ポスト・コロナの「人新世時代」、もとに戻らずデジタルで“はじまり”を

2021年最後のコラムとなる今回は、代表取締役 星野晃一郎と取締役 板林淳哉が対談しました。ポスト・コロナ社会、そして「スマートオフィス構想」の未来に向けて、「インターネットにあらゆるものをのせていく」を軸に、今年1年を振り返りながら、40周年を迎える2022年以降を見据えます。



 ▎2021年、多くの新たなはじまりが生まれた

 

星野 ダンクソフトにとっての2021年は、いい1年でした。デジタル活用の波が広がっていったからです。距離や空間を超えて、人と人が出会い、少しずつ関係が生まれていく。こうして新しいプロジェクトが始まり、多くの新たなはじまりが生まれました。そのような良い流れが連鎖していく1年でしたね。  

右:ダンクソフト 代表取締役 星野晃一郎
左:ダンクソフト 取締役 板林淳哉

▎「できない」を「できる」に変えるデジタルの力

 

星野 さて、今年の板林さんといえば、やはり「WeARee!」(ウィアリー)。かなり面白いプロジェクトがいろいろと展開しましたね。

 

リコーのTheta(シータ)で撮影した、「縁庵」のバーチャルツアー

板林 中でもご紹介したいのが、今年10月に「WeARee!」を使って開催したオンライン・イベントです。東京・湯島にあるギャラリー縁庵 様で、愛媛にある砥部焼の窯元4か所とつないだ展示会を行いました。
 

星野 東京のギャラリーで作品の展示を行いつつ、遠く離れた愛媛の窯元とインターネットでつなげたんでしたね。

 

板林 はい。今回は、窯元ツアーをインターネット上に用意したんです。ウェブ上の入り口から窯元に入っていき、まるで実際に訪れているかのように作業場や窯を見学することができます。ポイントは、これらの画像を現地の窯元の作家さん自身が撮影したところにあります。リコーのTheta(シータ)という360度カメラで撮影していただきました。

 

星野 自分たちで撮影してもらって、映像を送ってもらったんだね。

 

リコーのTheta(シータ)で撮影した、「器屋ひより」のバーチャルツアー

板林 そうです。従来は、僕らが撮りに行ってコンテンツを作成するやり方が一般的でした。ところが、コロナ禍や緊急事態宣言の影響で現地に行けない。そこで遠隔でご支援しながら、窯元の皆さんに撮影してもらうことにしました。一種の分散作業ですね。これによって、ご自身たちでデジタルに触れる機会をもっていただけましたし、そうすることで「やってみたらできた」という経験をしていただきました。自然とデジタル・リテラシーを高めていただけましたし、その上、距離を超えて、ご一緒にギャラリー来訪者の「新しい体験」をつくりあげることができて、これがとてもよかったのです。

 

星野 このプロジェクト自体がデジタルに親しみ、デジタルを学ぶ機会にもなっているのですね。

 

板林 もとに戻らず、デジタルではじまりをつくるというのは、ひとつはこういうことかもしれません。  

▎あなたの「体験」もインターネットにのせられる

 

星野 これまでデジタルを使っていなかった人が、チャレンジしてやってみたということがすばらしい。その成功体験やノウハウは、必ず今後に生きてきますね。「デジタル・デバイドの解消」から、「コミュニティの活性化」へ。ダンクソフトが目指すモデルのひとつです。

 

板林 企業活動のための情報だけでなく、あなたの「体験」もインターネットにのせていく。この試みが形にできたことは、今年の大きなトピックのひとつだと思います。「コロナだから」デジタルを使うのではなく、コロナはあくまできっかけで、デジタルの強みを活かした時間や場所を問わない働き方や暮らし方を、今後もどんどん広げていきたいです。

 

Googleが検索という新しいツールを開発したとき、様々なユーザーが参加することで、新しい使い方が発見されていきました。「WeARee!」を使っていただいていると、まだまだ潜在的な可能性がありそうです。さらに多くの方々にご参加いただいて、皆さんと新しい使い方を発見していきたいと思っています。  

▎日本人は変化を嫌う国民性?

 

星野 そんな新しいチャレンジが見られる一方で、日本全体で見れば、思ったほどマインドセットは変わっていませんね。せっかくのチャンスなのに、変化の機会にできなかったと感じています。ここまで追い込まれているのに変われないというのは、やはり変化を嫌う国民性なのでしょうか。

 

板林 2021年は、世間ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)元年と言われたり、デジタル庁が開設されたり、デジタル化推進に注目が集まったのにですね。

 

河野大臣へ直接提言するダンクソフト星野

星野 まったくです。実際、急激な進展もあったんですよね。印鑑はなくなりましたし、河野太郎大臣のファックス廃止宣言も記憶に新しいところです。私も河野大臣に直接提言させていただきました。来年1月には、改正電子帳簿保存法が施行されます。世の中がデジタル化に舵を切りだしているにもかかわらず、企業人のマインドセットは新しくならずに、都会はもう満員電車の通勤生活に戻ってしまっています。

