理想的で機能するテレワーク環境づくり:発想転換のポイント


▎河野大臣に脱FAXを直接提言 

 

河野太郎 行政改革担当大臣と、ダンクソフト代表 星野晃一郎

河野太郎 行政改革担当大臣と、ダンクソフト代表 星野晃一郎

「霞が関でFAX廃止へ。テレワークの阻害要因。」──河野太郎 行政改革担当大臣が「脱FAX」の方針を表明したことが報じられました。4月13日の記者会見でのことです。

 

実は、これに先立つ3月9日、私から河野大臣に質問をする機会がありました。「そろそろFAXやめませんか?」と、ずばり申し上げたのでした。

一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC)のオンライン・イベントに、河野大臣をゲストとしてお呼びしていたのです。その中で私は、Internet Society研究部会長として質問を担当しました。河野大臣は、2015年にもダンクソフトの神山オフィスに視察に来られたことがあり、私はその折にもお話ししていたので、6年ぶりにお会いしたことになります。 

 

3月のイベントは、「ビジネス・シーンでのFAXは廃止できるのか?」を検証する連続企画の第1回でした。主な話題は、日本企業の「脱FAX」が進まない現状。それがいかにビジネスやテレワークの阻害要因になっているか。また海外では、FAXはすでに過去のもので博物館レベルだという状況と、いまだに日本では現役で日常的に使われているガラパゴス現象。これに海外の人がいかに驚くか、などでした。 

 

私が「脱FAX」を河野大臣へ直接提言した約1ヶ月後、河野大臣による記者会見での発言を聞きました。FAXを廃止し、テレワークしやすい状況をつくるために、いよいよ霞が関が動き出したと、感慨深く受け止めました。 

 

▎スタッフを在宅にするだけで、他は変えない「形だけのテレワーク」になっていないか? 

 

コロナ禍が続くなか、この1年、テレワークの推進が叫ばれてきました。4月27日には、NTTが従業員の出社比率を3割から2割に下げるなど、企業の在宅勤務が拡大していると、日経新聞が報じています。

 

ですが、「形だけのテレワーク」になっていないでしょうか? オフィスに、まだFAXが置いてある企業も多いでしょう。在宅勤務のために書類やデータを手で持ち帰って仕事をしているようでは、アナログ時代の“持ち帰り仕事”とまったく変わりません。人を在宅にするだけでなく、オフィスやデータの在り方をしっかり見直さないと、残念ながら「形だけのテレワーク」になります。

▎継続的なテレワークができる理想的なビジネス環境をつくる 

 

徳島市、高知市、阿南市、藤沢市からオンラインで集うスタッフた ち。各自の働く場所が「スマートオフィス」になっている

徳島市、高知市、阿南市、藤沢市からオンラインで集うスタッフた ち。各自の働く場所が「スマートオフィス」になっている

スマートオフィス時代のテレワークでは、仕事に必要な情報は、インターネット上にあります。オフィスのキャビネットに保管しているわけではありません。出社してであれ、在宅であれ、同じように必要な情報にアクセスできる環境が整えば、理想的なテレワーク環境に近づきます。つまり、。これが、「テレワーク」のメリットを最大限に享受できるビジネス環境といえます。

 

ただ、日本企業の現状は、情報のデジタル化も、テレワーク環境も、まだまだ未整備と言わざるをえません。とにかく人を在宅にさせただけのテレワークに留まっていませんか。テレワークは、もっと便利で、快適で、大きな可能性を秘めています。

 

河野大臣の発言を聞くと、国はオフィスの「脱アナログ」に踏み切ろうとしているようです。昨年の「脱ハンコ」に続く、今回の「脱FAX」。ビジネスにおける脱アナログのスピードは加速度的に上がり、今後はさらにあっという間に進みます。「そうは言っても、現場ではFAXがまだまだ現役。廃止は難しいだろう」と、旧態依然の現状にあぐらをかいていると、気づけば自社だけが時代に取り残されていた、ということになりかねません。時代と対話しましょう。オフィスの「脱アナログ」化に向けて、今すぐ動きたいものです。

▎ダンクソフトが手放した&ほぼ使わない9つのもの 

 

では、脱アナログ化されたスマートオフィスとは、具体的にはどんなオフィスなのでしょうか。スマートオフィスでの働き方は、どのようなものになるのでしょうか。3月に移転したダンクソフトの新・神田オフィスをモデルケースとしてご紹介します。違いがよくわかるのが、「スマートオフィス構想」の実現を提唱するダンクソフトが「手放したもの」と、それぞれの廃止年です。

