ダンクソフトでは、「インターミディエイター」の役割と考え方を取り入れて、事業活動を展開しています。経営に加えて、さまざまなコミュニティでの取り組みなど、代表である星野の活動シーンは、多方面に広がっています。では、この代表コラムでもしばしば登場する「インターミディエイター」とは、いったいどんな役割なのか? 星野自身の言葉で紹介していきます。
┃新しいタイプの媒介役、「インターミディエイター」
「インターミディエイター」。代表コラムの中でよく出てくる言葉ですよね。おそらくまだあまり耳にすることのない言葉なので、気になっている人もいるのではないでしょうか。今日は、この「インターミディエイター」についてお話をしてみようと思います。
「インターミディエイター」とは、領域の異なるさまざまな立場を理解し、関係づける、新しいタイプの媒介役のことを言います。新しいというのは、ただ仲介するのではなく、ただ調整するだけでもなく、時代に先んじて次の動き、イノベーションを起こしていく創造型人間であることが大事なポイントです。
コロナ禍を契機にして、世の中の分断が加速しているように感じます。このような時代の中でますます目立つようになったのが、強いリーダーによる、いわゆるピラミッド型の関係です。それは国際的な政治の世界から、会社や地域コミュニティといった身近なところでも起こっています。私はこれに、強い違和感を覚えています。
そして、このように分断されてほころんでしまった領域と領域、人と人など、さまざまな「あいだ」を網の目のように丁寧に結んでいくのが、「インターミディエイター」の役割です。つまり、「あいだ」の知を担うわけですね。これは、フラットな関係のもとにどこまでも広がっていくインターネットの世界と、共通するところが多くあると考えています。
┃その概念は、私の感覚にすっと馴染んできた
私がこの考え方に初めて出会ったのは2013年だったと思います。大手外資系金融企業で行われた講演に参加したのがきっかけでした。そこで、初めて聞いた「第3カーブ時代」という話は、私にとってはすごくインパクトがありました。単にものを「造って、売る」という原理でビジネスをするのが第1カーブで、これはメーカーが強かった時代の考え方です。次に、コンピューターの登場によって、企業が生活者を「感じ取って、対応する」ことができるようになり、インタラクティブな関係が生まれたのが第2カーブ。そして、顧客革命以降に登場した「開かれた対話と創造の場」という考え方でビジネスを推進するのが、第3カーブ。これからのパラダイムです。
この概念が私の感覚にすっと馴染んだのは、重なり合う3つのカーブが、デジタル技術の進化とぴたりと合致したからでもありました。つまり、かつてメインフレームという基幹コンピューターが神のような存在で、それを私たちは使わせてもらっていた時代があり、これが「第1カーブ」でした。続いて、UNIXやワークステーションが登場して、ピア・トゥ・ピアになった時代が「第2カーブ」、さらに21世紀になってインターネットやAIが登場すると、複雑ネットワークになり、誰もがフラットにつながれるようになった動きが、「第3カーブ」に該当します。
また、このフラットなつながりに強く共感したこともよく憶えています。というのも、私は若い頃から、先ほど話したトップダウンによるリーダーシップがとても苦手で、自分のことを社会の異端児のように感じていました。そんな時に、「インターミディエイター」が重要になる背景でもある、複雑ネットワーク時代の「第3カーブ」という概念に触れて、すごく新鮮だったんですね。
「インターミディエイター・フォーラム」の様子
こうして2015年から「インターミディエイター」の講座が始まり、私は第1回目から2025年の現在に至るまで、ほぼずっと継続してプログラムに参加しています。現在では、「サーティファイド・インターミディエイター」の資格を持ち、「インターミディエイター」に関わるさまざまな活動に携わっています。ダンクソフトとしても共催企業になっています。
┃新しい知への好奇心が刺激される
なぜ、私がこれほど深く「インターミディエイター」としての活動に携わるようになったのか? もちろん、「インターミディエイター」や「第3カーブ」といった概念に共感を抱いたことが一番だと思います。加えて、このプログラムには新しい知に出会う喜び、学ぶことの楽しさがあり、自分自身の成長を後押ししてくれている実感があることも大きいのですね。
プログラムに参加すると毎回新しい発見があり、そこで学んだ知識を自分なりに言葉で語れるようにするためには、もう一段理解を深める必要があります。そうしてステップアップしたかと思うと、次のプログラムが用意されていて、ゲームのようで、知的好奇心が刺激されるのです。
さらに「サーティファイド・インターミディエイター」のステップに進むと、「物語」を書いて参加者たちと考え方を共有するというプログラムもあります。互いに学び合うことで成長が加速しますし、みんなで一緒に社会の新しい形をつくっていくような感覚を体験できることも、面白さのひとつです。
こうして蓄積した知識や経験が、ダンクソフトの経営や、私が携わっているコミュニティの運営に役立っていることは言うまでもありません。それに加えて、たえず新しい考え方を学んでいこうというマインドが培われることも、「インターミディエイター」の大きな魅力だと私は思っています。
ダンクソフトが得意とするデジタルの世界は、止まることなくたえず変化し続けています。その方向をとらえ、学び、未来を見据えていくことは、ビジネスを成長させていくために欠かせない能力です。私もだいぶ年齢を重ねてきましたが、この10年間を振り返ってみても、経営者として、人間として、進化し続けているという実感がありますね。