▎「人新世時代」の働き方へ

 

板林 そうですね。緊急事態が明けて、もう大丈夫という風潮になりつつあります。11月に経団連がテレワーク削減の提言を出しましたが、「元に戻る」になってしまっては……。

 

星野 よくないですよね。時代に逆行していますよ。東日本大震災後もそうでしたが、仮にコロナが収束したとしても、働き方やライフスタイルが元に戻っても何もいいことはありません。特にこの「人新世」(じんしんせい)の時代にあって、自然から人間に警告が突きつけられていると思うのです。人新世というのは、地質学上の新しい時代区分のことですが、要するに人間の活動が地球に多大な影響を与えているから、ビジネスの仕方、暮らし方の発想を変えようということですね。こうした言葉が出てきたのに、ビジネスや暮らしの実態が変わらないのは残念です。

 

本当は、東京の一極集中をどうするのかだったり、地方に住む若者の働き方の可能性をどう広げていけるのかを考えないといけません。国や組織が動くのを待つというより、課題に気が付いた人からやっていくことが大事です。

 

東京2020大会のボランティアに参加した、ダンクソフト星野

今年はオリ・パラでのボランティア体験は大きくて、ボランティア仲間は、やる気のある、未来を見ている人ばかりでした。同じ方向を見ている人たちがこんなにもいるんだと実感できる、いい体験でした。こういう人たちが一方にはいて、しかも変われるところから少しずつでも変わっていける、やればできる時代になっているわけですから、チャレンジしていく人たちと一緒に未来をつくっていくタイミングなんですよ。

 

参考情報:経団連も提言

https://www.asahi.com/articles/ASPC85STNPC8ULFA00H.html 

▎「インターネット」を分母として考える

 

板林 とはいえ、やはり「何から始めたらよいのかわからない」という人も多いです。ダンクソフトはそういう方や組織や企業へのサポートをしていて、「DXについて教えてほしい」という星野さんへの講演依頼もあいかわらず多いですね。

 

星野 どのように進めていけばいいのか。何から始めればよいのか、よく聞かれます。最近の講演やレクチャーでは、こんな資料を使っています。「インターネットにあらゆるものをのせていく」ためにするべきことを視覚化したものです。

 

星野 これは、分母がインターネット、分子がそこにのせる情報、という形になっています。あらゆるものを「インターネット」という分母にのせて考えてみる。これを今、辞書のように「A to Z」方式でまとめています。たとえば「A」は、Accounting(会計、経理)の「A」。人、モノ、金、時間の情報で、キャッシュレスやペーパーレスに関わります。「B」は「Business Rules(ビジネス・ルール)」で、就業規則に対応した申請など。サインレスや印鑑廃止に関わってきます。A・Bの特徴は、定形で、数値で、計算可能な情報であることです。

 

また、定型の数値情報は、情報の形が決まっているので、何十年経っても変わりません。20世紀型のコンピュータが扱える情報です。大事なのは、単にパソコンに入れるのではなく、分母にインターネットがあること。そして、情報を使える状態に整頓しておくことです。

 

板林 データをインターネット上に保存しておくと、検索性が高く、活用しやすいですね。データ・リテラシーは必要ですが、社内ルールなどをつくって、それらにそって整理しておけば、アクセスした誰もが使えるものになります。

 

星野 作業に要する時間を短縮して効率化し、あいた時間をクリエイティブなものに向けることができます。働く場所を問わなくなるため、テレワークの前提でもあります。ダンクソフトの方法でもあります。

▎すばらしい未来はもう始まっている

 

「学童保育サポートシステム」を導入し、勤怠管理から児童情報の共有、経理書類作成などの業務をアプリで一括管理している、はなまる学童クラブ様

星野 インターネットにあらゆるものをのせていく先には、「スマートオフィス構想」があります。元に戻るのではなく、いける人、気づいた人から前に進んでいけばいいんですよ。デジタルには「できない」を「できる」に変える力があるんですから。最近事例として公開した石垣島の放課後学童クラブの話などを見ていると、すばらしい未来がもう始まっていることが実感できますよね。ここから変わっていけるのだという希望が見えるケースだと思います。

 

板林 ダンクソフトの支援でkintoneを使った学童システムを開発・導入いただいている石垣島の、はなまる学童クラブ様ですね。

 

星野 詳しくはまた改めてご紹介しますが、次のアクションを起こしていくのは、こういうところで育った子どもたちですね。彼らこそ未来の担い手です。そのような組織や団体のサポートをしていることに大きな意義を感じています。

 

参考:「学童保育サポートシステム」が運営を楽に便利に、石垣島の子供たちを笑顔に

https://www.dunksoft.com/message/case-hanamaru-kintone

 

来年、ダンクソフトは40周年を迎えます。こうした動きをさらに加速させ、「スマートオフィス構想」を実現し、展開していきましょう。皆さんとともに、また新たなはじまりの年にしていきます!