▎ボランティア現場から見た東京2020大会
9月5日、代々木のオリンピックスタジアムでパラリンピック閉会式が行われ、東京2020大会が閉会しました。コロナ禍が続くなか、人類史上初めての無観客開催という挑戦でした。
実は私は、安全に気を付けながらもオリ・パラの大会ボランティアをしていました。おかげで、多くの驚くべきシーンや瞬間に立ち会う機会を得ました。
今回のコラムでは、ボランティアという“中の人”として実感した「驚きの体験」を中心にお話します。今回のオリ・パラで見聞し感じたこと、そこから見えてきた人間とデジタルの協働、そしてダンクソフトの未来について、考えたことをお話ししていきます。
開催を巡ってはさまざまな意見や議論もありました。ですが、アスリートが人類の可能性を超えていく姿はやはり純粋に素晴らしい。私はあらためてそのことに感動しました。また、テクノロジーの進化がはっきりと可視化された大会でもありました。
▎はじまりは2002年の日韓ワールドカップ
世界規模で行われるスポーツ大会のボランティアをするのは、これが2度目になります。初めてボランティアを経験したのが、2002年のFIFAワールドカップ日韓大会の時。有意義な体験でした。そうした経緯があったので、今回もこれは経験しておきたいと考え、応募しました。
今回のポジションは、幕張メッセ(千葉市)フェンシング会場でのメディア・サポートでした。自宅から往復2時間、日によっては朝5時起きで出かけ、帰宅は夜10時を回ることも。しかも持ち場の一部は40度を超える屋外という厳しいコンディションでした。
結論として、やはりやってよかったです。素晴らしい体験でした。チャレンジすることで得難い「驚き」が得られました。「驚き」には「発見」があります。新しい世界との出会いがあります。クリエイティブな可能性の入口となります。
▎日本フェンシング初の金メダル、その歴史的瞬間に立ち会う
忘れられない場面のひとつは、日本フェンシング初の金メダル、男子エペ団体優勝の瞬間に立ち会えたことです。なんといっても、私の持ち場である会場での出来事です。空気の変化を肌で感じていました。
一瞬で流れが変わったのは、準々決勝で日本がフランスに勝った瞬間でした。世界ランキング8位の日本が、4連覇を狙う世界ランキング1位のフランスを下したのですから、大ニュースです。
一気に注目が集まったため、即時対応で殺到するメディアの受け入れ体勢を整え、決勝が始まるまで対応におおわらわでした。そして、日本優勝、国歌斉唱、記者会見。優勝した日本チーム自身が驚いたかもしれません。この先のパリ大会での活躍がさらに楽しみです。これほどの瞬間に立ち会えたことは、忘れられない経験となりました。
▎デジタルを駆使した大会運営とメディア・センター
デジタルの進化と浸透ぶりにも驚きました。今回、ボランティア・チーム運営の連絡や情報共有に使っていたのは、ビジネス・チャット・ツールです。進んでいますね。メディア・センターはもちろんインターネット完備で、メディア・クルーは皆パソコンを持ち込んでいました。
19年前、2002年の日韓ワールドカップでは、まだ複合機がメディア・センターに並び、手書き原稿をFAXで送っている人がいました。この20年の変化を思うと、技術の進歩は圧倒的です。
また、映像は4Kでめざましくきれいになりました。一方で、現状では通信速度がまだ追いついていないため、生放送映像に一瞬の遅れが生じます。今の技術段階はそういう時代なのだと、これは現場にいたからこそ気づいたことでした。
▎ボランティア・チームは「コ・ラーニング」だった
ボランティア・チームの動きに「コ・ラーニング」を感じたことも印象深いことでした。異例づくしの大会で、人も不足がち。誰かが教えるマニュアル通りにやればいい、という状況ではありませんでした。
そんな中、「楽しもう」と多くのボランティアが言っていました。そして、楽しみながら、言われなくても自分で考えて動いていく。現場・状況に応じて柔軟な判断ができていく。少なくとも、私のチームでは、対話を通して互いに学びあいながら遂行する、コ・ラーニングの現場が生まれていることが見て取れました。
▎13歳の金メダリストに見た新しい価値観と可能性
ボランティアとして関わってはいませんが、スケートボード、スポーツ・クライミング(ボルダリング)の選手達に見られる価値観の新しさにも、目を見張りました。他の選手を「敵」とみなして競うことをしません。一緒に目標に向かい、さらなる可能性に挑戦していく「仲間」として応援しあっているようです。
だからこそ、次のレベルにチャレンジしていける。皆で飛躍し全体のレベルをあげていけるんですね。史上最年少の金メダリストとなったスケートボード女子ストリートの西矢椛選手は13歳。新しい技を出せる瞬間を、純粋に仲間と楽しんでいるように見えます。その結果、世界1位となりました。オリ・パラが見せる、これからの人類の可能性を象徴する、驚きの出来事でした。
▎パラリンピック記録が世界新を更新する
最後に強調したいのが、パラリンピックへの大きな期待です。一部では有名な話ですが、義肢の進化はめざましい。走り幅跳びでは義足ジャンパーがオリンピック超えの記録を出すと期待されています。
今回のパラリンピックでは、ドイツのマルクス・レーム選手が8メートル18を飛びました。8月のオリンピック優勝記録(8メートル41)には届かなかったものの、わずか23センチの差まできています。
道具やトレーニング方法が変わって飛躍していく。これは、パラリンピックに限りません。肉眼での判定が難しい場合のビデオ判定は、テニスやサッカーをはじめ、各種スポーツ競技で使われるようになりました。さまざまなテクノロジーが媒介することで、できることが広がっていくのです。
▎オリ・パラがひとつになるとき
スポーツ以外でもそうです。将棋やチェスは、AIが人間に勝つ段階に入りました。そうすると、今度はそのAIを相手に人間が学ぶことで、次の次元の棋士が生まれる。そのような方向に、学び方が変わったわけです。人間が機械に敗北したのではなく、人間と機械との協働が、これまでより一段高い所で起こり、人類の成長につながっていく流れだと私は思います。
ダンクソフトが扱う「デジタル・テクノロジー」も、これに通じるものがあります。人間の可能性を引き出す媒介となるものと捉えています。
今大会でも、性の多様性についての話題がありました。過去3倍の182人がLGBTQであることを公表しました。またパラリンピックの理念は、常に多様性に挑戦してきました。将来、オリンピック・パラリンピックが現在の「男と女」「健常者と障害者」という分け方をしなくなる日も、遠くないのではないでしょうか。
▎人類は、人類の可能性を超えていく
東京2020大会でのこうした驚くべき体験を振り返って思うのです。たとえばウサイン・ボルト選手の世界新記録更新を人々が喜べるのは、そこに人類の可能性を見ているからです。陸上だけでなく、これまでの記録を超えていく人が、皆から称賛される。そういう世界です。私達ダンクソフトも、そこに挑戦していきたいと思います。
40周年に向かう今年、皆さんにもっと「驚き」を提供していきたいと考えています。対話を通して、楽しみながら、ともに高め合う「コ・ラーニング」の時代へ。デジタルで広がる可能性をさらに進化させ、期待をより上回る新しい価値をご一緒に創出する存在でありたいと考えています。