してしまっていることにあります。 

そのギャップは、中小規模、あるいは地方の企業ほど深刻ではないのでしょうか。 

 

今の若い人たちは、デジタル・ネイティブと呼ばれるように、幼い頃からインターネットやスマートフォンを当たり前に利用してきた世代です。一方、今のオフィスはどうでしょうか? パソコンの利用が進んできたとはいえ、そのほとんどは個々の業務に限定され、デジタル化というには、ほど遠い状況です。管理職の人たちのリテラシーも高いとはいえません。 

 

そんな企業に、期待に胸膨らませて入社してきた若いスタッフの気持ちを想像してみてください。彼らは自分たちの能力が発揮できない環境を目の当たりにしてがっかりしてしまいます。ヤル気をなくすだけならまだよい方で、辞めてしまうこともよくあります。 

 

これは企業にとって大きな痛手です。デジタルに慣れ親しんだ若い世代からこそ多くを学ぶこと(「リバース・メンタリング」)、のみならず、お互いに学びあうことが、イノベーションへとつながります。そしてこれが、会社の成長の原動力となっていくわけです。 

 

私は現在、徳島県の阿南高等専門学校の生徒たちと、スマートオフィスをテーマとした勉強会をリモートで月に数回行っています。彼らと話していると、新しい働き方への期待をひしひしと感じます。特に地域の若者のなかには、地域にそのまま残って仕事をすることを希望している人たちもいます。 

 

少子高齢化が進む今、若いスタッフの採用や定着は、どの企業にとっても最優先で取り組まなければならない経営課題です。その課題を解決し、スタッフと事業の成長につなげていくために鍵を握るのが「スマートオフィス」です。   

▎スマートオフィスへの第一歩はペーパーレス化にあり 

 

スマートオフィスといっても、どこから手をつけてよいのかわからない……。そう悩んでいる経営者の方も多いかもしれません。しかし、第一歩を踏み出すことはけっして難しいことではありません。 

私は、このような相談に対して、まずはオフィスから紙をなくすこと、つまり「ペーパーレス化」から始めましょうと提案しています。なぜなら、紙が少なくなれば、オフィスの見た目が変わります。そこから働き方が変わり、社員の意識まで変化していくからです。 

 

あらためて目の前のオフィスの様子を見渡してみてください。 

デスクの上にはたくさんの書類が積み重なり、そのデスクを取り巻くように置かれた棚にも、さまざまな書類や資料であふれかえっている——。 

このような環境では、仕事の効率も高まりません。採用面接でオフィスを訪れた若い人たちが、その光景を垣間見て、果たして自分の将来を託せる会社だと思うでしょうか。 

 

『事例:「ペーパーレス化」で 6期連続の赤字からV字回復』はこちらをご覧ください。
 https://www.dunksoft.com/message/2019/7/22/-6v 

これもダンクソフトとゆかりの深い徳島県での事例ですが、デジタル化による業務改善を支援したことがあります。その会社は証券関係ということもあって、まさにオフィスは紙であふれかえるような状況でした。そこでまずペーパーレス化から始めたところ、最終的には自社ビルの1フロア丸ごとスペースを空けることができました。ペーパーレス化が業務改善にもつながり、業績も上向きになりました。 

 

「デジタル化は、エコノミーとエコロジーの両立を生みだす」と、私は機会あるごとに、そうお伝えしています。まさにそれを証明する事例だと思います。 

 

徳島合同証券株式会社 泊健一社長 のインタビューもご覧いただけます。

▎伝票や帳簿のデジタル化は、想像するよりもずっとカンタン 

 

ペーパーレス化について、もう少しだけ具体的な話をしたいと思います。なかでもまっ先に取り組むべきは、業務に関わる伝票や帳簿のデジタル化です。 

たとえば、経費の精算にしても、領収書を整理して申請書類に書き込み、上司の承認を得て、さらに経理担当者へ……というように、そのプロセスはたくさんの手間と紙を必要とします。これらを電子化することによって、業務は画期的に効率化し、オフィスの姿も変わっていきます。ペーパーレスばかりでなく、判子がいらなくなって、「サインレス」、さらには「キャッシュレス」も推進できるんですね。 

 

しかも、このようなデジタル・システムの導入は、想像するよりもずっと簡単です。最近では、使い勝手がよく、安価なクラウド・サービスが数多く提供されています。 

ダンクソフトでは、そのひとつである「kintone(キントーン)」を利用しています。その結果、20名強のメンバーがいる会社であるにもかかわらず、総務・経理の専任者は不要という仕組みをつくり出しています。  

キントーンを活用したプロジェクト事例『受注者・発注者という枠を超え、アイディアを出しあい実現した「働き方改革」』はこちらをご覧ください。

ある財団法人では、「キントーン」を活用してデジタル化を進めたところ、それまで煩雑だった、出張の申請・承認や経費の精算といった業務を大幅に効率化することができました。そればかりでなく、稟議の階層を減らすなど、組織のあり方とワークフローが変わることで、次第に個々人の意識まで変化していきました。これも、ダンクソフトが支援したスマートオフィスの事例のひとつです。  

▎ペーパーレス化が進めば、組織も意識も自ずと変化していく 

 

経費の精算をはじめ「社内稟議に関わる決済の仕組み」は、人・お金・情報という、企業の根幹に深く関わります。その根幹のところをデジタル化していくことで、まずは、「ペーパーレス」や「業務の効率化」がおこります。これにとどまらず、組織の構造も、オフィスの形も、そして風景も、働く人たちの意識に変化をもたらすことができます。実はこれら一連の変革こそが、スマートオフィスが目指す大きな目的でもあります。 

 

いくぶん改善されてきたとはいえ、日本企業の組織は、まだまだ階層の多いピラミッド型が主流です。一方、デジタルの世界はインターネットに象徴されるように、タテ構造や上下序列ではなく、ウェブ状、つまり多数多様なグループがつながりあう、柔軟な「アミの目の関係」が基本となります。社内でデジタル化に取り込んでいくことで、これをきかっけに、組織は自律・分散・協働型に、そしてコミュニケーションも自ずとフラットになっていくはずです。 

 

ダンクソフトのペーパーレス・ストレッチについては、こちらをご覧ください。
https://www.dunksoft.com/papaerless 

こうしたデジタル化の取り組みは、インターネットを介して社外と連携し、新しいビジネスを生み出していくためにも、もはや待ったなしの、とても重要なチャレンジとなります。その第一歩が、ワークプレイスのペーパーレス化です。 

 

とはいえ、長年慣れ親しんだ組織の形を変えていくことは簡単ではないと考える人も多いのではないでしょうか。そこで次回のコラムでは、スマートオフィスという変革に向き合うためのマインドについてお話したいと思います。