 

【ないもの:手放した時期】

・モノクロ・カラー複合コピー機: 1990年代後半

・個人デスクの袖机(引き出し): 2007年

・ファクシミリ(FAX): 2010年

・プリンター: 2021年

 

【ほぼない/使わないもの】

・書類キャビネット: 2021年4月現在、ハンギング・フォルダーで契約書200-300枚のみストック

・電話: 2021年(電話機は所有しているが、回線につながずしまってある)

・名刺: 2020年。ダンクソフト「バザール・バザール」上で電子名刺が持てるように。

・文房具: 個人では持たない。1 箇所にまとめ、全員で共有。

・印鑑: 契約・申請等のため、一応ある程度

 

いまやオフィスに保管してある文書はハンギング・フォルダー2つ だけ。

いまやオフィスに保管してある文書はハンギング・フォルダー2つ だけ。

1990年代から、紙を減らし、アナログ情報をデジタル化していくことには取り組んでいました。個人デスクの袖机をなくしたのも、オフィスの紙を減らす取り組みの具体策です。これはスタッフからの発案でした。しまう場所があるから、ついしまってしまう。ならば、収納場所を最低限に減らしてしまえばよい、という逆転の発想です。これが大成功で、オフィスのペーパーレスが加速。現在は、書類保管場所は、ハンギング・フォルダー2つ分のみになりました。

 

オフィス移転のたびに、いわばスリム化と、さらなるデジタル化を重ねてきたわけですが、今年3月のオフィス移転では、とうとうプリンターを手放しました。もしどうしても必要があれば、コンビニ出力で対応します。逆に言えば、それでまかなえるくらい、諸々の申請を含め、もうビジネスに紙はほとんど不要になってきているのです。 

 

プリンターを置かないオフィスのため、プライバシーマーク申請書類をコンビニエンスストアで PDF 印刷。「紙を要求しない世の中になればいいだけなのです が」(星野談)

プリンターを置かないオフィスのため、プライバシーマーク申請書類をコンビニエンスストアで PDF 印刷。「紙を要求しない世の中になればいいだけなのです が」(星野談)

ちなみに、3月の移転後初の大量印刷案件は、4月19日、約60枚にのぼるプライバシーマーク更新のための提出書類でした。ダンクソフトにとって、約60枚は“大量”です。インターネット時代に不可欠な制度がいまだに電子化されていないというのも皮肉なものですが、これに限らず、早く紙を要求しない世の中になってほしいものです。  

▎「データの持ち方」がカギを握る 

 

次は、いろいろ断捨離をしてきたダンクソフトにも、まだ「あるもの」という視点から、スマートオフィスのあり方を考えてみましょう。デジタル化、スマートオフィス化のために、新たに必要になるものもあります。

 

【あるもの】

・スキャナー

・カメラ、スピーカー

・ダブルモニター

・クラウド・サービス

 

スキャナーは情報を電子化するため。カメラとスピーカーは、オンライン通話やウェブ会議等、離れた場所にいる人たちと自在にコミュニケーションするため。ダブルモニターは、作業時にモニターを 2 枚使うことを言います。1 枚は参照画面と、1 枚は作業画面。大画面なら、1 画面を左右で使い分けることもできます。

 

ここまでが、仕事を効率化して余暇時間を生み出すためのツールです。加えて、より重要な、情報インフラとも言えるのが、最後に挙げたクラウド・サービスです。ダンクソフトで導入・活用しているのは、「未来かんり」、「日報かんり」。これらは自社製品です。そして、Microsoft 「Teams」、「Office 365」、「kintone」、「Backlog」(プロジェクト管理)、デザイナー用のアドビ等。これらは、場所を選ばずどこでもクリエイティブに働けるためのツール群です。

 

在宅勤務も、遠隔拠点でも、まったくストレスなく、どこにいても同じように働けるように、オフィスの在り方やデータの持ち方を再点検して、発想転換してみましょう。そうすることで、スタッフ同士のみならず、多様な社外メンバーとの協働プロジェクトが進むようになるでしょう。20年にわたってインターネット時代のオフィス環境を追求してきたダンクソフトのメソッドをすべて共有し、皆さんと一緒に「スマートオフィス構想」を加速させていきたいと考えています。あらゆる情報をインターネットにのせ、データの持ち方やあり方を進化させれば、スマートオフィス化に大きく前進できます。

「イノベーションの場」として2021年3月に生まれ変わったのダンクソフトの神田オフィス

「イノベーションの場」として2021年3月に生まれ変わったのダンクソフトの神田オフィス