年に一度のインターミディエイター講座が、今年も開催されます。ご関心のある方は、一度ご参加を検討されてみてはいかがでしょうか。
┃「インターミディエイター」によって、社内文化が変わる
ダンクソフトのインターミディエイター
ダンクソフトの組織がフラットで機動的になってきたのは、「インターミディエイター」の考え方を、積極的に取り入れているからだと考えます。現在、私と2人のマネージャー、合わせて3人の「インターミディエイター」が社内にいます。スタッフのほとんどが、関連する講座に参加した経験があり、この春から加わった新入社員にも同様に受講してもらうつもりです。
こうして多くのスタッフたちと「インターミディエイター」の考え方を共有できるようになると、仕事の効率もスピードも格段に向上します。また、社内を“関係の網の目”と見て、切れている部分に手を差し伸べて改善したり、スタッフ同士が連携しやすい職場環境を自発的につくれるようになる効果があります。
例えば、ダンクソフトでは今年から、全社員が参加して会社の方針を話し合う「全社会議」をスタートしました。これは、以前はマネージャーと私4人で実施する、月1回の会議体でした。実施後に議事録をスタッフ全員に公開していましたが、実際には、そのほとんどが全社にそのまま公開してもよい内容でした。そこで、より開かれたダンクソフトをつくるために、スタッフ全員が参加する形態に変えたらどうか、との新提案がありました。この仕組みを提案し、運営した中心メンバーが「インターミディエイター」である2人のマネージャーでした。
また、ひとつのチームでスタッフが足りない状況に陥った時に、自身の業務を遂行しながらサポートに入るなど、柔軟な動きを見せてくれたのも、インターミディエイターたちでした。彼らの活躍で業務グループ間の垣根がグッと低くなり、相互連携も、さらにスムーズになりました。ダンクソフトが大事にするポリバレントの動きを、巧みなサッカーのプレイのごとく見せてくれたのでした。
このように、異なる領域を柔軟に「越境」できて、次の動きを提案できることは、「インターミディエイター」の優れた特徴なのですね。目線を合わせて、アイディアを出し合うことができるようになりますので、上からの指示・命令が格段に減り、指示を待つだけのスタッフも減っていきます。その結果、一人ひとりが、クリエイティビティをもっと発揮しやすくなる効果があります。孤立していたり、困っていたりするスタッフがいれば、早めに気が付いて声をかけ、対話が始まることが増えました。このように、インターミディエイターの考え方を実践していれば、パワーハラスメントなどが起こることもなくなるでしょうし、メンタルヘルスの観点からも、対話によって解決できることが多々あるわけです。
┃「インターミディエイター」型の人たちを、社会に増やしていきたい
「インターミディエイター」の考え方を上手に取り入れると、会社のチームづくりばかりでなく、ビジネスのあり方までも変革できると実感しています。
「インターミディエイター」の活動を通じて知り合った組織に、「いぶき福祉会」という岐阜県の社会福祉法人があります。昨年、この法人から依頼を受けてダンクソフトがアプリケーションを開発することになりました。ところが、いろいろな事情が重なって開発がスタートしたのは納期となる期限の3か月前。一般的な常識では到底間に合わないスケジュールです。
しかし、お互いに「インターミディエイター」としての共通言語があるために、対話を重ねながら、驚くほどのスピードでプロジェクトを進めることができたのです。期限どおりにアプリケーションを完成させたばかりでなく、そのプロセスで自然発生的にさまざまなアイディアが生まれ、当初想定していなかったような機能やサービスをアプリケーションに盛り込むことができました。
他にも私は、「神田藍の会」や「中央エフエム」といった地域活動に携わっていますが、当然、「インターミディエイター」の考え方はこのような地域コミュニティの運営にも活きています。そればかりでなく、ダンクソフトでは、「スマートオフィス」という場の提供によって、別々のコミュニティ同士を結びあわせて、新しいイノベーションを生み出すことにも取り組んでいます。こうした組み合わせによって時間という貴重なリソースも節約でき、その分濃密な成果を生み出すことができるのです。
「インターミディエイター」の役割を短い文章で伝えることは、なかなかむずかしいのですが、その特徴を要約すれば、越境と創造と倫理ですね。私はこのような越境的で、創造的な媒介役が増えることによって、組織やビジネスばかりでなく、社会そのものがよい方向に向かっていくと考えています。これからは、倫理観を持って、切れているあいだを結び、新しい動きを創る人がますます必要ですから。
ユヴァル・ノア・ハラリの『NEXUS 情報の人類史』には、インターネットの負の側面として、フェイク情報があふれ、AIも好ましくない方向に進化してコミュニティをますます分断し、よからぬ未来世界を導く可能性について描かれています。しかし、そうならないためにも、倫理の要であるインターミディエイターの考え方をもって動いていくことができる人を育てていくこと。そこが大事だと思っています。
そして、そういう視点でまわりを見渡してみると、無意識のうちに「インターミディエイター」的な活動に取り組んでいる人たちが、想像以上にたくさんいることに最近気づきました。ダンクソフトのお客様やパートナー、また地域コミュニティで出会う方々のなかに、対話と協働を大切にしながら、今までにない活動を創ろうとしている人たちがみられます。このような人たちの活動をきちんと認識して、そこから一緒に新しい価値をつくっていくことも、これからの私たちダンクソフトの役割だと思っています。
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